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禍福の花  作者: こま
3/3

後編

「逃げましょう」

「え?」

「ここから逃げましょう姫!」


 今度は瑞華が驚く番だった。

 ついさっきまで目の前でわたわたとしていた緑風は本当は自分を殺しに来たと言う。


 その言葉にぐらりと足がよろめいたが、緑風は逃げようと言っていた事を思い出し、足が震えないように力を込めて緑風に話しの続きを促した。


「逃げてください」


 僕は何を言ってんだと緑風は思ったが、どうせ瑞華姫を殺しても殺さなくてもどのみち自分は殺される。だったら、ここで今にも泣きそうに笑っている花をどこか別の場所で咲かせてあげてもいいんじゃないか? と考えが出てきてそれが口をついて出て来てしまった。


「それは……できません」

「何故です?! ここに居たってあなたは死ぬだけではないですか! 今にも泣きそうなのに……死にたくないんでしょ!」

「ええ、死にたくはありません。ですが、わたくしのしでかしてしまった事で皆を不幸にする事も出来ません」

「ですが、あの花はあなた様が持ち帰られた。祝福の地には花は咲いておりません!」

「でも、あの日花は咲いた。わたくしはそれを見ました。そして、わたくしは忌むべき花を欲し、またわたくしも忌むべきものになりました。緑風、あなたもわたくしの事は放っておいて好きなところに行ってちょうだい」

「嫌です。僕はあなたを死なせたくない」

「無理よ。外には見張りもいるのよ。それに、毒を飲まなくては……」


 瑞華姫はそう言うと懐から小瓶を取り出した。多分あれの中身が毒なのだろう。瑞華姫がそれを飲む前に奪い床叩きつけようとしたが、人が来るかもしれないからと自分の懐にしまった。


「何をするの! 返しなさい!!」

「嫌です。何度でも言いますがあなたを死なせたくないんです」

「……でも、わたくし」

「でも、じゃない! 俺があなたに生きて欲しいんだ!」

「……え」

「僕がここに来たのはあんたを殺せって言われたから来た。でも、僕はそんな事をしたくない。それに、あなたは口では死ぬって言ってるけど見ろよ! あんたの手震えてるし、今にも泣きそうじゃないか……あんただって死にたくないんだろ。だったら、ここから逃げろよ!!」

「でも、そんな事許される訳ないじゃない! 既にわたくしは災いの姫と呼ばれて……このまま他国に嫁ぐなんて嫌……だったらこのまま死なせてちょうだいよ……」


 瑞華姫はそう言うと両手で顔を覆ってしまって表情は分からなかったが、時々すすり上げる音がして泣いてるんだと分かった。……いや、泣かせたのか。僕がこの優しいお姫さまを。


「姫......」

「わたくしだって死にたくはないわ。でも、もうどうしようもないの......お願いだから死なせて......」


 泣き出した瑞華姫に掛ける言葉が見つからず、姫に手を伸ばそうとしたが、手を差し出すのを躊躇してしまった。


 こんなに泣いている瑞華姫に自分が手を差し出すのが正解か分からなくなってしまったからだ。


 でも、このままここで瑞華姫が泣いていても事態は好転しない。


(えぇい!)


「あ、何を……」

「いいから行くぞ!」




◇◇◇◇◇◇




 あれからいろんなことがあった。


 瑞華姫が逃げたことはすぐにバレて追っ手を差し向けられたが、何故か追っ手は瑞華姫と緑風を攻撃する素振りも見せずただ二人をどこかへと誘導するように追い立てるのだ。


 追われてる時は夢中で逃げてたから気付かなかったけれど、後から考えればあれは陛下の温情だったのだろう。


 だいぶ後になってから一度だけ陛下が俺たちの住む家に尋ねて来たこともあった。その時俺は姫を拐ったことを深く詫びたが陛下はすんなり許してくれて事情が飲み込めてない俺たちにあの後の話をしてくれた。


祝福の地の花は処分するのが適切だったが過去に瑞華姫のように持ち帰っても災厄がもたらされたという記録はないという。あのままあの花を植えていたら問題があったかもしれないがすぐに鉢に移し替えてもいたため国に何かあったということもなく瑞華姫を狙った連中はただの早合点だったそうだ。


 戦争だのなんだのと聞かされていた緑風はそれを聞いて心底安堵し、緑風を利用し瑞華姫を亡き者にしようとしていた者たちは捕らえられ処刑されたと聞いた時は実行犯として自分も処刑されると緑風が青くなっているのを陛下が笑い瑞華姫が悪趣味だと陛下を嗜めてくれた。あの毒薬はただの眠り薬だったそう。


 陛下は瑞華姫を使って謀反を企てようとしていた連中は全員捕まえたから安心するようにと伝えられた。


 そして、緑風はあの連中から姫を助けたということにして城に来ないかと陛下に誘われ断ろうとしたが、瑞華姫が「あたくしもあなたも散々迷惑を被ったのよ。こうなったらお城で散々贅沢をしてもバチは当たらないわよ」と、産まれたばかりの僕たちの子供をあやしながら言ってくれたのでありがたくお城に向かうことが出来た。


 姫が花を持って来てから遠ざかってしまった人たちとは距離があったままだったが、姫は仕方ないわと笑っていてあの時と比べたらだいぶ逞しくなってしまったが姫はとても幸せそうに笑っている。


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