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女子校に潜入して身バレしたら、生徒会長に惚れられた件。  作者: あじ


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14/14

最終話:Confession

1:文化祭開幕


【聖百合園女学院・第67回文化祭 当日 10:00開幕】


校庭にファンファーレが響いた。


2年A組の教室全体がピンクと白のフリルで飾られ、「メイド喫茶 リリィ・ガーデン」の看板が掲げられている。


入り口には巨大な「ようこそ ご主人様♡」の垂れ幕。


その入口に、完璧なメイド姿の天峰莉子(飛鳥凛太朗)が立っていた。


黒と白のクラシックメイド服。


フリルたっぷりのミニスカート。


頭には大きなリボンのヘッドドレス。


胸元は……さすがに控えめだが、自然な形。


名札には「メイド長 RIKO」と金文字。


(……もう戻れない。今日は逃げないって、決めたから)


開場と同時に、客が殺到した。


「きゃー!!」

「莉子ちゃん天使!!」

「写真撮らせてー!」


莉子は深呼吸して、完璧な女声を響かせた。


「おかえりなさいませ、ご主人様♡ 本日はリリィ・ガーデンへ、ようこそいらっしゃいました」


瞬間、歓声が爆発した。


その歓声の向こうから、ゆっくりと歩いてくる影。


氷川璃々花。


まるで本物の令嬢のように優雅に。


瞳は、完全に莉子だけを捉えている。


客たちがざわつく。


「え、生徒会長まで来た!?」


「あの璃々花さまがメイド喫茶に!?」


璃々花は莉子の前で立ち止まり、そっと手を差し出した。


小声で、莉子にだけ聞こえる声で。


「今日は……逃げないで、くれる?」


莉子は、震える手でその手を取った。


「……逃げない」


教室の空気が、まるで時間が止まったように静かになった。


二人の指が絡まる。




【回想:これまでの日々】


生徒会室での最初の対峙。


「完璧すぎるものには、必ず”秘密”があるものよ」


誕生日のケーキ。


「あなたは……本当に、優しいのね」


都心でのデート。


「凛太朗だろうと莉子ちゃんだろうと、関係ないよ。……私が好きなのは、あなたそのものだから」


花火大会でのキス。


「……急に、ごめん。なんか、花火見てたら……我慢できなくなって……」


実家での夕食。


「凛太朗を、よろしく頼みます」

「お任せください」


そして、深夜のメモ。


『ごめん、俺まだ心の準備が……でも、絶対次は逃げないから』




(……これで、最後だ)


