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膝上スカート丈の距離  作者: 高瀬莉央
第二章 彼女との接点
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三歩目

 放課後というのは、学校が最も活気づく時間だ。

 勉強から解放されて、帰宅する者、バイトに向かう者、遊びの予定を立てる者、部活に勤しむ者……。

 とにかく「学校は勉学に励む目的で来るところだ」という事実から解放された生徒たちは、一気に活気づいてそれぞれの道を歩いていく。

 その中に、林野心の笑顔も見つけた。

 林野心は、件の通り周りの笑顔なんて目じゃないような笑顔を見せ、教室から姿を消した。

 その姿をつい目で追ってしまい、わたしはまた、ひとつ溜息を零す。

 気になっているわけではない。気にしているわけでもない。

 けれど、教室の真ん中で常に太陽と同義の存在意義を発していれば、自然と目は行くわけで。

 花が咲いたような笑顔、なんて陳腐な言い回しになるけど、彼女の笑顔は人の目を引く。

 文字通り、惹きつけるような顔で笑う彼女の存在そのものが、人を集わせる要因なんだろう。

 わたしはスクールバックと体操着の入った鞄を手にし、最後に教室を出た。

 教室の蛍光灯をすべて消すと、少しばかり暗くなっただけなのに、何故か普段使っている教室と同じものには見えなかった。

 役目を終えたものというのは、いつもどこか寂しく、どこか孤独だ。

 放課後に蛍光灯の灯りを消された教室には、それと同等の雰囲気があった。


 放課後の体育補習までは、まだ少し時間があった。

 途中の食堂に寄り、後片付けをしている食堂のおばちゃんたちに申し訳なく思いながら、販売機でパンを買った。

 うちの学校の食堂には、パンの販売機がある。

 お昼になるとおばちゃんが販売機にパンをセットしてくれて、お金を投入後に食べたいパンの番号を押せば扉が開く仕組みだ。

 放課後になるともうほとんどパンは残っていないが、それでもクリームパンがひとつと、あんぱんがひとつ残っている。

 クリームパンを購入し、厨房の片づけでがちゃがちゃと五月蠅い食堂の隅に座り、もさりとパンを齧る。

 時間を持て余しているわけではない。暇なら体育館へ直行してもよかったはずだった。

 けれど、何故か腹ごしらえしていこうと思ってしまった。

 運動直前に食物を摂取すれば、その分横腹が痛くなる確率を十分わかっているのに。

 まあ、お腹が減っていたというのもひとつの理由だ。

 最近何故かすぐにお腹が減る。

 お昼にお弁当を食べきったのに、もうお腹が空いていた。

 厨房からおばちゃんたちの声や水の流れる音を聞きながら、パンをもしゃもしゃとすべて咀嚼し、食べ終える。


 傍の、解放感のある大きな窓から伝わってくる、「放課後」の空気。

 まだ、暗いわけでもない。どちらかといえばまだ明るい方だ。けれどわかる。

 もう、すべてが終えた時間帯なのだと。

 放課後の微かな明るさは食堂にも届いているはずなのに、それとは別に、無性に寂しいと思った。

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