【第5話】傲慢神主への倍返し!聖なる障壁(物理圧迫)でカツアゲ
神社の石段の上で、神主の権太夫はガタガタと震えながら後ずさっていた。
その目の前まで歩み寄ったお菊は、にっこりと満面の笑みを浮かべて小首をかしげる。
「なあ神主様、さっきうちのこと『鬼の子』って言うたやんな? ほな、鬼らしく今から神主様をギュウギュウに絞っても、文句は言われへんよなぁ?」
「ひ、ひいいいっ! 近寄るな! わしは天照大神様に仕える神聖な神主ぞ! お前のような鬼娘が触れたら、バチが当たるわい!」
『く、くそっ、誰か助けんか! 町人ども、突っ立っておらんでこの小娘を取り押さえんかーっ!』
しかし、先ほど八兵衛に一秒で吹き飛ばされた浪人たちの惨状を見ている町人たちは、全員サッと目を逸らして口笛を吹いている。
お菊は「ふふん」と鼻を鳴らすと、権太夫に向かって小さな両手を前に突き出した。
『いくで、聖女スキル【聖なる障壁】! ……ただし、サイズは極小や!!』
パアアアッ! と七色の美しい光の壁が出現し、権太夫の太鼓腹の周りをピッタリと四角く取り囲んだ。
「な、なんじゃこの光る箱は!? うおっ、せ、狭いぞ!?」
「へぇ〜、これが【聖なる障壁】かぁ。敵の攻撃を弾くだけやなくて、大きさを自由に変えられるんやね。ほな……もうちょっとちっちゃくしてみよっか♪」
お菊が両手の間隔をグッと狭めると、光の壁がミシミシと音を立てて収縮し、権太夫の分厚い肉体を四方から万力のように締め上げた。
「ぎゃあああああっ!? む、胸が! わしの立派な太鼓腹が潰れるぅぅぅーっ!!」
《実況:フクザワ》「おーっと、これはいけません! 本来は味方を優しく守るはずの【聖なる障壁】で、権太夫を物理的にプレスしているーっ! なんという独創的な拷問器具! 権太夫の顔が熟した柿のように真っ赤っかだーっ!!」
《解説:アベ》「まさにですね、コロンブスの卵と言いましょうか、見事な発想の転換であります。絶対防御の壁を外側ではなく内側に収縮させることで、逃げ場のない圧縮機として応用しているわけでありますね。お菊さんの笑顔が爽やかであればあるほど、絵面の恐ろしさが際立つわけであります」
後ろで見ていた八兵衛は、パチパチと感激の拍手を送っていた。
「すごいぞお菊ちゃん! なんて美しい光の箱なんだ! あのタヌキ親父が、なんだかお正月のお餅みたいに見えるぞ!」
『ああっ、俺もお菊ちゃんの【聖なる障壁】でギュウギュウに締め上げられたい……! お菊ちゃんの魔力に挟まれて押し花になれるなら、どんなに幸せだろうか!』
お菊は八兵衛の危険な妄想を華麗にスルーし、さらに手のひらを数センチほど近づけた。
「ぷぎゃあああっ!? し、死ぬ! 息ができん! わかった、謝るから許してくれぇぇぇっ!!」
「あら、謝るだけで済むと思うてんの? うちが昨日納めた最高級の大根代に、鬼の子呼ばわりされた精神的苦痛への慰謝料……それに、今日この洗礼式で町のみんなから不当に巻き上げた『お布施』、ぜーんぶ返してもらうで!」
お菊が指をパチンと鳴らすと、障壁がほんの少しだけ緩んだ。
権太夫はゼエゼエと荒い息を吐きながら、涙目で懐から金庫の鍵を取り出す。
「わ、わかった! 社務所の奥に今日のお布施が全部入っておる! 持っていけ、全部持っていけばいいじゃろがーっ!!」
「まいどあり〜♪ ほな八兵衛、ちょっと奥から金庫ごと運んできてくれる?」
「任せろお菊ちゃん! お菊ちゃんのためなら、神社ごと引っこ抜いてみせるぞ!」
バフがまだ残っている八兵衛は、目にも止まらぬ速さで社務所へ飛び込むと、大人三人でも持てないような巨大な鉄の金庫を小脇に抱えて戻ってきた。
お菊が鍵を開けると、中にはぎっしりと詰まった銅銭や銀貨がキラキラと輝いている。
『うっひゃー! すごい量のお金や! あのおっさん、ほんまにアコギな商売しとったんやなぁ……!』
お菊はまず、そこから銅銭の束をガバッと掴むと、呆然としている町人たちに向かって笑顔で放り投げた。
「ほら、みんな! 今日無理やり取られたお布施やで! きっちり自分の分を持って帰りやー!」
突然降ってきたお金に、町人たちは「えっ!?」「お、お菊ちゃん、いいのかい!?」と驚きつつも、大喜びで自分の納めた分を拾い集めた。
「お菊ちゃん、ありがとう!」「鬼の子なんてとんでもない、お菊ちゃんは俺たちの救世主だーっ!」
《実況:フクザワ》「ジャストミーーーート!! 巻き上げたお布施を町人に還元することで、一瞬にして民衆の支持を完全に掌握したーっ! 昨日の『鬼の子』から、今日は『堺の救世主』へ大逆転だーっ!!」
《解説:アベ》「これぞですね、高度な世論誘導であります。自分一人で独占しますと単なる強盗になってしまいますが、被害者に返還することで『義賊』としての正当性を確保したわけでありますね。……もっとも、金庫の底に残っている権太夫氏のへそくりは、ちゃっかり自分の懐に入れているようでありますが」
お菊は金庫の奥にあった一番重い銀貨の袋を、誰にも見えない速さで自分の懐へと滑り込ませ、ペロリと舌を出した。
『ふふっ、これがうちの大根代と慰謝料、プラス手数料や! これでしばらくは美味しいもんがいっぱい食べられるわ♪』
呆気にとられる権太夫を障壁から解放すると、お菊は八兵衛の袖を引っ張ってクルリと背を向けた。
「ほなね、神主様! また大根が豊作になったら、高値で買い取りに来てもらうからねー!」
町人たちの拍手喝采に送られながら、お菊と八兵衛は意気揚々と神社を後にするのだった。
《実況:フクザワ》「見事な倍返しで幕を閉じた洗礼式! しかし、お菊選手の快進撃はまだ始まったばかりだーっ!!」
《解説:アベ》「次回、お菊さんが自身のステータス画面に隠された『ある重大な秘密』に気づくわけであります。聖女といえば杖、という常識が音を立てて崩れ去る第6話に、どうぞご期待ください、ということであります」




