旅立ちの前日①
年内にせめて修正だけでも終わらせたいლ(╹◡╹ლ) ※12/22
◇◇◇
「・・・報告は以上で~す!」
「12匹も仕留めるなんて、ほんとご立派ですねニマさんは。・・・それではこれが今回の報酬です。これで通算の功績ランクは・・・今のところ2位ですね!この調子なら今期こそは追加の褒賞も期待出来そうですよ!」
「ほんとですか!?うう~!前期はぎりぎりのところであんの馬鹿ダクセルに抜かされたんだよね!今期こそは絶対にリベンジしてやる~!」
「褒賞はもらえませんでしたけど、それでも4位はすごいことですよ?とてもルーキーとは思えませんよ」
「そうかなあ~?あひゃ、あひゃあひゃひゃひゃ」
「そ、そうですよ・・・ははは・・・」
「ところで、ダクセルの功績ランクは今どのくらいなの?」
「ダクセルさんは・・・圏外ですね。恐らく今回の魔物襲撃で少しは貢献されたみたいですが、それを反映していても10位には入っていませんね」
「圏外!?そりゃあいい~!目の前でイージーイージーって言ってやりたいなあ!あひゃひゃひゃ」
「ははは・・・」
◇◇◇
「さーて!換金も終わったことだし、マナの補給が終るまでデットエンドに行ってよーっと!」
◇◇◇
ニマは居酒屋に着くとテラス席に座る。
テーブルの上に四角い機器を置き、ヘットフォンを耳に当てた。
「さーてと!そんじゃあまあ、盗聴しますかあ!・・・そうそうこれこれ~!うんうん・・・あーん、私も食べたい~!・・・あひゃひゃ!それはおかしいって~!・・・あひゃ、あひゃひゃひゃ」
ニマの高笑いは外まで響き、通りを歩く人はみんなニマを見ていた。
◇◇◇
「・・・見つからない!この辺で落としたのは間違いないのに」
「これだけ探しても見つからないのならここにはもう無いのかもしれないな」
「そっか・・・困ったな・・・」
(まずいな・・・栞の玉はどこいってしまったんだ?見つからないと現実に戻れないって)
「ハルにとってはあの玉は記憶が戻る手掛かりになるかもしれないんだ。ハルが探す間は俺も協力するよ」
「ありがとう、ロイ」
「・・・しかし、この瓦礫の山からあの玉を探すのは少し骨が折れるな。・・・ん?探す?・・・そうだハル。いい方法がある」
「いい方法?」
◇◇◇
「・・・もしかして、あの椅子の上に立ってるとんがり帽子の人?」
「・・・そうだ」
「なんていうか・・・とてもユニークな人だね」
「ハルにしては上手い表現だ。それじゃあハル、少しの間ここで待っていてくれ」
◇◇◇
「ああ~!きたきたきた~!うう~・・・ぱーん!きらきらきら・・・って、あれ?」
「盗聴の現行犯で捕まえに来たぜ。観念は出来ているか?」
「ロイ~!今いい所なのにスイッチ切らないでよー!」
「また例の劇団を聞いていたのか?」
「そうだよ~!でもなんで切るの!?・・・あ!わかった!ロイも聞きたいんでしょ!?」
「共犯はごめんだね。ところでニマ、今時間はあるか?頼みたいことがあるんだ」
「頼みたいこと?ん~そうだなあ~、それならパフェでいいよ!」
「いつものパフェだな?それで手を打とう」
ロイは僕を手招いた。
◇◇◇
「紹介するよハル。この方はニマ、盗聴魔だ」
「ちょっとちょっと!誰が盗聴魔よ!誤解を生むでしょ誤解を!盗聴はたまーにしかしてないんだからね!・・・ん~どちらかといえば人を助けるのが趣味のか弱い女の子ってことでよろしく~!」
「ニマはシールドレインに所属しているから前半はあっていても、か弱いは間違いじゃないのか?」
「むむ!なんて失礼な!だいたいね~ロイは女の子に対するマナーがなってないのよ!ぷんすかぷんすか!」
「そんなに怒るなよ、悪かったよ・・・悪かったって!だからそう殴るなよ!」
「ははは・・・」
「それでニマ、こちらがハルだ」
「始めましてニマさん、ハルと言います」
「ん?ハル?ハルってもしかしてロイが担当してるあのハル?あなたがあのハルですか~?あれれ?わがままで巨大でビッグなお腹のおぼっちゃまじゃなかったの?」
「そういやニマはハルに会うのは初めてだったな。それにしても一体どんなイメージをしていたんだよ・・・」
「飲み仲間で集まる時によくハルの話をするじゃん!しかしまあ私のスーパーな推理も完璧ではなかったということね・・・なんかショック~」
「ははは・・・」
「そういえば!この人ってさっきロイと一緒に襲われてた人じゃない!?」
「そうだよニマ!あの時は本当に助かったよ、ありがとう。・・・なあハル、俺たちが魔物に囲まれたあの時、駆けつけてくれたシールドレインはニマなんだ。ちゃんと感謝しておくんだぞ」
「そうなんですね!あの時は助けて下さりほんとにありがとうございました、ニマさん」
「ど、どういたしまして・・・」
(この時、私の中で衝撃という名の雷がドカンと落ちた)
(私はハルという人物について勘違いをしていた?いやいやそれは違う。私ともあろうものが勘違いをするはずがないわ)
(恐らく私のスーパーな推理が外れたのは・・・彼が変わったからだわ!)
