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七星の戦記 Eランクの女子高生指揮官、最強の落ちこぼれたちを率いての異世界防衛戦 〜私の「戦術眼」には勝利へのルートが見えています〜  作者: 真野真名
第4章:敗北した勝利者たち

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第44話 皮肉なリサイクル




 戦争という名の巨大な公共事業において、最も利益率が高いのは「事後回収サルベージ」の工程である。


 倫理や道徳といった非生産的な概念さえ脳から取り除いてしまえば、戦場ほど資源が密集して転がっている場所はない。鉄、革、そしてこの世界において最も換金性の高いエネルギー源である『魔石』。それらはすべて、泥水の中で腐敗を始めている元・兵士たちの肉体や装備に、無造作に付随しているのだ。


 泥の盆地に夕闇が迫る頃。

 千代、アーレイ、カミイの三人は、村外れの森の境界線付近で、極めて実務的な死体漁りを行っていた。


 生き残った村人たちは、集落の中心部で生活基盤の修復に追われており、わざわざ血と排泄物の臭いが充満する死体の山に近づこうとする者はいなかった。それゆえに、この略奪行為は誰に咎められることもなく、ひどく静かに進行していた。


「……それにしても、見事な首の折れ方だ。頸椎が完全に複雑骨折を起こし、脊髄神経が物理的に千切れている。あの狂犬、最期の数秒間でどれほどの筋力を出力したのやら」


 アーレイは、濁流の底から引き揚げられ、泥岸に放置されていた敵将ドルゲの死体を見下ろしながら、純粋な感嘆の息を漏らした。


 ドルゲの首は、常識的な人体構造ではあり得ない角度――真後ろを通り越して、肩甲骨に顎がめり込むような凄惨な形で固定されていた。ゲンガイが水中で彼を絞め殺した際、関節の可動域という物理法則を力技だけでねじ伏せた絶対的な証明だった。


 アーレイは、死後硬直の始まったドルゲの胸当ての隙間に容赦なく手を突っ込み、内側に縫い付けられていた分厚い革袋を引きずり出した。


 中から現れたのは、大人の拳ほどもある、極めて純度の高い紫色の結晶体だった。魔王軍の将軍クラスにのみ支給される、高圧縮の魔力貯蔵庫バッテリー


大物ジャックポットだな。これ一つで、小規模な都市の防衛結界なら三日は維持できる代物だ」


「それだけじゃ足りないわ。もっと集めて。カミイ、あの魔導部隊の死体から杖の先端の魔石を全部外して持ってきて」


 千代は、泥だらけのローファーでドルゲの兜を無造作に蹴りのけながら、淡々と指示を出した。

 彼女の目には、死者への敬意も、敵将への憎悪もない。ただ、自分を元の世界へ送り返すための『燃料』としてしか見ていなかった。


 カミイは無言で頷き、少し離れた場所――レオハルトが単独で壊滅させた魔導部隊の死体の山へと向かった。


 ゴブリン魔導士たちの死体は、どれも一撃で急所を寸断されており、苦痛を感じる暇すら与えられずに絶命していた。カミイは、師匠とも呼ぶべき男が残したその完璧な『仕事の痕跡』を直視しないようにしながら、死体の硬直した指を一本ずつ剥がし、杖に嵌め込まれた魔石を次々と回収していく。


 アーレイが要求した『逆召喚』および『特異点の物理的崩壊オーバーロード』の実行には、膨大な魔力が必要だった。


 村の兎人族たちの寿命を搾り取るわけにはいかない以上、外部からエネルギーを調達するしかない。

 千代が導き出した答えは、「魔王軍が持ち込んだ装備をすべてバッテリーとして徴用する」という極めて合理的な解決策だった。


「考えてみれば、ひどく滑稽な話だ」


 アーレイは、集まった大量の魔石を麻袋に放り込みながら、皮肉な笑みを浮かべた。


「奴らは、地下の召喚陣を奪うために、この大量の魔石エネルギーを持参して進軍してきた。そして今、我々はその奴らのエネルギーを使って、奴らの目的であった召喚陣そのものを永遠に破壊しようとしている。……わざわざ自分たちの目的を消滅させるための爆薬を、ご丁寧にも自腹で宅配してくれたようなものだ」


「ブラックジョークのオチとしては上出来でしょ。請求書を送りつける先がもう生きていないのが残念だけど」


 千代は、冷たく言い捨てた。


 原因と結果が完全に逆転し、互いに致命的な勘違いをしたまま殺し合った泥沼の戦争。そのフィナーレを飾るには、敵の遺品を燃料にしてシステムを破壊するという、この徹底的にシニカルなリサイクル作業こそが最も相応しかった。


「集まりました。……これで、二十個全部です」


 カミイが、両手で抱えきれないほどの魔石を持って戻ってきた。彼の顔はひどく青ざめ、今にも吐き出しそうだったが、必死に胃袋の痙攣を堪えている。


「ご苦労様。それじゃあ、搬入作業に移るわよ。邪魔者が来る前に、地下の特異点を完全にスクラップにしてお別れだわ」


 千代は、重い麻袋を引きずるアーレイとカミイを先導し、村の最深部――『聖樹』の地下へと続く、暗く湿った階段を下りていった。




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