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 おはよーおはよーと朝の挨拶を交わす生徒たち。その中にあたしはいない……と、思っていたら。


「茜さん! おはよっ。今日早いねー」

「あ、おはよ……」


 なんとまぁ、そういえば女子で唯一挨拶をしてくれる女の子がいたのだった。

 月野 加奈。この子はあたしが友達がいないのを気にかけてくれてるのか、こうやっておはよう、から始まってたまに雑談することもある。優しー。

 あたしだって友達はいないけど、相手が好意を持って話しかけてくれるのは嬉しく感じるのだ。そして月野さんはなぜか好意を持った感じで話しかけてくれるんだよなぁ。

 下駄箱で出会ったので自然と一緒に教室へ行くことになる。


「茜さんは明日って予定ある?」

「あー、うん。買い物行くねぇ」


 月野さんは何に興味があるのか、誰と行くのかどこへ行くのかと聞いてきたので友達と駅周辺で買い物をすると話した。んっふっふ。友達と買い物……ふぅー、素敵な響きだなぁ。ついでに彼女は明日の予定は特にないらしい。


 そうこうしているうちに教室に着いたので月野さんとは離れて別々に席についてホームルームが始まるのを待つんだけど、退屈だ。

 昨日は早く寝たし今朝の準備も早く終わった、学校へ行く時間も何となくいつもより前に出てしまったので待ってる時間が長いー。


 本でも持ってくればよかったかな、っていっても本読まないしなーあたし。それに読書なんかしてたら美少女読書罪で逮捕されるかもしれないからやめとこうと思った。

 ……って思考も昨日までは当たり前だったんだけど、ロゼを見ると美少女ってああいう子のことを言うんだよなぁと思ってしまい身の程を知ったというか……。

 金髪部門と黒髪部門を作ってロゼは金髪部門であたしは黒髪部門で……ウム、これなら安心して美少女名乗れるじゃないの。


「はーいはい、おはよう。ホームルーム始めるぞー」


 おぉ、妄想してたら始まったか。


 ――そんなこんなであっという間にお昼休み。

 学校での楽しみってお昼くらいなもんだねぇ、パンの合間に学食何にしようかな……みたいな。メニュー制覇しちゃったけどさ。

 でも今日はお弁当がある。ロゼが作ってくれたおいしいお弁当がね。

 はー楽しみだなぁ、どこで食べよ。雨降ってて校内が混んでるから屋上行ってみようかな。


 カバンを持って屋上に繋がる階段を登っていく。

 屋上は立ち入り禁止ってことで施錠されてるんだけど、実はこのカギ開いてるんだよね。南京錠は閉まっているように見えて、フックの部分がはまらずに開いたままなのだ。

 南京錠を手に取ってフックの部分をねじると簡単に外れた。


 よーし誰もいない。

 まぁカギが付いてる時点で人はいないってことなんだけどさ。

 給水塔の陰になってるところへ腰を下ろし、カバンからお弁当箱を取り出した。屋根っぽいとこがあって雨は当たらないんだけど日陰だからかちょっと肌寒いかな。

 さーてさて、包みを開けますよぅ!


 ピンクの包みから出てきたのは藍色のお弁当箱だった。そういえばこんな色だったなぁ。

 パカリ。

 おぉう……。

 今朝のおかずの詰め合わせだと思ってたけど、朝に出てなかったおかずも入ってる。お弁当用に作ってくれたのかな。

 お弁当用に作ってくれたであろうおいしそうな照りを放つミートボールを一口。

 柔らかく、噛むとお肉の旨みと玉ねぎの歯ごたえがちょっと感じられていい食感で、かかってるソースがほどよい甘さがあって……。


「おいひー……」

「よかった。実は自信があったのよ、それは」


 手料理っていいな。でも多分、自分で作ったならここまでの感動はなかった。ロゼあたしのために作ってくれた……それだけで胸がいっぱいになる。しかもあたしが作るよりおいしいもん。


「手間をかけずに一品作るっていうのも楽しいものなのよねー。そういえばリンは学校では大人しく真面目にやってるのね」

「……は?」


 いやいや。

 誰?

 この声と話し方はロゼしかいないんだけど、魔法で先回りして学校に来てたとでも?

 給水塔を見上げてみたりもするが人の影はない。というか声は近くから聞こえていたのだった。

 あたりを見回しているとカバンがモゾモゾと動き、にょっきりと姿を現したのは金髪部門の美少女、ロゼだった。人形サイズの。


「いやいやいや……何で?」

「カバンが入れそうなくらい隙間が開いてたから。学校もどういうとこか興味あったし」

「興味あるからってここまで大胆な行動をとりますか……バレたらどうするのよ」

「大丈夫、人がいたら出てくるつもりなかったから。まさか雨の日に外でお昼を食べるなんて思わなかったけど人がいなくてよかったわよね、ここ雨も当たらないしいい場所だわ」


 ロゼがどうしてこういう行動に出たのかわからないけど、放課後まで彼女がカバンに入ったままになりそう。まるで授業参観日みたいな気分。

 あー、何だかやりづらいな。

 ムシャムシャやけ食いしたらおいしさも相まってあっという間にお弁当はなくなった。

 ごちそうさまでした。


 ――はい、放課後です。

 授業のことなんて忘れちゃったよ。カバンの方が気になって集中できなかったもん。

 でもまぁ放課後、せっかくロゼもいるんだし買い物も一緒に行けるってことなのかな。それはそれで楽しそうだけどさ。


 教科書をロッカーに詰めているときだった。


「呼んでる」


 クラスメイトの男子が廊下を指差しながら声をかけてきた。指の先には知らない男子が。委員会とかで何かあったのかなぁ。

 同じ学年の人の顔と名前がまだ一致してないのが困ったけど、もしかしたら違う学年の人かもしれないし。とにかく廊下へと出た。カバンの中を見られるといけないからカバンを持って。


 廊下にいたのはやはり知らない顔だった。上履きのラインを見ると同じ学年の色をしていたのでどうやらほかのクラスの男子らしい。色白でやや目の細い顔をした、地味な感じの人だ。


「ちょっと時間、ありますか?」


 時間はまぁ、あるんだけど……何だか面倒な予感がしてきた。

 あぁー、久しぶりに来るのかー。

 男子生徒に言われるがまま付いていった裏庭は、もはや定番中の定番と言える場所。


「好きです。付き合ってください」

「ごめんなさい」


 返事が早くてすまんな。

 ポカンと立ち尽くしている男子生徒は、まさかここまであっさりと返事が出るとは思わなかったんだろう。

 だって全然知らない人に付き合ってって言われても実感が沸かないというか……告白されちゃったー! 的な恥ずかしさなんかを感じられる人がいたらいいんだけどなー。彼からそういう胸キュンっぽいものは感じられないし。というか名前すら知らない。


「いや、返事早……好きな人いるの?」

「うん」

「マジか……早く言って欲しかった……」


 心の底からがっかりした顔をした男子生徒の名前は柴田くんというらしい。そのままじゃあねと帰っていってしまった。

 好きな人とかいないけどああ言っておけばきっと広まって、こういういざこざはなくなるはずだ。もっと早くに気付けばよかった。

 ちょっとだけシアンの顔が浮かんだのは気にしないでおこうかねー。

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