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出航不可の厳密な理由

それは、先に駆け出していった相棒を追いかけようと宿屋の扉を開いた時だった。


「探したぞ、ライト・ディジョン」

「お前は……!」

「静かに。身元が判明すると困るのは、お互い様の筈だ」

「あ、ああ、悪い。少し落ち着く」


物陰からふらりと現れ、突如声をかけてきた人物に、ライトは心当たりがあった。

石造りの街には似合わない着物姿に、顔を深く隠すように被られた深編笠。

間違いなく彼らの最終目的地、《日出》に住まう者の衣服だった。


顔や素肌が隠されている以上、完全に確証が得られたわけではないが、発した言葉に木が擦れ合う独特な音が混じっている。

それに、寡黙でライト以上に簡潔な発言。

その場にいるはずなのにあまりにも薄い存在感。

その全てを照らし合わせた彼の脳裏には、目の前に立つものの素顔がはっきりと浮かんでいた。


「なぜここに……」

「どうしても事態を伝える必要が、あったものでな。とはいえ、旅をしていることは知っていたが、まさかこの港町にいるとは想定外だった」

「知っていたって――――」

「悪いが、その件については次の機会で話す。今は時間が惜しい。そちらもすぐに移動できない問題を解消せねばならないのだろう?」

「ああ」

「ならばこれを役立てるといい」


男性の声をした者は、慣れた手つきで左手の裾から巻物を取り出しライトの右腕に握らせる。


「この文に最低限の情報を記載している。直接の手助けはできないが、二人ならどうにかなるだろう」

「急ぎの旅、なんだな。時間を割いてくれて本当に助かるよ」

「なに、あの時我らは志を共にした。持ちつ持たれつの行動は当然だろう」

「だが、俺からは特に何かを返せたわけでは……」

「なに、気を利かせて、己の旅路がどの様な因果からなのか聞かなかっただろう? それだけで十分だ。故に其方らの旅の理由も、もしやと思う節はあるが、敢えて詮索しまい」

「……そ、そうか」


正直なところ、ライトは彼が苦手だった。

どのような時であっても冷静で淡々としており、いつでも行先を見据えているようで……自分よりも優れている彼が。


「だが、最後にこれだけは伝えておく。人のことを言える節はないが、迷いや苦悩に囚われるな。人はそれだけで簡単に駄目になる。あの者のように、時には愚直でいても良い」

「そう、だな…………」

「では、己は此処で失礼する」

「待っ――――」


慌てて声を掛けようとした直後、まるで最初から誰もいなかったかのように、和装の男の姿はかき消えていた。

「…いい加減に答えろ。船が出せない、とはどういった了見だ?」

「お前こそいい加減にしろよ! その問いかけは今日で何度目だ! ああ!? 見りゃわかんだろ、この天気をよお! 今にも嵐になりそうな状態で船なんか出せるか!」


 何だ、何だ。と、暗くなり始めていた波止場周辺にいた歩行者たちが目を向ける先に、修羅場があった。

 強面で筋骨隆々、如何にも“海の男”と言わんばかりのいでたちをしている男性が相手しているのは、彼よりも一回り以上は大きな甲冑姿の者。

 兜越しから覗かせる眼光は鋭く、怒りのオーラといったものが少し離れていてもびりびりと感じられる。

 だが、“海の男”も只者ではないのか、その圧を微塵とも感じていないかの如く、負けじと大声を張り上げていた。


「…その言葉を聞くのは今日で三日目になるが、私の聞き間違えか?」

「うるせぇ! わいだって出せるなら出してやりてぇさ! けどな、この一週間ずっとこんな天気で、おまけに沖には化け物も出るって噂まで流れてきやがった。……なあ、いい加減わかってくれねぇかな。わいらだって、船が出せなきゃお客さんにご迷惑をおかけしているわけで、商売もあがったりなんだってぇの!」

