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引きこもり勇者がダンジョンマスターになったら  作者: ニンニク07
第六章  冒険者編
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ベリアル

「何だお前達は!」


 もう少しでベリアルの元へ行けると思ったが、途中で、一人の男性冒険者に呼び止められてしまう。


「私達も冒険者です。あいつと戦います」


 とりあえず、決意に満ちた少女を装ってみたが、どうやら逆効果みたいだ。


「いけない! その歳でBランクになったのは凄いが、だからこそ、こんな所で死んではいけない!あいつには近づくな!!」


 男が指す方には、全てを諦めて武器まで捨てていた冒険者達を容赦なく吹き飛ばすベリアルがいた。もう四分の一近い冒険者が犠牲になっただろうか。被害を食い止めるために、早く戦わないと思い、止む負えず強行突破をしようかと思った矢先、背後から冒険者の一団が現れる。


「こ、これは司令官殿!」


 崖が崩落した時に、ちらっと姿を見た第三軍の司令官カリヤという男とその側近達だった。


「どうした?何故子供がこんな場所にいる?」


 司令官は開口一番に、俺達について尋ねた。だが、俺が言い出す前に先ほど呼び止めた男が司令官に状況解説をする。


「はっ、この子達があれと戦うと申しましたので、思いとどまるように進言しておりました」


 その言葉を聞き、司令官はそうかと呟き、目を閉じる。


 しばらくすると、強面のその顔に似つかない優しい顔をして言う。


「お嬢さん達は今の内に逃げなさい。我々が時間を稼ぐ、大して時間を稼げないかもしれないが、その間できるだけ遠くに逃げるんだ!」


 最近罵倒されてばかりだったので、優しくされると逆に困る。だが、それならなおさら引けない。彼らでは奴に勝てないが、俺達なら勝機があるからだ。


「ありがとうございます。司令官、でも、私達行きます!!!」

「あっ、こら、待て!!!」


 俺が走りだしたのを見て、クーアンとサクラもついて来た。俺達は小柄な体形を生かして、一気に人混みをくぐり抜けて、ついにベリアルの前にたどり着く。


「何だ貴様ら!?何故ガキがここにいる?」


 見た目が少女なだけに、どうやら第一印象で好感を得ることはできなかったようだ。ベリアルは少し蔑んだ目をしている。


「おい、何で子供が!」

「やめろベリアル!子供に手を出すんじゃない!!」


 さっきまで、完全に戦意をなくしていた冒険者達も子供が犠牲になるのは耐えられないのか、慌てて武器を取り、ベリアルに挑もうとしていた。冒険者達がやる気を出して満足したのか、ベリアルは嬉しそうに、俺に向かって剣を振り下ろす。


「じゃあ、子供の死に涙して、復讐心でも燃やせぇーーー!!」

「「「「やめろーーーー!」」」」


 冒険者達の痛切の叫びとベリアルの笑い声が響く。


 一切の容赦が見られないまま、振り下ろされる巨大なロングソードが俺の脳天に当たる直前で、俺は剣を構えて防いだ。


「「「「何!?」」」」


 ベリアルと冒険者、双方から驚きの声が聞こえてきた。当然だ。今まで防ぐこともできずに冒険者達は一撃でバラバラになっていたのだ。その攻撃を幼い少女が真正面から受け止めてという事実は敵味方の両方に大きな衝撃を与えただろう。


 ベリアルは一瞬、何故防がれたのか理解できない様子であったが、ならもう一度斬ればいいと、再び剣を振りかぶる。


「ふむ、俺にも手心というモノがあるようだ。では、次は本気で行くぞ!!」


 いや、本気で行かれると困る。現在、俺はアルカナ能力〈力〉を発動させているため、全能力が倍化している。そのため、肉体と魔力ではベリアルを少しだけ上回っていると思うが、これ以上強く打ち付けられると体ではなく、剣の方が持たない可能性がある。


 俺が使っている剣は、安い市販の剣をガブリエルが強化魔法で鍛え上げたものだ。そのため、見た目はこそは、ただの剣だが、切れ味は聖剣並みだという言う。だが、ベースは市販の剣のため耐久性という限界があるだろう。


