女神と教師
藤原京香、僕達三年三組の担任だ。そして、僕が日本にいた時に僕に対するいじめを黙認していた人物でもある。新任の教師だからいじめ問題に関わりたくないと今までは思っていたが、もし、先生が女神であったならば、神でありながらいじめを容認したということになる。返答次第によっては僕は先生を神とは認めない、そう心に決めた。
「あの~本当に藤原先生なんですか?」
僕達を代弁するかのように、一人の女子が女神に尋ねた。すると、女神は笑顔でほほ笑んだ。
「ええ、そうですよ。皆さんの三年三組の担任だった。藤原京香ですよ」
見知った顔が女神だと分かり、みんな少しだけ安堵したため、僕はある疑問を尋ねた。
「どうして、僕達を選んだんですか?何故僕達は異世界で勇者をやらなくてはいけなかったのですか?」
僕だけではない。この質問は勇者全員が聞きたかったことだ。
「理由ですか。まず最初に挙げられるのは、このガイアが魔王の襲撃を受けているので勇者が必要だったことです。早急に勇者を選ぶ必要がありました」
授業の時と同じ口調で、女神は答える。
「次に何故、あなた達が選ばれたかと言うと、あなた達三年二組の二十一人が全世界の中で最も私の能力を分けた力、アルカナ能力との適合値が高かったからです。アルカナ能力は誰にでも与えられる能力ではありません、普通なら能力に耐えられずに体が崩壊します。最も魔王クラスの悪魔や同じアルカナ能力で生み出された者達は例外ですが」
念を押すように、女神は僕の方を見ながら言った。つまり、僕は〈貪欲〉で他者のアルカナ能力を譲渡できるが、それはダンジョンモンスター限定で、メイルとかこの世界の人間に上げることはできないということだ。
「ふざけるなぁー!!なんで俺達がこんな戦いをしなければならないんだよ。黒川はともかく高木まであんなことになったのに!」
女神に怒りをぶつけるのは高木の親友だった橘君だ。突然暴れ出そうとする橘君を止めるため、静観していた大天使達が取り押さえようとするが、女神はそれを制した。
「橘君、あなたが言いたいことは良く分かります。私があなた達をこの世界に召喚しなければ、皆さんは日本で今頃卒業式を迎えられたことでしょう。ですが、考えてみてください。今のあなた達の状況はとっても幸運なことなのですよ。あなた達は私に選ばれたのです。神である私に、これは運命と言ってもいいでしょう!」
女神を両手を広げてさも当然かのように叫んだ。
「運命だと?!」
「はい、運命です。日本にある皆さんが好きな漫画やアニメ、ドラマに映画。その全ての物語において日常から非日常に変わる際には必ず運命的出会いや出来事に遭遇します。例えば、空から女の子が落ちてきたり、平和の街が侵略者によって滅ぼされたり、突然呪いを掛けられて旅に出る事を余儀なくされたり、御曹司のお坊ちゃんと遭遇して恋愛イベントが起きたり、これらは全て運命。そして運命は現実世界でも当てはまります。その運命が幸運な事にあなた達に訪れたのです!」
みんな、女神の言うことについて行けていない。日本にいた時の藤原先生のイメージは美人ではあるが、これと言って特徴のない先生だったからだ。こんな電波的発言をされたらビビる。誰も声が出せないでいた時に、吉村さんがあることに気が付いた。
「せ、先生の体、透けてきてますけど?」
先ほどの高木ほどではないが徐々に女神の体は透けてきた。
「あら、もう時間切れですか。心配しなくてもいいですよ。正規の手段を踏んでこの世界に来たわけではないので、世界そのものによる干渉で強制的に天界に帰らされるのです。しかし時間がなくなったのは事実ですね。津田君右手を出して私の左手の上に置いてください」
突然指名されてびっくりしたが、僕は言う通りにした。透けていたが、まだ実体はあるようで体温も感じた。何をするのかと思った瞬間に、重なった手と手が光を放ち、僕の中に新たな力が宿るのを感じた。
