正夢を信用するな
夢の中にて。
今日は山の上をシチュエーションにしてみた。下には雲海が見えており、太陽は昇る途中で動きを止めている。常に最高の景色の状態にできるのは、夢の中での有利な点だと言える。
「山の上でシュークリームだなんて変な気分ね」
「登山にシュークリームなんて持っていかないからね」
登山道具の中に入れておくと、十中八九潰れると思うし。
遠足の時はまだここまでひうりと仲良くなかったので、こうして山の上に来たのである。景色は僕がテレビで見たものを投影している。
「もしかしたら修学旅行よりもきれいかも」
「だとしたら失敗だね」
「あら、私は一樹くんと一緒に見れるここの方が嬉しいわよ」
嬉しいことを言ってくれるけど、旅行に行かなくてもこういう景色が見れるとなると出かけたくなくなってしまう。まあ、あくまで再現だから一度は見ないといけないんだけど。
テレビで見たものを投影しているので、実物よりは劣る。やはり、実際に見に行った方がいいんだろうなぁ…でも、行ってもこれ以上が見れるとは限らないんだよね。
「ひうり、聞こうと思ってたんだけど」
「何かしら」
「起きる前に抱き着いてくるのはなんで?」
僕が思っていたよりも現実のひうりに影響は出ていないようだけど…
「秘密よ。それに、ハグしたら落ち着くじゃない」
「それはそうだけど…」
ひうりの体は柔らかくて、ただのハグでもその柔らかさを意識してしまっていけない。
「そろそろ起きる時間よ。ほら」
いつもは飛び込んでくるのだけど、今日はひうりが手を広げて待っている。
僕はひうりを優しくハグをした。すごい幸せだけど、やはり毎晩これをするのはどうなんだろうと思ってしまう。
「ふふ。それじゃ、おはよう一樹くん」
……
「おはよう佐倉さん」
朝来たら、ひうりが僕の席に座っていた。最近はあまり朝に来ることが少なくなってたのだけど、ルーティンは復活かな。
「…」
ただ、ひうりの様子がおかしい。僕のことをじっと見つめて、僕の挨拶への返事もない。
「佐倉さん?佐倉さーん」
もしかしてまた風邪でも引いたのだろうか。
「ああ、ごめんなさい。おはよう」
まるで今僕に気が付いたかのように挨拶をするひうり。一体どうしたのだろうか。
ひうりが教室に戻ったあと、忠に話しかけられた。話題は勿論、朝のひうりの状態についてだ。
「姫がボーっとしてるなんて珍しいな」
「そうだね。僕も予想外だよ」
「お前何かしたんじゃないのか?今の黒棘姫に一番影響力があるのは、林・神無月ペアよりもお前だぞー?」
誓って僕は何もしていない。そもそもあまり現実では会う機会がなかったし、夢の中としても僕から何かしたことはない。
いつもと違うといえば、ハグを求めるひうりに僕からハグしたことだけど…それだけであんな風になるほど、ひうりの夢の影響力は大きくないはずなんだけどなぁ…
「こういうとき、大抵姫とお前の間に何かあるってことを俺は知ったからな」
「それどこ情報?」
「林さん」
林さん…間違ってはないけど、林さん視点だと何もわからないはずなんだよなぁ。
「ともかく、ちゃんと解消しておけよ。修学旅行は憂いなく楽しむこと!」
「憂いなんて言葉よく知ってたね」
「んだとこの野郎ー」
……
「って言われたので、原因を聞きたいんだけど」
「拒否するわ」
今日はひうりの願いで、学校の屋上に来ている。とはいえ、屋上に入ったことはないので、学校から見える景色をもとに予想して作った景色だけど。
「僕も気になるし、悪いことが起きてるなら手伝うんだけど」
「全く問題ないわ。むしろ絶好調なくらい」
「その割にボーっとしてたけど」
「だからこそ絶好調なのよ」
ひうりの言っていることがよくわからない。少なくとも、病気とか家庭の事情でああなっているわけではないということがわかって安心した。
とはいえ、原因は不明のまま。ひうりは答えてくれないので、推察するのが限界だ。そして、まともな予測が思いつかない。
「ああそうそう。一樹くんに現実でのお願いがあるんだけど」
「現実で?何?」
「修学旅行中はできる限り私に会わないでほしいの」
なぜ?
そもそも僕は修学旅行という機会なので、タイミングを見計らって現実のひうりと遊ぶつもりだったのだけど。同じ班にはなれずとも、隣のクラスであることも相まって一緒に行動することは多いのだ。
「でも私から話しかけても無視しないでちょうだい」
「それは勿論」
「でも一樹くんから話しかけるのはだめ。あと用もない雑談とかも禁止」
なぜ僕は夢の中のひうりに、現実のひうりとの付き合い方を決められているのだろうか。もしかして、現実の自分自身に嫉妬でもしているのだろうか。
「わかった?」
「因みに理由は…」
「秘密よ。そうねぇ…修学旅行のあとくらいにわかると思うわ」
うーむ…まあ、本人が言うのであれば従うか。修学旅行の楽しみが少し減ってしまったな。
まあでも、夢の中で再現してもいいし、いつか現実で一緒に行けるのであればそれでいい。何も今だけではないのだ。
僕はひうりの言いつけを守って、修学旅行の間は話しかけないことに決めた。でもまあ、実際話しかけるタイミングなんて存在しないかもしれないし、いつも通りかもしれない。
「それじゃあ今日も、んー」
ひうりが手を広げて待っている。
「あと今日は頭を撫でて頂戴」
「はいはい」
随分と甘えん坊になったなぁ…本当に何があったのだろうか。
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