「クーアン!!」

「オッケイなの! 食らえ!! 炎柱!!」


 クーアンが叫ぶと、明らかに油断しているベリアルの足元から天まで届くかのような巨大な火柱が吹き荒れ、ベリアルを飲み込む。


「凄い炎だな!クーアン」

「うん!流石に死んだと思うよ!」


 これだけの炎を浴びれば鎧の中は灼熱地獄だろう。俺達は勝ったもしくはかなりのダメージを与えたと思ったが、その確信は炎の中から聞こえてきた笑い声によって消される。


「ふっっふふふふふふふ、ガキの癖にやりおる。どれ少し本気を出すか!」


 火柱の中から、まるで何一つダメージは受けていないという口ぶりで、黒い鎧が姿を現す。


「!? 馬鹿な! 熱くないのか!」

「クーアンの攻撃が効かないの!?」


 ショックを受ける俺達に対して、ベリアルは余裕の態度を崩さずに自身の正体を明かす。


「特別にハンデというモノをくれてやろう。これを見るがいい!」


 ベリアルは、頭のヘルムを外す。どんな素顔があるのかと気になって見たが、中は何と空っぽだった。


「これは!? まさかリビングアーマーか!」

「そうだ! よく知っているな。俺様は肉体を持たない悪魔。肉体を持たない俺達悪魔がこの世界に存在するためには肉の器が必要だが、俺様は受肉に際して肉体ではなく、この甲冑に憑依したのだ!!」


 これは想定外だ。肉体であれば心臓や頭部などの生命活動が停止する急所を突けば大抵殺せるのだが、モノが相手ではどうすればどうすればいいのかさっぱり分からない。


 本当にどうすればいいのか分からないと、迷っていると、何と驚くことに向こうから倒し方を教えてくれた。


「ウィハッッハーー!! そう難しそうな顔をするな! 俺様の倒し方は簡単だ!」


 そう言うと、ベリアルは手に持っていたヘルムの内側を見せる。ヘルムの内側も当然空っぽだが、ヘルムの頂点の部分に青白く光る魔法陣のような物が刻まれている。


「この魔法陣が俺様の魂をこの世界につなぎとめている核だ。つまりこれを壊せば、お前達の勝ちだ!!」


 どこかで聞いたことある設定だと思ったが、すぐに頭の隅に投げた。


 後、余りにも親切過ぎるため、罠かと疑ってしまうが、ベリアルの豪胆な性格からしてとても罠だとは思えなかった。


「さあ、俺様の弱点は教えたぞ! 死力を尽くして来るがいい! そして俺様を楽しませろ!!」


 こいつはあれだ。いわゆる戦闘狂だ。そう確信した俺は、クーアンと共に戦闘を開始しようとする。だが、その前に、ベリアルが油断している隙を突いてサクラが動いた。


「じゃあ、とっと殺してあげますよ!」

「!?」


 サクラはアルカナ能力〈死神〉を発動させ、一瞬にしてベリアルの背後に周りこむと、今も余裕な態度のまま片手で回転させていたヘルムの内側を目掛けて鋭い突きを放つ。


 決まったと思ったが、流石に無理だった。意表を突くことには成功したが、後少しで回避されてしまう。

 

「ちっ、しぶといですね」


 攻撃を外されたサクラ苦い顔をしたが、反対にベリアルからは凄く嬉しそうな声が聞こえてくる。


「ふ~、少し危なかったな。だが、それでいい、己の命の危機を感じて初めて戦いになるのだからなあ!」


 ベリアルはヘルムを被り直すと武器を構える。その姿を見て、俺達も気合を入れ直してベリアルに挑むのであった。






「なあ、これはどういうことだ?」

「分からない……でもあの子達が、あの怪物と互角に張り合っているのは確かだ」


 死を待つばかりだった冒険者達を救ったのは年端もいかない少女達だった。三対一とは言えあの怪物相手に明らかに互角以上に渡り合っている少女達の戦う姿を見て、その戦いを見守っていた者達は唖然とした表情で戦いを見守っている。


「か、か、勝てるのか」


 誰かが呟く。だが、その返答はない。先ほどのAランク冒険者達の末路のように希望を持てばその分失った時の絶望が大きいので、皆あえて期待しないようになってしまっていたのだ。そのため、誰一人として少女達に声援を送らない。しかし、それでも心の中で祈り続けていた。


((((((頼む、勝ってくれ!)))))


