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気が強い高嶺の花は夢の中では僕の恋人  作者: nite
夢と現実の彼女の話

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絶対なんて言葉は信用できない

 ショッピングモールを出て、ひうりと共に街を歩く。

 実のところ、僕も街に何があるのかを把握していないので、本当に行き当たりばったりだ。最終目的地は決まっているのだけど、それまでに何があるのかは不明である。


 夢の中のひうりと相談したけど、二人とも知らないならそれはそれでいいと言われたので、僕も何も調べていない。


「そういえばここらへんに美味しいアイス屋があるって聞いたことがあるわね」

「この季節にアイス?」

「甘いものはいつ食べてもいいものよ」


 それはそうかもしれないけれど…はっきりと寒いという季節ではないものの、街を行く人々の恰好はすっかり秋仕様である。


 しかし、ひうりは本当に食べる気であり、記憶を頼りに道を歩いていく。


「ここらへんにあるって聞いたんだけど…」

「アイス屋っぽいのはないね」


 たしかに甘いものを売っている店は多いのだけど、その中にアイス屋の姿はない。

 シュークリームとかフルーツジュースを売っている店はあるので、アイス屋があるのであればこの通りにあると思うんだけど…


 僕が周囲を見渡していると、ひうりは道行く人に尋ねに行った。店を探すよりも、知っている人を探す方が早い。

 ひうりは何人かに尋ねたあと、残念そうに戻ってきた。


「夏の間しかやってないみたい…」

「まあ、アイスだからねぇ…」

「なによ、いつでも食べていいでしょ!」


 いつでも食べていいとはいえ、この季節の売り上げが落ちるのは道理だ。アイス屋がいなくなってしまうのも仕方のないことだろう。

 アイスを食べられなかった代わりに、フルーツジュースを買うことにした。


「アイスフロート」

「僕はバナナミックスで」


 アイスが諦めきれないひうりは、アイスが乗っているアイスフロートを頼んだ。そんなにアイスが食べたかったのか…

 今夜はアイスクリームを出してあげようかな。


「ひうり、仕方ないよ」

「むう…」


 ジュースを受けとった僕たちは、再び街を歩く。だが、ひうりは少し不機嫌だ。

 子供っぽいひうりというのは、あまり見ることがないので新鮮だ。かわいい。


「なに見てるのよ」

「何でもないよ」

「嘘よ。私のこと見てたじゃない!」


……


 街を歩いていると、ゲームセンターの前に来た。ここは、前にひうりと一緒に来たことがあるゲームセンターだ。


「なんだか懐かしいわね」

「まだ数ヵ月しか経ってないんだけどね」

「…あの日から、明らかに一樹くんと過ごす時間が増えたわ」


 ひうりと偶然を装って出会ったあの日、僕とひうりは現実でも名前で呼び合うようになった。

 体育祭や文化祭などを経て、現実でひうりと過ごす時間は格段に増えている。今では、こうして一緒に遊びに出かけているのだ。


「せっかくだから遊んでいきましょ」

「いいね」


 僕とひうりは揃って中に入る。


 UFOキャッチャーをして、百円で少しだけのお菓子を獲ったり、あの時と同じようにシューティングゲームをしたりした。

 前よりもシューティングゲームが上手になってる気がする。


「実はあの後悔しくて、一人で来たときに遊んだりしたのよ」

「そうなんだ」

「負けっぱなしは悔しいわ」


 そんな練習をしたひうりだったが、残念ながら最終ステージの一個前のステージでゲームオーバーとなってしまった。

 その恨みを晴らすように、シューティングゲームのあとにプレイしたのはホッケー。僕とひうりの対戦だ。


「勝った方がもう片方になんでも命令できる権利を得るってはどう?」

「罰ゲームってこと?よし、かかってこい」


 負けた。

 そもそも、ひうりは運動神経が良くて、対して僕の運動神経は普通。僕とひうりは一対一で戦ったら、僕が負けてしまうというのは当然のことであり、別に負けたから悔しいとか言い訳をしてるとかそういうわけではなくて、これは仕方がなくって(以下省略


