8・全裸エルフさんは未だ逃亡中
「何度も申し訳ありません。」
結局電車を乗り継いで帰宅してから一時間余りも経たないうちに俺はまた高山と顔を合わせる事となっていた。
昨日会っていた時と違い言葉遣いも丁寧で本当に申し訳無さそうに俺に謝罪の言葉を向ける。
理由は分かっている。
殺人を犯して逃亡していた全裸エルフさんがマスコミのテレビカメラの前で更なる殺人をして、未だ逃亡中だからだ。
運の悪い事に数日前から世間を騒がしている灰色肌の少女が全裸で町中を走り回ってると生放送で扱われ、その放送中に起きた事故だった為に全国区で流されてしまったとの事だった。
警察はこの事故が起こった事でマスコミへの報道管制を敷いたらしいが、対応としては後手に回ってしまった事になる。
先程拘束が解かれた時には神奈川県内だけの問題だったが、高山が俺と自称エルフさんを再度拘束の際に訪れた際には現在判明している青森県や島根県の人達も拘束対象になっているとの事だった。
またどこの土地かは判明していないが新たにエルフさん達が現れた土地に対しても該当者は最寄りの警察に連絡をして欲しいとの通達がマスコミを通して全国区で流れているらしい。
「もう色々と勘弁してくださいよ……」
俺は溜息混じりに高山に告げる。
そんな俺に対して高山は苦笑を向けるくらいしか出来ないでいた。
俺自身あれだけショッキングな映像を掲示板で見てしまったにも関わらず、動揺はそれほどしていない。
これがアパシーによる無関心がもたらすものなのか、それとも俺自身がサイコパスなのか判断する事は出来ないが、落ち着いたら精神医に相談しない訳にはいかないだろう。
「それで再度聞きますが、コレの対処どうするんですか?」
俺は一般車に偽装しているパトカーの後部座席で運転を行っている高山に尋ねる。
コレとはもちろん一緒に後部座席に座っている自称エルフさんの事だ。
話題に挙がっている本人は俺達の会話にまったく興味を示さず窓ガラスにおでこをくっつけ流れる風景を楽しそうに眺めている。
「その事も含めて現在公安が動いている。判断が下されるまで申し訳ないがエルフの少女と共に身柄を勾留させて頂く事になった。」
勾留って事は最大で二十四時間の拘束かぁ……
「昨晩みたいに寝床もまともに用意出来ない状態で無ければ良いですよ。」
俺は半ば投げやりと云った感じで応える。
それで無くても昨晩もたいして寝られなかったので俺は寝不足な状態で身体はだるさを感じている状態だった。
流石に今晩もまともに睡眠が取れないようでは意識を保つのすら難しくなる。
「そこは仮眠室等を利用して貰うので昨晩のようにはならない筈だ。」
高山は申し訳無さそうに返事をする。
「まだ到着までは時間掛かりそうですし、私は少し眠らせてもらいますよ。」
俺は高山と話をするのも面倒になり覆面パトカーの後部座席で腕を組んだまま目を閉じた。
△▼△▼△▼△
「おい、着いたぞ。」
浅い微睡みは不機嫌そうな高山の声で遮られた。
昨晩まともに寝られなかったのが相当きていたようだ。
俺は車の後部座席から降りると、それを真似る様に自称エルフさんもその後に続く。
車が置かれた場所は地下の駐車場らしく、高山は前を歩き俺の事を先導する。
案内されるままに高山の後を着いて行くと畳が4枚敷かれた部屋に案内された。
部屋の隅には折り畳まれた布団が二組、それ以外には何も無い部屋だった。
「悪いがここで待機していてくれ。何か用があるなら廊下で待機している警官に声を掛けてくれ。出来る限りの要望に応えるようにする。」
高山はそれだけ云うと特に詳細を説明する事も無く俺達を部屋に置いて何処かへ行ってしまった。
昨日ここに来た時に使用した肩掛け鞄の中には林檎ジュースのペットボトルが四本入ったままになっていた。
帰宅して再度戻る事になった為、荷物等の入れ替えなどは行われていない。
自宅を出る前に軽くでも風呂に入って来れば良かったなぁと今更ながらに思ってしまう。
とりあえず俺はペットボトルの蓋を開け自称エルフさんにそれを渡した。
彼女は昨日飲んだものと同じ物だと分かると花の様な笑顔を見せ、その味を楽しむかの様にちびちびと口を着けてその味を楽しんだ。
俺はテレビも無い部屋で外で何が起こっているのかを知る為に鞄からタブレットを取り出して掲示板のエルフスレッドを確認した。
思っていた通りと云うかスレッドは全裸エルフさんの事で論議が交わされており、その答えが出ない状態で次のスレッドに論議の場所を移していた。
─・─・─・─・─
【辛いものは】我が家にエルフが来た 2人目【猛毒】
1:無名の名無しさん
モニター当選者の元に突然やって来たエルフちゃん。
その肌の色は灰色でまるで人形のような可愛らしいエルフちゃんを愛でる為のスレッドです。
世間を騒がせる事もあるがエルフスキーの俺達には関係ない。
実在するエルフちゃんを皆で愛でようじゃないか!
