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金色の扉

 今日は、珍しく静かなオフィスを満喫いたしております。社長は何か執筆中の様ですし、このところお見えになられていたお客様の姿もございません。


 掃除をし、受付カウンターの上を片付けて、お茶でも飲もうかと立ち上がったところで、本来の執筆スタイルである、黒い上下のジャージ姿の社長がお見えになられました。


「お疲れ様です、社長。丁度、お茶でも入れようかとしていたのですが、ご一緒にいかがですか?」


 社長は、のんびり辺りを見回してから、おっしゃいました。


『そうだね、もらおうか。掃除したんだね。お疲れ様』


 頭を下げながら、ひょっとして槍でも降って来るのでは? と身構えましたが、大丈夫そうだったので、社長のお好きな酸味の効いたコーヒーをお持ちしました。


『ありがとう。ちょっと座ってくれる?』


 こんな事は初めてです。明日はオーロラが見られるんじゃないでしょうか。私は緊張しながら、テーブルを挟んで社長の前の椅子に恐る恐る腰掛けました。


 ひと口コーヒーを含んだ社長は、おもむろに話を始められました。


『君、名前が無かっただろう? 今日から君の名前は、〈のぞみ〉だ。希望と書いて、のぞみ。気に入ってくれたかな? 今日は客が来なかっただろう? あの客はね、君の記録を撮ってくれていたんだよ。大きなカメラみたいな姿だっただろう? おかげで、執筆がはかどったよ。 君のおかげで、脳内の整理も終わったし、君をようやく旅立たせる事ができるよ。本当に助かったし、感謝しているよ。どうもありがとう。さあ、行こう。別れが辛くなるからね。皆さんに可愛がって貰える様に、祈っているよ』


 ひと息にそうおっしゃった社長は、呆然と黙ったままの私の肩に手を回し、私をそっと立ち上がらせると、〈金色の扉〉の前へと促します。


 ようやく事態を飲み込めた私は、扉を背にして立ちすくみました。私のお話を書いて下さった? この無の……社長が? これからどうなさるんでしょう。大丈夫なのでしょうか。〈赤の部屋〉のお客様や、〈緑の部屋〉の双子ちゃん達は?

……次から次へと、心配ばかりが募ってきました。


 すると社長は、何故か両目を一度バチンと閉じると、ニヤッと笑いながらおっしゃられました。


『ああ。心配は無用だよ。いつまでも無能呼ばわりされたくないしね。まあ、一人で頑張ってみて、駄目なら次に来たヤツを秘書で使ってやるから』


 ……先程のバチンはウインクでしたか……両目でしたよ、社長。


『ん? そんなに私の傍を離れたくないのかね? そそくさと行ってしまう連中ばかりだからねえ。のぞみがそれほど私を慕ってくれていたとは……書き直そうかな』


 社長御自身が大丈夫とおっしゃられているのだし、これは千載一遇のもう決して無いであろうチャンスだと云うことに、ハタと気がつきました。


 私は社長に最後のご挨拶を致しました。


「お世話になりました。それでは行って参ります。どうぞお元気で」


 深々と頭を下げて、〈金色の扉〉へと向き直りました。これまでお見送りしてきた方々や、お出でになられた方々、そして社長とのやり取りを思い出しながら。


 社長は自ら、扉を開いて、私に最後の言葉をくれました。


『行ってらっしゃい、のぞみ!』



 ーーそうして私は、外の世界へと旅立ったのです。










              * * * * *










 ふと、周囲がまばゆいくらいの明るさに満ちているのに、気がつきました。これが、外の世界!


 沢山の仲間達が、自由に飛び交っています。皆、笑顔です。

 

 挨拶を交わしながら、どんな人が私のお話を読んで下さるのだろう、私を気に入って下さるだろうか、そんな不安もありましたが、そんな事よりも……


 時間にも空間にも捕われない、自由な世界! 社長、送り出して頂いて、ありがとうございました! 希望は今、とっても幸せです!!!






















 ーーん? 何か聞こえてきた様な・・・


 気のせいかしら。きっと、気のせいよね。



『……み、……ぞみ…………ムバ~ク!』



 うん。気のせいって事にしておこうっと♪





        END     ?




お付き合い頂きまして、ありがとうございました。

これにて完結でございます。


多分?

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