↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/12

【第3話】鬼の子と迫害されたので、本物の鬼になります

明日から0時更新します

神社の境内は、お菊を取り囲む浪人たちの下卑た笑いと、町人たちの怯えたようなざわめきで異様な空気に包まれていた。


神主の権太夫は、安全な階段の上から勝ち誇ったように扇子を突きつける。


「さあ、その薄気味悪い『鬼の子』をさっさと神社の外へ放り出せ! 天照大神様の神聖な境内が穢れてしまうわい!」


『ふぉっふぉっふぉ! よく分からん横文字が出たおかげで、目障りな貧乏娘を追い出す大義名分ができたわい! 大根の恨みなど、そのままドブに捨ててくれるわ!』


浪人の一人が、下品に舌なめずりをしながらお菊の細い肩に手を伸ばした。


「へへっ、神主様のお許しだ。大人しくしてもらおうか、鬼娘よぉ!」


その汚れた指先がお菊に触れようとした、まさにその瞬間だった。


ゴォォォッ!! と境内の地面が黒く変色し、お菊と浪人の間に、巨大な炎の壁が噴き上がった。


「うわあああっ!? あ、熱っつぅぅっ!?」


浪人たちが悲鳴を上げて尻餅をつく中、黒い魔力を全身から立ち昇らせた八兵衛が、お菊の前に立ちはだかった。


その瞳は怒りで真っ赤に染まり、いつもの気のいい青年の面影はどこにもない。


「……今、俺のお菊ちゃんに指一本でも触れようとしたな? いいだろう、授かったばかりのこの『妖術』で、貴様らを骨の髄まで消し炭にしてやる……!」


『許さん……! お菊ちゃんを鬼の子呼ばわりしたあげく、その神聖な肩に触れようとするなど、万死に値する! 神前だろうが知ったことか、全員まとめて地獄へ送ってやるぞ!!』


《実況:フクザワ》「ファイヤーーーッ!! お菊選手のピンチに、忠犬・八兵衛選手の逆鱗が完全爆発だーっ! SSRジョブ『妖術師』の圧倒的な魔力で、神社の境内が一瞬にして灼熱地獄と化しているーっ!!」


《解説:アベ》「これはですね、非常に危険な状態であります。お菊さんに対する愛が深すぎるあまり、八兵衛さんの理性が完全に吹き飛んでいるわけでありますね。このままでは、神社ごと堺の街が火の海になりかねない、極めて緊迫した状況であります」


予想外のすさまじい妖気に、権太夫はガタガタと膝を震わせて後ずさった。


「ひ、ひいいいっ!? や、八兵衛殿、なぜそのような鬼の子をかばうのですかな!? そやつは神に見放された呪いの子ですぞ!」


「黙れ権太夫!! お菊ちゃんが鬼なわけがないだろう! いや、もし仮にお菊ちゃんが鬼だとしても……それは『可愛すぎて鬼のようだ』という意味に決まっているだろうがーっ!!」


町人たちが「えっ、どういう理屈だそれ……?」とドン引きする中、八兵衛はさらに魔力を膨れ上がらせる。


しかし、その後ろで一部始終を見ていたお菊は、冷静にそろばんを弾いていた。


『あかんあかん! ここで八兵衛が神社を燃やしてしもたら、権太夫の金庫にあるお布施まで灰になってまうやんか! それに、ただ暴れるだけやったら、ほんまにお尋ね者になってまうわ!』


お菊は瞬時に表情を切り替え、両手で顔を覆うと、可憐な声で「しくしく」と嘘泣きを始めた。


「ぐすっ……八兵衛、もうやめて……! うちのために、八兵衛が人殺しになるなんて絶対に嫌や……! うちが鬼の子って呼ばれてもええから、その怖い炎をしまってぇな……!」


その涙声を聞いた瞬間、八兵衛の黒い魔力が「シュンッ」と音を立てて霧散した。


八兵衛は慌てて振り返り、お菊の目の前でオロオロと両手を振り回す。


「お、お菊ちゃん! 泣かないでくれ! 俺が悪かった、すぐにやめるから、どうかその美しい瞳から涙をこぼさないでくれーっ!!」


『うわあああっ! 俺としたことが、お菊ちゃんを怖がらせて泣かせてしまった! なんて罪深い男なんだ俺は! 今すぐ腹を切って詫びるべきか!?』


《実況:フクザワ》「おーっと! あれほど燃え盛っていた八兵衛選手の怒りの業火が、お菊選手の嘘泣き一発で完全鎮火だーっ! なんというチョロさ! まさに秒殺の手懐けテクニックであります!!」


《解説:アベ》「お菊さんはですね、ここで神社の財産を燃やしてしまっては元も子もないと、瞬時に損得勘定を働かせたわけであります。涙を武器にして最強の妖術師をコントロールするあたり、見事な手綱さばきと言わざるを得ないわけでありますね」


八兵衛が炎を消したのを見て、権太夫と浪人たちは「なんだ、脅しか!」と再び勢いづいた。


「ふ、ふん! 八兵衛殿も目が覚めたようじゃな! さあ者ども、今度こそその娘を引っ捕らえよ!」


浪人たちが木刀や刀を抜いてじりじりと詰め寄る中、お菊は顔を覆っていた両手の隙間から、チラリと自分の『ステータス画面』を確認した。


そして、誰にも見えないように、ニヤリと不敵な笑みを浮かべる。


『ふふっ……あんたらがそこまで言うんやったら、遠慮なくいかせてもらうで。天照大神の加護がない『鬼の子』なんやから、神主様からお金をむしり取っても、バチは当たらへんよなぁ?』


お菊は涙をひとつもこぼしていないぱっちりとした瞳を開き、八兵衛の背中にそっと小さな手を添えた。


「……なあ、八兵衛。うち、やっぱり悔しいわ。あのおっさんたちに、うちの畑の大根の恨み、きっちり晴らしてもええかな?」


「もちろんさ、お菊ちゃん! お菊ちゃんが望むなら、世界中の大根畑を俺が支配してみせるぞ!」


「そこまでせんでええけど……とりあえず、あいつら全員、身ぐるみ剥がせるくらいボコボコにしてくれる? もちろん、刀の峰打ちでな♪」


《実況:フクザワ》「出ました、お菊選手のちゃっかり悪魔スマイル! 『鬼の子』というレッテルを逆手に取り、堂々とカツアゲを開始する気だーっ!!」


《解説:アベ》「次回、聖女お菊さんによる容赦なき支援魔法、いわば『限界突破のブラック労働バフ』が八兵衛さんに炸裂するわけであります。どうぞご期待ください、ということであります」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。