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 屋敷から私を連行するために連れ出した直後。

 騎士団の前に一人の女性が現れる。

 犯罪者を確保する現場には似つかわしくない老齢の女性だ。


「はい、そこまでです。変な事に協力してもらって申し訳ありませんでしたね。ありがとうございます」

 

 その言葉に新月の騎士達が慌てて私から手を離す。

 現れた女性の言葉に直立不動になり、見つめる眼差しに混ざるのは尊敬と畏怖だ。


「はっ!申し訳ありませんでした!」

「グネヴィさんももう良いですよ。お疲れ様でした」


 その言葉を聞いた私は安堵の息を吐く。

 彼女がここに来たという事は万事が上手く行ったということだからだ。

 後ろ手に縛られていた縄を魔力で解いて手をほぐす。

 私は元聖女候補筆頭。

 本来のグネヴィは自分の才能に胡座をかいていただろうが、私はしっかりと修練を続けていた。

 聖女になる気はなくても魔力の扱いだってそれなりの物だ。

 この程度の拘束を解くことなんて造作も無い。


「はぁ~……いっったぁ!もうっ!ランスラー卿は加減を知りませんね。もう少し女性の扱いを学ぶべきですね」


 これにて私の出番は終了だ。

 後は陰からリア達を見守るだけ。

 この状況を作るのには本当に苦労した。

 この日、この時を迎えるために私はこの二年間の全てを費やしてたと言って良い。


「あぁ、お父様達に諸々が終わった旨を伝えていただいてよろしいですか?事情を伝えたのは直前でしたので不安になっているかもしれませんので」


 この場に居る人間で事情を知らないのはランスラー卿ただ一人。

 他の人間は今夜の大捕物が茶番劇だという事を知っている。

 勿論、騎士団が家に踏み込んでくるわけだから事前に家族にも話を通していた。

 そうでなければデグラン家の私兵と騎士団がぶつかり合って少なくない死傷者が出る事となっただろう。

 この二年間の活動で私はそれくらい家人からも信頼を得ていたという自負があった。


「これは……これは一体どういう事なのですか!その女は聖女の身を狙った犯罪者ですよ!」


 周囲の騎士が生暖かい目で彼を見やる。

 少しだけ哀れみが入ったその視線にランスラーはたじろいでいるが、その反応は自然だ。


「グネヴィさん。彼にはもう話をしても良いのですか?」

「そうですね、これからは同輩になるわけですし、もう説明しても良いと思います」


 混乱の極みにあるランスラーは誰に何を聞けば良いのかわからない。

 いつもは皮肉げな表情が多いクールなイケメンが慌てふためく姿は、それはそれで目の保養になるなぁなんて思ってしまう。


「訳がわからない……私は聖女の敵を捕縛にしに来たはず……それ自体が違うのか?それに……それに……!何故あなたが当然のように居るのですか!シスターケルフィ!」



 それは二ヶ月ほど前に遡る。

 その頃にはリアは陽光騎士ウェイとの個別ルートに入ったようで私の出番はほとんど無くなっていた。

 彼らがラブラブしながら騎士として悩むウェイを励まし愛を育む物語が展開されているわけで、そこに私の入る隙間は無いからだ。

 残るは最期の出番。

 つまり、リアが聖女として認定され、嫉妬に狂ったグネヴィが暴走するシーンだ。

 そこまでは私は完全な自由。

 そして、この二ヶ月で私は最期の仕込みを行う必要があった。


「シスターケルフィ。本日はあなたにお願いがあります」


 大聖堂でのお祈りが終わった後の時間。

 ここでの交渉が私の運命を決めると言っても過言ではない。

 とは言っても今では私の完全な協力者となったシスターへの頼み事なので断られるとは思っていない。

 単純に私が望んでいる伝手を彼女が持っているかどうかという話だ。


「シスター……私に新月騎士団の方を紹介して頂けませんでしょうか?できるだけ偉い人が良いです」


 私からのお願いを聞いたシスターは顎に手を当てて困った顔をしている。

 しかし、今ならわかる。

 あれは演技だ。

 少し困っていますという事を表現しているだけのポーズ。


「……ん~……まず、何故それを私に頼むのか、それを聞いて良いですか?」


 面白そうに目を細めるシスターは初老と言っても良いはずだというのにそうは見えない。

 あどけない笑みを浮かべる様はまるで少女のよう。

 だが、その底に潜む得体の知れないな意思を感じる。

 私が思った通りだ。

 この人は確実にこの学園のシスターという枠に収まる人ではない。

 そしてこの問はテストのような物だ。

 良い点を出せばご褒美を上げましょう。

 そんな心の声が聞こえてくる。


「では、説明させていただきます」


 深く息を吸う。

 事情を話してからの一年間。

 この人とは名実ともに私の師であると言える関係になっていた。

 神託という形で開示した私のムーンプリンセスのイベント表は流石に完全な物ではなく、実際には細かい相違点や予想外のハプニングなどはあった。

 この人にはそれらのフォローをお願いしていたわけだが、その手腕を見て感じるのは違和感ばかりだった。

 つまり、「シスターがこんな手際よく隠蔽工作とかできるのおかしくない?」という事だ。


「シスターは明らかに学園常駐のシスターの権限から外れています。それは一部の教師達、言ってしまえば上役の反応を見れば明らかです」

「ふふっ……そうですか……続けてください」

「……あなたの指示は恐ろしいほど的確で完璧、そして……誰一人からも異議を挟ませない物でした。これはおかしい。私はある程度の学園からの横槍も想定していたというのに、それら全てをシスターは排除しましたね」


