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気が強い高嶺の花は夢の中では僕の恋人  作者: nite
夢と現実の彼女の話

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受け継がれる精神と言っておけばなんとなくかっこいい

 林さんが仲間になったと言っても、もうほぼ見て回ることはない。

 移動時間もあるので、奈良での活動時間はほぼないのだ。そろそろ京都に戻らないといけない時間なので、五重塔を見た後は、すぐにバスに乗り込んで、移動。


 そんなバスの中で、僕は忠に尋ねた。


「忠、一体何を言って林さんを丸め込んだの?」


 林さんはひうりの目的がわかったと言っていたけど…それはそうとして、何を言えばあんなに雰囲気が百八十度変わるのだろうか。


「ん?姫のためになるって言っただけだぜ」

「それであんなになる?」

「俺ら男子よりも姫のことを思ってる林さんだぞ」


 それはなんとなく、雰囲気でわかるけれど…


「それに、こう言ってはあれだけど、林さんも楽しむタイプだ」

「まあ…そうか…」


 あの三人の中だと、林さんは場を盛り上げる担当だ。常識人枠は…神無月さん?でもひうりは何の担当なのだろう…象徴…?


 何はともあれ、忠のひうりディフェンスは継続されるようだ。僕は何もしていないけれど、夢の中のひうりに言われた目標は達成されそうである。


……


「ふう…」


 ホテルに戻ってきて、夕食を食べて風呂に入る。

 夕食はいつも僕には少し多いので、リラックスできるお風呂はとても気分がいい。空腹状態で風呂に入ると体に悪いらしいから、お腹いっぱいなのはある意味正解なのかもしれないけれど。


