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引きこもり勇者がダンジョンマスターになったら  作者: ニンニク07
最終章 神の家編
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二十一階層 足掻く愚者 

 黒川の提案した自分に協力すれば死んだ白雪を蘇らせるという甘言に乗せられ、俺、高木拓斗はクラスメイト達を裏切り、勇者の敵である黒川いやルシファー側についた。黒川の目的はこの世界の破壊、そして天界への復讐だ。天界を滅ぼせば自分は神となり何でもできる黒川のその言葉に俺は自分の人生の全てを賭けたのだ。


 しかし、あの時からずっと、果たしてこの道を進んでいいのかと、俺は自分の選択に迷うようになっていた。友達を裏切ってまで白雪を生き返らせた所で、果たして彼女は喜んでくれるのだろうか。俺の事を軽蔑するかもしれない。俺はそれが怖くて夜も眠れなかったからだ。


 一度裏切った以上もはや引き返すことはできない。それはよく分かっている。だが、王都で黒川の誘いを受けた時、誰にも相談もせず、一人でよく考えずに誘いに乗ってしまったのは事実だ。だからこそ、俺は自分の退路はすでに絶たれたという事実と白雪のために他の全てを見捨てる覚悟を己の胸に刻める機会を待ち望んでいた。


 そして、待ち望んでいたその機会がついにやってきた。あの津田が、かつては弱虫でクラスカースト最下位であった男が、圧倒的強さを身に着け、俺の元に来たのだ。もちろん津田の目的は、黒川に奪われたダンジョンの奪還だろう。俺の事も正直おまけくらいにしか考えていないはずだ。だが、津田はおまけ程度に考えていても俺は違う。


 俺は津田をもう一度倒す。最強の勇者と言っても過言ではない津田が死ねば、勇者側の勝ち目は限りなくゼロになり、俺はもう黒川に頼るしかなくなる。そうなれば、きっとこの迷いは消えさり、俺は白雪のためだけに、黒川のついていく覚悟を決めることができるそう確信していた。


 そして、ついに津田は俺が居を構える二十一階層に到達する。






 ガブリエルは何も語らなかった。しかし、最後に俺の名前を言って励ましてくれた。そして、〈貪欲〉によって彼女の力が流れ込んできた。それだけで、俺は彼女が何を伝えたかったのを少しだけ知り得た。俺は彼女から託された力を胸の内に仕舞い、高木が待つ二十一階層に辿りつく。


 二十一階層、奇しくもこの階層のフィールドは、以前アドラメレクと雌雄を決した神殿であった。古代ギリシャの建造物のように無数の白い柱が天井を支える空間を見て、俺は少しだけ昔を思い出しながら、正面に立っている悪魔のような風貌の男の方を見据えた。


「ここまで来たよ、高木」

「ああ、良く来た」


 普通に考えれば、侵入者に最終防衛線まで攻められているので、焦りを感じるはずだが、何故か高木は俺がこの場に来るのを待っていたかのような口ぶりであった。


「何かいう事はあるか?」

「……ない」


 何故俺達を裏切ったのかを問い詰めようとしたが、すげなく断られた。きっと言いたくない理由があるだろう。漫画でも裏切った奴は大抵、最後まで教えてくれない。なので、言葉で語りかけるのは止めることにして、俺は剣を構えた。


「じゃあ、とっとやるか!」

「ああ、賛成だ」


 俺の意見に賛成した高木は、背中から生えている一対の黒い翼を羽ばたかせ飛翔した。それが、戦いの開始の合図となった。





 お互いに放った上級魔法が空間を駆け巡り、大地を割るほどの拳と剣の一撃が神殿を何度も揺らした。激しい戦いだった。だが、両者共に互角の力を持っているはずにも関わらず、一方はボロボロでもう一方は無傷であった。


「ハァハァハァハァ……何故だ! 何故勝てない!!」


 俺は常に〈拒絶〉を発動させ、高木の攻撃を無傷で凌ぎ切った。対して高木は己の全てを込めて攻撃してきたのだろうが、俺の〈拒絶〉を破れずにいたため、体中が傷だらけである。


