第36話 イーグ視点
イーグ視点
風が、こちらを見ている。
同じ風なのに、違う。
触れているのに、触れていないみたいな風。
懐かしむように、問いが落ちる。
<まだ、待っているのですか>
上位の風。
私を知っている風。
『ええ、リザ……』
言いかけて。
口を塞がれた。
リリベット。
どうして?
なぜ、いけないのだろう。
ーーでも、リリベットは、頭を抱えている。
『道が、できてしまいました』
風が変わる。
私のものとは違う、重く、強い風。
なのにーー
懐かしい。
やさしい。
空間が、黒く裂ける。
穴ではない。
道。
風が、まっすぐに通っている。
この風を、知っている。
エイルと一緒にいた時にーー
<まだ、待っているのですか? 彼を>
『はい、奥方さま』
間違えない。
この風は。
<仕方がありませんね>
その一言で、風が整う。
道が、完成する。
くぐる。
湿った空気。
重い熱。
それを遮るように、岩影に立つ魔王城。
二ヶ月前。
私が壊した場所。
うまく、できなかった。
力の加減が分からなくて。
砂も、たくさん連れてきてしまった。
<エイルが、ここにいますよ>
意味が、分からない。
でもーー
風が、そちらを見る。
赤毛の魔法使いが、奥方さまと話している。
その向こう。
何かが、こちらへ来る。
見覚えがある。
上から見たことがある。
でも今は、違う。
地面を、歩いてくる。
『エイル!!』
手を伸ばしてーー
止まる。
違う。
人では、ない。
砂。
砂が、人の形をしているだけ。
顔も、ない。
それでもー!
何かを、言おうとしている。
『う……け……とれ』
崩れかけた声。
砂の影が、鞄を開く。
中から、ぼろぼろの紙の束。
『……エイルは、これを届けるために?』
砂が、頷く。
それだけで、十分だった。
影は、崩れる。
音もなく。
最初から、なかったみたいに。