「…………ちっ、どうしても船を出したくないわけだな」

「こんにゃろう、言わせておけば……! そんなに文句を言いてぇってんなら、お天道様に言ってろってぇの!」


 近くにいた者が言い争いを諫めようと声をかけたりするものの、二人は耳を貸すことなく、相手の言葉に対し反論ばかりを口にする。

 ついに止めることを諦めたのか、悪態を吐きながら彼らも去ってしまった。


 とうとう、諍いの様子を見てひそひそと話をしながら立ち去る者しかいなくなってしまった中、がっくりと項垂れたまま言い争いの様子を窺っていた者がただ一人。

 少なからず人通りのある波止場で、これ以上のヒートアップはあまりにもよろしくないと悟ったのか、ゆっくりと近づいていき、大きな声で語りかけた。


「――――はあ、何度喧嘩を吹っかけているんだ? バリュー」


 他でもない、短気な相棒である彼女に。


「おお! 軽装の兄ちゃんじゃねぇか、丁度良い! こいつ、お前さんの相棒だろ? せめて幾度となく文句を吹っかけてこないようなんとかしてくれよ!」

「ご迷惑をおかけして申し訳ございません。すぐに連れて帰りますので……」

「…邪魔をするな、ライト。今日こそは船を出してもらう。私たちは急ぎの旅をしているのだからな」

「これ以上醜態を晒すな。いいから宿に帰るぞ。なに、そう遠くないうちに天気は良くなるさ。もう少し大らかな気持ちを持てよ」

「…その根拠はどこからだ?」

「何、お天道様の()()()()()()()()()んだ。やるべきことをやれば、天気はすぐに良くなるってな」

「…………………」


 仲裁に入ったライトの言葉に彼女は怪訝な態度を見せるが、相当に自信があるのか、彼は不敵な笑みを浮かべたまま、対立している二人の間に割り込むように体を動かす。

 この機を逃がすまいと、男性はゆっくりと背を向けて――――。


「…おい、貴様」

「何だ? まだ何かあるのか……?」

「…先ほど嵐が、怪物がと言い訳をしていたが、その船の大きさはただ人を乗せるためだけか? ここからでも見える砲門は単なる装飾品か? ……ああ、そうか。蒸気船という仮称“最先端の船”でも、嵐や化け物には勝てないと、そう考えていいわけだな?」

「あ、当たり前だろ! 自然の力をなめてんじゃねぇぞ、ああん!!?」

「ああもう、バリューはちょっと黙ってろ。……本当に申し訳ございません。こいつ、何か癪に障るとすぐにキレる短気なやつでして……」

「もうそいつ、壁に貼り付けにして宿から出られないようにしてくれねぇかな。ずっとこの調子じゃ、他の船員たちの士気もさがっちまうよ」

「き、肝に銘じておきます……」

「じゃあな、喧嘩っ早い甲冑野郎。次お目にかかるのは船が出航するときであることを祈ってるよ」


 男はそう言い残し持ち場に戻り始めるが、相対していた鎧は未だその背を睨み続けている。

 ライトはそんな未練がましそうな彼女の腕を掴むと、半ば引きずるような形で急ぎその場を後にした。



 ……さて、なぜ二人がこの町に足止めされているのかというと、数日前にさかのぼることとなる。

 クラッドレイン領の小国チルダにたどり着いた彼らは、すぐさま枢機者レプリカ・クラッドレインから頂いた乗船券を船員に見せるが、生憎、天候が悪いため出航できないという。

 明日には天気も回復するだろうと高を括り、そのまま宿で一晩を過ごしたのだが、翌日、外の景色を見ると、相も変わらず曇天が空を覆い、うねりを伴った高波が防波堤をたたいている状況だった。

 そこで聞いた話によると、およそ一週間ほど前から突如このような天候になってしまったようで、原因もよくわかっていないとのこと。

 バリューも精霊に語り掛けるが、返事が返ってこない……正確に言えば、敢えて無視されているように感じられるとのことだった。


 そこで二人は、早急に原因を探り問題を解決するため、二手に分かれて行動を開始。

 とはいえ、そう簡単に解決できるはずもなく、何の成果も得られないまま、着実に所持金を失いつつあった。

 そんな時だった、宿屋の入口付近にてライトが知り合いと久々に出会い、解決策を知りえたのは。


 だが、実に数分とも満たない僅かばかりの会話をしている間に、一足先に宿を出ていた彼女は、真っ先に船着き場の船員(それもとても頑固な)へと、実に四度目の喧嘩を売りに行っていた……。



