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使える魔法はセーブとロードとリセットです。  作者: ちさめす
小説世界 貴船町編
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貴船町②

実は今回のパートに戦闘シーンを間で挟もうと思っていたのですが、ごっちゃになるかなと思ったのでやめました。

でも、やっぱりどうしても戦闘シーンを書きたいので次のパートは戦闘シーンから入るかもしれませんლ(╹◡╹ლ)

貴船町は近隣で開港している中では一番大きく、船の行き来が頻繁に行われる海の窓口となっている。


町全体は横に延びた形をしており、路面店が隙間なく並び連ねたメインストリートでその東西を結んでいる。


そして、その両端にそびえ立つそれぞれ東棟と西棟と呼ばれる大きな灯台と、一回り大きな中央棟と呼ばれる灯台の3つで港内周辺の船をコントロールしている。


貴船町の西側から町に入った僕たちは、西棟付近で交戦する巨大な狼を避けながら小走りで中央棟を目指していた。


「ハル、町の真ん中には中央棟って灯台があるんだ。有事の際はそこが避難場所になるからまずはそこまでカワモリさんを連れて行く」


「わかった。けっこう近いの?」

「すぐ着くよ。それよりもハルに説明しておきたいことがあるんだ」


「この貴船町にはアカデミーと呼ばれている学校があって、以前は俺もハルもそのアカデミーに通っていたんだ」

「アカデミー?」


僕はハルの部屋で見たポスターを思い出した。


「アカデミーはシールドレインになる為の養成所みたいなとこだ。今はお父上の計らいで俺たち2人とも休学の扱いになっている。それで、アカデミーの在籍者には政府から護身用にコアが与えられるんだ」


