貴船町③
主人公視点の展開はありません。
視点がくしゃくしゃにならないように気を付けますლ(╹◡╹ლ)
貴船町には白城町のような防壁が無いため、魔物への対策としてシールドレインやアカデミー生で構成された自警団が貴船町を守っている。
魔物が襲ってきた場合には彼らが率先して町を守るため、今回の襲撃も例にならい自警団が魔物討伐と町民の避難、保護に努めている。
◇◇◇
ハルとロイが貴船町に入る少し前。
イアはニマと共に逃げ惑う町民を誘導していた。
「ニマ!この辺りの人たちはこれで全員だと思うよ!」
「そうみたいだね。それじゃこのまま次の区画に行こ!」
「ここの人たちを先に保護しないと!近くに自警団はいないからニマがみんなを連れて中央棟に向かって。私は先に行ってるから!」
「待って!イアだけじゃ危険だよ!」
ニマはここへ来る途中に出会ったおじさんから貴船町は巨大な魔物に襲われていると聞いている。
心配からイアを引き留めようとするがイアは足を止めずに振り向く。
「危険なのはみんなお互い様だよ!私は大丈夫だからみんなをお願いね!」
「イア!もう、こうなったら止まらないんだから。・・・気を付けてね~!」
ニマ遠くなっていくイアに手を大きく振って叫んだ。
イアを見送ったニマは避難民を連れて、被害が少ない道を選びながら中央棟を目指す。
血や煙の臭いが鼻を刺激し、周囲の建物からは屋根越し黒煙が垣間見える。
小さな子どもをあやす母親の横でニマは魔物の遠吠えを聞いた。
突如、飛来してきた何かが建物にぶつかって屋根が砕け散る。
それが瓦礫の雨となり、大きな石のつぶてのようにニマ達に降り注ぐ。
ニマは瞬時に周りの避難民に目を向けるが、一人では到底みんなを庇いきれない。
悲鳴が上がる中、ニマは頭上に広がる無数の瓦礫に右手を向ける。
「今の練度じゃ数回じゃ無理だし連続魔法はマナの消費が・・・いや、それでも全部防ぎきるしかない!」
「【バインドアップ】!!!」
降り注ぐ数個の瓦礫は空中で淡い光を放ちながらぴたりと止まる。
しかし、降り注ぐ建物の残骸はまだまだある。
「【バインドアップ】!!!」
「【バインドアップ】!!!」
「【バインドアップ】!!!」
手前の瓦礫や大きな瓦礫が次々と淡く光って静止していく。
ニマが被るとんがり帽子の内側からは藤色の光があふれ出ていた。
そして、繰り返し何度も魔法を掛けることで、落下被害の起きそうな瓦礫を全て止めることに成功する。
最後の魔法に掛かった瓦礫は、子を抱く母親のすぐ頭の上で止まっている。
「あっぶな!ギリギリセーフだよ。・・・もっと修行しないと」
避難民たちはニマにお礼を言う。
母親に抱かれた子どものありがとうという言葉に、ニマは無事で良かったと頭を撫でる。
みんなに怪我が無いことを確認したニマはみんなを連れて再び歩き出す。
小道を抜けると中央棟が見えてきた。
「さあもうちょっとだよ!あと少しがんばろ!」
ニマはみんなに声を掛けた。
そこから少し歩くと、中央棟の方向から数人の子どもたちがこちらに向かって来るのが見えた。
ニマがアカデミー生だった頃のクラスメートたちだ。
「ニマ!こんなところでどうしたの?」
「クモンじゃない!この人たちを中央棟までね。ちょうど良かった!代わりを頼めないかな!?」
ニマはイアの事を考える。
イアはまだアカデミー生だ。
もしも魔物と出会えば大変なことになるかもしれない。
「そうしたいのはやまやまだけどレイリンが居ないんだ。探しにいかないと」
「またレイリンが居なくなっちゃったの!?あの子いつもふらふらしてるね。あれ、でもレイリンが住んでる西門区画はもう見たけどこの人たちで全員だったよ?」