 ――――これがことの経緯で、つい先ほどまでの出来事だった。


「…で、原因は分かったか?」

「その前に、本当にいい加減にしろよ……! 乗船拒否なんてされてみろ、それこそ島渡の手段がなくなってしまうぞ!」


 ライトは小声で怒鳴りつけながらも、周りの人に怪しまれないよう、多少駆け足気味で宿屋へと歩みを進める。


「…いい加減も何も、私は待たされている者たちの心の声を代弁しているだけだが?」

「………………はぁ」

「…それに、あの男はきっと強いぞ。久々に手合わせしてみたいと思うほどだった」

「それが本心だな。よし、今晩の夕食はお前払いとするか。人が情報収集している間に一人楽しもうとしているわけだから、別にいいだろ」


 そんなー、と急にしょんぼりとし始めるバリューに見向きもせず、ライトは帰路を急ぐ。


 ……船乗りの実力においてはさておき、彼女の言い分も一理はあった。

 乗船待ちしている者の中には一週間近くも待っている人たちもおり、少なからず内心に鬱憤を溜めている者も多いに違いない。

 そういった人々にとって、自分の代わりに文句を言ってくれる者の存在は大変ありがたいものだ。

 相手を言い負かし、喧嘩でも負かすことができたのならば、それこそ、当の本人でなかったとしても心の内はスカッとすることだろう。


 とはいえ、ライトが語っていたこともいい加減に考えなければならない。

 このまま毎日文句を言い続けていたら、原因を取り除いたとしてもまず間違いなく乗船拒否されることだろうし、下手すれば国外追放も考慮される可能性すらある。


 そもそも、二人はあまり目立った行動をとってはならないというのに、バリューに関してはそのことを忘れ去っている可能性すらあった。

 改めて厳しく注意する必要があるな……と、頭を痛めながら、ライトは調べて回ったことを語る。


「とりあえず原因はわかった。近海を管理していた()()が、およそ一週間前から行方不明になっている。天候に関してはこれが原因とみてまず間違いない」

「…女神、か。実在するとは思えないが」

「超自然的生命体と会話しているお前がその台詞を言うのかよ……。まあ、神と言っても超越型の神様故に、生命体と受け取ってもおかしくはないけどな」

「…だとしても、だ。そこまで確証を持っている理由が知りたい」

「単純な理由だぞ? 神に()()()()()()()()。ただそれだけだ」

「……………(考えすぎてついに壊れちゃったのかなぁ?)」

「聞こえているぞ? まあ、別に信じなくてもいいさ。大事なのは海を管理していたものが居なくなってしまったということだからな」


 神……あらゆる生命の頂点に君臨する者。

 命を導き、絶やし、再生させる管理人。

 聖典ではそのように記されているが、その事実関係は定かではない。

 なにせ、観測さえできたとて、存在を証明させることは誰一人として出来ていないからである。

 なので、一般的には神は存在しないものとして扱われており、生態系や自然現象においては、存在しうるもので構成されていると定義されていた。


 ただ、発生の過程だけは把握されており、超自然型、超越型の二つに分けられている。

 超自然型はその名の通り、精霊や悪魔といった何もない場所から生まれ落ちた謎が多い者。

 神のうち大多数がこちらを占めていることもあり、一般的にも知名度だけは高い。

 超越型は何らかの原因によって生態系の枠組みを遥かに超えてしまった者のことを指す。

 突然変異や神の悪戯、天罰によるなれの果てなど、具体的なところまでは理解が進んでおらず、知名度もとにかく低い。

 稀に、そうではないかと思われる者たちが発見され、そのたびに教会では話題になるのだが、一般人は知る由もなく、神というよりも生物として認知されることが殆どだった。


「…で、その女神とやらは一体何処に行ったんだ?」

「海を住処とするものが海以外の場所を根城とすると思うか?」

「…いや、思わないな。つまり、近海から消えて別の海に行ったと?」

「……言い方が悪かった。結論だけ言うのが駄目ならと回りくどくしすぎたな」


 どうやら、結論しか言わない癖を直そうと努力しているようだ。

 バリューも薄々勘づいてはいたが、いつからかライトは今の自分を脱却しようと度々突飛な行動に出ることが多くなっている。

 だが、どうもから回りしているようで、日ごろから失敗を繰り返していた。

 その度に彼女は心配性を表に出してしまいそうになるが、なるべく抑えるようにしている。

 せめて、自己変革のため努力している彼の足を引っ張らないように、と。


「…普段通りで私は構わないからな?」

「悪いな……。話を戻そう。聞いた限りでは普段、この近海は波も穏やかで平穏極まりない。つまり女神は、この近海を常日頃しっかりと管理していた。よほどのことがない限り、自らの仕事を放棄するとは考えにくい」