メイド姿の凛太朗と、氷雪女王・璃々花の、最後の物語が始まった。




2:二人きりの空間


【2年A組メイド喫茶・奥の個室「VIPルーム」 10:27】


「ご案内いたします、ご主人様♡」


メイド姿の莉子は、璃々花を奥の個室へ連れて行く。


カーテンを引くと、小さな丸テーブルと、ふたり掛けのソファだけ。


外の喧騒が嘘のように静寂が落ちる。


莉子は、メイド服のスカートを軽く摘んで優雅に一礼した。


「ご主人様、お席へどうぞ♡」


璃々花は静かに腰を下ろし、莉子を真っ直ぐ見つめたまま動かない。


カーテンが完全に閉まる。


莉子は、そっとドアに鍵をかけた。


カチャリという小さな音が響く。


莉子は振り返って、本当の声で言った。


「……もう、逃げない」


一歩、また一歩と近づいて、璃々花の膝の前に跪くように座る。


震える手で、璃々花の手を取った。


「俺……飛鳥凛太朗は、今日、ここで全部あげる」


メイド服のフリルが小刻みに震えている。


「正体が男だってことも、童貞だってことも、逃げ続けてたヘタレなことも……全部受け止めてくれた、璃々花に」


璃々花の瞳が、涙で揺れた。


「……凛太朗……」


凛太朗は、ゆっくりと立ち上がり、璃々花の頬にそっと手を添える。


「だから……俺の初めて、全部もらってくれ」


カーテンの向こうで、文化祭の歓声が遠く聞こえる。


ここだけが、二人の世界。


氷雪女王の心は、もう氷ではない。


完全に溶けて、熱い涙を零していた。


「……ありがとう。……大好き、凛太朗」


メイド服のフリルが、二人の新しい始まりを優しく包み込んだ。


凛太朗の童貞は、氷雪女王に、優しく、確かに、溶かされた。


【おしまい】






【VIPルーム 10:32】


「──凛太朗の童貞は、氷雪女王に、優しく、確かに、溶かされた……」


璃々花が、うっとりと目を細め、ナレーションをしている。


凛太朗は即座にツッコミを入れた。


「おい! 勝手に終わらせるな!! ったく、油断も隙もない……!」


ガバッと立ち上がり、メイド服のフリルをバサッと払う。


凛太朗は真剣な目で告げる。


「俺の全部あげるって言ったけど、それは文化祭が完全に終わった後に考えるって話だ」


璃々花の頭に「?」が浮かぶ。


凛太朗はニヤリと笑った。


「その前に……一つだけ、俺の願いを聞いてくれ」


一歩踏み出し、窓から見える特設ステージを指差す。


「今日13時からの『第12回ミス聖百合園女学院コンテスト』。……あれで、俺が頂点に立つための手助けをしてくれ」


璃々花が完全にフリーズした。


「…………は?」


「女子校のミスコンで男が優勝する……それこそが俺が女装してまでこの学園に潜入した、最大の目的であり、最高の証明だ!! 全校生徒は俺の美貌の前にひれ伏す!! フハハハハハハ!!!」