「これは?」
「津田君、私は神です。決して人間には頭を下げません。ですが、あなたには知る権利があります。何故私があなたへのいじめを黙認していたかということです」
その言葉を聞いた時に僕の中に緊張が走った。
「前回の勇者達はあなた達とは違い二十一人全員が仲の良いメンバーでした。チームワークも優れていて最高の勇者と言ってもいいでしょう。ですが、一つだけ弱点があり、そこを魔王達に狙われた」
「弱点?そんなに仲の良いメンバーならば、どんな敵も倒しそうですが」
内輪もめの一切ないチームだ。敵の事だけ考えられるならば、僕らよりも強いだろう。
「彼らは仲が良すぎたのです。操られた味方を殺すこともできないほどに」
「「「!?」」」
その発言に僕達全員が大きく反応した。
「操られた仲間を取り返すために彼らは多大な犠牲を払いました。その姿を見て私は正義の心や善の心だけでは勇者は務まらないと感じました。そしてその失敗を教訓に指導した勇者があなた達です」
僕は女神が言いたいことが分かってきた。
「不測の事態でも仲間に手を掛けられるように、私は誘導しあなた達を派閥という対立構造にさせました。ですが、それだけでは不十分だと感じ、津田君、あなたという存在を作りました。クラスメイト達全てから見放されて、勇者達とは別行動をすることで、他の勇者とは違う価値観や強さを身に着けて欲しかったのです」
そうなると、僕の今までの全ては女神の思惑通りということか、ここまで上手く乗せられると怒る気も失せるな。
「それと感謝してくださいよ。簡単にやられないようにかなり無理をして序盤にガブリエルまであなたの元に送り込んだのですから」
ガブリエルの方を見るとマジかよという顔をしていた。どうやら彼女ですら、自分の身に何が起こっていたか分からなかったようだ。
「魔王アドラメレクに佐伯君達を殺した時点までは、全ては私の思惑通りに進んでいました。少なくとも前回の勇者は他の勇者を殺せないチキンでしたからね。それと佐伯君を殺したことに臆する必要はありませんよ。あの様子では彼らはあれ以上の成長はなかったでしょうから。あなたのちょうど良い踏み台になったことに感謝しましょう」
笑顔で僕をなだめる女神だが、同時に恐ろしさも感じた。この女神は味方であっても自分に取って必要のない存在であれば容赦なく切り捨てるだろうということを知ったからだ。
「とは言え、少しは罪悪感も感じてはいます。そのせめてものお詫びとあなたに対する今後の期待から特別に津田君に私のアルカナ能力〈世界〉の一部をお渡ししました。一部なので私のように万能ではありませんが、基本能力である地形変化と後、使いこなせば時間停止と空間転移くらいはできるようになるでしょう」
女神がこの力を与えるのは異例の事のようで大天使達も驚いていた。そして、女神の体も背後が見えるくらいまでに透けてきた。
「残す魔王は五体です。勇者の皆さん頑張って魔王とそしてルシファーを倒してください。そうすれば、私の力で何でも一つだけ願いを叶えたあげましょう」
女神が高らかに宣言する。それを遮るように吉村さんが最後の質問をした。
「あの~高木君は?」
「高木?ああ、あの男は散々私の思い通りに動かなかったから、どうでもいいです。ですが、敵であることに代わりありません。殺しなさい。無惨にね」
今までの優しい口調が嘘のように冷たい冷酷な声だった。そして、最後にそれが嘘のように微笑みながら優しく僕だけに語りかけた。
「津田君、期待してますよ。ここまでお膳立てしたのです。頑張ってゴミ共を始末してくださいね」
そう言い残し、女神メタトロンは姿を消した。
天界側のイメージを一変させるほどのつもりでメタトロンは書きました。
今日はもう一本投稿して第五章を終わろうと思います。




