文化祭のある形
何回かのひうりによる励ましで、僕はなんとか気持ちを持ち直した。
「そんなに落ち込むことないじゃない。商品は微妙って言ったでしょ?」
「あそこまでやったんだから、クリアしてみたかったじゃん」
とはいえ、僕たちは和やかな雰囲気で文化祭の中を進んでいく。
「うーん、じゃあ、次はここね」
「…ああ」
ひうりが立ち止まった教室は、お化け屋敷。
中から悲鳴が聞こえているので、それなりにちゃんとしたお化け屋敷になっているのだろうけど…
「ひうりって、あまりお化けとか怖いタイプじゃないでしょ?」
「それは一樹くんもじゃない。前にゲームセンターで遊んだ時も平然としていたし」
夢の中で聞いた情報ではあるけれど、ひうりは恐怖に耐性がある。何かわからないものだからといって、恐怖を感じるタイプではないらしい。
僕の得意なガンシューティングには、お化けやゾンビなどのジャンルに加えて、ある程度のびっくり系の仕掛けもあるために、今更お化け屋敷で驚くことはない。
そんな二人が、文化祭のお化け屋敷に入ったところで、あまり楽しめるとは思えないけど…
「折角なら入りましょうよ。見てみなきゃ」
「まあ、そうか」
確かに、入る前から決めつけるのはよくない。
僕とひうりは、揃ってお化け屋敷の中に入った。受付の男子が、まるで僕を今から殺すかのような目で見ていたので、必死に目を合わせないようにしながら移動した。
……
「あれはびっくりだったね」
「ええ、ちゃんとびっくりできたわ」
お化け屋敷から出てきた僕たちは、そんな感想を抱いた。
なんせ、途中で壁が倒れてきたのだ。
あれは事故だったらしく、本来の動きではないことを謝罪されたけど…あれを仕掛けに組み込めば、絶対にウケると思うんだけどなぁ…
僕とひうりが驚いたポイントは、全編通してそこだけだった。あとは、衣装とか内装の出来に関心するばっかりだったので、お化け屋敷本来の楽しみ方はできていないように思える。
「あの人たちに悪いことをしちゃったかしら」
「僕は最初からそう言ってたよ。楽しめたからいいけど」
まるで特殊なデートみたいだった。流石にデートで廃墟に行くようなことはしないけど…
「僕たちにお化け屋敷は合わないね」
「そうね。でも、もっと本格的なところならいいんじゃない?」
僕は遊園地に行ったことがないので、本当のスタッフによる本気のお化け屋敷を体感したことがない。
遊園地のアトラクションを夢に出すことができないので、一度行ってみるのもいいかもしれない。
「さあ、まだ行ってないところを周りましょ」
「そうだなぁ…」
二人で広げたパンフレットをのぞき込む。
準備の問題か、全体的に食べ物の出し物が多い。ひうりにとってはいいかもしれないけど…いや、ある意味いつも食べてる量を超過して食べたいものがあるので、ストレスが溜まっているかもしれない。
それ以外だと…
「ステージ発表か」
「劇とかバンドとかあるわね。吹奏楽部の発表もあるみたい」
ステージ発表には、部活で出ているところと、有志としてグループを作って出ているところがある。クラス単位で出ているところはなさそうだ。
ステージ発表はその一瞬でのみの発表なので、他の企画に比べても熱意がすごい。そもそもとして、ステージ発表に出たいという人は自分から選んで出ているのだ。やる気が違う。
「見に行ってみる?」
「ええ。次の時間は…有志のバンドみたいね。一年生の…これ、なんて読むのかしら」
バンドの名前もパンフレットに載っているのだが…全然知らない言語で書かれている。アルファベットのような文字と、アラビア文字みたいなのが混ざっていて、こんな言語が地球にあるとは思えないのだけど、どこの言語なのだろうか。
「ブライト…?」
「え、どこをどう読んだらそうなるのよ」
「なんとなく」
ふわっとした感覚だけど、そんな風に読むような気がした。
「じゃあ答え合わせに行きましょ」
……
『こんにちは!僕たち、ブライトって言います!』
ステージ発表。
ステージに出てきた特殊言語バンドが、自己紹介をした。どうやら僕の予想は当たっていたみたいだ。
「本当にブライトって読むのね…」
「たまたまだよ」
たまたま、ではあるけれど、どうして読めたんだろうか。
どこかの議員のように、頭の中にフッと浮かんできた言葉って感じなんだけど、原因は分からない。見たことのない言語のはずなんだけど…
「お、ひうと彼氏くんじゃーん」
声がする方を向いてみると、そこには林さんがいた。ついさっきまで、ひうりのクラスでスタッフをやっていたはずなんだけど…
「実はね、一番前にいるのは私の弟なの」
「え、林さんって弟いたの?」
「そうだよー」
それにしては、随分と…その…お姉さんらしくない。
あそこに立っている子はしっかりしていそうだし、もしかしたら姉を反面教師としてしっかりとした子に育ったとでもいうのだろうか。
間違いでもないような気がする。
「じゃああの白い髪の子は?学内にあんな髪の子いなかったよね?」
「あ〜…ちょっと特殊な子。身寄りがなくて、うちにいるの」
僕たちよりも年下らしき女の子が、林さんの弟の後ろでキーボードを弾いている。
他のバンドメンバーも、僕が学校で見たことがない人たちばかりだ。
「出し物って学内からだけじゃなかったっけ?」
「許可さえあれば大丈夫なのよ。何年か前はゲストを呼んだところだってあったらしいわ」
僕の疑問には、ひうりが答えてくれた。
「あの子が学校に来てみたいって言ったから、弟が頑張ったの。だから、私も見てあげないとなって」
「へぇ…」
そう言われると、途端に林さんがいいお姉さんに見える。
弟と仲が悪いというわけじゃないみたいだし、実際にいいお姉さんなのだろうな。テンションがちょっと高いだけで。
「来年は私たちもあそこに立つ?」
「僕に何ができるっていうのさ」
特技を練習する時間もないしね。
実は、夢の中では練習ができないのだ。妄想の中でなら何でもできるみたいな感じで、あそこで何かしようとしても思った通りの結果にしかならないのである。
失敗しようと考えると、思った通りの失敗になるので、結局練習することができない。なので、肉体を使うタイプの練習は現実でするしかなかったりする。
「結構上手だね」
「私もびっくりしちゃった。あの子たち、いつの間に練習したんだろー」
拍手が鳴り響く体育館。
その拍手に包まれたまま始まったのは、しっとりしたような曲。なんというか、ロマンチックって感じだ。
「…私は前に行くから、ひうたちは二人でね~」
何かに気が付いた林さんがステージ近くに移動した。
どうしたのだろうと思っていたら、ふと僕の右手に何かが触れた。
そちらを見てみると、そこにはひうりの手が。
「ひうり?」
「何かしら?」
やたらとひうりが近くて、ちょっとドキドキしてしまう。
夢ではよくある距離なんだけど、現実だと何気になかった距離なので…
「…」
「…」
僕はそのひうりの手を、握ることはできなかった。
面白いと思ったら評価や感想をお願いします。作者は少し落ち着いてきました




