壮途
訳アリでちょっと長めになってしまいました。
よければ最後まで読んで下さい(๑╹◡╹๑)
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夜。
僕たち3人は公園を出た。
公園の近くにはイアの自宅があるので、僕とロイは彼女を送り届けることにした。
「また明日ね、おやすみなさい」
イアは何事も無かったかのように2人と別れた。
「さあ、俺たちも帰ろうか」
「ああ」
「ハル、イアとはいろいろ話せたか?」
「え?」
「やっぱり2人だけで話す場も必要だろうって思ってね、おもいっきりボールを蹴っ飛ばしてみたんだ。それでどうなんだ?何か思い出した事はあるか?」
「いや、何も思い出せなかったよ」
「そうか。そんなにすぐには戻らないか。玉がぶつかった時は目立った外傷も無くてその後の痛みも無いようだから一時的かと思っていたのだが。数日中に戻るといいな」
街灯の明かりが2人を照らす。
僕は公園でのイアとのやり取りが忘れられなかった。
領主館に向く足が止まる。
「ロイ」
「どうした?」
「イアに話し方が違うって言われたんだ。僕ってそんなに話し方変わってるかな?」
「そりゃ違うかを聞かれたら全然違うよ。ボクって言わないし絶対に謝らないとかさ。今とはまるで正反対だよ」
「そんなに違うのか。・・・話し方ってすぐに矯正出来るもんかな?もうイアを悩ませたくないんだ」
ロイは足を止め、こちらに振り向いた。
「ハルは何も悪くないから気にしなくていいんだよ。ハルはハルだ、そうだろう?無理に気を遣わないといけないなんて思わなくていいんだ。それにありのままで居てくれた方が俺は嬉しいよ」
「ロイ・・・」
「イアはさ、昔っから感情を全部表に出してしまうんだ。自分の中で秘めておけない性格なんだよ。でも、そんな不器用さはあるけど、イアに悪気は無いし彼女自身もその弱さを克服しようと頑張ってるんだ。イアとどんな話をしたのかは聞かないけどさ、ハルは今のハルのままでいいってことだけは分かっておいてほしいんだ」
「ロイ・・・ありがとう」
「ハルがありがとうって言うのも珍しく感じるけど、今のハルも俺は好きだぜ」
優しく微笑むロイを見て、僕は少しだけ心が晴れたような気がした。
ロイに感謝した後、僕たちは再び歩き出した。
領主館に着くと衛兵が出迎えてくれた。
「お帰りなさいませ。ハル様に2件伝言がございます。領主様は現在大広間にて職務中につき謁見不可とのこと。続けて奥様からはハル様が戻り次第寝室に来るようにと受けております」
「そうか。ありがとう」
頭を下げた衛兵がちらっと僕を見た事に気付いたが、ハルの態度が記憶喪失前と違うことで困惑させたのだと僕は思った。
「ハル、奥様の寝室は2階に上がった右側の部屋だ。悪いが俺はやることがあるから先に部屋に戻るよ。また明日な」
「ロイ、今日はいろいろとありがとう。また明日」
ロイと別れた僕は寝室に向かった。
(そういえばハルの母さんとは初めて会うな。父さんの時もそうだったけどなぜか緊張してしまう)
「し、失礼します。母さん」
「ハル・・・無事で良かったわ。心配したのよ」
「ご心配を掛けしました。僕はもう元気です。母さんこそ寝込んでいたと聞きましたが大丈夫ですか?」
「私は大丈夫だよ。心配してくれてありがとうね、ハル」
母さんは僕が気を失って運ばれてきた時に倒れたらしい。
ロイからは、母さんは元々身体が弱く昔から体調を崩すことが多いと聞いている。
「そういえばね、ハル。さっき主人から聞いたわ。明日、町を出るのよね?」
「その通りです母さん。父さんに代わって特命の任を受けました」
「信じてないわけじゃないのだけれど、主人からそう聞いた時ハルがそういう事を言うなんて思わなくて、ハルが行くことを私は反対したの。今更こんな事を言うのは間違っているのかもしれないけれど、ハルはもう行くと決めたのよね?」
