クエスト!! 前編
「おい、あれを見てみろ!」
「何だよ、ルーク」
「何だ?」
ギルドホールで酒を飲みながら暇をつぶしていたルークという青年は、カウンターで説明を受けていた新人と思われる三人の少女を指さした。
「なかなかの美少女じゃないか」
「……確かに美少女だが、そのうち二人はまだガキだぜ。獣人は珍しいが……」
「年長者っぽい奴も身なりが良い、きっと貴族だろうな」
このルークと呼ばれる青年と一緒にいるアンバーとニケルという青年は、冒険者歴一年のひよっこだ。常に安全を意識して危険を冒さないため、ベテラン冒険者から使えない新人と揶揄されている枠組に入るが、過去にオークを倒したことがあったので、その新人枠の中から見れば、マシに見えられていた。だが、それは本当に幸運に恵まれていた出来事で、別のパーティーが倒し損ね、弱ったオークの群れを一方的に倒したに過ぎない。
だが、ルーク達はそのことに気付かずに自分達の手でオークを倒したと勘違いしていたばかりか、あれがオークの実力だと勘違いさえしていた。だが、当然、ルーク達も周囲もその勘違いには気付かない。なので、ベテランから見れば大したことないが、新人から見れば偉業と言ってもいいことを成し遂げたルーク達はオークを倒して以来、大いに調子に乗っていた。
そして、調子に乗ったルーク達の次の目標は強さや名声ではなく女だった。現にベテラン冒険者には女を侍らせている者もいるし、そもそもルーク達が冒険者になったのも金持ち冒険者になって酒と女の日々を謳歌したいからであった。
なので、オークを倒して調子に乗っていたルーク達は自分達の事を褒めたたえるであろう女性新人冒険者に狙いを定めていた。そして、お近づきになった女性冒険者をゲットするという算段だったのだ。
ルークは仲間であるアンバーとニケルと共に少女達の値踏みをする。
「俺はあいつらとても良いと思う。特に年長者のセミロングの黒髪の少女はいい線言っているぜ」
下卑た顔で少女を見るルークの顔にちょっと引きつつも、アンバー達もまんざらではない顔だった。
「じゃあ行くか。俺はあの獣人だ!」
「俺は残った少女だな」
二人の同意を得てルークは二人に告げた。
「ああ、あの二人も数年経てば凄い美少女になるぜ。俺のターゲットは今でもいけるが、ともかく今の内に手を付けておこうぜ!」
こうしてルーク達は席を立ち、クエストボードを眺めていた少女達の元へ向かった。
「どれがいいかな?」
冒険者登録を済ませた俺達は、早速クエストボードを見て、何かいいクエストはないかと探した。
「これなんかどうですか?」
難易度 二つ星
依頼内容 鹿三頭分の毛皮の納品
報酬 6000ワイア
サクラが選んだのは、鹿の毛皮を納品するクエストだ。鹿は魔物ではないので、当然戦闘力はない。ただの狩りになるが、報酬から見ても悪くはない。
「ねえ、ねえ、マスターこれは?」
難易度 五つ星
依頼内容 ユニークモンスター〈グランド・ドラゴン〉の討伐
報酬 1000万ワイア
「……はぁ~、クーアン、さっきの話聞いていなかったのですか?Cランク冒険者である私達は一つ星か二つ星のクエストしか受けられないんですよ」
「でも、一つ星も二つ星もどれもつまらないものしかないもん!」
駄々をこねるクーアンを呆れた顔でなだめるサクラ。だが、クーアンの言い分にも一理ある。魔王すら倒せる俺達から見れば、一つ星と二つ星のクエストは物足りないというレベルではない。
さて、どうするか。いっそのこと、ここで暴れて俺達の力を見せつけてやろうかと思った矢先、ふい声を掛けられた。
「ねえ、ねえ、君達新人だよね?よかったら俺達が色々と教えてあげようか?」
俺達に声を掛けてきたのは二十歳くらいの三人組男冒険者だった。そのうちのリーダーと思しき男が女に飢えたような目で語りかけてきた。
「俺の名前はルークっていうんだ。俺達もCランクなんだが、Cランク冒険者の中では結構強い冒険者なんだぜ!君達見た所素人っぽいから、慣れるまで色々と教えてあげようと思うんだがどうかな?」
わお!見事なテンプレだ。そして、俺でも一目で分かる、こいつらが雑魚ということが。クーアンとサクラも男の強さを即座に看破して胡散臭そうな目で見つめていた。
「ねえ、どうかな?色々といい事一杯教えてやるぜ?」
ルークという優男は俺の肩に手を回しながら、ナンパして女を落とす男のような声で耳元で囁いた。
ひいいいい!!と全身に寒気を感じた。どうやらこの男は俺に対して好意を抱いているようだ。まあ今の俺の見た目は大天使のお墨付きがあるくらいの美少女だ。そこらの男の性欲を刺激させて仕方ないだろう。
他の二人も、サクラ達とどうにか仲良くなろうと会話を試みているようだ。もしかして、こいつらロリコンか?