(私が間違えるはずはないもの。そうに違いないわ!でも、ならなぜ彼は変わろうとしたのか。・・・そう。その答えは一つしかないじゃない)
(私に会うためよ!・・・ああ!なんて健気なんでしょう!無邪気な子どものようなその想いに応えてあげないのは大人として失礼だわ)
(・・・それにしてもこのハルって人、ルックスは悪くない。いや悪くないどころかよくみるとイケメンだわ!)
(ロイのこれまでの情報を整理すると、ハルは領主の息子だったわね。つまり・・・あひゃ)
(領主の息子なら資産もた~んまり。もしも結婚すればあの白城は私のお城になるのね!)
(ニマよ、君のことを一生愛することを約束しよう。その証拠に白城はニマ城と名付けて君にプレゼントしよう)
(はい・・・ハル様。・・・ああ!いい!いい!ニマ城なんて素敵すぎるって!やばいって!あの城は私のものだああ!あひゃ、あひゃひゃひゃひゃひゃ)
「ニマ?どうした?食あたりか?」
「うるさい!まだなにも食べとらんわ!」
「ははは・・・」
「もう!ロイはなにも分かってないんだから!」
「お待たせ致しました。ご注文のパフェと紅茶でございます」
「お、来たな。・・・ん?なんだ?パフェのサイズが注文と違うぞ?」
「これは俺からのサービスだ」
「店長!」
「ようお前達。よく来てくれたな!・・・それとニマ、さっきはありがとうな。これは些細な気持ちだ・さあ遠慮せず食ってくれ」
「うっひゃあ~!こんな超特大パフェ今まで見たことないよ~!じゅるじゅる・・・店主~!あんたって人は分かってるねえ!」
「はっはっは!それからよ、お代もまけておくから、お前達もなにか食いたいもんがあったら遠慮せずに言ってくれ」
「ありがとうございます。ですが店主、なぜ俺達にそこまで良くしてくれるのですか?」
「それはな・・・」
◇◇◇
「・・・くっそ!魔物め!うちの店に近寄るんじゃねえ!・・・こーんのくそったれ!」
店長は飛び掛かってきた狼の口に円卓のテーブルを押し当てる。
「ぐっ!と、とんでもねえ力をしてやがる・・・」
2匹目、3匹目の狼が現れる。
「上等だ・・・まとめて相手をしてやるよ!」
2匹の狼は店長に噛みつく、その間際。
「【バインドアップ】!!!」
狼は宙に留まった。
そして、もがいている3匹の狼の脳天に、それぞれ1m程の針が刺さった。
「いえーい!ニマ選手トリプルブルで150点で~す!」
「ニマ!」
店長は屋根伝いに走って行くニマを呼んだが、ニマはそのまま走り去っていった。
◇◇◇
「・・・ぎりぎりのところでニマが来てくれたから今もこうやって店をやれてんだ。ほんと感謝しかないよ」
「ニマもすっかりシールドレインが板についてきたな」
「それにしても、この町に店を構えてもう10年になるが、魔物がこの町に侵入するなんて初めてだよ。まったくこの先どうなることやら・・・」
「すいませ~ん、注文いいですか~?」
「おおっとこうしちゃおれん。お前達はゆっくりしていってくれ」
「ありがとうございます。・・・しかしまあ、今回の件ニマの活躍が大きかったのは確かだ」
ロイは紅茶を飲みながら特大パフェの半分を食べきったニマを褒めた。
「シールドレインとして当然のことをしたまでだよ」
「ニマさん、ほんとにありがとうございました」
「いえいえハル様。どういたしまして」
ニマは口元にクリームをたくさん付けたまま僕の顔を見て目をぱちぱちする。
「ハル様だって?」
ニマはロイの言葉を無視して、紅茶のカップに添えた僕の手の上にそっと両手を置いてきた。
