第2話 【アルルカンと狼の秘剣】
次の日。朝礼が始まる。
執事セドリックが前に出て、今日の仕事について話している。
「一週間後に、ここで大生の方々を集めてパーティーを開きます。この地域の貴族の方々だけでなく、政治家たちもいらっしゃいます。一層気合を入れて仕事に取り組むようにしてください。今日の朝礼は終わりです。皆様それぞれ仕事についてください。」
使用人が一斉に返事をして各々の仕事場へ散っていく。
「パーティーまで人通りが多くなりそうだな。パーティーが終わってからにするか」
「実行は明日の夜。」
「早くね」
「うーん。嫌な感じがするからいったん金庫に入ってみない?」
「そんなんで俺を使うな」
「今日中によし兄とこの屋敷の電気系統をハックしておく。電気とはいってもガスだけどな」
「つまり決行時に電気が消えるってことか」
「ああ。屋敷の人たちは混乱する。この屋敷の仕組みを把握しているあの老執事はまず機関室に行くだろう。そこは金庫室とは反対方向だから時間が稼げる。そのすきに君が金庫をあけて盗むんだ」
「大丈夫なんだろうな」
「君がちゃんとやればね」
そういってフショウはいなくなってしまった。
夕方
フショウは周りに誰もいないことを確認してガス灯制御室に入る。
制御室に入ると壁一面に多くの取っ手が埋まっている。
「左から三つ目の取っ手が二階の電気、四つ目が一階」
フショウの耳にはイヤホンカメラがついていて、よし兄が確認しながら指示を出している。
ニヤッと笑って取っ手に手をかける
「あっ」
よし兄が声をあげた
―ガコン
屋敷の一階の電気が消えた。
「おい!フショウてめえ何やってんだよ」
笑い声がイヤホンを通して葦尾にも聞こえてくる
「おまえ、性格悪いな」
取っ手を戻すと、二階の電気が一斉についた。
懐から機械を取り出して制御室の壁に貼り付け、部屋から出た。
「これで、この制御室はよし兄が遠隔操作できる。そうだよな、よし兄」
「うん!完璧だよ」
「じゃあ、葦尾が合図したら動かしてくれ」
「了解」
イヤホンカメラを耳からとってポケットに入れた。
「なにしてるの、レイ」
後ろからシリルの声が聞こえた。
「セドリック様に頼まれていたことをしただけです。ガス灯の調子が悪いそうで」
「へー」
シリルとフショウの目が合う。
「まあ、そんなことはどうでもいいから早くご飯食べに行こう」
シリルはフショウの腕をとって食堂まで引っ張っていった。
食堂にはすでに用意がされていて、父アーサーがすでに席についていた。
「遅れてすみません」
シリルは少し気まずそうに席に着く。
やはりアーサーは何も言わない。
二人が席に着いたのを確認すると、使用人が料理を運びこんできた。
「よし兄、いけるぞ」
屋敷の電気が一斉に消えた。使用人が驚いて声を上げるのが聞こえる。
「アーサー様、制御室を確認してまいります」
フショウの予測したとおりにセドリック執事は制御室に向かった。
それを確認して金庫室に向かおうと部屋の扉に向かった。
「どこに行くの、レイ」
袖がひかれた。振り返るとシリルがいた。
「明かりを探しに行こうかと」
「レイは僕の使用人でしょ。そばにいなきゃ」
シリルの手は強く袖を握っていた。
「そうですね」
だんだんと外が騒がしくなってきた。
未だシリルに腕をつかまれたままなので、葦尾たちの様子を確認することはできない。
だんだんとイライラしてきて顎を掻く。フショウの癖だった。
「ジャックさんが来た‼まだ呼んでから五分もたってないのに、すごい‼」
シリルが腕をはなして部屋を飛び出していった。
フショウは怪訝な顔でその後姿を見ていた。
「おとなしくしろ‼」
「どういうことだよ!なんでここに警察が…」