「くそっ、くそっ、くそ、こんなことがあっていいのか……何で、俺の攻撃が一切効かないんだよ!!」


 俺は、高木に俺の力を見せつけるために、〈拒絶〉を使用して完全勝利を目指してみたが、鉄壁の防御力を誇る〈拒絶〉は予想以上に高木の心を折ってしまったようだ。現に高木は地面に何度も拳をぶつけて己の非力さを嘆いている。


 結果的に見れば、満点と言っても過言ではない。しかし、一つだけ疑問が残った。それは高木が持つ、能力を無効化するアルカナ能力〈愚者〉がまるで機能していないことである。


 単に高木が使っていないという可能性もあるが、彼の体に触れると極僅かだが、前回戦った時と同じように魔力の減少を感じたので、使っていないという線は薄いだろう。


そうなると考えつくのは、高木の精神力が大幅に低下しているということしか考えられない。ガブリエル曰く、〈愚者〉の能力は能力者の精神力に比例して他者の能力や魔力を弱め、無効化するそうだ。以前戦った時は、俺の全能力を無効化するほどの精神力を誇っていたはずの高木だが、今の高木からはあの時ほどの精神力は戦闘中に感じられなかったため、この可能性が非常に高いだろう。


 先ほどの戦いも、気迫こそ凄かったが、何かに迷っているようなふしがいくつか見られた。何に迷っているかは知らないが、高木が悩みを抱え弱体化してるのは確かだ。


「高木、お前何を悩んでいる?」


 高木はもはや敵だ。恐らく誰も彼を擁護しないだろう。敵の心配などせずにとっと倒せと多くの人は思うはずだ。だが、それでも俺は知りたかった。あの時、俺に助けを求めて戦った時の高木の精神力は、俺が羨むほどの鋼のような心であったからだ。それがどうしてここまで弱くなるのかその理由が知りたかった。


「ふ、悩みか」


 今まで、苛立ちを周囲にぶちかましていた高木だが、俺の問いを聞くと一瞬だけ笑みをこぼし、こちらを見据え魔法を唱える。


「ネビィラ・ダーク・クロー!!」


 魔法の効果で、元々悪魔のように爪が長かった高木の右手の爪は、黒いオーラを纏うと一気にロングソード並みに伸びる。


 これだけの力の差があるにまだやるのかと俺は身構えたが、その後の高木の行動は俺の予想を遥かに超えていた。


「津田、お前の勝ちだ!!」


 そう言い放つと、高木は右手で自分の心臓の辺りを突き刺した。


「グハッ!」


 赤い血が飛び散った。恐らく自分で自分の心臓をつぶしたのだろう。悪魔の肉体を持つとはいえ心臓をつぶせば死は免れない。その証拠に高木の体は力を失ったのかのように地面に倒れた。


「高木、何てことを!」


 俺は慌てて高木に駆け寄る。倒すと決めていたが、まさか自決するとは思わなかった。それに一度敗れた高木にリベンジすることを密かに抱いていただけに、高木の行動はまるで勝ち逃げされたような気がして怒りにも似た感情も生まれた。


「高木……」


 近くに寄って、高木の容体を確認する。肉体が強靭な悪魔のものであるため、どうやら、まだ辛うじて息はあるようだが、長くは持たないだろう。


「ぐっ、そう辛そうな顔をするな津田。どちらにしろ迷っている今の俺では〈愚者〉は使いこなせない。戦いの結果は見えている。これで良かったんだ。」

「何がこれで良かっただ!!」


 俺は自決という選択を選んだ高木を心の底から侮蔑した。俺を倒して、引きこもりから引き摺り出してくれた恩人とも言える人物が自決という手段を取ったのが許せなかったからだ。


