父と子①
思い出話についてはサクッと済ませたいので、会話形式をやめました。
◇◇◇
「白城と呼ばれるこのお城は、白岩石という鉱石をレンガのように積み上げて・・・」
「なあサンマ~。ティッシュ詰めやらせてよ」
「急にどないしてん?暇なんか?」
「暇になった」
「いやいや、サモやんの話はちゃんとき聞いとけって!ワイら補習組は次のテストで落ちると落第やで!?」
「白城と同じ造りの外壁には魔除けの包囲陣が展開されており・・・」
「それでも飽~き~た~もーん!」
「かーっ!飽きたってなんやねん!よう聞けトウマ、次も赤点とってみ?かろうじて繋がってる首の皮も引きちぎれるで!?」
「貴様ら!うるさいぞ!」
「すんません!・・・ほらトウマ、ちゃんと話聞こうや」
「ちぇっ、つまんないのー!・・・あれ?ロイ?ロイじゃん!久しぶり~!」
「トウマじゃないか!サンマも久しぶり!」
「かーっ!ロイやん!おのれ元気にしてたんか!?」
「元気にしてたよ。・・・先生、お久しぶりです」
「久しぶりだな、ロイにハル」
「えっと、お、お久しぶりです」
「おいトウマ!聞いたか!?今ハルって!?」
「聞いた聞いた!でも、噂とは全然違うくない?」
「確かにほんまやな。ほな別人か?」
「もしかして・・・白城町に住んでるハルって人は実は2人いるのかも!」
「なんやて!?ほならもう1人のハルってのがでかっ腹の・・・」
「貴様らうるさいぞ!無駄口を叩いていないでさっきの話をちゃんとメモする!テストに出すぞ」
「し、してますがな!・・・なあロイ聞いてくれよ。さっきまで魔物で大騒ぎやったのに、落ち着いたと思うたらすぐに補習やで!?切り上げて帰らんあいつは普通やないって!」
「サンマ、聞こえているぞ」
「ひぃぃ!?」
「はは・・・じゃ、じゃあ俺達は授業の邪魔になりそうなのでこれで失礼します」
「そうだな。ロイ、事情は聞いているから私からはなにも言わんが、君の練度は評価しているんだ。いつでもいい、アカデミーには必ず戻って来い」
「分かりました」
「ロイ!?なあロイ置いていかんといてえや~!?」
「たまにはアカデミーに顔出してよ!みんな戻って来るの楽しみにしてるんだから!」
「そうだな。それじゃあ近いうちにお邪魔するよ」
僕達は、3人と別れて大広間に向かった。
◇◇◇
「ところで、レイリンの姿が見えないがどこに行ったか知っているか?」
「レイリンならここに来る前からいなくなってまっせ、サモや・・・サモエド先生」
「またか。・・・それじゃ授業を続ける」
「かーっ!なんでやねん!なんでレイリンだけいつも特別待遇やねん!」
「授業聞いとかないとまた怒られるよ?」
「トウマにだけは言われとうないわ」
「・・・それから何百年と続く歴史の中で、治安、政治、観光、どれをとっても素晴らしい成果を・・・」
◇◇◇
「・・・今朝もハルとお父上は口喧嘩をしていたんだ。その後に、狼が襲撃してきたことでお父上はハルの身を案じて、やっとハルが帰ってきたかと思えば、怪我で気を失っているときたもんだ。おまけに記憶喪失ともなれば、そのショックは計り知れないよ。事実、報告の際に同席していた奥様は今も休んでおられる」
「とても大事に思ってくれてるんだね」
「そうだ。お父上も奥様もハルの事を本当に大事に思っている。だから、元気な顔を見せて安心させてやりなよ」
「分かった」
(父さんの気持ちか・・・)
僕は歩きながら、父のことを思い出していた。
◇◇◇
・・・僕には父がいた。
母と3人で幸せに暮らしていた。
父はとても優しかった。
父の転勤もあり、僕が小学校に入学した当初、友達はいなかった。
父は毎日仕事で忙しいはずなのに、PTAでお菓子を配る許可まで取って、月に何度か友達を作るためのパーティを開いてくれた。
クラスの子にも、親にも、先生にも父は尊敬されて、父のおかげですぐにたくさんの友達が出来た。
僕の為に父はいつも頑張ってくれた。
僕は、そんな父が大好きだった。
ところが、僕が小学校に入った年の夏、父は交通事故で死んでしまった。
夏休みの間にも関わらず、たくさんの人が参列に来てくれた。
急な出来事で理解が追い付いていなかったのか、僕は葬式では涙が出なかった。
その日の夜、家で母が泣いているのを見た。
僕が後ろからそっと抱きしめると、母は振り返って僕のことを抱きしめ返した。
母の涙と震えを感じた。
その時、初めて父がいなくなったのだと理解して、僕はたくさん泣いた。
母は言う。
父は幸せだったかな・・・一緒に暮らせて、幸せだったかな・・・。
僕は、母の言葉に答えられなかった。
ただ、泣くだけで、母に対してなにも答えてあげることが出来なかった・・・。
◇◇◇
「・・・着いたよ。ここにお父上がいらっしゃる」
大きな扉を開く。
「おお、ハルよ!無事でおったか」
凛とした白い髭の白髪の男は、とても温かみのある優しい眼差しを僕に向けていた。
「と、父さん。心配をお掛けしまして、申し訳ございません」
「ハル・・・。んん、ごほん。頭を上げなさい。ハルはなにも謝ることはないのだ。・・・怪我の具合はどうだ?気分は悪くないか。何かこう思うことがあればなんでも良い、申してみよ」
「だ、大丈夫です。僕はこの通り無事でございます。ご安心ください」
「左様か。本当に大事に至らず何よりだ」
「領主様、例の件を息子様に」
領主の横で、白服に緑の線が入った司祭のような格好の男が口を開いた。
「そうであったな。ハルよ、本当は回復してからこういった話をしたかったのだが、時を急ぐのでな。・・・ハルよ、私は政府より特命を預かっておる。遠征になるが故、しばしの間町を離れることになった。ハルにはその間、ここに残り先の魔物による襲撃事件の解明に努めてほしいのだ」
「領主様が町の外へお出になられるのは危険です!いつ魔物が現れてもおかしくない状況なのですよ!代わりの者ではダメでしょうか?必要とあらば私めがその任、務めさせて頂きます」
「ロイよ、そなたの仕事はハルに従事することだ。使用人としてのその責務を放棄させるわけにはいかん」
祭司は慌てた様子で僕を見た。
「心配しなくとも良い。もちろん、遠征には護衛を付ける予定だ」
「ですが領主様!」
「ロイ様のお気持ちも十分に伝わっております。しかしながら、代々領主家の血筋は14歳を迎えた際、解呪の儀を経て七曜の加護をその身に受けます。その血と名誉にかけて、今回も特命は遂行せねばならぬのです」
「その通りだ。ロイよ、留守の間、ハルを任せた・・・ごほん、ごほんごほん」
「大丈夫ですか、領主様!」
「・・・ハル、お父上はここのところ激務で全く休めてはいないんだ。そのせいで持病も悪化してお身体を崩されている。とても、遠征出来る状態じゃない」
「そんな・・・」
目の前で身体を崩すハルの父さんと、優しかった父が重なる。
「ごほん、ごほんごほん。・・・取り乱してすまない。出発は明朝に発つ予定だ。私が不在中の国政については全てこの祭司マリーンに任せてある故、なにも問題はない。先の魔物襲撃の件についてもマリーンから話を聞くがよい」
はい、と言えなかった。
「・・・よいな?ハルよ」
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