「もしもまたハル様が襲われそうになれば急いで駆けつけますから、どうぞご安心くださいましてよ」
「えっと、ニ、ニマさん!?その・・・あ、ありがとうございます」
「駆けつける前にまずはお口を拭いておかないとな」
すごい形相でロイを睨むニマ。
「ほんっとロイは空気読めないわね!・・・それでなによ?頼みたいことって?」
「そうだったな。ニマ、あの袋で落とし物を見つけて欲しいんだ」
「嫌だね」
「そっかー。それは残念だな。せっかくハルのためになることだったのに、ニマが嫌なら仕方がないな」
「え?なに?その落とし物ってハル様が探してるの?」
「そうだよ」
「ハル様!なにを探されていらっしゃるのですか!」
「えっと、あの、小さい玉のようなものを探してまして・・・ロイに聞くとニマさんなら見つけられるかもって」
「もちろんですとも!全身全霊をかけて探しだします!探しつくします!」
「・・・分かりやすい性格だな」
ロイの言葉を無視したニマは、椅子に掛けてあった茶色の四角いリュックをテーブルの上に置いて、中から黒の巾着袋のようなものを取り出した。
「ぱんぱかぱーん!あ~ぶ~く~ろ~!」
「なにをやっているんだ?」
「雰囲気作りよ!それとロイは黙ってなさい」
「はあ」
ニマは取り出した黒い袋を裏返しにした。
袋は裏生地のピンク色になった。
「この袋はね、二通りの使い方があって、落とし物を探す時はこっちの色で使うんだよね。さて、ハル様。落とし物を想像しながら袋に手を入れてみてくださいね」
僕は栞の玉をイメージしながら袋に手を入れた。
すると、最初は空だったその袋の中で小さな物に触れた感触があり、僕はそれを取り出した。
それは、狼に襲われた時に無くした栞の玉だった。
「探し物はこれだよ!見つかって良かった!ニマさんありがとう!」
「いえいえ!ハル様の頼みでしたらこれぐらいお安い御用ですわよ」
(よっしゃ~!この調子でドンドンポイント貯めてくよ!ビバ!玉の輿~!ニマ城~!あひゃひゃひゃ)
「いつ見ても便利な道具だよな。ニマのコアに反応して使用するものだから俺のものに出来ないのが唯一の不便なところだよ」
「べ~だ!ロイなんかに私の【亜袋】は絶対にあげないよ~だ!」
◇◇◇
「ところでハル様、その玉は一体なんなのですか?」
「これは・・・そうだな、お守りのようなものだよ。この玉で僕は記憶を失って、なんとなく持ってれば記憶が戻るんじゃないかなって思ってるんだ」
「記憶を失ったって、ハル様は記憶喪失なの!?」
「じ、実はそうなんです。で、でも心配しないでくださいね!僕はもう大丈夫ですから」
「私の知らないところでそんなことが・・・。ハル様、私に出来ることがあればなんでも協力しますから大船に乗ってる気持ちを持ってくださいね!」
「う、うんそうだね・・・ありがとうニマさん」
「ハル、ニマはこんな感じだけど、いざという時には頼りにはなる、と思うからこれからも仲良くしてやってくれよな」
「ちょっとロイ!もっとストレートに褒めることは出来ないわけ!?」
「ま、まあまあ落ち着いてニマさん・・・これからもいろいろとよろしくお願いしますね・・・」
「ロイはさ~いつもぺちゃくちゃぺちゃくちゃと言ってさ!なに?私のこと好きなの?え?言ってみ?こら!」
「聞いてない・・・」
(・・・とりあえず、この本の世界はこれまでとは明らかにレベルが違う。またすぐになにかが起きるかもしれないし、早速だけどセーブしておこう)
僕は手に乗せた栞の玉に、念じる様に心で唱える。
(セーブ!)