両手を広げて高笑いする凛太朗。


窓の外で、朝陽がキラリと輝く。


璃々花は3秒固まってから——突然、瞳に新たな炎を灯した。


「……わかった。やるなら徹底的にやってあげる」


立ち上がって、凛太朗の肩に手を置いた。


「ミスコン優勝のために、生徒会長の権限フル活用してあげる♡  審査員への根回し、投票操作……必要なら去年の優勝者も“急病”にできるわ」


凛太朗は少し引き気味に呟く。


「お前、怖ぇよ……。それに、これは俺のチャレンジだから、正々堂々と競いたいんだ」


璃々花は、凛太朗の顔を覗き込みながら囁く。


「わかった。でも条件が一つ。……優勝したら、ステージ上で『俺は男です』ってカミングアウトして?」


「ちょ、ちょっと待て!?」


悪魔の笑顔を浮かべる璃々花。


「だって、それでこそ最高の伝説になるでしょ? 私の彼氏が、全校の頂点に立って、最後に正体を明かす瞬間……私、死ぬほど興奮しちゃう♡」


凛太朗の顔がみるみる青ざめる。


「俺の人生終了じゃねぇか!!」


璃々花は凛太朗に抱きつき、耳元で囁く。


「大丈夫。退学になったら、私が一生養ってあげるから♡」


文化祭当日、最大の修羅場が——まさかのミスコンで爆発することになった。




3:ミスコン前の準備


【VIPルーム 10:42】


「ただ、ひとつだけ厄介な点があってだな……」


凛太朗は、言いにくそうに続けた。


「審査項目に水着審査があるんだ……。ハイレグだし、さすがの俺でも胸はなんとかできても、股間の膨らみまではどうしようもねぇ……」


璃々花はフッと笑みを浮かべた。


「なんだ、そんなこと? それくらい、私の力でどうとでもなるわ!」


「おお! じゃあ股間を隠せるような特殊なボディスーツとかあるのか?」


「そんなものはないわ。それに、今からじゃ時間もないし、何か使えるものは……」


璃々花は辺りを見回した。


部屋の隅に、メイド喫茶の内装作りで使われた瞬間接着剤とテープが転がっているのを見ると——ふっと微笑んだ。


「なら、対策すればいいだけよ」


「いや、その”対策”ってのが怖いんだが」


「少し我慢すれば終わるわ」


「そのセリフ、信用できねぇんだよな……」


凛太朗は、部屋の隅に置かれていた道具に気づいた瞬間、嫌な予感しかしなかった。


「……ちょっと待て。それ、何に使う気だ?」


璃々花は、にっこりと微笑んだ。


「大丈夫よ。少し”整える”だけだから♡」


「整えるって何をだよ!!」


「怖がらないで……。優しくしてあげるから……」


璃々花は一歩ずつ、じりじりと近寄ってくる。


「……なぁ、ひとつ聞いていいか」


「何かしら?」


「それ、説明できる処理か?」


璃々花は一瞬だけ考え、悪戯っぽく笑った。


「コンプライアンス的に、説明できない処理ね♡」


「アウトじゃねぇか!!」




その後——ここではとても文章にできない何かが行われた。


VIPルームから、数分おきにくぐもった悲鳴が聞こえたが、文化祭の喧騒にかき消され、誰の耳にも届くことはなかった。


そして、その間の出来事について、凛太朗は最後まで詳細を語ろうとはしなかった。


ただ一つ確かなのは、「……人生で一番長い30分だった……」ということだけである。


※本作品は健全なラブコメです。






【VIPルーム 11:12】


「……終わったわ」


璃々花が満足げに頷く。


凛太朗は、魂が抜けたような顔で呟いた。


「……俺、何か大事なものを失った気がする……」


「代わりに”完璧なシルエット”を手に入れたでしょ?」


「等価交換として釣り合ってねぇんだよ!!」


璃々花はくすりと笑いながら、凛太朗の水着姿を一瞥した。


「でも、その水着姿……完璧よ♡」


凛太朗は震える手で自分の状態を確認し——そして、固まった。


「……マジで、何も言うな」


「ええ、言わないわ。だって——」


璃々花は耳元で囁く。


「ちゃんと“女の子”になってるもの」


「やめろぉぉぉぉ!!」


凛太朗は天井を仰いだ。


「……俺の尊厳が犠牲になってる気がする」


璃々花は満足げに手を叩く。


「さぁ、ミスコン優勝、いきましょ?」


「……俺の人生、もう戻れねぇ……」


凛太朗は涙目で震えながら呟いた。




4:嵐を呼ぶコンテスト


【特設ステージ 13:00】


ミス聖百合園女学院コンテスト開幕。


水着姿の凛太朗(莉子)は、璃々花の対策(物理)のおかげで、完全に無敵の美少女としてステージに立つ。


全校生徒が、総立ちし歓声を上げる。


「天使……!!」

「完璧すぎる……!!」


そして、優勝の瞬間が近づく……!


(……これで、俺は伝説になる)




【特設ステージ 13:48】


「ミス聖百合園女学院コンテスト、優勝は……天峰莉子さん!!」


ワアアアアアアアア!!!


歓声と拍手が校庭を揺らした。


スポットライトが凛太朗を直撃する。


水着姿の凛太朗は、トロフィーを掲げて満面の笑みを浮かべた。


(やった……!! ついに、俺の美貌が頂点に……!! 女装潜入大成功!! そして伝説へ……)


その時、舞台袖から——感極まった璃々花がダダダッと駆け寄った!


「よくがんばったね!! さすがは私の凛太朗!!」


ガバッ!!


凛太朗を力の限り抱きしめる!!


「バ、バカ……!! 正体が……!!」


言葉の途中で、璃々花の豊かな胸に顔をぐいっと埋められ——


「むぐっ……!!」


声が完全に塞がれる。


観客席がざわつき始めた。


「え……?」

「凛太朗って誰?」

「璃々花さま、莉子ちゃんとそういう関係……?」


その瞬間。


璃々花が凛太朗に施した物理的対策が、時間の限界を迎えた。


さらに、璃々花の全力ハグが最後の一押しとなった。


水着には——誰が見ても女の子のものではない膨らみが現れていた。


「きゃああああああああ!!」

「な、何あれ!? 水着が……!?」

「男!? 男なの!?」


校庭が一瞬でパニックに陥った!!


(ぎゃああああああ!! 俺の人生終わったぁぁぁぁ!!)


すると——


璃々花が司会からマイクをサッと奪い、ステージ中央で凛太朗を抱えたまま仁王立ちになった。


「皆さん、驚かせてごめんなさい! ここにいる天峰莉子さん……いいえ、飛鳥凛太朗くんは——」


深呼吸して、はっきりと宣言した。


「私の婚約者です!!」


シーン……。


校庭に、死の静寂が落ちた。


次の瞬間。


「えええええええええええええええええええええええええええ!!!!」


地鳴りのような絶叫が聖百合園女学院を揺らした!!


凛太朗が虚な目で、放心状態のまま呟く。


「……婚約者……?」


璃々花が耳元で囁く。


「もう逃げられないように、全部バラしちゃった♡」


凛太朗は顔面蒼白のまま、その場にへたり込んだ。


「……勝手に婚約するな……。ってか俺、社会的に死んだ……」


観客は大混乱、教師陣は卒倒寸前、写真部はシャッター切りまくり——


聖百合園女学院史上最大の伝説が、ここに爆誕した!!




