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引きこもり勇者がダンジョンマスターになったら  作者: ニンニク07
最終章 神の家編
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三階層  女帝の支配

 初戦とも言える一階層におけるゴブリン軍団との戦いだが、俺の圧勝で終わった。


 当然と言えば、当然の結果だろう。何故なら俺の今の魔力量はあのルキフグスよりも上で、さらに多種多彩な魔法に、ベリアル並みの膂力と剣術まで備えている。いかにダンジョン産とは言え、ゴブリンに遅れを取るなどありえない。


 迫りくるゴブリンの群れを一蹴すると、フロアボスと思われるゴブリンキングを剣で斬り捨てた。


「……ふん、やはり、お前が、フロアボスだったか」


 フロアボスとは、各階層に一体だけいるモンスターで、そのフロアボスを倒すとダンジョンから脱出するか、次の階層へ進むことができる二つ扉が出現する。つまり全部のモンスターを相手にしなくてもフロアボスさえ倒せばいいわけだ。


 そして、この階のフロアボスはゴブリンキングだった。元々、俺はゴブイチという俺が最初のガチャから引いた普通のゴブリンをフロアボスにしていたが、やはりボスには相応しくないのか、黒川達に変更されていた。


 そして、俺はフロアボスであるゴブリンキングを倒したことによって出現した扉をくぐり次の階層に進む。




 扉の向こう、次の二階層のフィールドは、月灯りのみが照らし、一切遮蔽物がない草原(夜)であった。ちなみに、同じフィールドを設定することはできないので、今後の階層で闘技場と草原(夜)と出くわすことはもうない。


「「「「「ググルググルググ!!」」」」」

 

 俺がダンジョンマスターだった時と変更点は一切ないようで、広々とした草原には三百体を越すコボルト達とコボルトキングが待ち構えていた。一階層のゴブリン達と同様に目が虚ろであったが、元々獣が人化したような種族だからだろうか、犬のようなうなり声を上げている。


 そして、戦闘が始まるが、一階層と同じく俺の圧勝で終わる。ユニークモンスターは、予想通り強靭な脚力を持つコボルトキングである。確かにスピードは早かったが、それでも十分に目で追える速度であったため、カウンターを決めてあっさり勝利を納める。


 そもそも〈拒絶〉があるので、真正面からの攻撃では俺はダメージ一つ負わない。流石は最強の魔王の力と言ったところか、究極の守りと言って過言ではないだろう。


 コボルトキングはフロアボスでもあったので、倒したと同時に扉が現れた。まだ半数近くのコボルト達が残っていたが、扉が現れた以上相手にする必要がなかったので、俺は次の階層に進んだ。





 俺がダンジョンマスターだった時には、一階層はゴブリン、二階層はコボルト、そして三階層はオークの階であったので、次の三階層は、草原(昼)でオークの大群がいるだろうと予想していたが、見事に裏切られた。


 侵入した三階層のフィールドは、舞踏会場。西洋風の城の大広間のような空間で、天井にはいくつものシャングリラが部屋を照らしている。そして、数百人は入れるであろう広い室内の中心付近に、長い金色の髪に黒いドレスを着た美女、オリジン・ヴァンパイアのエリザベスが一人立っていた。


「久しぶりじゃの、元マスターよ」


 エリザベスは貴族のように優雅なお辞儀をしたので、俺も真似して一礼をする。


「うむ、元気そうでなによりじゃ、他の者達はお主がどうなったのか心配していた者もおったのでの」

「そうか、心配してくれていたのか、それはよかった」


 日本にいた時に俺の事を心配してくれていた者は皆無であった。それだけに嬉しかった。だが、他は心配してくれていたようだが、エリザベスは違った。


「まあ、正直言って妾にとってはお主がどうなって知ったことでないがの」

「む? どういうことだ!」

「簡単な話じゃ、妾達はアルカナ能力〈塔〉によって生み出されたダンジョンモンスター、故に忠誠を誓うべきは、塔の能力者であるダンジョンマスターただ一人。もはやダンジョンマスターではなくただの侵入者となった元マスターなどどうでもいいのじゃ」