すると、目の前が真っ暗になった。
◇◇◇
気が付くと僕は小舟に乗っていた。
風も無く、波も無く、薄暗い空間。
(・・・やっと来れた。これでセーブが出来たから、これで危なくなればいつでもリセットしてここに戻って来れる)
僕は慣れた手付きで小舟に備わるオールを漕ぎ始める。
進んだ先には、1つの宙に浮いた光る玉がある。
光る玉にはテーブルを囲う3人の姿が映っていた。
(僕とロイとニマ。これが最初のセーブデータだ。・・・それじゃ進めるか)
僕がその玉に触れと、玉は輝きを強め、僕の視界は真っ白になった。
◇◇◇
「ロイはさ~いつもぺちゃくちゃぺちゃくちゃと言ってさ!なに?私のこと好きなの?え?言ってみ?こら!」
「ははは・・・」
「いいのか?ニマ?ハル様が困っているぞ?」
「はっ!?ハル様!お見苦しいところをお見せしました・・・これも全てあのダークロイの仕業です。ハル様もダークロイには気を付けてくださいね」
「ダークロイ?」
「ダークなロイです」
「あ・・・な、なるほど・・・わかったよ。ぼ、僕も気を付けるようにするよ」
「ハルは優しいな。・・・ほんと、人が変わったみたいだ」
ロイが小声だったのか、ニマに気を取られていたからなのか、僕はロイの言葉を最後まで聞き取ることが出来なかった。
「え?なにロイ?今なんて」
「それはそうと!ねえ!ハル様」
「な、なんでしょうかニマさん」
「ニマでいいよ!ついでに敬語もダメ!距離感うまれちゃうでしょ!」
「わ、わかったよニマ」
「あひゃひゃ。分かればいいのよ。それでね、ハル様」
ニマは自分の髪の毛を人差し指に巻いたり解いたりしながら続ける。
「この後時間はございませんかあ?もしも~よろしければ~私とデートじゃなくてパフェとか~甘いものとか~食べにいきませんかあ?」
(今食べてるじゃないか・・・)
「ええと、ごめんニマ。明日からしばらくの間町を出るんだ。これからその準備をしなくちゃいけないから・・・」
「ええ!そんなあ!玉の輿出来ないじゃなくて、明日からどこに行くんですかあ!」
(心の声がだだ漏れしてる・・・)
「まだ詳細を聞いてはいないからわからない。それに今回は領主の特命だから、分かっていても俺達は内容を第三者には話せないんだ」
「そうなんだ・・・」
「・・・」
(このどんよりした空気はなに!?・・・なにか声を掛けた方がいいのかな)
「も、戻ってからでも良かったら一緒にパフェを食べに行こうよ、ね?」
「・・・」
「そうだニマ。パフェを食べた後、助けてくれたお礼になにかニマの欲しい物を買おうと思うんだ。それで元気で出ないか?前にお願いされていた新発売の空飛ばない箒なんかはどうだ?」
「・・・お願い」
「お願い?」
ロイが聞き返すと、ニマはバン!と両手でテーブルを叩いて立ち上がった。
そして、目の前の特大のパフェの残りを勢いよく食べ始め、あっという間に完食した。
ニマはテーブルに広げた私物を茶色の四角いリュックに詰め込んだ後、僕を見た。
「ハル様。待っていてくださいね。私たちのハネムーンは絶対に実現させます!」
「ん?どういうこと?」
「ニマ?それは一体なんのことだ?」
「私、領主様に直、談、判、してきます!」
ロイは飲んでいた紅茶を吹き出しそうになる。
「おい、ちょっと待て!ニマ!」
しかし、ニマはもう走り去った後だった。
「くそ!ニマの悪い癖だ。シールドレインとはいえニマはまだ子どもなんだ。お父上になにを言い出すか分からない。ハル、急いで戻ろう」
「わかったよ」
僕たちが立ち上がろうとした時、近くでがしゃしゃんと大きな音がした。
振り向くと、建物を立て直す為に組まれていた丸木の足場が崩れており、辺り一面には粉塵が舞っていた。
「なんだ!?事故か?」
(早速またなにかが起こったのか!?)
「ロイ、行ってみよう」
僕とロイはその場へ向かう。
そこでは、黄色い髪の女の子が崩れた丸木の下敷きになっていた。
お読みくださいましてありがとうございました!
面白いと感じて下さればコメ&感想の程よろしくお願いします(๑╹◡╹๑)