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使える魔法はセーブとロードとリセットです。  作者: ちさめす
小説世界 貴船町編
28/45

貴船町④

イア回の続きです。

それと血濡れ男の名前を募集してますლ(╹◡╹ლ)


メインストリートでは巨大な魔物を取り囲む自警団がそれぞれの持つ独自の魔法で戦っていた。


ある者は一本の火の槍(ファイアーランス)を投げつける。

ある者は大気中の水分を凝縮し、それを凍らせ無数の氷のつぶて(アイスレイン)として放つ。


ある者は壁に手を当てて魔方陣を展開すると、魔物を挟んだ対面の壁に展開していた魔方陣との間に光の一線(レイライン)が発生して魔物を射抜く。


しかし、その後の魔物の咆哮がどれも手ごたえが無いとを示すかのように響く。


魔物が前足を一振りとすると、人も建物も軽々と吹き飛んでいった。


血濡れの男は表通りに出ると、魔物を警戒しながらイアを探す。


イアは仰向けに倒れた人のもとへ駆け寄っていた。


「大丈夫ですか!?動けますか!?」


反応は無い。


イアには彼が気を失っているのか、それとも死んでしまったのか分からなかった。


「生きていれば治せるかもしれない」


イアはもう一度、両手を握り祈るように目をつむった。

胸の辺りが黄色に光る。


「主がつかわす意を代行せし刻下こっか御使みつかいよ

我らが御先みさきりてかの者に今際いまわほころびを

あかちぎりで留めたまえ」


イアと倒れた者が黄色い光に包まれる。

倒れた者の服の裂け目から見える傷が修復されていく。


その後、光はゆっくりと失われていった。


「大丈夫ですか!?」

「う、うう・・・」


倒れた者が意識を取り戻すとイアの表情は明るくなった。


「良かった!あの、動けますか?」

「ああ、動けるよ。ありがとう。本当にありがとう!」


彼は起き上がるとイアに頭を下げて避難していった。


その様子を血濡れの男は物陰から見ていた。


「ほう、三行詩を唱えるか。やはり練度は相当のようだな。譜法ふほうの腕は一人前、だが・・・」


血濡れの男は右手の指で輪をつくり、そのまま右目にあててのぞき込むようにイアを見る。


「【アナライズ】!」


右手人差し指の指輪(インデックスリング)が紺色に光る。


イアの情報が指の輪っかの中に展開される。

血濡れの男は、彼女を背景に映し出された様々な文字やパラメータを確認する。


「やはりか。彼女の譜法はただの治癒ちゆ魔法じゃない。言ったところで変わらないだろうが、さて、それをどう説得しようか」


血濡れの男は手を下ろすも、イアを見続けた。


イアは周りを確認する。

まだ助けを必要としている人はたくさんいる。


出来るだけ多くの人を救うんだ。

イアの頭の中はそれでいっぱいだった。


次の救助に向おうとした時、イアは女の子の泣き声を耳にした。


振り向くと、メインストリートの真ん中で倒れた女性を揺すりながらお母さん!と叫ぶその子を見つける。


イアがその子のもとへ駆け寄ろうとしたちょうどその時、その場全体が急に灼熱に包まれたかのように褐色を帯びながら熱風が巻き起こった。


イアも、泣いている女の子も、血濡れの男も、その場で交戦していた人々も、みんながその熱を発する巨大な魔物に目を向ける。


そして愕然とする。


魔物は口を開き、その中で大きな火の玉を作り出していたのだ。

触れるだけで全てを燃やし尽くす太陽のような火の玉を。


魔物はマナの集約に専念するためか先程までの激しい動きを止めている。

隙だらけに見えるその状況だが、現実離れしたその光景に戦う者はみな手を止めていた。


攻撃の拍子にもしも、今も膨脹し続けている火の玉が放たれてしまったのならどうなってしまうのか、誰も想像がつかないからだ。


火の玉のその焼けつく熱気は人が近づくことを許さない。

火の玉が成長するにつれて、交戦していた自警団が次々と退避していく。


