格闘技3
【格闘技3】
『煌人くん、私達の先生を紹介するよ』
ある日、碧空の所属する実践格闘技の道場へ行くと、
なにやら雰囲気のある人を紹介された。
『煌人くんというのか。僕は中華古武術を学んでいる城間というものだ。よろしくね』
『城間さんは、大和人でありながら中華古武術の師範格だ。師範格は中華本土にも5人しかいない』
『私達の道場だけじゃなく、首都圏の多くの道場の相談役もされている』
ということで、いろいろ技を見せてもらった。
目につくのは、体幹の強さ。
こんなに安定した体捌きを見たことがない。
滑らかで踊りのように舞いながらもえらく力強い。
すぐに、尋常のなさを感じ取った。
『煌人くんは武上さんよりも強いらしいね。ちょっと組手してみようか』
城間さんからお呼びがかかった。望むところだ。
正対する。
押忍の掛け声とともに実践稽古が始まった途端に、
城間さんが何倍にも巨大化した。
物理的に大きくなったわけではないが、
大きくなったように見えたのだ。
背筋に走る緊張感。
オレはかもすると飲まれそうになりながら、
正拳を繰り出す。
あっさりとかわされる。
オレは徐々に意識を集中しながら、
正拳やジャブ、蹴りを繰り出していくが、
ほんの僅かな動きで見事にかわされていく。
逆に、城間さんがなにやら掛け声をあげた途端に、
オレは吹き飛ばされていた。
『……!』
オレの右胸に肘が突き刺さったようだ。
ようだ。というのは攻撃がまったく見えなかったからだ。
しかも痛くて呼吸ができない。
オレは気合で態勢を立て直すと、意識を最大限に集中させて城間さんに攻撃を加えた。
相変わらず、当たらない。
焦っていると、再び攻撃を受けた。
今度は攻撃が見えた。
が、吹き飛ばされるのは同じだった。
オレが意識を最大限に集中させても攻撃を防ぐことができない。
しかも、城間さんは力を100%出しているようには見えない。
ショックも受けたが、楽しさが勝った。
オレは格闘が嫌いではないが、格闘に対してどこか冷めた感覚もあった。
今まで格闘では圧倒的な勝利をおさめてきたからだ。
勝つことのわかっているゲーム。面白いわけがない。
ところが、城間さんとでは面白くて仕方がない。
生まれて初めて、純粋な戦闘でオレは100%を出し続けているのだ。
それでも城間さんには通用しない。
血沸き、肉踊るとはこのことだ。
『……!』
再び、城間さんの攻撃が突き刺さる。
『煌人君、君は何か不思議な技を使うようだが、それでは駄目だ。目で見ている限りは』
?見なくてどうしろというのか。
『考えるな。感じることだ』
城間さんは格闘を中断すると、なんと目をタオルで覆ってオレと正対した。
『煌人君。君の最大の攻撃を僕にしてごらん』
言われるまでもない。
オレは、拳、蹴り、投げ、全ての技を繰り出して夢中になって城間さんを攻撃した。
しかし、全てかわされる。視界が遮られているにも関わらず。
『僕は目を覆っている。しかし、今まで以上に周囲が見えている。いや、感じている』
オレは、以前似たようなことを拳闘部のキャプテンに発したことがある。
だが、城間さんの発言は似ているようで異なものである。
まるでオカルトだ。
物理の世界の出来事とは思えない。
『考えるな。感じることだ。今の君には難しいかもしれないが、この言葉を忘れないでくれ』
そう城間さんはオレにアドバイスすると、対戦は終わった。
『キラトでもかなわないのね』
碧空は驚いてそう言うが、オレのほうがずっと驚いている。
世の中にはオレの知らない、いや到達していない世界がある。
オレは生まれて初めてぐらいの興奮を覚えていた。




