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引きこもり勇者がダンジョンマスターになったら  作者: ニンニク07
第五章 王都解放編
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第五魔王 残酷のアスモデウス

「ハァハァ…この先を真っ直ぐに進めば、王宮の真下に着きますじゃ」


 高木は洞窟で知り合った元城使いの騎士ウドーと共の王都の地下に迷路のように広がる地下水路を走っていた。水路の壁には二十メートルくらいの感覚に魔法で灯された松明の火があり、その松明の光のみが暗い水路を照らしていた。


「ウドーさん、道案内ご苦労様です。ですがここから先は敵の巣窟になっている可能性があり、大変危険です。ここで引き返されたらどうですか?」


 元城騎士とは言え、六十過ぎのウドーの戦闘力は雑魚悪魔一匹と同じくらいだ。幸いなことに地下に潜ってから三体しか悪魔と遭遇していない。悪魔達は地上で暴れている津田達に対応するために、地下水路から出払っているようだ。


 とは言え、それはここまでの話だろう。ここから先からは、ただならぬ魔力の気配を感じていた。高木自身一人で突破できるか確証がない、こうなると隠密行動をするために、ヴァンパイアの護衛をつけなかったのが仇となってしまった。自分にはあなたの身を守ることができないので、引き返してくださいと高木が改めて告げると、ウドーは首を横に振った。


「高木殿、儂も元は王国騎士の一人、この一人の騎士としてこの国難に抗いたいんじゃ、儂が邪魔になったら見捨ててくれた構わん。だから最後まで同行させてくれ」


 老兵の強い眼差しに負け、高木は考えを改めて同行を許した。


(こんな力強い目をして決意に満ちた顔をしたウドーさんを退けることなど、俺にはできない)


 戦いの邪魔になるからと追い払おうとした自分を恥じた高木はウドーと共の先を急いだ。


(それにしても、本当に帰ってきたんだな)


 走りながら高木は、辛く楽しかった王宮での日々を思い出す。一度は見捨てられたが、魔界で経験を重ねたことで和解し、本当の絆を結ぶことができたクラスメイト達、そして孤立した自分を救って、その後も支えてくれた二条白雪。特に高木には今の自分があるのは二条白雪のおかげという思いが強かった。二条がなければ、高木はクラスメイト達と和解することなかったからだ。


 その二条は最後に自分を犠牲に高木を王都から逃がした。あの時の高木は己の無力さを噛みしめ、津田に協力を要請して戻ってくると誓いながら走った。


 かつて自分がいじめて相手である津田健也に助けを求めるのは、並み大抵のことではなかった。だが、困難の末に高木はやり遂げた。そして〈聖絶〉の効果が消える二週間以内に強力な援軍を引き連れて王都に戻ってくることができたのだ。


(待ってろ、みんな…白雪。俺が必ず助け出してやるぞ)


 仲間達がいる王宮までもう少しだ。高木は固い決意を込め地下水路を進んだ。


 



 その後、高木はウドーと二人で松明の灯りだけが照らす地下水路を走った。だが、進めば進むほど高木は不安感を抱いた。


「おかしい、いくらなんでも敵が少なすぎる」


 ウドー曰く、地下に潜ってから王宮までの道のりの半分くらいは走ったそうだが、その間遭遇した敵は、地下水路に潜ってすぐ遭遇した三体の悪魔だけだった。明らかにおかしい、まるで嵐の前の静けさのようだった。そしてその予感は的中した。


 地下水路を走っていた二人は、広い空間に出た。円形の空間で壁中に人間が通れるほどの太いパイプがあった。この場所は張り巡らされた地下水路の合流地点の一つだ。本来であれば、この空間には常に大人三人分くらいの高さまで水が張られているが、何故か水はなく、乾いた石畳みが顔を見せていた。


 中々幻想的な空間だが、高木達は部屋を見惚れている場合ではなかった。


「お久しぶりですね。以前はアスと名乗っておりましたが、あれは偽名です。私の本当の名前は第五魔王、残酷のアスモデウスと申します。」


 その場所には赤いドレスを身に纏い、長い黒い髪をなびかせ自らを魔王と称する一人の美女が立っていた。魔力を抑えているのか高木は魔王の魔力を感じることができなかったが、その顔は以前、黒川の店で売り子をしていたアスという女性とそっくりであった。


「では改めて、俺の名前は高木拓斗、勇者だ!」

「儂の名前はウドー、元騎士じゃ」

「それにしても、あの時売り子をしていた女性が魔王とは驚いたよ」

「ふふふ、あれはそれなりに楽しい経験でしたわ」

 

 高木は挨拶をしながら必死になって考えた。見た所、敵は目の前の魔王一人だけだ。敵の能力については知らないがこっちには〈愚者〉による無効化能力がある。なので、魔王一人くらいなら相手にできるはずだという結論に至った。


「ウドーさん下がってくれ、魔王!ここで、あんたを倒す。道を開けてもらうぞ」


 早く王宮へ行きクラスメイト達との合流を図りたい高木は鞘から剣を抜き、アスモデウスに向けて突き刺した。その姿を見てアスモデウスは嬉しそうに微笑んだ。


「最近、あの女の世話ばかりでストレスが溜まっていたの。だからちょうどいいわね」


 そう言うとアスモデウスは何もない空間から一本の剣を取り出し、高木に斬りかかった。


 キンッキンッと剣が激しくぶつかる音が空間に響いた。激しい剣の応酬の中で高木は焦りを感じていた。


(まずいな、この女の剣術は俺や津田以上だ。しかも向こうは能力も魔法も使っていない)