「心配を掛けてごめんなさい。でも母さん、自分でそう決めたから僕は行きます」
「ハルはかわったわね。こんなにも自信を持っているハルは初めてみるわ。成長していく姿を見れて私は幸せですよ」
母さんはそう言って、棚の引き出しから何かを取り出した。
「ハルが無事に帰って来れるようにこれを渡しておくわ」
「ありがとうございます、母さん」
僕は母さんから、真っ黒に焦げた小さな木の札を受け取った。
「これは一体なんですか?」
「ハルが14歳の時、解呪の儀で使った黒札よ。向こうに着いたら必要になると思うわ。大事にするのよ」
「わかりました」
それから母さんはハルと呼び、しばらくの間会えないからと僕をゆっくりと抱きしめた。
母さんの優しさは、僕ではなくハルに向けられたものだと頭では分かっているけど、まるで自分に向けられたものだと錯覚してしまう程に母さんの温もりが伝わってくる。
僕は母さんに応えるように、そっと抱きしめ返した。
部屋を出た僕は、階段を上がりそのまま自室に戻った。
僕は傷に痛みが走らない様にベットにゆっくりと倒れ込む。
今日一日、この世界にやって来て経験した様々なことを、天井を見つめながら思い返していた僕はいつの間にか眠ってしまった。
◇◇◇
朝。
太陽は雲に隠れ、明け方に立ち込めた霧は今も領主館を包みこんでいた。
支度を整えた僕は部屋を出た。
ロイを見つけた僕はおはようと声を掛ける。
「おはようハル。いよいよ今日出発だな」
「そうだね。どんな旅になるのか想像もつかないや」
「一晩寝てみても記憶は戻っていなさそうだな」
「戻ってないね。でも心配しなくても僕は大丈夫だよ」
「ハルも言うようになったな。でも何かあればちゃんと言うんだぞ。協力は惜しまないからな」
「ほんとに頼もしく思うよ、ありがとう」
1階に降りた僕とロイは、衛兵から中庭で人が待っているとの報告を受け、それじゃ行くかと言うロイに合わせて領主館を出た。
中庭の真ん中で会話をしていた2人がこちらに気付くと、片方の女の子が駆け寄ってくる。
「ハル様!おはようございます!ロイもおはよ!」
「おはようニマ」
「おはようニマ。ところで何でここにいるんだい?」
ロイの問いにニマは笑顔で答える。
「そりゃあもうお父様じゃなくて領主様にハル様の護衛を頼まれたからだよ!」
「そういや昨日ニマは領主様に直談判するとか言っていたな。すっかり忘れていたよ・・・ニマ、領主様を困らせたりしてないだろうな?」
「そんなことしないってば!安心してよね~!」
ニマは両手を腰に当て、まるで私は始めから護衛することになっていましたと言わんばかりに意気揚々とロイを見ている。
ニマの横からもう一人の女の子がこちらに寄ってきた。
「それがそうでもないのよね~。本当は今日ね~、領主様が見送りに来てくれるはずだったんだけどね~、昨日の話がすごーく長引いてしまって、そのしわ寄せで今もお仕事中なのよね~」
「昨日の話って?」
ロイが聞くと、ホルマはニマを見ながら答える。
「この子がこの使節団に加わりたいっていう話~」
ニマは腰に手を当てたまま冷や汗をかき始めた。
「ま、まあ!話ってなかなかスムーズにいかない時ってあるよね~。4時間も話しこむとは思わなかったけど、でも過ぎたことは気にしちゃだめだよ!ロイ!この任務は私たちで達成し・・・」
ロイのげんこつで彼女の言葉は止まった。
「痛った~~~!やったなあロイ!女の子に手をあげるなんて~!」
「領主様に迷惑を掛けるなって何度も言ってるだろう!」
「それとげんこつは別問題だ~~~!」
ロイとニマの言い争いを、苦笑いしながら見ている僕にホルマは話し掛けてきた。
「あなたが使節団長のハル、いやハル様ね~。私はシールドレインのホルマと言います~」
僕が昨日病院で見た女の子だと思い出した。
左手を見るとまだ包帯を巻いていた。
「はじめましてホルマさん。今回の遠征よろしくお願いしますね」