イアはその光景を見た。


「ここにいてはやられちゃう。せめて1人でも多く・・・」


その時、視界の端に映る先程の子どもに気が付くと、イアはその子のもとへ駆け寄っていく。


血濡れの男は叫ぶ。

自警団が退散する中、灼熱の方へと単身で駆け出しているイアを止める為に。


「何をしている!下がるんだ!」


しかし、イアに動きの変化はない。


「くそ!もう、どうなっても知らないぞ!」


そう吐き捨てた血濡れの男は後ろを向き、顔を熱気から守る為に覆いながら、熱風に流されないように一歩ずつ踏み出した。


泣いていた子どもは立っていた。


少しでも呼吸が楽になるように腕を口元にあてながら倒れた母親の傍で火の玉を呆然と眺めていた。


駆けつけたイアが後ろからその子に声を掛ける。


「ここはもう危ないから私と避難しようね!」


イアはそう言うと、その子の返答を待たずに手を引く。

しかし、数歩進んだところでその子は手を振りほどいた。


イアは振り返る。


「どうしたの?早く避難しよ!」

「ママが、ママが・・・ママも助けて」


イアは倒れている子の母親に目を向ける。


「私じゃ連れてはいけない・・・」


だからイアは、その場にしゃがみ込み、子どもの目を見てもう一度話しかける。


「あなたのママはね、私が絶対に助けるからね!だからね、ママが起きた時にあなたの怪我で心配しないように、先にここから避難していてくれるかな?」


イアはキラキラとした瞳で子どもを見つめる。

透き通ったその瞳を、子どももまた見つめ返す。


母親を失うかもしれないという恐怖で泣いて、この世の終わりのような状況で、母親を置いていくのがどれほど辛いことなのか。


その気持ちを拭う様に、子どもを安心させるように、イアは助けたい気持ちをただ真っ直ぐに言葉に乗せた。


そして、その想いが通じたように子どもは応える。


「わかった!お姉ちゃん、ママを・・・ママをお願いね!」


その一言をイアに伝えると、子どもは避難していった。


子どもの背中を一目見たイアは、倒れている母親のもとに向かう。


魔物の口の中ではさらに火の玉は大きく膨脹していた。

その影響で熱気の風は嵐となって、周辺のものというものを吹き飛ばしていく。


イアは横たわる母親の横に立つと、祈る様に手を握る。


その時、イアの肩に手が掛かった。


「ちょっと待ちな」


振り向くと、そこには先程助けた血濡れの男が立っていた。


「さっきの、人?だめですよ!逃げてください!ここはもう」

「それ以上はやめた方がいい。身を滅ぼすぞ」


イアは自分に向けられたその真剣な眼差しから、その意味を察した。

けど、答えは変わらなかった。


「えへへ、大丈夫ですよ。それにね、もう決めたんです。あの子のママを助けるって」


イアはもう一度倒れた母親に向かい、両手を祈る様に握り直した。


強烈な熱の嵐は崩れかけの民家の屋根をも吹き飛ばし、イア達の近くに落下する。


「もう待てないぞ。時間切れ・・・」


と、血濡れの男が言い掛けた時。


イアの身に着ける黄色いコアがこれまで以上に強く輝きを放ち、血濡れの男は思わず目をつむる。


横たわる母親とイア自身が黄色く光る。

数秒の輝きを経て、2人を包む黄色い光はゆっくりと失われていく。


血濡れの男が目を開けると、イアの身に着けているコアの光が消えていくところだった。


「まさか、無詠唱で・・・!?」


イアは驚きの顔を隠せずにいる血濡れの男に身体を向ける。


「えへへ、あの子のママは助かったよ。これでね、あの子も安心・・・」


イアは膝から崩れ落ちるように倒れた。


「まったく、こんな無茶をして。一体君は何者なんだ?」

戦闘における主人公の活躍、いまのところ・・・無し(☍﹏⁰)

さすがに次は主人公パートを進めますლ(╹◡╹ლ)


面白いと感じて下されば評価をお願いいたします!!!!

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