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引きこもり勇者がダンジョンマスターになったら  作者: ニンニク07
最終章 神の家編
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一階層 始まりの魔術師

 帝都にある在ローレンス王国大使館で目を覚ました二日後、俺は、身支度を整え、リリア王女と数人の使用人達に別れの挨拶を済まし、お世話になった大使館を出た。


 人が行きかう大通りを歩きながら、俺は自分が持っている能力についておさらいすることにした。



アルカナ能力〈隠者〉 物体や魔法の透明化。

アルカナ能力〈力〉  自身の持つあらゆる力を倍化する。

クリフォト能力〈貪欲〉殺した相手の能力を奪う。 

クリフォト能力〈拒絶〉認識できる攻撃を無効化する。



 これら四つの能力に加え、アルカナ能力〈世界〉がある。アルカナ能力〈世界〉は少し特殊な能力だ。

何故なら地形変化、時間停止、空間転移という三つの能力があるからだ。


 地形変化と時間停止はアルミの戦いで、すでにものにしている。つまり残りは空間転移のみであるが、その空間転移も、もうできるのではないかと考えた俺は、昨日の内に取得することができた。


これで決戦を前に、アルカナ能力〈世界〉が持つ、地形変化、時間停止、空間転移という魔法をも超える三つの力を手にしたわけだ。無敵とは言わないが、ルシファーに挑んでも勝機はあるだろう。


 


 大通りから外れ暗い路地裏に移動した俺は、今から空間転移を使い、帝都から馬車で二週間以上かかる場所にある塔まで一気に転移するために、心の中で塔の入口を強く念じ〈世界〉の能力の一つ空間転移を発動させる。


 集中力が高まり、目的地の景色が脳裏に浮かんできた。本当は塔の最上階に一気に行きたいが、塔の中は一種の隔絶空間であるので、直接中に転移するのは無理であるため、仕方なく入口を思い浮かべている。


 そして、塔への長距離転移は帝都での実験と同じように一瞬にして終わる。人の営みを感じさせる帝都の街並みは瞬く間に消え去り、代わりに脳裏に浮かんだ懐かしき白亜の塔が姿を現す。


「よし、とりあえず成功か……」


 転移に成功した俺はまず自分の状態を確認した。長距離を転移したためか、一割ほどの魔力を失っていたが、あの距離の移動の対価を考えれば安いものだと思う。


 次に塔の状況を確認する。元々二十一階層分の高さであった塔だが、現在は二階層追加され二十三階層分の高さになっていた。


「なるほど拡張したか」 


 状況をある程度把握した俺は、次にどうするのかを悩んだ。そして、すぐに塔に侵入することにした。何故なら、突然やって来て向こうも驚いているはずだからだ。折角、先手を取っているのでそれを有効に活用しようと考えたわけだ。


「約一か月ぶりか、随分と懐かしいものだな」


 俺は、懐かしの住まいに対し、ただいまと呟きながら入口の扉を開けダンジョン内に侵入した。







 扉の向こう、一階層のレイアウトは俺が出て行った時と同じく、古代ローマのコロッセオを彷彿させる闘技場であった。


 一階層に設置したこの闘技場は高木や佐伯達と戦った因縁の場所でもある。俺はかつての戦いを思い出し、しばらくの間、感慨に耽りたかったが、残念ながらその時間はなさそうであった。何故なら、舞台上には、ゴブリンキングを始めとする三百体近いゴブリンの大群が戦闘準備を整え、待ち構えていたからだ。


 しかし様子がおかしかった。どのゴブリンも目が虚ろであったのだ。まるでゾンビのようである。


 ゾンビのようであるとは言え、俺はいつ向こうが攻めてきてもいいように身構える。しかし、どうやら向こうはすぐに攻めてくる事はないようだ。その証拠に三匹のゴブリンが、どこからかスピーカーのような物を持ってきて俺の前に置いた。


「……あれは確か」


 ゴブリン達が持ってきたスピーカーに心当たりがある。確かマイクとスピーカーのセットになっていて、1000ポイントで購入できるアイテムだ。マイクで喋った事を、スピーカーで流すだけのアイテムだが、マイクとスピーカーが違う階層であっても問題なく機能するため、最上階の通信室にいながら、各階に連絡するための手段としていくつか購入したものだ。