「…そうか、ならば何者かに連れ去られた、もしくは――――」

「安心しろ、生きていることは確実だ。……と言うよりも、囚われているという事実を聞いた、と言ったほうがいいか」

「…聞いた? 誰にだ」

「聞いて驚くなよ。――――スギだ」

「……………………うっそぉ!?」


 兜の中からとは思えないほど素っ頓狂な驚きの大声が、辺り一帯に響き渡る。

 二人は慌ててその場を立ち去るが、人々をすり抜けて進むたびに、訝しげな視線がその背に突き刺さっていく。

 まず間違いなく、変な印象を持たれてしまったことだろう。

 念を押していたにも関わらず仰天したことを根に持ったのか、ライトは仏頂面になっていた。


「――――悪い」

「……まあいいさ、驚かない方がおかしいしな」


 そう、彼女が驚愕のあまり声が出てしまうのも無理はなかった。

 レイジが引き連れていた三体の絡繰(からくり)人形、その中でも特に堅物で厳格な彼が、自らの国から遠く離れた辺鄙な港町にいるとは微塵とも思いはしない。

 出会った当初は物覚えのいいライトでさえ、何故こんな場所にいるのか、真に当人か、と疑ってかかったのだから。


「スギも俺たちと同様に旅をしているらしい」

「同様に……ってことは、何かしらの任務を受けてってことだよね」

「内容を聞くことはできなかったが、先を急いでいた節を感じられた。恐らく重要な使命を任せられているようだ」

「だからこの場にいないんだね?」

「ああ。手伝ってくれたなら百人力だったんだけどな……」


 人気のない場所へと移動したのち、二人は再び話し出す。

 今度は近くの人に聞こえないよう、出来るだけ小声で。


 スギ、ヒノキ、ケヤキ……どれも機械的な意味での個体名を賜っている、限りなく人に近いが生命とは到底言えない人形という存在。

 それでも、レイジのそばにいたときはまだ感情が豊かだったように見えていた。

 中でもスギは元々言葉数があまり多くないのだが、ほんの僅かな会話を交わしただけで早々に立ち去るあたり、相当に急ぎの要件を賜っていたのかもしれない。


「とはいえ、レイジさんの部下だったものだ、情報に関しての信憑性は高い」

「スギが私たちに嘘ついたって意味ないもんね。それで、誰に連れ去られて、どこに監禁されているの?」

「これがまた厄介なことになっていてな……」

「厄介?」

「この街に滞在している奴隷商の誰か。というところまではわかっているが、それ以上の情報がないんだ」

「それって、まずくない……? 下手すると今この時に国外へと逃亡している最中かもしれないんじゃ!?」

「それについては問題ない。誰かがわからなくても、目的だけはわかっているからな」

「目的……。高額で売ること?」

「その通り。この付近では毎年この時期になると大規模なマーケットが開かれているんだ。正規的に売り出すことができない物を売買する闇市場としてな」

「闇市場……」


 どこか思う節があるのか、バリューの顔は少し曇るが、兜を被っている以上その表情がライトに悟られることはない。


「件の女神は奴隷兼未知の生命として売買される予定になっている。まあ、購入する奴は奴隷としてではなく、その貴重性に目がくらんでか、はたまたより高額で転売するためだろう」

「なるほど……。要するに、売り払われる前に取替えせばいいってことね」

「あー、それも言っておくべきことがあってな……」

「?」


 今度はライトの顔が曇り模様となった。

 それも、彼女以上の半ば言葉にすら出し辛そうな、苦虫を噛み潰したような顔色だった。


「調べた限りだが、このマーケットはとても陰湿だ。鮮魚の叩き売りのように人間や亜人が競りに出される。それも、自分と同種の者たちから……。潜入方法はこれから考えるとして、バリュー、お前はそういったものに耐性があるとは思えない。悪いが今回は俺一人で――――」

