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気が強い高嶺の花は夢の中では僕の恋人  作者: nite
夢と現実の彼女の話

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妄想を語るときは堂々とするがよい

 一日学校で過ごし、そして放課後。

 僕はひうりのクラスに来ていた。珍しいことに、林さんも神無月さんもおらずひうりだけが部屋に残っている。


「ひうり、来たよ」

「来たわね一樹くん。りんりんたちには先に帰ってもらったから、誰もいないわよ」


 どうやら二人のことはひうりが払ってくれたようだ。それ以外のクラスメイトもいないのは、偶然なのか、ひうりが払ってくれたのか分からないけど。


「それで、話って何?」

「とても重要なことなんだ。信じられないかもしれないけど、今から話すことは全部本当のことだと思って聞いてほしい」

「…随分と、深刻そうな話ね」


 話す順番を間違えてはいけない。ひうりの恐怖心を煽るようなことはだめだ。

 話す内容を間違えてはいけない。嘘を一つでも混ぜようものなら、ひうりからの信頼が急転直下で落ちることとなるだろう。

 話す速度を間違えてはいけない。ひうりの理解が得られないのであれば、その時点で終了だ。


 僕はゆっくりと、夢の話を始めた。

 夢の中で、ひうりと出会っていること。夢の中では色んなことが実現できるということ。そして、夢の中ではひうりと恋人であるということ。

 話す内容は林さんに話したこととそんなに変わらない。ひうりの頭がこんがらがってしまわないように、ゆっくりと話す。


「つまり、一樹くんは夢の中でのことを実現するために動いてたってこと?」

「まあ、そうだね。夢の中だけで終わらせたくはないなって思って」


 これが普通の人ならば、夢で見たことを実現しようだなんて馬鹿な事と思うだろう。だが、僕からすれば夢の中も別の現実なのだ。ただの空想ではなく、実際に起こった出来事なのだ。


「私がたまに衝動的なことをしちゃうのは…」

「夢の中のひうりの念のせいだね。衝動的というよりは、無意識誘導だけど」


 正直、夢の話は前座だ。家族事情を僕が知っているということを説明するための前座なのだ。

 しかし、夢の話を蔑ろにしてはいけない。ひうりだって当事者なのだ。夢の説明をしっかりしなければいけない。


「なんだか夢の中の私って性格違わない?」

「そうかも。多分、夢の中のひうりの方が素に近いと思ってるんだけど…」

「誰も見てない、恋人しかいない空間ならそうなるわ。不思議なことでもないけど…私、そんなに恋人願望があったのね」


 夢の中のひうりは、現実で僕と恋人になるために必死だった。それは、現実でも精神的な支えが欲しかったというのはあるだろうけど、それでも結構積極的だった。


「僕もびっくりしたよ。ひうりってあんなに積極的なんだって」

「そうねぇ…でも、一度好きになったら私って一途よ?それは自分でもわかってるわ」


 今日は時間がいっぱいあるので、ゆっくり話す。教室に二人っきりなので、夢の中のような感覚になる。

 だが、外から運動部の声が聞こえており、ここが現実であるということを思い出させる。


「修学旅行中にずっとイチャイチャしてたの?」

「ひうりの方から言ってきたんだよ」

「そのせいでずっとムズムズしてたんだから…」


 いつ何をしたのかも、少し話す。特に、修学旅行中は夢のひうりが与えた影響が大きかったらしい。最終日にあんなことをしてしまうくらいには、影響があったということだろう。


「随分と重要な話だったわね」

「うん。夢の話、信じてくれる?」

「ええ。だって、実際にこうして一樹くんのことを好きになってるんだもの」


 一通り話したら、ひうりも信じてくれた。最初話したときは信じてくれなかったので、とても大きな進歩である。


「そういえば、そんな話を前にも一樹くんから聞いたような気がするんだけど…」

「話したよ。二年生の最初に」

「やっぱりそうよね。でも、あの時は信じなかったわよね私」

「うん。証拠不十分だったから」


 どうやらひうりも、僕が前に話したことを覚えていたらしい。


「そんな重要な話だったなんて…告白かと思ったわ」

「実は…もっと重要な話があって」

「え?まだあるの?」


 さっきも言った通り、この話は前座だ。夢の話はとても重要なことではあるけれど、もっと重要な話が残っている。


「夢の中のひうりって、現実だと教えてくれないことを教えてくれるんだよね」

「親密な話ってこと?」

「そうとも言うけど…ひうりの秘密とか、まだ僕に教えてくれてないこととか」


 僕がそこまで言うと、ひうりは目を大きく開いて、後ろに下がった。


「僕、ひうりの家族のこと…」

「待って、お願い、待って」


 目を背けて、頭を抱えるひうり。


「じゃあ、私の親のことも…」

「うん。知ってる。ひうりの家族事情、夢の中で聞いたよ」


 ひうりは静かになった。少しも動かず、うつむいている。


「………私が告白を断ったのは、無駄だったってこと…?」

「無駄とかじゃないけど、僕は知ってたよ」

「…」


 ひうりはずっとうつむいていて、目を合わせてくれない。


「私、その、私は…っ!」


 途端、ひうりは走って行ってしまった。


 突然のこと過ぎて反応が遅れたけれど、僕はひうりを追いかける。

 しかし、教室の外に出た時点でひうりのことを見失った。ひうり、運動神経がいいからなぁ…


「探さなきゃ」


 ひうりに落ち着いてもらうためにも、そして、僕の気持ちをもう一度伝えるために、僕はひうりを探しに出た。


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