 心底どうでもいいのだろう。エリザベスは面倒くさい顔をしながら、自分の考えを述べる。その姿に俺は少しショックを受けた。今まで俺に絡んでくる奴は多かったが、無関心なそぶりをみせるそぶりの奴が少なかったからであろう。


「エリザベス、一つ聞きたい。今のマスターである黒川と俺どっちがいい?」


 他人からの評価を聞くの正直怖いが、気になるので聞いてみた。そして、その問いに対してエリザベスは何やら失望したような顔で答えた。


「他人からの評価を一々気にするとは情けない奴だ。現マスターは、自分の野望のためにこの世界を滅ぼす気でいる。まあ世界を壊されたら妾達も困るのじゃがの。しかし、ダンジョンマスターにはそのくらいの気位があるべきじゃ。故に好きか嫌いかで言えば、お主よりも現マスターの方が幾分かましじゃ」

「……そうか」


 まあ、薄々分かっていたが、言葉にされると少しきついな。エリザベスの返答で涙は出なかったが、心にダメージを負った。


「では、そろそろ始めよう。お主を倒して妾はダンジョンモンスターの本懐を果たす! 貫け! ダーク・ジャベリン!!」


 エリザベスはそう言うと、一気に魔力を解放し、闇を帯びた槍を俺に向けて投げつけた。






「ふふふ、強いと思っていたが、まさかこれほどとは……」


 エリザベスはダンジョン内に五体しかいないユニークモンスターだ。故に当然、凄まじい魔力と多彩な魔法を有すため、戦闘能力は群を抜いている。だが、それほどの強さを持つ彼女も今の俺の敵ではなかった。


 観客がいたら、激しい戦いに見えただろう。だが、実際には一方的な戦いであった。エリザベスの放つ多彩な闇魔法は確かにすごく、ダンジョンの外に目を向けてもこれほど闇魔法に長けた者はいないと思われるほどである。


 しかし、相手が悪い。〈力〉によって身体能力や魔力を一時的にを倍化している俺からすれば容易に回避もしくは剣で防御でき、反対に俺の魔法や剣戟はエリザベスを遥かに上回った。


 唯一俺が警戒したのは、エリザベスに与えたアルカナ能力〈女帝〉だ。元の能力者であった内田さんがやったように他人を操れるこの能力は十分脅威と呼べるモノであったため、俺は能力の発動に必要な動作である髪の毛を飛ばすという事にだけ細心の注意を払って戦闘をしていた。


 そして、戦いの合間を縫ってエリザベスは何度か自身の黄金色の髪の毛を針のように硬化させ飛ばしてきたが、俺は〈拒絶〉を使い防御したため俺を支配するには至らなかった。


「ハアハァハァ……」


 全ての攻撃を防がれた上に、俺の攻撃で足をやられ立つことも難しそうなエリザベスを俺は見下ろす。エリザベスはどこか諦めたような顔をしながら言う。


「全く、単純な強さだけなら現マスター達に匹敵するかもしれんな……だが、強さだけではあ奴らには勝てんぞ」


 エリザベスが何を言いたいのか俺はすぐに理解できた。


「戦闘力だけではなく、心の強さ精神力が必要だというのだろう?」

「そうじゃ、現マスターは妾の〈女帝〉を食らってもピンピンしておった。お主も最低でも妾の支配に屈しない強い心がなければ、現マスターには勝てない」


 これは挑発だ。エリザベスは戦いには負けたが、精神面では負けていないと言っている。そして、自分よりも精神力が強いことを示せと暗に言ってきている。


 俺は右手に握りしめているガブリエル作成のロングソードを見つめた。もはや戦う力をほとんど失い地に伏すエリザベスにこの剣を振るえば、戦いは終わり次の階層への扉が姿を現す。戦いに決着がついた以上エリザベスに付き合う必要はないはずだ。


