16-2. 流石に男性を女湯に入れることは認められませんね
この物語はフィクションです。
作中の人物・団体などの名称は全て架空のものであり、
特定の事件・事象とも一切関係はありません。
「ミルフィーユちゃん、その作戦は止めといたほうがいいんじゃないか」
時を少し遡り、覗き魔が盗撮を開始したころ。
サトウたちも大衆浴場の入口前に到着していた。
初心者向けのレザーメイルを着たサトウが作戦に異議を唱える。
彼は午前のうちにインラーンに頼み込み、装備を新調していた。
ワイシャツやスラックスはそのままだが、制服のジャケットさえ脱いでおけば、服装により自分も日本人だと気づかれることは無いだろう。
武具屋でインラーンに「この程度の品質なら、今のお主の服のままで十分なのじゃ」と言われた折、その場に寝転がり全力で駄々をこねることで嫌々装備を新調させてもらったことは秘密だ。
「いや、御主人様。この作戦が最も効率的だ。ギルド経由で他の冒険者たちの見回りも強化されているし、今ここで私たちが動くべきだ」
大衆浴場に来る前に立ち寄ったギルドでは、基本的な作戦はサトウたちに任せると言われている。
透明化スキル持ちで厄介な相手ということもあり、ギルドの方でも各所への根回しから始まり、多くの冒険者に協力を仰いだらしい。
ちなみにミルフィーユは「暴れすぎないように」と釘を刺されていた。
「ここで動くべきは、そうなんだけどさ。動かないとギルドがやってくれた根回しもパァになるわけだし」
「何が問題だと言うんだ。はっきり言ってくれ」
「君が女湯に突入するのがマズイでしょって言ってるんだよなぁ」
「確かに。相手は卑劣な覗き魔だ。私の身を案じてくれているのは分かるが。ここは女性を代表して私がだね」
「違うんだよなぁ!君が突入しちゃうと卑劣な覗き魔が二人になっちゃうんだもの!」
「私はケーキ屋さんの今年一三歳になる看板娘。女湯に入るのに問題などあるものか」
「サトウ殿。敵と直接相対したのはミルフィーユ殿だけなのじゃ。ここは任せるしかなかろう」
「でも暴れすぎないようにって言われたぜ?ミルフィーユちゃんが暴れると多分俺が怒られるんだけど‥‥」
「日本人を捕まえて手柄を立てれば大丈夫なのじゃ。ミルフィーユ殿が女湯へ突入。儂らは彼の合図があるまで中で待機しよう」
「じーさん、もしものときは一緒に怒られてね?約束だからね?」
話も纏まり大衆浴場に入った三人は、女湯に入るために番頭に話しかける。
番頭は、色白な肌をした濡れたプードルみたいな髪型をした眼鏡の男だった。
「お、女湯に?あ、あなたがですか?」
番頭は眼鏡を上下にカチャカチャしながらミルフィーユを見る。
「さ、流石に男性を女湯に入れることは認められませんね。は、はい」
「誰が男性だ!この性差別主義者がぁ!」
ミルフィーユが番頭の胸ぐらを掴む。
番頭も負けじとミルフィーユの肘を掴むが、弱々しい彼はそのまま、いとも簡単に宙吊り状態になった。
「ぼ、暴力反対!は、反対!」
「男扱いされた瞬間に沸騰するじゃん!一般人相手はマズイって!」
サトウに注意されたミルフィーユは、ため息を吐くと番頭を地面に降ろした。
苦しかったのか顔を真っ赤にした番頭は、眼鏡を上下にカチャカチャしながら「し、仕方ないですね」と呟く。
「た、確かに、LGBTQへの理解が進む昨今。ぼ、僕の発言は失礼だったかもしれません。に、入浴を許可しましょう。も、問題は起こさないでくださいね」
「ごめんね。この人、女子トイレにも全然入ってくタイプの人だから。それ行け、ミルフィーユちゃん」
「うん?まぁ、取り乱してすまなかったね」
番頭に頭を下げ、ミルフィーユが女湯の暖簾をくぐる。その背中をサトウとインラーンは心配そうに見送った。
最近、LGBTQ系って話題になりませんね。
みんな他にやることあるからかな。生きるの大変ですもんね。
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