明かされる正体と秘密
「高木何故、黒川と一緒にいるんだ!その姿はなんだ!」
当然、黒川と同行していた高木に対して疑問を抱いたのは僕だけではない。クラスメイト達も次々と高木に向かって叫んだ。
「高木君どういうこと?彼女、黒川さんは私達を裏切ったのよ?」
「そうだ!高木、俺達はお前の事を信じていたのに」
「嘘よね?何かの間違いだよね?だった高木君が私達を救ってくれたのに」
「その姿はなんだ?それにその魔力もなんだ!これじゃまるでお前が魔王に見えるではないか!」
信じていたのに裏切られたそう言った悲痛の叫びが聞こえてくる。そんな僕らの声を聞いた後、高木はゆっくりと口を開いた。
「すまない、みんな。だが、俺は黒川について行く。お前達とはここでお別れだ」
その言葉を聞き事実を受け入れらないのか、クラスメイト達からは言葉は出なかった。僕は高木の顔を見た。あの時、塔で戦った時と同じで決意に満ちた瞳だ。いきさつは分からないが、高木は僕達を裏切り黒川についたようだ。
「高木君、何で裏切ったの?理由を話して!」
高木の裏切りを信じられないという顔の吉村さんが高木に改めて問う。だが、その声を遮るように黒川が声を上げた。
「その辺でいいだろう。聞いての通りだ勇者達よ!高木拓斗は君達を裏切り私の元に下った。これが事実だ!」
愉快そうに、しかしはっきりと黒川は事実を告げた。嘘だ!騙されているというクラスメイト達の叫びが聞こえてきたが、今度は味方であるはずの山城に憑依したウリエルがその声を黙らせた。
「もういいでしょう皆さん。彼は敵です。悪に堕ちた我々の敵です」
クラスメイト達にそう告げると、ウリエルは黒川に尋ねた。
「そろそろ、聞かせてもらいましょうか?裏切りの勇者黒川、あなたは何が目的で今回のような非道な行いをしたのですか?」
ウリエルの横にガブリエルも降り立った。もう一人の壁に磔にされている大天使も真剣な顔で黒川の方を見つめている。大天使が三体もいるのに、黒川は一切臆した態度を見せない。
「目的か、まず一つ目は復讐だな」
黒川は倒壊した家の壁に寄りかかっているアスタロトを指刺した。
「愚図で間抜けで使えない者達だったが、それなりに役には立ったよ」
この発言に大天使と勇者そして僕も疑問の顔をしただろう。まだ、この世界に来て三か月半しか経っていないのに、黒川が魔王を憎む理由が分からないからだ。だが、そんな僕達の疑問には答えずに黒川は話を進めた。
「二つ目も復讐だ。むしろこっちが本命だ。私は何が何でもこの復讐をやり遂げねばならないのだよ」
正午過ぎだろうか、太陽は頂点からやや低い位置いた。黒川はそんな明るい空を見上げながら呟いた後に、ゆっくりと首を下した。
「今回の一件もその復讐のための準備に過ぎない。だが、ベルフェゴールが敗れた今、当初の計画通りに進める必要が出てきたので、誰にも邪魔されない環境が必要になったが…これは君達には関係ないことだな」
今度は天使達ではなく勇者の方を見て言い放った。天使も勇者も僕も皆、黒川が何を言っているのか分からずに困惑している。そんな中痺れを来したのかガブリエルが口を開けた。
「こいつの言っていることは良く分からん。とっと倒してしまおう。聞きたいことがある奴はボロボロになったところで尋問でもすればいいだろう」
「正論だな、まだ悪魔達は王都中にいる。この少女が黒幕なら早く倒してしまった方がいいだろう」
ガブリエルの意見にウリエルも賛成した。思うところはあるかもしれないが勇者達も賛成のようだ。僕も小さく頷いた。
「では、我々天使とそこ勇者は悪魔に堕ちた高木という勇者の相手をする。残りの勇者達は黒川という女勇者の相手をしろ」
ウリエルが僕を指さしながら全員に指示を出す。僕は勇者の中で唯一高木と戦うこと許された。そのウリエル判断は正しいだろう。まじかに見て感じた、今の高木の魔力は僕と同じかそれ以上だ。恐らくあの時、地下から感じた魔力は高木のもので間違いない。凄まじく強くなっていると見ていいだろう。だが、それでも、僕とガブリエルとウリエルの三人なら余裕を持って戦えるはずだ。それに対して黒川の魔力はクラスメイト達と同じくらいだ。クラスメイト達だけで十分に抑えられるだろう。
ウリエルの指示通りに僕達はそれぞれの相手の前に立った。その光景を見て、不満を持ったのか黒川が声を上げた。
「高木はともかく、私の方は安く見られたものだな。そいつら程度では私の足留めにもならないぞ!」
「まさか、まだ強力な悪魔がいるの?」
小林さんの言葉に天使を含め全員が反応した。聞いた話によると黒川のアルカナ能力は〈悪魔〉で魔界から雑魚悪魔を呼ぶ力だが、魔王のように偶に上位悪魔も呼び出せるみたいだ。警戒するのは当然だろう。
だが、黒川はそんな僕らの警戒をあざ笑うかのように、人差し指を左右に振ると天使の方を見た。
「相変わらず仕切り役をやっているなウリエル、それにガブリエルも話がややこしくなったら力で潰してしまえという考えは変わっていないらしい」
ガブリエルとウリエルは自分達の事を言われて驚いた顔になったが、聞き返す前に黒川が叫んだ。
「では、そろそろ私の秘密をお見せしよう!」