フショウとシリルが金庫に行くと、葦尾が警察に取り押さえられていた。
「金庫を襲撃しようとした泥棒と聞いたが」
「け、検査だよ」
「検査なら、鍵を使えばいいだろ」
抵抗していた葦尾が、野次馬の後ろのほうで立っているフショウに気づいた。
「おい!フショウ何とかいってくれ」
人が一斉にフショウのほうを向いた。フショウはその圧に気圧された。
「知り合いなのか。」
警察の一人がそういった。
葦尾のほうを見ると、乞うようにこちらを見ていた。
「…ただの仕事仲間です。まさか、泥棒だったなんて」
「おい、フショウ‼」
「そういうことだ、連れていけ!」
警察が葦尾の体をがっちりつかんで連れていく。
葦尾が横を通ったが、フショウは目を合わせなかった。
「ふしょーーーーーーう‼」
断末魔のともに葦尾の姿は消えていった。
一人の警察がシリルのもとにやってきた。
「いつもありがとう、シリル君」
「えへへ、役に立った?」
「ああ、これでまた手柄を挙げられたよ」
「すごいすごい!がんばってね、ジャックさん!」
シリルはジャックという中年警察の周りをはねるように踊っている。
今までの少年には考えられないほど明るい笑顔だった。
―――――――
「だから、どこから来たのか言いなさいって言ってるんだよ」
俺の目の前にいる中年男が机を勢いよくたたいた。ジャックとか言ったか。
まさか十九世紀に来てまで「時代遅れ」な取り調べを受けるとは思わなかった。
「いっても分からないから言わないんだよ」
「じゃあ名前はなんていうの」
「レイモンド・アルベルトだよ」
「そんな名前の奴存在しないんだよ」
「そんなわけ!こんなにいっぱい人がいるんだからどっかにはいるだろ」
「どれだけ探してもいないんだよ」
―本名のほうがよりいねえんだよ!
もう一時間近く押し問答が続いていてさすがにうんざりしてきた。
暴れてやろうかと思ったその時、取調室の扉が開いた。
「すみません、ジャックさん。レイモンド・アルベルトの戸籍発見しました。」
「「え、見つかったの?」」
二人そろって驚いた。
「はい。遅れてすみません」
ジャックが青年警察から資料を受け取った。
「十数年前に行方不明になってたのか」
「そ、そうさ。最近帰ってきたんだ」
ジャックがなめるように見てくる。
「ジャックさん。続きの取り調べは私がやります。徹夜続きなんですよね」
「いやいや…仕事だから」
青年警察がジャック耳元に顔を近づけた。
「奥さんが賄いを持ってきてくれたみたいですよ。」
「ほんとうか⁉じゃあ…甘えちゃおうかなー」
ジャックは青年警察の肩をたたいて意気揚々と部屋を出て行く。
俺はよくわからない青年と部屋に残されてしまった。
「「…」」
しばらく沈黙が続いた。
「だから、僕は金庫泥棒じゃないの。金庫を検査しに来た業者…」
「その言い訳は無理があると思うけど?」
よくよく聞くと聞いたことのある声のような気がした。
「…フショウお前だったのか。」
「いえーい」
青年が目深くかぶっていた帽子を脱ぐ。そこには憎たらしく笑うフショウがいた。
「もっと早く来いよお」
「はは、見てよこれめっちゃ似合ってると思わない⁇」
「ごまかすな」
俺はフショウに体を近づけ、小さな声で言った。
「なあ、あれ本当に「難攻不落の金庫」か?あまりにも前時代的過ぎて、盗人ならだれでも開けられるような代物だったぞ」
「…そうかぁ」
青年は意外にも焦っているようだった。ぐるぐると部屋を歩き回っている。
しばらくすると窓際で立ち止まった。
「おい、これからどうするんだ。あんな「刺客」がいるんじゃできるもんもできんわ。」
「おうおう、面白くなってきたねえ」




