終わりの一日は、切ない
修学旅行最終日。帰り道の途中にある神社に寄って、そのあとは帰るだけのスケジュールだ。
「無理やり神社にしなくてもいいんじゃねえの?」
「学業にご利益があるらしいよ。僕たちも来年は受験生なんだから、祈っておいて損はないと思うよ」
神社の名前は把握していないが、学業にいいらしい。なので、みんなで祈っておこうということだ。
ついでに、そこで集合写真を撮影するらしい。あまりイベントで写真を撮らないうちの学校にしては珍しいが、多分卒業アルバムに載るものだろう。
「先に写真撮影なのか」
「参拝にそんなに一気には行けないからね」
パシャリ
あまり写真は得意ではないのだけど、ちゃんと笑顔で写っているのだろうか。
「一樹、笑えよ」
だめだったみたい。写真難しい。
「まあ一樹が満面の笑みのときなんてそうそうないから仕方ないか」
「僕あまり自分の表情わからないんだけど、どんなときに笑ってる?」
「うーん…あ、姫がいるときは大抵にこやかだぞ」
それはそうだろう。今更ひうりの前で緊張することも張り詰めることもない。
写真の写り方について謎の理論を展開し始めた忠に対して、適当に相槌をうちつつ参拝。伏見稲荷神社ではひうりとの仲を祈ったし、ここではちゃんと来年の学業祈願をしておこう。
僕だけ大学に行けないのは情けないし、きちんと勉学が向上しますように…
「キューン!」
「え?」
足元から夢宇の鳴き声がした。
目を開けると、なぜか足元には夢宇がいた。
そして、あの白い空間が目の前に広がっている。もしかして、神社に祈ったら毎回そこの神域まで入ってしまうのだろうか。
夢宇は僕のズボンを引っ張っている。そしてその先には光が。
「もしかして、あっちが出口?」
「キャン!」
なんとなく「そう!」って返事しているような気がする。
どうやら夢宇は僕を帰らせてくれるらしい。
毎回こうやって神域に連れてこられては大変だし、夢宇が僕の守護者みたいなものなのかな。宇迦さん、ありがとうございます。
僕は光に入って…
「一樹、随分長いな」
「ああ、うん。大学に落ちたくないからね」
「俺なんて、点数上げろって祈っただけなのに」
気がついたら僕は元の場所に戻っていた。やはり、あの光は神域の出口だったようだ。
今夜は夢宇にご褒美の追加デザートを出さないといけないみたいだ。今後も神社に行くたびに、夢宇に助けてもらうことになりそう。
「願い事って口に出したら叶わないのか…」
「え、まじで?むむ…」
再度神に祈る忠。果たして、今度は何を願っているのだろうか。
祈ったらさっさとバスに戻る。
まだ写真撮影をしているクラスもあるけれど、用がなくなった僕たちのクラスはもうバスで出発するらしい。
「ふう、楽しかったな修学旅行」
「そうだね」
そして帰路。
僕たちは家に帰る。それで修学旅行は終了だ。
「帰りは最寄りのバス停で降りるんだよな」
「うん。特殊なところに住んでる人以外は途中下車だね」
解散式とかはない。多分、先生たちも大変なんだろう。
このバスは最終目的地として学校が設定されているが、その途中に家の最寄り駅がある場合はそこで降りても良いということになっている。諸々の効率化のためだ。
「俺よりも先に一樹が降りるんだよな」
「うん」
忠は僕よりも学校に近いところに住んでいるので、僕の方が先にバスを降りることになる。
そして、それで今日が終わるので、ひうりと出会うことはない。ひうりに言われていた、できる限りひうりと関わらないというミッションは完遂されることとなるだろう。
「んじゃ俺は寝るから、起こしてくれ」
「僕も寝たいんだけど」
移動時間は長いのだ。ひうりがいなくても、今は夢宇がいるので夢の世界で遊んで時間を潰せる。
だが、僕の言葉を無視して忠は目をつぶってしまった。
「あ、中野くん。僕が起こすから寝てていいよ」
「佐々くん、ありがとう」
後ろの席の佐々くんにそんなことを言われる。やはり佐々くんはこの班の良心だな。
……