「そっかあ。先生からレイリンを探して連れ戻すように言われてるんだ。とりあえず一度家に行ってみることにするよ」
「分かった。でっかい魔物がいるみたいだからみんな気を付けるんだよ!」
「ニマもね!」
ニマは走り去るアカデミー生たちを見送る。
「さて、私もみんなを連れて中央棟に急がなくちゃ」
◇◇◇
ニマと別れたイアは、次の区画へ向かう為にメインストリートに出ていた。
そこで初めてこの町の元凶を目の当たりにする。
「何なの、あの大きな狼さんは・・・」
イアは目の前の光景に一時はたじろぎながらも、その周りにいる多くの人たちが今も交戦している状況に気が付くとすぐに我に返る。
「私も何かしなくちゃ」
イアは近くを見渡すと、崩れた民家の陰に身を潜める手負いの人を見つける。
大丈夫ですか!と声を上げて近づくと、その人はお腹を押さえて震えていた。
腹部からの出血がひどく、座り込む彼のもとには血の溜まりが出来ていた。
「あの狼さんに噛まれたのかもしれない。このままだと死んじゃう!」
イアは彼の前まで駆け寄ると、両手を結び祈るようにして目をつむった。
すると、イアが身に付けているネックレスの黄色いコアが光り始める。
「主が遣わす意を代行せし刻下の御使いよ
我らが御先と為りてかの者に憑く今際の綻びを
頒つ契りで留めたまえ」
イアが詠唱すると、イアと血を流す彼の2人ともが黄色い輝きを帯びる。
彼の早まっていた呼吸は安らぎを取り戻すかの様にゆっくりと落ち着いていき、彼の表情は眠っているかのような穏やかな顔つきになる。
そして、黄色い輝きはゆっくりと失われていった。
彼はゆっくりと目を開ける。
血塗れた服の上からお腹を触っても痛くない。
「治ってる!?」
彼は自分のお腹をペタペタと触る。
「あ痛っ!なるほど、完治はしていないのか。さすがに瀕死のダメージを完全治癒するものではないか。にしてもこれほどの練度はすごいな」
「えへへ、治りましたか?」
「ああほとんど治ったよ!この通りだ。ありがとう」
「良かった!・・・ではごめんなさい、私は行くので物陰に隠れながら避難してください」
イアが立ち去ろうとすると血塗れの男はイアの手を掴んで呼び止めた。
「ちょっと待ちなさい。君も怪我をしてるようだが、1人で行くのは危険だ。君も避難した方がいい」
「私が怪我、ですか?」
「そうだ」
そう言って血塗れの男はイアのお腹を指さした。
イアは視線を自分のお腹に向けると赤く滲んできているのが分かった。
「あっ!これはその、怪我じゃなくてその・・・返り血です!そうです返り血です!」
「返り血にしては中から滲みてきているような」
「気、気のせいですよ!それよりも早く避難してください!ここは危険なんです!」
イアと血濡れの男が話している間にもメインストリートでは魔物の遠吠えが響いている。
「危険なら君も避難した方がいい。見たところ君のコアは戦闘向きでは無さそうだ。私があの魔物を引き付ける間に逃げなさい!」
「やだ!」
「ええ!?」
「あなたは怪我人です。だから早く逃げてください。私があの狼さんを引き付けますから!」
「いやダメだ。これでも私は」
「ここは私に任せて。あなたもみんなも・・・私が救うから」
そう言ってイアはメインストリートに出て行った。
取り残された男は、走り去ったイアが居た場所に向かって呟く。
「ふむ。いみじくも言ったそのセリフは君の本心か?」
前回まではハル視点、今回はイア視点とニマ視点です。
視点が増えるとややこしくなりがちですが出来るだけわかりやすく書くように努めます!
面白いと感じて下されば評価をどうぞよろしくお願いします!