「俺は、お前が今まで倒してきた連中と違ってこのダンジョンのモンスターではないからフロアボスではない。この先に、小さな小屋がある。その小屋の中に一体のゴブリンがいる。そいつがフロアボスだ」


 手を震えながら、高木はどこまでも続く柱の森を指さした。しかし、そんなことはどうでも良かった。


「何故だ! 何故! こんなことを!」


 勝てないから諦めて死を選ぶなんてお前らしくないと言おうとしたが、高木は俺の言うことが分かっていたのか、喋るなと片手で制した。


「……俺はな、津田。黒川と取引したんだ。自分に協力すれば、白雪を生き返らせるという条件で……」


 二条白雪の遺体が王都の地下水道で見つかったことについては、帝都でリリア王女を会話した時に知っていたが、まさかそれを出しに黒川に協力していたとは夢にも思わなかった。しかし、願いを叶えてもらうなら何も悪魔に叶えてもらう必要はない。こっちには女神という心強いパトロンがいる。現にルシファー達を倒せば何でも願いを叶えてくれると言っていた。俺は女神に何故縋らなかったのかを尋ねる。すると高木は視線を逸らし笑う。


「ふん、女神か。タイミングの問題もあったが、地下水路であいつに取引を持ち掛けられた時に、聞かされたんだ。俺達の担任の正体が女神であることと、女神は俺達のことをチェス盤の上に駒くらいにしか思っていないことを。黒川は言っていたぜ、あの女神は必ず約束を反故にすると、ごみにも等しい人間の願いを叶えるはずがないと」


 そんなはずはないと言いかけたが、寸での所で止まった。確かにあの女神が素直に約束を守ってくれると断言できなかったからだ。


「昔から言うだろう。悪魔は契約をきちんと守ると、だから俺はルシファーに賭けたのさ。しかし、その後今日まですっと悩んでいたよ。好きな奴一人のために仲間を裏切った俺の選択は果たして正しかったかということを」


 俺は何も言い返せなかった。現にダンジョンを取り戻すために、全てを投げ捨てる覚悟でここまで来た。リリア王女の「あなたは最後の勇者なので死なれると困ります」という声を押し切って出て行ったのだ。俺の死はこの世界の滅亡とも直結している。それが分かっている上で行動しているからこそ、高木の自分の願いのために他人を蔑ろにするという考えが少しだけ理解できた。


「津田、ありがとう。お前という決して越えられない壁に直面して、俺は自分の間違いに気づいた。白雪は確かに大切な奴ではあるが生きている人間を犠牲にして、生き返っても白雪は喜ばないだろう。だからこれでよかったんだ」


 そう言うと、高木は血まみれの自分の胸指さした。


「どうやら、俺の体は思った以上に頑丈のようだ。だから早く止めを刺してくれ。そして、お前の持つ〈貪欲〉で俺の〈愚者〉を奪ってくれ、黒川との戦いには一つでも能力があるほうがいいだろう」

「しかし……」

「俺はもう人間ではない悪魔だ。死んでも力を失って魔界に強制送還されるだけだ。まあ、またあの戦いの日々を繰り返すことになると思うと少し億劫になるが仕方ない」


 高木の決意は固いようだ。俺は自分と彼の決心が鈍る前にと、自分の剣で高木の喉の辺りを貫いた。


「ぐっ……じゃあな、もし機会があったら、俺を魔界から召喚してくれ……」

「ああ、お前が俺を引きこもりから引き摺り出したように、いつか必ずお前を魔界から引きずり出してやる」


 俺の言葉に満足したのか、高木は笑顔のままこの世界を旅立っていった。同時に高木の魔力と〈愚者〉の能力が体の中に感じた。高木の能力の吸収が完了した後、俺は立ちあがり、この先にいるであろうラスボスに宣言をする。


「待っていろ、黒川。必ずお前を倒す」


 いよいよ、次の階層で黒川、いやルシファーと会いまみえる。俺は今までに倒していった全ての者達の思いを胸に秘め、先へ歩みだした。


できれば、今日中にもう一本投稿したいです。

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