「中野くん、起きて」
「ん…おはよう」
「中野くんって目覚めがいいんだね」
佐々くんに起こされて目を覚ます。既に周囲は見たことあるような土地まで来ていた。
夢の中では夢宇におやつをあげたり、ボール遊びをしたりした。ボールを投げると、夢宇が咥えて持ってくるのがかわいくて、何度も投げてしまった。
「んあぁ?」
「おはよう忠」
「うぃーす…」
僕が起きたことで、忠も起きてしまった。最悪忠は学校まで行ってもすぐに帰れるから、眠ったままでも問題はなかったんだけど。
「そろそろ一樹は降りるのか」
「うん、また来週」
今日は金曜日。修学旅行終わりにそのまま土日なので、スケジュールは素晴らしいことになっている。一日の振り返りなどを除けば、この四日間もずっと遊んでいたようなものなので、六連休くらいの気分だ。
「ここで降りる人は」
「あ、僕です。またね、忠」
僕は荷物を持ってバスを降りた。
僕の家の周りに知り合いはいないはずなので、このバス停で降りるのは僕だけだ。
「じゃあ帰るか」
僕が歩き出したとき、バス停にもう一台バスが止まった。別のクラスのバスだ。
と、なぜかバス内がにわかに騒がしい。何か起きたのだろうか、と思っていたら…一人、バスから降りてきた。
そしてバスは発車する。
「一樹くん」
「ひ、ひうり?」
バスから降りてきたのはひうり。でも、ひうりの家の最寄り駅は全然違うところだ。
ひうりは荷物を持ってこっちに駆け寄ってきた。ひうりディフェンスをしてくれる人はおらず、無視するわけにもいかない。
「一樹くん」
「何?」
「一樹くんっ」
「ひうり?」
なんだか様子がおかしい。
そういえば、ひうりと現実で話すのは五日ぶりだなと思い出す。それにしたって異様な気配だけど…
その時、スマホが鳴った。スマホを見ると、メッセージの通知が来ている。
『彼氏くんごめん!ひうちゃんが我慢できなくなっちゃった!』
林さんからのメッセージだ。我慢とは…夢の中のひうりも言っていたけど、よくわからない。
「一樹くん、家に案内してちょうだい!」
「え!?」
「ここじゃ目立つでしょ。ほらほら」
突然ひうりに腕を引っ張られる僕。
現実のひうりには場所を教えていないはずだけど、僕が案内しなくてもひうりはどんどん僕の家に突き進んでいく。
「ひうり、どうしたの?!」
「なんでもいいでしょ、ほらっ」
有無を言わさず引っ張られる僕。どうしようもないので、諦めてひうりを家に案内する。
しばらく歩けば僕の家だ。この時間は、誰も家にいないはずである。
「家に帰った方がいいんじゃ」
「早く入れてちょうだい」
今日のひうりには謎の圧がある。その圧に、僕は屈するしかなかった。
おとなしく僕は鍵を開ける。
やはり家の中には誰もいなかった。
「一樹くんっ」
「だから何、ひうり」
さっきから名前を呼んでばかりで、行動の意味が分からない。夢の中のひうりよ、解説しておくれ。
「んー!」
「うわあ!」
突然ひうりに抱き着かれ、僕は倒れこんだ。夢の中なら耐えられるのに、現実の体幹のない自分の体が恨ましい。
「ちょっと、どうしたの!?」
夢の中のひうりからは何度も抱き着かれているし、最近では僕の方からハグしたりすることもあるので、こういったスキンシップ自体は慣れている。
しかし、現実のひうりからこのようなアプローチをされたことがなくて、とても驚いてしまう。
「我慢できなかったの」
「何を?」
「あなたに甘えること!」
顔を上げるひうりが、平然な顔でそんなことを言う。
あれ、現実の僕たちってまだ恋人じゃないよね?なんでこんなことになってるの?
「んー」
そしてしばらく僕に抱き着いた後…
「それじゃ、また週明けに会いましょ」
満足したのか、荷物を持って出て行った。
嵐のように過ぎ去っていったな…これは流石に夢の中のひうりに質問しておかなければいけない。
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