「一樹!」

「忠」


 クラス単位で男子はまとめて風呂に入る。当然、一樹も同じ風呂に入ることになる。


「もう修学旅行も終わりだな」

「そうだね」


 明日はスケジュール的にあまり時間がない。ほとんど帰ることに時間が割かれているのである。

 一応帰る途中にある建物に行く予定ではあるけれど、それも一か所だけで、あとは帰るだけなのが現状だ。


「なんかずっとお前らの邪魔してた気がするなぁ…」

「勝手に忠がやったことでしょ」


 そもそも僕は、忠に頼んでいない。僕が事情を話したら、勝手に乗っかってきて勝手に実行しているだけだ。

 夢の中のひうりは受け入れているが、現実のひうりの表情を見るととても心苦しい。


「そんな寂しそうな顔をするな」

「誰のせいだと…」

「まあまあ、落ち着け。修学旅行が終わったらいつも通りなんだろ?」


 そう夢の中のひうりは言っていた。何が目的なのか、皆目見当もつかない。


「僕はもう出るよ」

「昨日も思ったが、はえーな」

「忠が長風呂なんだよ」


 僕は水気をふき取り、脱衣所に戻る。

 まだほとんどの男子が風呂に入っていて…あれ、やっぱり僕の風呂が短いのだろうか。


 そういえば最近は早めに眠るために、家での風呂の時間を短くしていたような気がする。そのせいで、日常的な風呂の時間も短くなったのかもしれない。


「中野くん…」

「佐々くん、どうしたの」


 そんな僕と同じくらいの速度で風呂から上がるのは、同じ班である佐々くんだ。そんな佐々くんが僕に話しかけてきた。


「さっき先生が呼んでたよ」

「担任?」

「うん…」


 何かしたっけな…うーん、よくわからない。

 よくわからないので、早めに会いに行こう。もしかしたら、僕が忘れている何かがあるのかもしれない。


 寝るときはパジャマでもいいが、ホテルの中を移動するときはジャージということになっている。そのため、僕はジャージに着替えて、脱衣所を出る。

 先生たちは、この時間は入浴エリアの前にある休憩所にいる。風呂の中で何かあったときに、すぐに駆け付けられるようにするためだ。


「中野くん」

「先生、どうしたんですか?」

「忘れ物です」


 先生が渡してきたのはハンカチ。しっかりと僕の名前が書いてあるハンカチだ。

 どうやら夜ご飯を食べた会場に、これを忘れてきてしまったようだ。でもなんでハンカチを…あ、そうか。一度トイレに行ったからか。


「気を付けなさい。ここに忘れ物をしても、明日はもう取りに戻れないから」

「すみません、気を付けます」


 明日は、ホテルの基準で言うのであればチェックアウトの日なのだ。忘れ物をしても、ここに戻ってくることはない。


 僕は休憩所に座りながら、忘れ物がないか確認しておく。脱衣所に忘れ物があるかもしれないというのと、僕は部屋の鍵を持っていないので部屋に帰れないからだ。

 いつもならもう少し脱衣所でゆっくりするのだけど、今日は先生に呼び出されたので、早めに出てしまった。休憩所は先生たちの圧が強くてあまり休めないのである。


 僕が確認しながら待っていると、宿泊エリア側から声が聞こえてきた。


「なんでもなかったから!本当だよ?」

「りんりん、威圧感あったわよ」

「えー?」


 隣のクラスの女子たちだ。つまり、ひうりたちである。

 いつもならもう少し遅めに出てくるので会うことはないのだけど、今日は早めに出てきてしまったので出会ってしまったようだ。


 そして、先生たちの中にいる僕はとても目立つ。そんな僕をひうりが見つけて近寄ろうとして…


「ひう、早くお風呂に入ろー!」

「え、ちょっと、少しくらい」

「さあさあ!」


 忠のひうりディフェンスを受け継いだ林さんによって止められた。


 夢の中のひうりから、僕から話しかけるのはだめだけど、ひうりが話しかけてきたら無視しないでと言われたけれど…無視するまでもなく、ひうりから話しかけることができなかった。

 僕はひうりが話しかけようとしていることに気が付いているけれど、それはだめだと言われているので、残念ながら林さんに連れていかれるひうりを眺めることしかできない。


 忠や中谷さん、林さんによって僕とひうりはずっと引き離されている。そんな友達も良いとは思うけれど…


「中野くん…」

「あ、佐々くん。ありがとね」

「大丈夫。僕は鍵持ってるから、先に戻るね」


 うちの班で、ずっと我関せずを貫いている佐々くん。一応僕とひうりの色々は理解しているみたいだけど、関わってこようとはしない。今後とも友達でいたいね。


……


「あ、ひう…」

「んー!」

「うわぁ!」


 もう何度目かの、無言の突撃ハグ。夢の中なので、僕が意識することで倒れずに耐えることができるけれど、現実だったら倒れてるなこれ。

 しばらく抱き着かれたままだったが、バッと顔を上げてひうりが一言。


「まさかりんりんもそっち側だとは思わなかったわ!」

「なんか忠が丸め込んだらしいよ」


 忠の話術がすごかったのか、林さんの理解度がすごかったのかは不明だけど、林さんは既に僕とひうりの間を邪魔する陣営となっている。


「もう現実の私も我慢できなくなってきたわ」

「何を?」

「ええ、大丈夫よ。まだね」


 目的語がないせいで、何もわからない。何を我慢しているのだろうか。

 それとも、僕と話すことだろうか。でもあれって我慢というか、邪魔されているだけだから我慢とは違うような気がするけど…


 ひうりはくるりと回って、ベッドで寝ている夢宇に近づく。


「夢宇、よしよし。私も来たわよー」

「きゅーん」


 僕がここに来たときには、既に夢宇用のベッドで寝ていた。

 もしかして、宇迦さんの言っていた空間の維持というのは、僕が眠っていないときでもこの夢の世界が残ることを言っていたのだろうか。だからこそ夢宇の鳴き声が聞こえたりとか…


 まあ、神様のことを深く考えても仕方ないので、宇迦さんに言われた通り夢宇の分も含めてお菓子を出現させる。


「あら、生八ッ橋?」

「うん。食べてないかなって」


 僕は京都市内を歩いているときに、試食の生八ッ橋を食べた。お土産にも買っているけれど、ここで具現化してもいいだろう。


「ホテルに置いてるかと思ったらないんだもの」


 夕食のときにでも出るかと思ったら、そういった類のものは何もなかったので、八ッ橋を食べる機会がなかった。 

 だからこそ、ひうりはまだ食べていないと思ったのだ。


「ありがたくいただくわ」

「夢宇にも、はい」

「コン!」

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