5:氷川家の権力


【ステージ裏 13:58】


ミスコン終了後、凛太朗は教員たちに連れられてステージを降ろされた。


凛太朗は、絶望のどん底で独白した。


(もう終わりだ……。これで俺は女子校に潜入した変態露出狂男として、一生笑いものになるんだ……)


だが、その前に——璃々花が立ちはだかった。


「待ちなさい。彼を解放するのよ。私の命令よ」


凛太朗は虚な目のまま内心で呟いた。


(バカだなアイツ……。そんなこと言ったって、大の大人が従うわけが……)


しかし——教員たちが一斉に頭を下げた。


「仰せのままに! 氷川様、失礼いたしました!」


教員たちは、そそくさと去っていった。


凛太朗が呆然としていると、璃々花が近寄って、にっこりと笑う。


「あら、知らなかったの? 私のお祖父様はこの学園の理事長。そして、私のお父様は内閣官房参与で経営者。私に歯向かうことが、何を意味するか、分かるでしょ?」


凛太朗は膝から崩れ落ちた。


「ハハ……腰抜けた……」


璃々花が屈み込んで凛太朗と目線を合わせた。


「あなたが女装して女子校に潜入していたことは、私のお付きの者が口止めして無かったことにするから安心して? でも、私と婚約するのは、無かったことにはできないわよ?」


凛太朗は、しばらく黙っていた。


そして——フッと笑った。


「もう煮るなり焼くなり好きにしろよ。でも……俺はまだこの学園に通いたい。璃々花やみんなとバカなことやって、学園で追いかけ回される日常も……俺にとっては大事なものだから」


璃々花は、目を潤ませながら——笑った。


「わかったわ。……私と結婚してくれたら、一生お屋敷で養ってあげるのに……。でも、そんな凛太朗だからこそ好きになったのよ」


璃々花が手を差し伸べた。


「これからもよろしくね、凛太朗」


凛太朗は微笑みながら、その手を握った。


「こちらこそ……璃々花」




6:臨時全校集会


【聖百合園女学院・正門前 翌日】


文化祭の伝説のステージ後、凛太朗(莉子)の正体と、璃々花との婚約宣言は校内の話題を席巻した。


だが、璃々花の手回しによって学園の外への影響は抑えられ、凛太朗は「ただ一人の男子学生」として学園に通い続けることになった。


そして——


朝の光が、銀杏並木を金色に染める。


男子用の制服にブレザーを羽織った凛太朗は、「男子生徒」として——堂々と正門をくぐった。


(……まさか本当に通い続けられるなんてな。氷川家の権力、恐るべし……)


すると、背後からダダダッ!


「おはよう、凛太朗♡」


璃々花が腕をガシッと絡めて、ぎゅーっと密着してきた。


「今日こそ、私に全部くれる約束よね?」


凛太朗は顔を赤くしながら、横を向く。


「そんな約束したっけ? 俺の記憶では”文化祭が終わったら考える”って言っただけだぞ」


璃々花は頬を膨らませながら……


「絶対に私のこと好きって言わせてみせるから!」


凛太朗はドキッとして、一瞬立ち止まった。


「その時は俺が死ぬ時だな」


口ではそうおどけながらも——凛太朗の胸中では、複雑な思いが渦巻いていた。


(璃々花はみんなの前で俺に告白してくれたのに……俺がはっきりと返事しなくていいのか?)


二人は並んだまま、校舎へ向かう。


凛太朗は照れ臭そうに璃々花の手を握りながら——決心した。


(俺の気持ちを、絶対に璃々花に伝える……!)