「あら、ホッケーで負けたのがそんなに悔しいの?」

「別に。ひうりと運動勝負したら負けるのは当然だから」

「その割に頑張ってたわねー」


 ニヤニヤしながら僕を見るひうり。

 うるさいやい。ひうりの命令なら大抵のことはするつもりだから痛くないし、悔しくないやい。


「命令かー」

「なんでもいいよ」

「今は思いつかないから、ストックってことにしていい?」


 こういうのってストックっていう概念があるんだ…メモでもしていないと忘れそうなものだけど…


「それでいいよ」

「忘れてあげないからね。何を命令しようかしらー」


 ひうりは記憶力がいいので、相当な日数が経過しないと忘れないだろう。それに、こうして出かけるのは珍しいので、一年後でも覚えているかもしれない。


「じゃ、行きましょ」


 ゲームセンターを出て、獲得した少しのお菓子を食べながら歩く。

 あれ、また甘いもの食べてるや。止めないといけないという僕の決意は何一つ果たせていない。


 お菓子も食べ終えた頃、少し街の中心から離れるとすぐにそこは寂しくなる。住宅街だけど、あまり人通りは多くない。

 駅の近くでもあり、もう少し人がいてもおかしくはないんだけど…この街が田舎であることを認識させられるなぁ…


「こんなところに公園があるのね」

「休憩してこっか」

「…そうね」


 僕たちは、大きな木が植えられている近くに座った。


「こうして一日遊んだのは久しぶり」

「林さんたちとは遊ばないの?」

「りんりんは誘ってくるんだけど、友達が多いから遠慮しちゃうのよね」


 ひうりはあまり交友関係は広くない。林さんと神無月さん以外にも友達はいるが、やはり知らない人もいる中でめいっぱい遊ぶというのは難しいのだろう。

 忠が遊びに誘ってくるときは必ず二人っきりにしてくれるので、多分忠は僕の性格を意識して他の人を誘っていないのだろう。忠が複数人で遊んでいることを知っているから。


「神無月さんは?」

「コノはあまり外で遊ばないから」


 だよね。イメージからして、神無月さんは外で遊ぶタイプではない。休日は、家で勉強とか読書で過ごすタイプだ。


「…」

「…何か言いたいことがあるんじゃないの?」


 無言になると、ソワソワしてしまう。あまり僕はそういうタイプではないので、目敏く気付かれてしまった。

 どうしようかな…うーん…


「えっと、ひうり」

「何?」


 夢の中のひうりと何度も練習したけれど…なんだか、今の状況とは合っていない気がする。

 本当は町に戻ってからのつもりだったけど…


「好きです。付き合ってください」


 座りながらも、ひうりと目が合うように体ごと向きを変えて宣言する。


「っ……ごめんなさい」


 …え?


 大丈夫だって言われて、夢の中のひうりからも太鼓判を押されて、それでも僕は現実のひうりから断られてしまって…

 なんだか目の前が真っ暗になってしまうような…


『キュウウウウウウウウウン!!!!!!』


 今までで一番大きな夢宇の声で正気に戻る。

 目の前には、少し涙目のひうりがいた。


「私も…私も好きよ。一樹くん…」

「なら、なんで…」

「だめなの…好きだから、あなたとは付き合えないの…ごめんなさい…」


 ひうりは涙目のまま、僕に謝る。でも、よく理解ができない。


「ひうり、説明を…」

「だめ!一樹くん、聞かないで…お願い…」


 ひうりに懇願されて、僕は少し言葉に詰まる。もしかして、家の事情についてなのだろうか。それは、僕は既に知ってるから…

 僕が口に出そうとしたとき、先にひうりが口を開いた。


「命令、これ以上は聞かないで!」

「っ!」

「言うこと、聞いてくれるんでしょ…?」


 涙目でそう言われてしまうと、僕はもう何も言うことができない。

 どうしよう…


「一樹くん、そんな顔しないで」

「そう言われても…」

「私も好きよ、一樹くん。だから、またこうして誘って?」


 涙目のまま言葉を繋ぐひうりに、僕は何も言えなくなってしまった。


「ねえ、私を抱きしめて」

「…うん」


 僕は、ひうりの状態が戻るまで抱きしめることしかできなかった。


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