 私がリアを虐める内容の中には明らかに傷害となる物、中には命の危険を伴う物があった。

 常軌を逸した行動。

 ゲームだからこそスルーされるが現実ならば殺人未遂となってもおかしくないそれら。

 本来のグネヴィであれば学園からの抗議については実家の権力で握り潰すはずの行い。

 しかし、私のそれらの行動について咎められる事は一切無かった。

 それは何故か。

 最初に理解者に引き込んだシスターケルフィが全てを無かった事にしたからだ。


「あなたは本当に優秀ですね。気づいていましたか、私が手を回したという事を」

「はい。これは明らかにシスターの権限を越えています。学園長は勿論、関わった大貴族やそれこそ聖女を選出する賢人、聖女の卵達を保護する立場の騎士達、あらゆる勢力からの抗議があってしかるべき行為を私はしました。当然ですが実際に抗議は来ていたのでしょう。しかし、あなたはそれら全てを無にできる力があった」


 はっきり言ってこんな事は予想外だった。

 本来ならばある程度は流出してしまうであろう情報を元にした噂などで私の評判は徐々に地に落ちるはずだった。

 しかし、そうはならなかった。

 勿論、少しは悪い評判は付いたが、思っていた程ではなかった。

 それは全てシスターケルフィが裏で手を引いていたからだ。


「最初は私の実家の権力を使って騎士団と接触する事を考えていました。しかし、冷静に考えて見ればそれよりも明らかに強力な伝手を持つ人間が身近に居ると思ったのです」

「それが私だと?」

「はい。私にはシスターがどういう立場なのかはわかりません。しかし、私が知る限り、あなたが一番こう言ったことに適していると思ったのです」


 私が出した結論を聞いたシスターは静かに微笑んで軽い拍手をした。

 パチパチパチと私を讃えているのか誂っているのか判断が難しいその動作。


「本当に……本当に残念ですね……」


 目の前にいる親しげな老女の顔から熱が消えていくのがわかった。

 恐らくこれがシスターの本当の顔。


「これほど聡明で、信心深く、神託を受け取れるあなたが聖女ではないというのは……しかし、だからこそなのかもしれませんね……」


 学園の常駐シスターに偽装している真実の姿。

 

「神託の代行者。グネヴィ・デグランの要請を許諾します」


 設定資料集にも何にも書いていなかった私も知らない事実。


「新月騎士団の長、“月蝕のケルフィ”があなたの願いを聞き届けましょう」


 息を呑む。

 今、目の前の老女が言った言葉を理解するのに時間がかかった。

 新月騎士団というのはこの国や聖女を守るための汚れ仕事を受け持つ所謂、暗部だ。

 日の当たらない所で人知らずに危険の芽を摘むその活動内容は騎士と言うよりも暗殺者に近い。

 しかし、その活動の全てはこの国、ひいては聖女のために行われる。

 一部では狂信者扱いされる事もある、そんな危険人物達だ。


「……えぇ……マジっすか……いや……そんな……」

「えぇ、マジですよ。あなたが協力者に選んだ人の良さそうなシスターの正体です」



「……っ!月蝕!まさか……伝説級の騎士じゃないか!」

「私がこの場に居る理由がこれでわかりましたか?」


 明かされた事実にランスラー卿が打ちのめされている。

 それはそうだろう。

 というか私もそうだった。

 強い伝手があれば良いとは思ったが、まさか騎士団長だなんて思わない。

 だって、めっちゃ人良さそうなのよ、シスターケルフィって。

 ほんと人は見かけによらないわ……


 しかし、これで私が目指したゴールへの道筋が出来上がる事になった。


『暴漢を雇いリアを襲わせ悪事がバレて、学園からも家からも追い出されるが私も幸せになる』


 これを実現するにはムーンプリンセスのメインキャラクター以外の協力が必要だった。

 私が知らない人物たち。

 その中でも私が望んだのは最後に私を捕まえに来る新月騎士団との伝手だ。

 そこを抱き込んでしまえば、私は捕まっても酷い事にならないのだから後は何とでもできると。

 まさか初手で騎士団長を抱き込めてるとは全く思っていなかったが。

 