次の瞬間に未だかつて感じたことのないほどの魔力が黒川から放出された。魔王はおろか大天使をも遥かに凌ぐほどの魔力だ。その魔力に耐えられず大気が悲鳴を上げていた。周囲のがれきも魔力の余波で全て吹き飛んだ。クラスメイト達はあまりの魔力に恐怖し立つこともできないようだが、僕と大天使達は何とか踏み止まった。
しばらくすると魔力の放出は収まった。煙が晴れて力を解き放った黒川がそこにいた。見た目は変わっていない。だが、背中には八枚の灰色の翼があった。誰一人言葉を出せない中、黒川が声を出す。
「改めて自己紹介をしようか。私の名前は黒川華凛改め、元天界第二位堕天使ルシファーだ!」
えっ?ルシファー?ルシファーってあの堕天使?それが黒川の正体どういうことだ。もうさっきから展開についていけてない。そう言えば僕が最後に喋ったのはいつだろうか。
他の者も突然ルシファーと呼ばれ困惑しているようだったが、ウリエルとガブリエルは話についていけたようだ。ウリエルはガブリエルと共に苦い顔をしながら答えた。
「そうか、千年前に我々に敗れ、体から精神を抜き取られ行方をくらましていたが、今回の勇者達と同じ世界に逃げたのか」
「そうだ。私は地球という星がある世界に逃れた。そして、戦いに敗れた結果力を大きく削がれて、低俗な人間と同レベルの存在となってしまったのだ。人間社会というのはいつの時代も酷い環境だった。初めは部下である堕天使達が私を召喚してくれると思ったが何百年経ったも音沙汰なしだ。こうなっては自力で帰還するしかないが、その世界は地に満ちる魔力が薄いため、力の回復に千年の時を要してしまったのだ」
昔を懐かしむように黒川は勇者の方を見た。
「教室で一緒に世界史で習ったが、私が君たちの世界で目覚めたのは十字軍の時代だった。体を失った私はその時代から現代まで低俗な人間の体に憑依し続けることで生きてきた。子供に憑依して、老人になるころには新しい体に乗り換えることを繰り返したのだ。天界二位のこの私が人間に扮したのだ!その気持ちは君達には分かるまい」
黒川はここで一度区切った。
「そして私はある時に気付いた。日本のある地に天界からの強い干渉力が働いていることに、だから私は黒川華凛という少女の体に憑依してお前達のクラスに紛れたこんだわけだ。まさか異世界で勇者をやることになるとは思わなかったが、おかげで色々と面白いものが見れた」
黒川は僕達と同様に驚いているアスタロトの方を見た。
「まさか、本当にルシファー様なのですか?」
「ああ、そうだアスタロト。お前達が見捨てたルシファーだよ。私が異世界で人間という低俗な存在に身をやつしていた間に、君達は私の事を探さずに魔王と呼ばれていたらしいね」
若干怒りを孕みながらルシファーは答えた。
「それは、だってベルゼブブとルキフグスの二人がルシファー様を探すのを禁止にしたから…」
「そうか、やはりあの二人に仕業か。確かにあいつらは裏で私の地位を狙っていたからな。だが、それで君の事を許したわけではないぞ」
そして今度は、僕達全員に聞こえるように声を出した。
「さて諸君、まだ聞きたいことがあるだろうが、そろそろ時間切れだ。また今度会えたら千年に渡る私の苦労話を聞かせてあげよう」
「逃げるのか!」
ウリエルが叫んだが、黒川は違うと返答した。その直後、青い空が黄金色に輝いたと思った瞬間に天が割れた。そして虚空の空から、光輝く者がゆっくりとこちらに向かって降りてきた。
「やはり来たか、思ったよりも早かったな。そんなに私が憎いか!偽りの神、いや神の代行者よ!」
「まさか、あの方が」
「マジかよ」
忌々しそうに黒川は呟く。同時に、天使達は顔を青ざめながら皆膝を曲げて顔を伏せた。
「えっガブリエルどうしたの?」
僕は彼女らしからぬ姿に思わず尋ねた。するとガブリエルは静かにしてくれと懇願すると顔を伏せながら、小さく言う。
「女神様の降臨だよ」
「女神?」
「そう!あの方こそが我ら天使の王にして天上の支配者、そして、この世界では女神と崇められている存在、最高位天使メタトロン様だ」
やがて、姿が確認できるところまで光は降下してきた。考えてみれば、気づいた時にはこの世界にいたので、僕を含め勇者達はまだみんな女神の姿を見ていなかったのだ。なので、他の勇者、敵になった高木ですら女神の姿を見ようと興味津々の様子だ。僕だってそうだ。結果はどうであれ、一切の説明もなしに無理やり異世界に送った女神に文句の一つも言ってやりたい。そんな気持ちを抱きながら僕は降りてくる光を見つめた。
そして、徐々に光が弱くなり人の姿をはっきりと視認できる距離まで降りてきた。その人物は女性だった。腰まで届く長い黒い髪をなびかせて、他の天使達よりも多い十枚の翼を持ち、白いローブに宝石のような装束を身に纏っていた。だが、気になるところはそこではなかった。僕は何故か女神と呼ばれる天使に見覚えがあったのだ。どこかで見た顔だなと思っているとクラスメイト達の誰かが何かに気付いたように大きな声を上げた。
「あれって、担任の藤原先生じゃない?」
ルシファーもメタトロンも女性の天使という設定です。




