夜の連絡は背徳感がすごい
目を覚まして、すぐにスマホの画面を点ける。
さて、何を送ればいいのだろうか。夢の中のひうりは待ってるって言っていたけど…実際に連絡待ちをしているわけではあるまい。
「ひうり、連絡して大丈夫?…いや、なんか違うな。そもそも、この時間に連絡する理由がないや」
こんな時間に連絡なんてしたことがない。なんせ、夜はずっとひうりと夢の中で遊んでいたからだ。
自由に目を覚ませる影響で、頭は冴えわたっているというのに、いい言葉が何も思いつかない。僕がそんなコミュニケーションできるタイプじゃないので、アイデアなんて一つもない。
「ただ待たせたら絶対夢の中で怒られるよね…よし」
ただひたすら無難に。
『ひうり、起きてる?』
…無難か?いや、無難だと信じるしかない。
そもそもこんな時間に連絡することなど初めてなのだ。忠とだって、こんな夜遅くに連絡することはない。
『やっと来たわね』
『あれ、待ってた?』
『今眠いから、今のうちに』
どうやら現在ふにゃふにゃのひうりらしい。そのため、夢も中の記憶を保持しているのだろう。時間をかけていたらむしろまずいことになっていたか。
前にどこかの映画で見たな。たしか、時間が経つと忘れてしまうとかいう展開だったはずだ。
スマホを触っていると覚醒してきてしまうだろうから、さっさと要件を伝えよう。
『ひうりと話すようになったのは五月の中旬からだよね』
『そうね』
まだ恋人ではなかったころ、そのときからひうりとたまに話すようになった。
朝に、教室に直接来て話すようになったのは恋人になった後のことである。
『そして、教室に来るようになったのは六月の下旬だったね』
『ええ』
ここで注意しなければいけないのは、くれぐれも夢の中でしかしていないことを書かないことだ。
今のひうりはふわふわしているので、夢の中の出来事もちゃんと認識しているが、しばらくして目を覚まして履歴を見直したときにおかしいと思わないようにしないといけない。
寝ぼけて…という言い訳にも限界はある。
『一番重要なのは、なんでひうりが僕に話してくるようになったのかなんだけど…』
この部分さえなんとかなれば、それなりに言い訳ができる。しかし、ここで矛盾が発生すると僕への警戒心が大変なことになる。
正直なところ、僕は男子たちにビビっているのだ。なんせ、いつか本気で殺しに来そうなんだもん。
『そんなの、私が好きになったから』
『ひうり、それ履歴見たときに大変なことになりそうなんだけど』
あ、消えた。
『っていうか、なんでこんな会話してるのかしら』
『ひうり?』
むむ、だんだん覚醒してきたみたいだ。やはり、スマホを触っていると覚醒が早い。
『この時間に連絡してごめんね。おやすみなさい』
『ええ、おやすみ』
……
「惜しかったわね」
「やっぱ電子機器だと覚醒しやすいね」
夢の中に戻ってきて、どうすればいいのか反省会。流石に無策で突っ込みすぎた。
「今思えば、私が一樹くんのことを好きなことを残しておけばよかったわ」
「なんで?」
「もしかしたらそれで現実の私が気持ちを知れるかもしれないじゃない」
いやー、どうだろうな。昼間に色々聞かれることになって、むしろ面倒なことになりそうなんだけど…
「現実のひうりの気持ちってどんな感じなの?」
「取り敢えず一樹くんのことをりんりんやコノと同じくらい信頼しているのは確かよ。もしかしたら、二人よりも信頼しているかも」
それは、嬉しいな。
あの二人に比べると、僕とひうりはまだ知り合って短いので、同じくらいの信頼関係が作れているのだと思うと喜ばしい。
「まあ、恋心に関してはもう少し熟成しないといけないわね」
「そんな漬物みたいな…」
たまに夢の中のひうりは、現実のひうりのことを他人のように言うことがある。まあ、記憶があるだけで自分じゃないようなものだし、他人のような感覚でもおかしくはないのかもしれない。
「そうだ。ひうり、ふにゃふにゃひうりの条件って何なの?」
「その呼称は気に入らないけど……そうねぇ、眠い時かしら」
「前に風邪をひいたときもふわふわひうりだったよね」
「そうだったかしら?眠たかったんじゃないの?」
あの時のひうりは、現実でも夢でもあまり記憶がないらしい。行動原理は夢の中のひうりに即していたみたいだけど…
未だにあのふわふわひうり、またの名をふにゃふにゃひうりの条件が不明だ。というのも、眠いと言っている割に会話はちゃんと成立するのだ。実際、夢の中のひうりと同じような感覚で会話することができる。
眠い以外の条件があるように思えるが、ひうりのことをすべて知っているわけではないので、特に思いつかない。
「少なくとも、今夜の出来事で変に勘繰られることはないはずよ」
「え、なんで?結構失敗だったと思うんだけど」
「大丈夫よ。信じてちょうだい」
僕の方はいくらでもつじつま合わせができるので、ひうりが大丈夫ならそれでいいのだけど…
「根拠はある?」
「何よ。信じてくれないの?」
「そうじゃないけど、気になる」
ひうりに迷惑がかかるようなことはしたくないし、ひうりが原因で僕がボコボコにされるのは避けたい。
「ちゃんとメッセージが残ってるからよ。消したやつも含めて、ちゃんと意味があるわ」
「そうなの?」
「ええ。心配しないで。一樹くんが男子に袋叩きにされることはないと誓うわ」
やっぱりひうりもそこは気にしていたんだ。
ひうりは自分の容姿が他の人よりも優れていることを認識しており、またモテていることも自認している。そのため、問題が起きる前に対処する必要があるのは、僕とひうりの共通認識だ。
「さてと、そろそろ起きる時間よ」
「あれ、もう?」
夢の中に設置している時計を見ると、今は午前の五時半。
夢の中では一定速度で時間が進むわけではないので、そろそろ起きる準備をしなければいけない。
「あ、そうだ」
ひうりはそんなことを呟くと、僕に抱き着いてきた。
「ひうり!?急にどうしたの」
「えへへ…じゃあ、おはよう」
そしてひうりは消えてしまった。どうやら起きたらしい。
なんだったんだ一体…起きる寸前にしたことは、現実のひうりが覚えていることがあるので、迂闊なことはしないように言ってるんだけど…
僕は突然の行動に頭を悩ませながら、目を覚ました。
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