「コア?・・・もしかして公園でイアが見せてくれたコア留めに入っていた玉のことか」

「イアに見せてもらったのか。そのコア、アカデミーコアをカワモリさんを預けた後に取りに行く」


「そのアカデミーコアであの巨大な狼と戦うってことか」

「その通りだ。護身用のレベルだから効果はそれほど高くないけど、援護程度なら役に立つはずだ」


「どこまで通用するか分からないけどやってみるよ」

「無理はくれぐれもするなよ。あくまで援護だからな」


「さっきは驚いて動けなかったけど、次は大丈夫だ」


僕は自分に言い聞かせるようにそう言った。


「ハルなら出来るさ。一緒に頑張ろう」


◇◇◇


僕たちは中央棟に着いた。


ロイは灯台の入口を警護している子どもと話をしている。


「この人は盗賊なんだ。聞きたいことがあるから目を覚ましても逃げないように見張っていてほしいんだ」


「わかったよ!そしたらロイ、俺はここを動けないから3階に居るナナミのとこまでその人を連れてってよ」


「分かった。シシド、入口の警護頑張れよ」

「ありがとう!」


シシドは僕とロイが灯台の中へ入っていくのを敬礼しながら見送った。


町一番の巨大な灯台の中には、多くの避難してきた人達たちでごった返していた。

僕たちは壁沿いを歩きながらエレベーターまで向かう。


「あの子はロイの知り合い?」


「アカデミー生だよ。入校は俺たちよりも後だけど、アカデミーは期でクラスを分けないから復帰すればクラスメートになるな」


「魔法を学ぶ学校か。興味はあるな」

「お、ハル興味あるのか?そしたらこの魔物の件が落ち着いたらまた通い始めてみるか?」


「そうだね。魔法にも興味があるし通ってみようかな」

「お父上が聞けばさぞ喜ぶだろうな」


エレベーターに着いた僕たちは中に入る。


3階で降りた後、周りを見渡すも避難民でいっぱいだった。


僕たちはナナミを探す為に歩きだそうとした時、大きな声で呼び止められた。


「ちょっとちょっと!そこの人達!3階はもういっぱいなんだって!入口でどんな案内をされて来たの!」


僕たちは声のする方を見ると、1人の女の子がこちらへ向けて歩いていた。

何故か頭に柄の赤い鍋を被っている。


「お~い聞いてるの~?ってあれ、ロイ?」

「ナナミ!久しぶりじゃないか」


「ロイ!久しぶりどころじゃないよもう1年振りくらいだよ!一体今まで何してたの?アカデミーにはもう戻ってこないの?」


「まあいろいろとあってね。でも、この騒ぎが終わったら戻るかもしれないな」

「ほんとに!それは楽しみだな~!」


「ところでナナミ、この人を少しの間見ていてほしいんだ。盗賊だから目を覚ますと危険だけど頼めるか?」


「ああ~ここに来たのはそういうことね。お安い御用だよ!ニマ直伝の魔法で拘束しておくわ」


「助かるよ。どこまで連れて行けばいい?」

「奥の部屋までお願い!私に付いてきて」


ロイはナナミの後ろを付いていき奥の倉庫部屋に入った後、カワモリをその部屋の隅に寝かせた。


「そしたらここで大人しくしていてもらおうか」

「ロイ、僕のわがままでずっと運ばせてしまってごめん。助かったよ」


「ハル、気にするなよ。俺も協力したかったからさ。それに筋トレにもなったよ」


2人のやりとりを横で聞いていたナナミはロイに尋ねる。


「ところでロイ、お連れの方は誰なの?」


「ああそうか。ハルが来なくなった後にナナミは入校したのか。この人はハルといって白城町の領主の息子だ」


「え~!まじ~!白城町の領主の息子~!?全然わがままで巨大でビッグなお腹のおぼっちゃまじゃないじゃん!」


「一体どんなイメージをしていたんだよ」


よく分からないリアクションを取るナナミにロイが言葉を続ける。


「時間も惜しいから俺達はもう行くよ。ナナミ、この人のことをよろしく頼む」

「あいあいさー!」


ロイは僕に顔を向ける。


「ハル、これからが本番だ。でも、相手は魔物だから気を抜くと死ぬかもしれない。状況が悪くなったら迷わず引けよ。分かったか?」


ロイの張り詰めた表情を見て、僕は固唾を飲んだ。


今回は白城町の襲撃とはわけが違う。

まだ傷も癒えていないのに、あれほどの巨大な狼にこれから立ち向かうなんて普通の神経なら考えられない。


ロイは戦う手段はあると言うが、最終的にはい上手くいきましたとなる保証もない。


僕は自然とポケットに手を伸ばしていた。


(セーブ出来る空の玉はまだ1個ある。念の為にとりあえずセーブしておこう)


栞の玉を握りしめた僕は心の中で叫んだ。


(セーブ!)


目の前が真っ暗になった。


・・・


気が付くと僕は小舟に乗っていた。


どこまでも続く薄暗い空間を見渡すと、2つの光るものがそれぞれ別の方向に見えた。


僕は手に持っている眩しく光る栞の玉をポケットにしまい込み、小舟に備わるオールで漕ぎ始めた。


2つの光る玉とは違う方向に船を進めると、宙に浮くガラス玉のようなものを見つけた。


僕はポケットから光る栞の玉を取り出して浮いた玉にあてがう。

するとそのガラス玉は光を放ち、寝そべった人の横に立つ3人の姿が映し出された。


「これでセーブデータは3つか。正直レベルが高すぎてついて行けない感があるけど何とか頑張って乗り越えよう」


僕は光を失った栞の玉をポケットにしまい込み、目の前の光を放つ玉に触れる。

玉は輝きを強めていき僕の視界は真っ白に染まった。


・・・


「ハル、これからが本番だ。でも、相手は魔物だから気を抜くと死ぬかもしれない。状況が悪くなったら迷わず引けよ、分かったか?」


「分かった。ロイも無理しちゃだめだよ」

「もちろんさ。それじゃハル、行くか!」

「ああ!」


ロイは取っ手を回してドアを開ける。


倉庫部屋から一匹の黒い蝶が飛び立っていった。

やっとアカデミーのフラグまで繋げました。

さくっと紹介程度に次かその次のパートに書きますが、がっつりとしたアカデミー編、もちろん考えておりますლ(╹◡╹ლ)

魔法や魔術についても講義のような説明にならず楽しめるように書くのでどうぞお楽しみにლ(╹◡╹ლ)


面白いと感じて下されば是非とも評価をお願いします!

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