「なるほど、つまりこれから聞くことになる声の主は最上階からこの様子を見ているわけだ」

『ご名答だ』


 どうやら俺の考えが当たったらしく、スピーカーから聞き慣れた声が聞こえくる。


「久しぶりだな、高木」

『お前も元気そうで何よりだ。津田』


 声の主は裏切りの勇者である高木拓斗であった。高木には色々と言いたいことはあるが、姿を現さないのであれば、ここで話しても意味がないだろう。向こうも同じ考えのようで再会の挨拶は後に回し、すぐに本題に入った。


『突然来て少々ビックリしたが、改めまして、我々のダンジョンにようこそ! 津田』


 俺から奪ったダンジョンの癖によくも我々と言えたものだ。と思ったが、一々かみついていたら、日が暮れそうなので、見逃す事にする。


『さて、現在、黒川は二十二階層でエンド・ストーンの解放で手が一杯のため、代わりに俺がダンジョン防衛の指揮を任された。なので、お前にいい事を教えてやろう』


 いい事?一体何だ?


『気付いていると思うが、目の前のゴブリンからは自らの意志を感じないだろう?黒川がモンスター達に自主性を捨てろと命令したおかげで、高位モンスターと一部のモンスターを除き、ダンジョン内のモンスターのほとんどがゾンビのようになってしまったのだ』


 なるほど、さっきから目の前のゴブリン達の目が虚ろなわけだ。とは言え、かつての仲間だからと言って手加減する気は毛頭にない。倒されたところで一時間もすればダンジョンの力で復活するからだ。


『そして、俺は現在二十一層から、お前の動きを常に監視している。つまりお前はこれから一人で、俺達のいる上層まで昇ってくる必要があるのだが、その事は理解しているよな?』


 どうせこの状況も監視しているだろう。なので、俺は声に出さずに小さく頷いた。


『ではとっと来い! それと最後に、このダンジョンのレイアウトは俺が一部変更した、覚えておけ!』


 高木が言うと、マイクが切れる音がした。つまり、込み入った話をしたいなら自分のとこまで、早く上がってこいと言う訳か。面白い。


 ここは俺が作ったダンジョンだ。多少変更しようが、俺を止めることはできない事ということを思い知らせてやる。


 そのためには、まず目の前のゴブリンの群れを駆逐し、フロアボスを倒す必要がある。だが、その前にダンジョンモンスター達の状況を確認しておこうか。


「お前達!! 俺の事は分かるか!」


 俺は大声でゴブリン達に問てみる。すると、獣の叫びにも似た叫びが返ってきた。


「「「「「「ぐぐぐぐっぐぐぐぐぐぐ!!!!」」」」」」」


 何を言っているのかは分からんが、敵意を持っていることは理解できる。どうせ死んでも蘇るんだとっとやってしまおうと行動しようとした矢先に、ゴブリンキングが一人で前に出てきた。


「これは、元マスター、よく戻られました」

「お前は大丈夫なのか、ゴブリンキング?」

「はい、銀卵以下のモンスターは現マスターの命令で自由意思を失いましたが、金卵以上は何とか対抗できました。ですが……」

「黒川の命令には逆らえないのもあるのか……」


 俺の予想が当たり、ゴブリンキングは頷く。


「はい、現マスターの最重要命令は侵入者を抹殺せよです。この命令に関して強い拘束力がありますので、ダンジョン内にいる全ての者が逆らえませんでした」


 なるほど、大体把握した。モンスター達は、元マスターとは言え俺に一切手加減できないわけか。


「状況は分かった。俺が黒川を倒してお前達を解放してやる。だからとっとかかって来い!!」

「「「「「「「ぐぐぐおおおおおおおおお!!!」」」」」」


 俺のその言葉が開戦ののろしとなった。ゾンビのような声を上げ、三百近いゴブリンの群れが同時に襲い掛かった。


 こうして最後の戦いの幕は切って落とされた。



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