「確かにグネヴィさんは聖女であるリアさんの身を危険に晒しました」

「そうです!到底許される事ではありません!」

「普通ならばそうです。しかし、今回は事情が違う……彼女がそのような行いをしたのは神託があったからです」


 神託という言葉にランスラー卿が眉をひそめる。

 話が繋がっていないと思っているのだろう。


「信じがたいかもしれませんが、彼女が今まで行ってきた数々の不審な行動。それら全ては聖女を鍛え上げるための神託に従ったに過ぎないのです」


 血気盛んな騎士にシスターの言葉が突き刺さる。

 シスターケルフィ。

 いや、月蝕のケルフィから発せられる気配は異質だ。

 ただ事実を優しく述べているだけの言葉だが全てにおいて重みが違う。

 ランスラー卿には悪いが役者が違うという奴だ。

 将来有望な騎士とは言え相手が悪い。

 目の前に居るのは魑魅魍魎を相手にする狂信者を束ねる新月騎士団の長なのだから。 


「魔力量や資質、品格や素行、全てがグネヴィさんは聖女に相応しいと私は思いました。しかし、神託がリアさんを聖女に選び、そして彼女を鍛えるための代行者としてグネヴィさんが選ばれたのです」

「そんな……だから……あのような嫌がらせを……しかし、それなら何故私達に教えてくれなかったのですか!?」

「それも神託です」


 メインキャラクター達が私の行動が善意による物であると知られてしまえば私が知る物語への悪影響が起きてしまう可能性があった。

 だから、私はシスターに渡した神託という名の日記帳に書いておいたのだ。


「これはリアさんへの試練です。リアさんと親しくしているあなた達に知らせてはいけないと神託は言っていました」


 周囲に居る新月騎士やシスターケルフィ。

 それに今回の捕物劇に協力をしてもらった私の家族や暴漢役の人はこれが茶番劇だと知っている。

 しかし、ムーンプリンセスの主要人物達は誰一人としてこの事は知らない。

 知ってはいけない情報だったのだ。


「そんな事が……」

「あるのですよ、そんな事が。わかりますか?あなた達にどれだけ嫌われようと神託を信じ、実行した彼女の気高さが」


 シスターが妙に私を持ち上げてくる。

 私としてはただ意地を通しただけのような物だ。

 好きだった物を壊したくないというヲタクとしての意地を。

 そんな事を考えている私にシスターが優しく語りかける。


「グネヴィさん……あなたの聖女への献身は素晴らしい物です。世間では狂信者と呼ばれるような事もある私から見ても頭が下がります……しかし、本当に良かったのですか……?」

「と、言うと?」

「私達にあの神託を伝えなければ、あなたが聖女になっていてもおかしくはなかったはずという事です。あなたはそれほどの人物でした」


 私が自分を犠牲にして聖女を鍛えているという印象を与える事ができたのが、この人の協力を得ることができた大きな理由。

 だから、シスターはわかっているのだ。

 私が後悔などしていない事を。

 それでもわざわざ問いかけてきたのは周囲へのアピールだ。

 シスターは私を後継者へと考えている節がある事はわかっている。

 私の後継者はこんなに凄いんですよと新月騎士団の団員へと示しているのだ。

 相変わらずそつが無い。

 

「そうですね~確かに聖女になるなんて未来もあったかもしれませんね」


 それはそうだろう。

 私の魔力はリアよりも大きい。

 素行だって私の意識が目覚めてからは品行方正であり、普通にしていれば私が聖女になってもおかしくない状態だ。

 傍から見れば私は自分の輝かしい未来を捨てたように見えるのだろう。

 しかし、違うのだ。


「でも、これで良かったのです。私は聖女っていう柄じゃありませんよ。聖女っていうのはあの娘のように明るい太陽のような娘がなるべきなんです。周囲に居る人達が元気になれる。彼女を見ていた人間が勇気を貰える。そんな人がなるべきなんです」


 私は彼女から元気を貰っていた、勇気を貰っていた。

 それは厳密に言えばこの世界にいるリアではなく、乙女ゲームのリアからだ。

 だとしても、感謝をしてもしたりないんだ。

 私は彼女が織りなす物語に魅せられた。

 その世界を愛することができた。

 何年も何年も楽しませてもらった。

 これはその恩返しだ。


「聖女候補であり聖女の身を狙った悪の令嬢グネヴィ・デグランはこれで終わりです。私はこれから別の人間になります。そう、聖女を陰から守る新月騎士団の一員として今後はあの娘を守りましょう」


 これにてグネヴィの物語は幕引き。

 ゲームならばスタッフロールが流れている所でしょう。

 でも、ここはゲームじゃないので終わるわけではありません。

 私もあの娘の人生もまだ続いていく。

 ならば、私の聖女を守る戦いも続きます。

 もう充分じゃないかって?

 いやいや、そうはいかないでしょう。

 理由がわからないなら教えましょう。

 簡単な話です。


「だって、私は続編で旧作キャラが蔑ろにされる事が死ぬほど嫌いなんですからぁぁぁぁぁっぁ!」


 そう、私の戦いは終わらない。

 私の意地のためにも今後もリアには幸せになってもらわなければならないのだ。

最初と最後が言いたかっただけ。

短編で書こうと思ったけど長くなってしまった。

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