第1話 幼女と冒険者
「リリベット、下がってろ!! サーベルタイガーは肉食だ」
サーベルタイガーは、フィニアスを睨んで今にも飛びかかろうとしている。
彼は、ワタシを自分の風の精霊に預けて前に出る。
「貴婦人、飛びかかるタイミングで縄を出せ」
フィニアスは、契約精霊ーー風の貴婦人に命じる。
<承りました>
風の貴婦人のため息まじりの言葉に、
ワタシは、苦笑い。
フィニアスの後ろにまわって、ふわっと風にのって浮き始めた。
「ワタシのことは心配しないで。クエストをこなしてください」
ワタシは、フィニアスに言う。
この言葉に彼はカチンときたようだ。
サーベルタイガーと対峙しながら、得意の魔法で押さえ込もうとしている。
グルルッ!!
風の縄で、縛り付けられて、サーベルタイガーがもがいている。
相変わらず、雑な力わざだ。
そして、サーベルタイガーの牙を風の力で折ろうとした。
「待った」
「何だよ、リリベット」
ワタシの中身は、エリアード・ローランという十九歳の男である。
今は、訳あって、五歳のリリベット・モルガンなのだ。
そしてフィニアス・レイに育てられている。
ワタシは、フィニアスの頭上から、小さなノコギリを落としてやった。
「魔法で、無理矢理牙を折るなんて、さすがのサーベルタイガーも痛がりますよ」
続ける。
「魔法を使ったら、素材が死にます。ここは、地道にノコギリで」
ワタシはにっこりと微笑んだ。
フィニアスは、面白くないみたいだ。
彼は、魔法が得意な分、力仕事が苦手だ。
「お前……だんだんとエリーと重なるときが多くなってきたぜ」
「ーーそうでしたね、あのときもワタシに一人でサーベルタイガーの牙を切らせてた日でしたね」
一拍。
「あなたが、ワタシの部屋に裸で忍び込んできたのは……」
「それ以上言うな!! 罰ならもう受けてる」
フィニアスの侵入に驚いてーーワタシの心臓は止まった。
その魂を母は、探し出したのだ。
そして、神殿が動いた。
よりにもよって一族にも追放された、暴走冒険者に育成させるなんて……
幸い、ワタシには、転生特典が沢山ついていた。こんな姿でも死ぬことはないーーそういう仕組みだ。
ーーだけど、フィニアスには話さない方が面白そうだ。