 日頃の鬱憤を晴らすように剣を振り回すアスモデウスに防戦一方の高木。魔力が少ない高木では長期戦は不利だ。打開策はないかと探るも見つけられないでいた。


(津田の時は剣術が互角だったが、奴には戦闘経験がなかった。そこを上手く突いて勝てたが、この魔王は剣術も戦闘経験も津田や俺以上だ)


 元々の魔力量が少ない高木は、魔界で培った戦闘経験や戦闘技術そして魔力操作を武器に敵を打倒してきた。相手がどれだけの魔力を持とうが、数多くの魔法や能力を持っていようが、努力で培った経験と技術の前に敵は敗れたのだ。 


 だが、今高木が戦っている魔王アスモデウスは、高木が己の武器としていた技術や経験など全てにおいて高木を上回っていた。


 それも当然のことだ。多少スパルタではあったが、高木の魔界での修行帰還はたったの二か月。それに対してアスモデウスは千年近く魔界にいたのだ。文字通り年季が違った。


 その後も一向に活路が見出せない高木、だが、ふいにアスモデウスは高木との間に距離を取った。


 剣術で、十分自分に勝てるのに何故か距離を開けたため、剣術を切り替えて魔法でも仕掛けるのかと警戒した高木に対しアスモデウスは満面の笑みを浮かべた。


「いいわね、魔界から帰還した勇者高木拓斗、想像以上の強さね」


 アスモデウスは何故か、高木の事を知っていた。つまり魔王は高木の事をただの勇者と見ていない。警戒に値する人物と見ていたのだ。この魔王は自分に対して油断などしていないことを悟り、高木は冷や汗をかいた。


「剣の腕はまずまず、では次に精神力を見ましょう!」


 アスモデウスは指を鳴らすと、壁中にあるパイプから多数の人間が出てきた。老人から幼い少年少女まで、性別を問わずあらゆる年齢の人間が出てきた。その人間達は皆一様に、肌が暗い色をしており目も虚ろだ。次々とパイプから出てくる人間を見て、高木は映画で見るゾンビみたいだという感想を抱いた。


「なんだこれは?」

「私のクリフォト能力は〈残酷〉、その能力は死人を操るもの。死者の肉体には生への未練がある。私の能力はその未練を大幅に増大させて仮初の命を与える。そしてその死者を操るのよ」


「…助けて死にたくない」

「…お母さんどこ?」

「痛い、痛いよ」


 仮初の命を与えられたゾンビ達はうめき声を上げながら、部屋を埋め尽くした。


「安心して、生前と比べて多少は戦闘能力は落ちるわ。それと心臓を破壊するか首を飛ばせば活動を停止するわよ。さて、死んでいるとは言え、ここにいる人間達は王都を占領した時に死んだ者達、つまり善良な一般人よ。勇者であるあなたに斬れるかしら?」


 アスモデウスが号令をかけると、ゾンビ達は一斉に生者である高木とウドーに襲いかかった。


「くそおーー」


 このままでは自分はともかくウドーも犠牲になるだろう。悔しさを声を上げながら高木はアスモデウスの言う通りに最初に襲い掛かってきた老人の首を刎ね飛ばした。首を刎ね飛ばした途端に老人の体は糸が切れたように倒れた。


「痛い、熱いよ、助けて」

「まだ死にたくない。あの人はどこ?」


 その後も高木は心を鬼にして生への未練を溢すゾンビ達の首を次々と刎ねていった。ゾンビ自体の戦闘力は全くなかったが、高木の精神を疲労させるのには十分だった。高木は一人でウドーを守りながら、ほとんどのゾンビを倒したが、その時には精魂が尽きかけていた。


 ゾンビの大半を倒した高木に対してアスモデウスはパチパチと拍手を送った。


「流石は勇者、元とは言え善良な一般人をこうも見事に倒すとは、恐れ入ったわ」

「黙れ!この悪魔が!」


 ふらつく体を何とか立て直しながら高木は叫んだ。その姿を見てアスモデウスはさらに喜んだ。


「本当にいいわね。あなたでは取っておきをお見せしようかしら。あなたも良く知る顔よ、出ておいで」


 アスモデウスが命じると、パイプから一人の少女が出てきた、もちろんゾンビだ。だが、今まで無心で倒していたゾンビと新しく現れたゾンビには明確な違いがあった。


 今まで倒してきたゾンビは高木に取って顔も知らない他人だったが、そのゾンビは高木がよく知る人物だったのだ。いや良く知るどころではない。なぜなら、


「…高木君どこ?」


 高木にとっては忘れもしない、聞き覚えがある声だ。その声を聞けたこと自体は嬉しかった。だが、この場で聞いて良い声では断じてない。


「…えっ?! 白雪?」


 見慣れた制服を着ていた少女の名は二条白雪。高木が救い出すと誓った最愛の少女だった。


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