現在判明しているのは下記の通り。
・耳の形は先端は多少尖っているものの人のものと大きく変わらない。
・唐辛子に極度のアレルギーを持っている為、食すと最悪死亡する危険性あり。
・外見はどのエルフちゃんも同一の模様。
2:無名の名無しさん
>>1
スレ立て乙
6:無名の名無しさん
以下スレ立て後に判明した情報。
・エルフちゃんは多数の土地に現れ、その数は都道府県の市の数と同数(の可能性大)。
・身体的能力は人間を遥かに凌駕する。
9:無名の名無しさん
結局得体の知れないエルフなんて前スレ521が書いてたけど敵性生命体なんじゃないのか?
人を殺しても平気な顔して行動してるし……
11:無名の名無しさん
>>9
俺達が知らずに蟻を踏み潰したとして、それでいちいち悲観的になるか?
人が人を殺して悪感情を抱いたり心が動くのは同族の中でその様な教育を受けてるからだ。
14:無名の名無しさん
俺も11の意見に同意。
現在分かっているエルフちゃんの事を考えてみればそこらの教育の部分が全く無いものと推測する。
今後人間社会で学ぶうちにそこらのモラルってもんは身に付くと俺は思いたい。
16:ハニワ
怖かったけど何かあったら俺の事も殺す可能性があるかをエルフに聞いてみた。
そしたら『殺しによって幸せの共有は出来ないから必要性は無い』って言うんだよ。
彼女曰く俺達の元に来たのは幸せを共有する事が目的らしい。
それが本当ならあの全裸エルフが行ったのは不幸が重なっただけなんだと俺は思いたいね。
18:無名の名無しさん
>>16
性善説かよ。
それなら何故過剰なまでの身体能力があるか納得できない部分だよな。
21:無名の名無しさん
>>18
身体能力についてはエルフちゃんがそのような身体能力を持って生まれたからってだけで、それ以上でも以下でも無いぞ。
変な例えだが象は普段は温厚だが、家族を守る為なら獰猛な肉食獣さえ殺しかねない地上最強の身体能力を持っている訳だしな。
25:無名の名無しさん
結局さ持っている力をどうやって使うかってだけの話だろ。
人間だってその身体能力だけ見れば弱いが武器や道具を使って動物では不可能な殺傷力を持つ事だって可能な訳だし。
テレビで流れてしまった映像は衝撃的はあったけど、俺らが普段目にする事の無い命のやりとりを見てしまって俺ら自身が混乱してるだけだと思う。
普段意識してないだけで俺達って物凄い数の命を奪って生き続けている事実があるんだぜ。
29:無名の名無しさん
>>25
馬鹿ジャマイカ。
命を奪った事なんて無いぞ。
俺だけで無く多くの日本人がそうなんじゃないか?
31:無名の名無しさん
>>29
馬鹿はおまいだ。
おまいは週にどれだけの肉を食べてる?
あれだって元は生きていたものだ。
おまい自身が殺した事実は無くても確実に命を奪ったものをおまいは食べている事実は動かないぞ。
そう云う意味で俺達は物凄い数の命を奪いながら生きていると言っている訳だ。
36:麻婆豆腐
うちのエルフちゃんから興味深い話聞けたから書き込む。
倒れた後、体調のせいもあって食事を取れないのかと思ったらどうもそうでは無いらしい。
食べるのは俺らのが食べるよりもずっと少なくて2~3日に一回の食事をすれば良いみたい。
我が家で食事を出した時も空腹では無かったが、食べると云う行為そのものが幸せの共有を得る身近な行為である事から出されたものを食べたって話をしていた。
ハニワも書き込んでいたけどエルフちゃんの目的は俺らとの幸せの共有ってのに間違いないと思う。
それとこれはエルフちゃんを愛でる為の燃料投下だ。
ネタのひとつとして笑ってくれ。
麻婆豆腐を食べてあれだけ苦しい思いをしただろうにエルフちゃんはまた食べたいって言うんだよ。
何でもあれ程までに刺激的な食べ物ははじめてで、例えるなら天にも登る幸福感を得られた気がするとの事だ。
"天にも登る"って洒落にもならない表現には苦笑するしかなかったな。
39:無名の名無しさん
>>36
その様子だとエルフちゃんは辛党って事なのか?
食べたら死ぬかもしれないってのに難儀なものだな。
44:麻婆豆腐
>>39
はじめて食べたものだからそれに強い興味を示しているのか辛党なのか今の状態じゃ判断できん。
腫れは引いたがまだ嘔吐を繰り返している状態だから落ち着いたら改めて聞いてみる。
49:ハニワ
麻婆豆腐の書き込み見て我が家のエルフちゃんもここに来てから何も食べさせて無かった事に気付き何か食べたいものあるかって聞いてみた。
そしたら俺が美味しいと思うものを一緒に食べようって言われた。
言い方だったり言葉遣いは少し妙なところもあるが、一緒に食べようって言われるだけで幸せな気持ちになれるんだって改めて思ったわw
52:無名の名無しさん
>>49
もげてしまえ!
─・─・─・─・─
俺が知ってる事は掲示板でも粗方出ている感じだな。
これならば俺自身が書き込まなくても良いだろう。
ってか、麻婆豆腐やハニワも今は俺と同じように警察に保護されている状態なのかな。
俺はなんともやりきれない思いでタブレットを鞄の中に放り込む。
その様子を見た自称エルフさんは相手をして欲しそうに笑顔を向けたのだった。
お読み下さり有難うございます。
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