「じゃあ、終わるまであの人に喧嘩を吹っかけ続けるね?」

「………………あのなぁ」

「呆れているのは私の方だけど? 苦手だとしても逃れられないものだってあるんだって、前に行ってたよね?」

「まあ、そうだが……」

「『毒を食らわば皿まで』でしょ?」

「――――言いたいことは分かったが、言葉の使い方間違えてるぞ」

「……えっ」


 呆れた、と言わんばかりの声音で首を横に振るライトだったが、表情が少しばかり明るくなっていた。

 らしくない気遣いをしなくてもいいと判断したからだろうか、はたまた――――。


「まあ、そこまで言うのなら色々とやってもらうことにするか」

「まあ、当然だよね。ふふん」


 言葉を間違えているにもかかわらず、彼女は自慢げに鼻を鳴らす。

 調子がいいやつだな……と思いながらも、ライトの顔にはなぜか怒りよりも笑みが現れていた。


「……でもさ、どうやって忍び込めばいいのかな」

「ああ、そこが目下頭を抱えている点だ。調べてはみたがどうやら完全会員制らしく、よっぽどの商品を持っていない限りは、会員からの招待がないと入ることができないようだ。あのスギでさえ、苦労して手に入れた情報だから有益に使え、と言っていた以上、忍びですらない俺たちがバザールに忍び込むことはまず不可能だな」

「だからって、知り合いに会員がいるわけもないし、よっぽどの商品も持ってないもんね……。えぇ……どうしたらいいのかなぁ……」


 バリューが聴くと慌てるため敢えて口に出さなかったが、バザールの開催日もだいぶ差し迫ってきているのもまた事実ではある。

 それまでにどうにか会場へと忍び込み、誰にも察せられることなく女神を救出するすべはあるのか……。

 波止場で彼女が口喧嘩に明け暮れていた時も、ライトはずっと考えていたが、これといって特に良い案は――――。


「『なぁに、こんな時は大博打に身を委ねるのも一興だぜ?』」

「……………………は?」

「い、いや、さ。こんな時、レイジさんだったらこんなことを言うよねーって……そんなに睨まなくてもよくない!?」


 唐突に発せられた考えなしのような言葉にライトは困惑するも、少しばかり考え方を変えてみる。

 堅実かつ慎重に目的を達成するという策から、絶体絶命の状況を覆す起死回生の一手を打つという策に。


「まあ、賭博が好きだったあの人だから、言わんとすることはわかるが……あ」


 賭博は一度としてやったことがないライトだったが、生死の賭け事ならば戦時中は日常茶飯事だったことをふと思い出す。

 瞬間、この事態を突破する逆転の妙案が彼の脳裏に駆け巡った。


「何その、あ、って――――」

「それだ。その手に賭けるしかない!」

「わわっ! ゆ、揺さぶらないでよ! いい考えが浮かんだのは良かったと思うけど……!」


 散々考えて漸く辿り着いた解答に、興奮のあまりバリューの肩を掴み思いっきり前後に揺さぶる。

 口では文句を言うが、されるがままになっている彼女は、何処と無く恥ずかしいそうに首をすぼめていた。


「あ、悪いな。ただまあ、苦肉の策とはなるがそれは仕方無い。この手段が最も効果的で効率的だ」

「……なんか、嫌な予感がするんだけど」

「安心しろ、その予感は大当たりだ。何せ、お前は絶対に嫌がるだろうし、俺は危険な目に遭うだろうからな」

「いやいやいや! 安心できる要素なかったよね!?」

「だが、それ以外の策だと失敗するのは明白だ。危険を承知で確実性を取るか、不確実だが比較的安全な別策を取るか。さあ、どうする? ちなみに正答解は無いぞ」

「うぅぅぅぅ…………。わ、わかった。やればいいんでしょ! やれば! それで、何をすればいいの!?」

「そうだな……。まずは――――」


 思い浮かんだ逆転の発想を脳裏で反芻し、大胆不敵な笑みを浮かべる。


「バリュー、今からお前は奴隷商になれ」

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