【体育館】


生徒たちのざわめきが続く。


「婚約者宣言」の余波が残っている。


司会の教師がマイクを手に説明した。


「ということで、我が校に特別招待枠として、飛鳥凛太朗くんが編入することになりました。飛鳥くん、一言お願いします」


教師に促され、壇上に立つ凛太朗。


全校生徒の視線が集まった。


「この前の件で、色々と騒がせてすみません」


少しの間を開けて続けた。


「……あの人の言ったこと、全部が間違いだとは思ってません」


生徒たちの間で再びざわめきが起き、口々にひそひそと話し始めた。


「ただ——ちゃんとした返事は、まだしてなくて……」


凛太朗は、璃々花の方を見た。


「逃げずに、返事します」


壇上からでも、璃々花の顔がぼんっと蒸気が出そうなほど、真っ赤になっているのがわかった。


生徒たちの騒ぎ声はさらに大きくなった。


教師たちが制止しようとするが——なかなか収まらなかった。




【廊下】


全校集会後の休み時間。


白鳥紗耶が凛太朗に駆け寄った。


「ねぇ! 凛太朗くん! めっちゃカッコよかったよ!」


凛太朗は少しきまり悪そうに微笑んで、頭を下げた。


「紗耶ちゃん……。ずっと騙しててごめん」


紗耶はキョトンとした後、ケラケラと笑い始めた。


「別に気にしてないよー! 莉子ちゃんでも、凛太朗くんでも、同じ友達じゃん! 男とか女とか関係なくない?」


凛太朗は紗耶の底抜けの明るさに——苦笑いしつつも、心の中で温かいものを感じた。


「いや関係あるだろ普通……。でも、そう言ってくれると助かるよ」


紗耶は微笑みながら、凛太朗に近づくと耳打ちする。


「で、璃々花ちゃんに返事はもうしたの? あの子、ずっと待ってる顔してるよ?」


「まだ……。でも、今日中にはちゃんと伝えようと思ってる」


紗耶がフッと柔らかい笑みを浮かべた。


「そっか……。がんばってね、凛太朗くん!」


紗耶は凛太朗の背中をバンっと叩いて、教室へと駆けて行った。


凛太朗は少し顔を赤らめながら、心の中で決意を新たにした。




7:屋上への約束


【生徒会室】


昼休み、凛太朗は幾度となく通った、生徒会室へ向かった。


ドアを開けると、璃々花が椅子に座って書類を整理していた。


「あら、凛太朗」


璃々花が顔を上げ、微かな笑みを浮かべた。


凛太朗は黙ったまま、拳を握りしめ、意を決したように口を開いた。


「璃々花……今日の放課後に、屋上に来て欲しい。伝えたい大事なことがあるんだ」


璃々花は一瞬固まった後——耳まで赤くなった。


「わ、わかった……。ちゃんと待ってるから……。もう逃げないでね?」


凛太朗は真っ直ぐに璃々花を見据えて、はっきりと言った。


「うん。もう逃げない。ちゃんと俺の気持ちを伝えるから」


凛太朗と璃々花は、しばらく見つめ合っていた。


その光景を、一人の女子生徒がドアの隙間から眺めていた。


生徒会副会長——高瀬真理。


手には璃々花に渡すはずだった報告書が握られていた。


(会長……。それに凛太朗さんの、あの様子は……)


真理はそっとドアを閉め、音を立てずに廊下を歩き始めた。




8:真理の言葉


【階段踊り場】


放課後、凛太朗は屋上へと続く階段を登っていく。


すると、階段の踊り場に——真理が待っていた。


「真理さん……」


「会長は、もう既に屋上にいます」


真理はそれだけ言うと、凛太朗の横を通り過ぎて降りようとした。


そして、すれ違いざまに呟いた。


「会長は、強い人です……。でも、限界もあります。……あの人を選ぶなら、幸せにしないと許しませんよ」


凛太朗は頷きながら、一言だけ返した。


「……わかってる」


真理は少しだけ立ち止まって屋上の方を眺めていたが——そのまま、静かに階段を降りていった。




【回想:真理の心情】


花火大会の夜、真理は二人のキスシーンを遠くから見ていた。


あの時……真理の胸が、チクリと痛んだ。


でも——


(会長が、あんなに柔らかく笑うのを……初めて見た)


真理は、璃々花の笑顔を思い出した。


(それなら……いい。璃々花が幸せなら、それでいい)




9:告白


【屋上 夕方】


璃々花はひとりで、屋上のフェンスにもたれかかって夕陽を眺めていた。


秋の風が髪を揺らし、夕焼けが赤く照らしている。


璃々花は手すりに触れながら、心の中で呟いた。


(……もし、凛太朗に断られたら、私は……どうするのかしら)


手すりを握る手が白くなるくらい、ギュッと握りしめている。


(……待つのは慣れてるはずなのに……どうしてこんなに苦しいの)