「こ、こちらこそよろしくお願いします~」
(記憶喪失になってるってことは聞いているけど、まるで別人ね~)
「ハル、いやハル様~、特命の趣旨は長旅になるから道中ゆっくりと説明するわね~。ハル、いやハル様はもう出発の準備は出来てるの~?」
「あの、呼びずらそうでしたらハルでいいですよ。準備は僕もロイも整っています」
「そう?なら助かるわね~。そしたらさっそく出発・・・したいんだけど、あの子がまだ来てないのよね~」
ホルマは中庭の正門に目を向ける。
僕も正門に目を向けると、タイミング良くその子はこちらに向かって走っていた。
ほんのりとした霧の中、その子とはまだ距離があるため誰が来ているのかの判別はつかないが、黄色い髪をした子がつまずきそうになりながら慌てた様子で走る姿を見ると、僕は彼女だと分かった。
「イアも来るのですか?」
「来るよ~。使節団はこの4人にイアを入れた5人だよ~」
「そうですか。・・・わかりました」
昨日のイアとの会話が頭によぎる。
(イアの為に今の僕に出来ることは特命を無事に完遂することなんだ)
神妙な顔つきになる僕を見たホルマは、特に気にしない様子で会話を続ける。
「それと~私はまだ10歳で年下だから敬語はやめてね~。堅っ苦しいのは好きじゃないんだよね~」
「え、ああわかったよ」
正門に着いたイアはハルを見る。
「ハル!おはよ~!」
僕はすぐに挨拶を返すことが出来なかった。
間を置いて、
「おはよう・・・イア」
イアの顔を見ると、どうしても昨日の涙が頭から離れなくなる。
僕はあの時、イアの気持ちに応えることが出来なかった。
ロイはそのことを僕のせいではないと、イアにも弱さがあると、そう言っていた。
悩んでいるイアをただ見たくないという訳じゃない。
人の想いを土足で踏み入ってしまった僕なりのけじめとして、ハルがハルに戻るまでの間イアを安心させてやりたいんだ。
イアのハルへの想いを遂げる為に。
だけど何て言えばいい?
これから先、僕は何て声を掛ければいいんだ。
僕はイアを見ていた。
イアも僕を見ていた。
そしてホルマやニマ、ロイも僕を見ている。
その状況にも気づかず、僕は掛ける言葉を考えるが、やはり答えは出てこない。
そして。
「ハル。昨日はね、言いすぎちゃってごめんね。私ね、強くなるよ。もうハルに弱いところを見せないようにね、強くなるよ。だから・・・改めてこれからもよろしくね、ハル!」
イアの曇り無き瞳はハルを映していた。
彼女の決意は僕を後押しするには十分だった。
「イア!こちらこそよろしくね。僕・・・今はまだ全然だめだけど、イアに応える為にも僕も出来ることをやろうと思う。そうやって努力をすれば絶対に最後は上手くいくと思うから。だから信じてほしい」
「ハル・・・うん。私信じてるよ。努力をすれば最後は上手くいくもんね」
イアは僕に微笑んだ。
(それは私を救ってくれたハルから教わった言葉だもん。それが今の私の支えだよ、ハル)
ロイは満足そうな顔をして2人を見守った。
ニマは何が何だか分からない様子で、なにか勝負でもしてたの?とロイに聞いている。
タイミングをみたホルマは口を開く。
「さあ揃ったね~。ではこれよりハル使節団、都に向けて出発するよ~」
ホルマの号令で各々が返事をする。
雲から出た太陽は、瞬く間に霧を晴らしていった。
これまでのフラグが多すぎて旅の目的を書ききれませんでした。
ですので、「道中ゆっくりと説明するわね」を使って次に持ち越しました。
ホルマさん流石です。
ということで、次回でこの編の内容が分かるようにします。(2回目)
それと恋愛要素って難しい・・・。
一応ハルとイアの気持ちに一旦区切りをつけて晴れやかに冒険スタートという感じにしました。
恋愛とバトルを軸にいろんなジャンルを面白く書いていこうと思ってます。
面白いと感じてくださいましたら是非とも評価をお願いします!!
それではまた次のパートで!