ルークという男の下卑た目に晒されて不快感を抱いたが、さて、どうしようか?ここで痴漢とでも叫ぶのも一つの手だが、冒険者のノウハウを見てみたいという気持ちもあった。なので、折角の機会なので、承諾することにした。
「じゃあ、お願いします!私の名前はバベルと言います。こっちの二人が仲間のサクラとクーアンです」
「お願いします」
「クーアンだよ」
俺はできるだけ少女のような口調で答えた。男口調で話して周りに変な目見られるよりはましだと判断したからだ。後、単にこの方が面白そうという考えもあった。
「よっしゃ!!さっきも言ったが俺の名前はルークで、こいつはアンバーで、こいつがニケルだ!」
「アンバーだ!よろしく!」
「ニケルだ!」
見た感じルークが剣士で、盾と剣を持っているアンバーが壁役、杖を持っているアンバーが魔法使いだろうか?中々バランスの良いパーティーだと思った。その後、お互い軽く自己紹介を済ましたところで、ルークはクエストボードを物色し、すぐに一つのクエストを選び抜いた。
「オッケイ!ではクエストこれにしよう!!」
俺の了承に喜んだルークが選んだクエストは次のようなものだった。
難易度 二つ星
依頼内容 カビ村近郊に現れたオーク三頭の討伐
報酬 12000ワイア
悪くないな、あれだけ沢山張られていたクエストボードからすぐに好条件のクエストを見つけてくるとは、やはり経験者は違うな。
「ガビ村まで、ここから歩いて二時間くらいの距離だ。今は正午くらいだから、今すぐ出ていけば今日中に片がつくから、今すぐ行こうか!」
この申し出は、早い所Bランクに上がりたい俺達に取ってもちょうど良かった。俺は二つ返事で答えると、男達と共にカウンターへ行き、クエストを受注しすぐに街を出た。
「あいつらちょろいな」
ガビ村への道中、ルーク達三人は先行して歩いて、後ろからついて来る少女達に聞こえないようにひそひそと話し出した。
「ちょろいのは、あの黒髪の貴族な奴だけで、他の二人は俺達とはまだ距離を置いているぜ」
「アンバーの言う通りだぜルーク、特にあの獣人の子なんか、俺に見向きもしねえ」
二人の愚痴を聞いたルークは笑いながら、小さくを声を出した。
「はっはっはっ、それはお前達に女を落とす才能がないからだよ。見ていろ俺はこのクエストであのバベルって子を落としてやる!」
「じゃあ、できなかったら、今日はお前の驕りな!」
「よし!それでいいだろう!」
先頭を行く男達は愉快な気分で先を歩いた。
「マスター何故あんな雑魚と一緒にクエストに行くことにしたんですか?」
「あの人達よりもクーアン達の方が百倍強いよ!」
「!?……しぃーーー声がデカい!!」
ルーク達の後を歩く俺達だが、突然サクラとクーアンが大声を出したので、俺は慌てて二人の口を塞いだ。
「!?……どうかしたかお前達?」
「大丈夫です。ご心配なく!」
ルーク達は突然、声を出したクーアン達に反応したが、喋った内容までは聞こえてなかったようだ。俺は前方の三人に聞こえないようにクーアン達に説明した。
「いいか、力は俺達の方が強いかもしれないが、俺達には冒険者としての知識が掛けている。そういった知識をあいつらの行動から盗んでいくのだ」
「……なるほど、分かりました」
「クーアンはよく分からない!雑魚から学ぶことなんてないと思う!」
サクラは物分かりが良かったが、クーアンは違った。だが、クーアンの言い分にも一理ある。さっきから、後ろにいるこちらをちらちら見ながら、俺達を舐め回すように見るルーク達から果たして学べるものがあるのかと不安になってきたからだ。
「まあ、見た目はダメだけど、実際戦ってみたら凄いなんてことは良くあるだろう。あいつらもそのタイプかもしれない」
俺は二人と自分にそう言い聞かせながら、ルーク達の後を追った。