【回想:璃々花——孤独の誕生日】


夜の生徒会室で、璃々花は一人、小さなケーキを前にしていた。


「……私、いつまでこんな仮面つけてるんだろう」


璃々花は、ケーキのロウソクを一本立てて火をつけた。


「誰か……私の本当の顔、見てくれないかな」


璃々花は、涙を流しながら——火を吹き消した。


『次に私の仮面を剥がしてくれる人が現れたら……もう全部、預けてもいい』




キィー……


屋上の扉が開く音が響いた。


璃々花が振り向くと、凛太朗が立っていた。


凛太朗は璃々花に近づき、少し距離を置いて立ち止まった。


璃々花は平静を装いながら、呟く。


「……返事、聞かせてくれるの?」


凛太朗は一歩近づいて、口を開いた。


「その前に言わせてほしい」


凛太朗はポツリと呟いた。


「俺、ずっと逃げてた。


 莉子としても、凛太朗としても……どっちも中途半端で——


 璃々花と正面から向き合うのが怖かった」


璃々花は黙って、凛太朗の瞳を見つめていた。


「でも——」


凛太朗は続けた。


「それでも隣にいたいと思ったのは、俺の本心だから」


璃々花の瞳が大きく見開かれる。


凛太朗がさらに一歩、間合いを詰めた。


軽く息を吸って——言った。


「俺は飛鳥凛太朗として、璃々花が好きだ。


 俺と付き合ってください」


夕日の屋上に、一瞬の静寂が流れた。


柔らかな風が、二人を包んだ。


璃々花は凛太朗を見つめたまま固まっていたが——やがて、満面の笑みを浮かべた。


その目尻から、一筋の涙が溢れた。


「……遅いわよ。ずっと待ってたんだから」


璃々花は一歩近づいて、凛太朗の手を取った。


「でも、逃げなかったから許してあげる。


 私の方こそ、よろしくお願いします」


凛太朗はフッと柔らかく微笑んだ。


「ありがとう、璃々花」


そして——璃々花の頬に手を添え、自分から唇を重ねた。


柔らかくて、少し震える——でも確かに”本当の”キス。


二人が顔を離すと、小さく笑い合った。


「これで本当に、私のものね」


「最初からそうだった気もするけどな」


二人に、秋の陽光が優しく降り注いだ。




エピローグ:新しい朝


【聖百合園女学院・正門前 数週間後】


凛太朗と璃々花は、二人で並んだまま、校舎へ向かう。


「それじゃ、来週の土曜日に私の家で、お父様・お母様と一緒に食事会ね? それと、婚約発表の会見の手配を……」


「お、おい! まだ、付き合い始めたばっかりだし……! それに、学生だし結婚はまだ……」


「あら? 私に全部くれるって約束したのは、誰だったかしら?」


すれ違いざまに、後輩たちが手を振った。


「璃々花さま!」

「凛太朗先輩!」

「お似合い〜!」


凛太朗は手を繋いだまま、璃々花を見た。


璃々花は照れながら笑っていた。


凛太朗も、小さく微笑んだ。


(璃々花……俺、きっと幸せにするから)


聖百合園女学院に、新しい伝説が生まれた。


——女装美少年と氷雪女王は、これからもずっと、追いかけっこを続けるだろう。


【完】






【おまけ】


【氷川家別邸・最上階スイートルーム 23:42】


──桜の花びらが窓の外を舞い、満月が部屋を淡く照らす。


部屋に入った瞬間、扉が閉まる音と同時に璃々花がウェディングドレス姿のまま、凛太朗を壁に押し付ける。


「……やっと、二人きり」


凛太朗はタキシード姿のまま、顔が真っ赤。


「お、おい……いきなり……!」


璃々花は涙目で微笑みながら、指で凛太朗の唇をなぞる。


「あれから5年待ったんだよ? ……もう、待てない」


凛太朗は震える手で、璃々花の頬に触れる。


「……俺も、待ってた」


凛太朗の方からキスをする。


5年前の屋上とは違う、大人の、深くて長いキス。


ドレスのファスナーを下ろす音。


タキシードのボタンが外れる音。


月明かりに照らされた二人の影が、ゆっくりと一つに重なる。


ベッドに倒れ込む瞬間、凛太朗が耳元で囁く。


「……今夜は、離さない」


璃々花が涙をこぼしながら、笑う。


「逃がさないって、約束したでしょ?」


そして、追いかけ続けた氷雪女王は、ついに、逃げない美少年を、完全に自分のものにした。


月明かりの下、二人の吐息と、桜の花びらが舞い落ちる音だけが、静かに部屋に満ちていた。


──朝まで、誰にも邪魔されなかった。


【おわり】

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