 だが、俺の中の何かが叫んでいた。心も強くなったことを示せと、黒川が通った道を自分も通れと


 しばらくの間、悩んだ末に俺は決断した。


「エリザベス、〈女帝〉を使え、俺がお前よりも強くなったことを見せてやる!」


 俺のこの一言を聞いて一瞬エリザベスの目が点になり間抜け顔になったが、すぐに真剣な顔になった。


「いいのか? もし負けたら、お主は妾もしくは現マスターの奴隷に成り下がるぞ!」


 奴隷と聞いて少しビビったが、一度言った以上撤回するわけにはいかない。俺は小さく頷いた。


「分かった。では行くぞ!!」


 エリザベスは自身の頭から黄金色の髪の毛を一本抜く、まるで糸のようにしなっていた髪の毛は抜かれた瞬間に硬質化し、固い針のようになる。そして、エリザベスはその針を俺の腹の部分を目掛けて投げつけた。


 俺は防御結界、魔力による皮膚の強化、〈拒絶〉を全て解きエリザベスの支配を受け入れた。


 針が俺の体に刺さる。痛みはない。だが、代わりに心の中に自分の心を塗りつぶしてしまうかのような、他人の感情のようなモノが流れこんできた。


「うううううっつううううう……」


 心の中に侵入してくるエリザベスの支配に俺は全力で集中して抗う。心の中では未だかつて経験したことのない死闘を演じる。だが、拮抗していた戦いは時間が経つにつれ厳しいものへとなっていく。


 もうだめかもしれない。このままでは負けるかもしれないとそういったマイナスの思考が生まれ、さらに劣勢に追い込めれていく。


 そして、後少しで塗りつぶされる。そう感じた時、俺の脳裏にまるで走馬灯のようにこれまでの出来事が早送りで脳裏によぎった。


 日本での辛い日々、この世界に来てからの辛くても楽しかった日々、そういった記憶を思い出す。やがて記憶の映像が終了すると俺は自分の心の中にまるで太陽のように輝く強い意思のような力を感じ、力強く叫んでいた。


 負けるな!諦めるな! 勇気を持って闇を祓え!と


 その意思は果たして本当に自分のものなのか? 疑問はあるが、この意思が言うように負けるわけにはいかない何故なら走馬灯を見た時に俺は思い出したからだ。


「うおおおおおおおお!!」


 気合を入れ、自分の意識を精神世界から現実世界に戻した俺は、まるで激流を逆らうようにエリザベスの支配を押し退け、自身の腹に刺さっているエリザベスの支配の元である髪の毛を抜いた。





「「ハアハァハァハァハァ」」


 エリザベスも全力を出し切ったのであろう。二人して息を荒げ、床に転がり落ちた。しばらくの経った頃に呼吸が落ち着いて、エリザベスが尋ねてきた。


「ハァハァ……勝ったと思った瞬間に、逆点された。何故負ける寸前だったお主が勝てたのじゃ?」


 俺は立ちあがり、エリザベスの胸に剣を当てて感じた事をありのまま語った。


「負けると思った瞬間に、走馬灯のように今までの記憶が蘇り、その記憶を見て初めて、これまでの人生は辛くもあり楽しいものであったと知ることができた。そして、それを知った瞬間に失いたくないという気持ちと大切な仲間であるお前達を取り戻したという気持ちが生まれた。ただでさえ黒川にお前達を奪われたんだ。その気持ちは非常に強かったんだろう。お前の支配を打ち破るくらいに……」


 その言葉を聞き、エリザベスは目を閉じ、しばし無言を貫いたが、意を決したかのように目を力強く開けると同時に上半身を起こした。


「ふん、妾には勝ったが、まだその程度では現マスターには勝てんぞ! だが、妾達を取り戻したいと強く願うなら、先へ進み、他の者達と再会し戦うことによって、妾達を思う気持ちが強さを増し、まだ粗削りなお主の心は宝石のように輝くかもしれん……」


 そして、両手を広げて早く終わらせろと急かした。なので、俺は最後の質問と共にエリザベスの胸に剣を突きさした。


「では、俺が黒川に勝ったら、ダンジョンマスター関係なく俺をマスターと認めてくれるか?」


 返答はなかったが、エリザベスは俺の最後の問いに対し、小さく笑みをこぼすと光の粒子となり、扉へと姿を変えた。


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