海神(わだつみ)の花嫁⑤
カレーはいくつものスパイスとハーブを組み合わせて作られる。
日本では調合済みのスパイスに小麦粉、油脂、旨味調味料を加えて固形化したカレールゥが主流である。
自分好みの味を追求し、市販の銘柄をいくつか組み合わせたりする人も多いだろう。
あたし?
ええと、はい。かつて晶にカレーを失敗できるのは才能だよ、と慰められました。
こほん。
そんなカレーだけど、スパイスから自作することも可能である。本場インドでは各家庭の味があるのだとか。
あたしたちがここに来た目的は、最高のシーフードカレーを作ることである。
やはりスパイスに関しても、シーフードに最適な物を自作したほうがいいだろう。
ルゥを使わず、カレー粉から作る……なんだか敷居が高いように思ってしまうが、粉末状になったスパイスさえ揃っていれば、そこまで手間じゃない。らしい。晶がそう言うから、きっとそうなのだろう。
「というわけで、フツさんお願い!」
『応! 任せときな』
「み、みやこちゃん、フツヌシ様の力でわざわざ……ああ、もう、ミルとかあるのに!」
フツさんがどこからともなく呼び出した大量の刃物が回転し、スパイスやハーブを粉状に変化させていく。さすがである。
市販の既にパウダー状になったものもいいんだけど、いわゆる原型のままのスパイスホールから作ったほうが、好みの味を引き出しやすいらしい。
クミン、カルダモン、フェネグリーク、クローブ、シナモン、スターアニス、コリアンダー、ターメリック、カイエンペッパー。
まるで呪文のようで覚えるのも大変なスパイスたちを、晶は慣れた手つきで調合していく。
ふふっ、カッコいいだろう? あれ、あたしの彼氏なんだぜ? 今は女の子だけど。
フライパンでスパイスを炒った後は、みじん切りにしたたまねぎをあめ色になるまで炒め、これまたピューレ状にした人参、トマト(※協力フツさん)を水分が飛ぶまで熱していく。
程よいところでスパイスと摩り下ろした生姜を加えていけば、はい! カレーペーストの完成です!
うん、練り餡みたいな感じ。あれ? これ食べるの? え、違う? あ、はい、ツナとイカね!
というわけで、今回の主役の具材の投入です。あたしは横で見てるだけだけど。
そしてなんと! て、それなに? ココナッツミルク?! へ、へぇ、缶に入ってるんだ? あ、入れてくのね。はい。黙っておきます。邪魔してすいません……
弱火でコトコト煮ること30分。
じゃじゃん!
「ツナとイカのシーフードカレーの完成です!」
「「「「おおおお~っ!」」」」
出来上がったのは、普通のカレーと違い、ミルクティーのような色をしていた。ココナッツミルクのせいかな?
配膳された傍から、ウカちゃん、タケさん、フツさんが待ちきれないとばかりにがっついていく。
『ふわ、甘いけどピリリとして、ツナやイカに良く合う!』
『くぅ、こいつはビールが欲しくなるうまさだな、フツ!』
『……………………おかわり』
おいしいかどうかなんて、聞くまでもない好評ぶりだ。
そしてマグロの神様、ワダツ様にも好評だった。
『美味い……潤う……潤っていく……っ!!』
スッポさんにカレーを食べさせてもらうや否や、干物だったマグロはむくむくと瑞々しさを取り戻し、魚人へと変わっていった。頭が魚の人間とかそんな感じのやつだ。ハッキリ言ってちょっとホラーっぽい。
そんなワタツ様は、スッポさんから受け取ったツナとイカのカレーを貪っていた。それはもう、ウカちゃん達を凌ぐ勢いで、まるで数日ぶりに食事にありついた人のようだった。
「そういえば、マグロの神様なのにマグロ食べて大丈夫なの?」
「み、みやこちゃん、今更?!」
『それは大丈夫である。和菓子の神も和菓子を食べるし、桃や梅の神も桃を食べるし梅酒も飲む。我らはただ司るものの象徴であり、見た目はそれらに類似しているだけで……なるほど、そういうことだったのか、調停の巫女よ!』
うん?
『このようにカレーと一緒になれば、マグロもイカもただのおいしくなる食材……そしてこのカレーも、一見すればドブのようにも見えるがこの旨さ! あぁ、そうか、見た目を引き摺って考えてはいけない! 重要なのは本質、つまり心!』
どういうわけか、勝手に納得してしまったようだ。晶が呆れたような顔であたしを見ているが気にしない。
うんうん。
晶の料理は美味しいからね。それは彼女かつ幼馴染であるあたしが、一番よく知っている。
美味しいものを一緒に食べれば大体物事は解決する。この世の真理なのだ。
『娘、此度のカレーなる調理、大儀である。我の26番目の嫁になることを許そう』
「え?!」
「あははー、ワダツ様、ちょっと外へツラ出しやがれくれませんか?」
うん、マイカ様に結婚断られたのは、マグロとイカという捕食者と非捕食者的な関係ではないというのがわかった。