 と。





 谷間からバベル達の戦いを見ていたセレンの冒険者は、驚愕の余り言葉すら出せなかった。


 初めは、戦いも知らない貴族のガキが、身の程知らずにも無謀な突撃をしたと笑ったが、蓋を開けるとAランク冒険者ですら瞬殺したあの怪物相手に互角の戦いを繰り広げている。


 しばらくの間は、どの冒険者達も、散々自分達が馬鹿にしていた奴らが、自分達よりも遥かに格上だったという事実が認めらず、呆然とするしかなかったが、目の前で激闘をしている姿を見ては現実を受け入れるしかない。


 だが、そうなると自分達は、すでにAランク冒険者を遥かに超す強さを持ち、将来は確実に英雄と呼ばれるであろう少女達を誹謗中傷した愚かな冒険者達として世界中から笑われ、歴史にまで名を遺すかもしれない。


 一人の冒険者がその可能性があると本能的に気づき、罪の意識から逃れるために行動を起こす。


「お、おい、だ、誰だよ。あいつらが貴族のコネでBランクに昇格したと言ったのは……」


 その冒険者の呟きを聞き、皆、自分達が置かれている危機的状況に気付く。このままでは、自分の立場が危うい事を自覚した冒険者達は、最初にバベル達を中傷した者達、すなわちエメラルドの面々を睨む。


「わ、私じゃない!」

「そ、そうよ、私でもない! 最初に言っていたのはリーダーよ!!」


 周囲の視線に耐えられなくなったエメラルドの女性冒険者達は全ての罪を自分達のリーダーイリンに擦り付ける。


「えっ、え、私? だって、ほら! みんな言っていたじゃない、あの子達は、違う、あんなに可愛い子が強いはずない! きっと何かの間違いよ!」


 バベル達の強さを未だに受け入れられないでいたイリンは、極度の混乱状態に陥る。


「強くて可愛いなんてずるい。なんで、女神様は、あの子達にあんなにも祝福するの、絶対おかしいわ、いや、そんな事ない。私の方が絶対可愛いもん!!」


 イリンの言葉もはや支離滅裂で、何を言っているのか他の冒険者達は理解できない。しかし、何となく理由は察することことはできた。


「いや、でも、そう! そうよ! カトレアよ! カトレアが言っていたじゃない。あの子達は将来絶対美人になるから、早い内に潰そうって!」


 混乱状態のイリンが自己防衛のために必死になって紡いだ言葉は、仲が良かったエメラルドの絆に亀裂を与える。


「ち、ちょっと、リーダーそれはない、あんただって、いや、アルネとエミが最初に言っていたわ」

「えっ、カトレア、何を言っているの? 私じゃない!! 私じゃないもん!!」

「そうよカトレア、私じゃないわ! むしろ私だけはあの子達と仲良くしようと言ったわ」

「早くしてよ!!  このままじゃ、私が悪者にされちゃうじゃない!!!」


 誰が最初かで言い争いを始めたエメラルドの女性達、口論は激しさを増し、やがて醜い取っ組み合いを始める。


 この愚かな戦いを見ていた他の冒険者達にとって、誰が悪いかなど、もはやどうでも良かった。エメラルドという生贄を手にしたセレンの冒険者達は少しだけ安堵し、自分達は大丈夫だという奇妙な優越感に浸る。


 だが、生贄を捧げようと彼らの愚行は結局歴史に名を遺し、冒険者の街として名高いセレンの権威は大きく失墜することになるのだが、バベル達には関係のないことだった。

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