出陣
僕と高木そして千体のモンスターの大軍は、魔法で湖の一部を凍らせて進軍を開始した。
湖を渡り切った軍団は、隊列を組むべく、一度事前に決めた編成ごとに千体のモンスターは自分の配属先である部隊ごとに並ぶ。
先ずは、一番隊、全部隊の先陣を切る部隊にして精鋭部隊という位置づけだ。隊員二百体の内半分はヴァンパイア・ホース(銀卵下)であり、残りの百体はヴァンパイア・ホースに騎乗して戦う。残りの百体の内三十体がヴァンパイア(銀卵上)で残りの七十体がレッサー・ヴァンパイア(銀卵中)だ。小隊長として三体のヴァンパイア貴族(金卵中)がおり、隊長はオリジン・ヴァンパイアのエリザベスが務める。
二番隊は鬼族のサクラを隊長にしている。傘下の兵力は、スケルトン(銀玉下)を主力にして、リッチーやデュラハン(銀玉上)など計二十体を小隊長とした総数三百体のアンデッドで構成されている。またサクラの副官として二体のオーガロード(金卵上)をつけた。。
三番隊は、妖狐のクーアンを隊長とした部隊で、ゴブリン、オーク、コボルト(銀玉下)から構成されている。三種族から計五百体おり、数だけなら最大数を誇る。また三種族をそれぞれを束ねる三体のロード(金卵中)が副官として配置されていた。
軍団の総司令官は僕、津田健也だ。だが、総司令官と言ってもお飾りだ。実際の指揮は参謀を務めるブラドが行う。
僕とブラドと高木とガブリエルは先陣を切ることになる一番隊に同行する。ラファエルの張っている〈聖絶〉の効果が失われるまで一週間を切っている。少しでも早く王都に着く必要があるため、騎馬隊である一番隊にいる方が良いと判断したからだ。
馬で行軍する一番隊を他の二部隊が徒歩で後から追いかける形になるため、戦闘狂のサクラとクーアンからは反対意見が出たが、残り時間を考えればこの布陣が最も効率が良いという結論が出たため、僕がダンジョンマスター権限で二人を黙らせた。
決定にぶーたれた二人だが、馬なんかなくても走って追いついてみせると息巻いていて見せたのでとりあえず一安心した。
ガイアールは残ったモンスターと共にダンジョンの防衛をする。ネームド級はガイアールしか残っていないが、ビッグ・タートルなどの大型の魔物は今回の遠征には参加しないので十分な戦力をダンジョンに残っていると判断して良いだろう。
こうして、隊列を組み直したのを確認した僕は、ヴァンパイア・ホースに騎乗し先駆けの一番隊と共に王都を目指し行軍を開始した。
塔を出てから三日後の正午、僕達一番隊は王都に向かう街道を疾走している。一昨日の時点で後続の二番隊、三番隊の姿を見ることができなくなったため、かなりの速度で行軍していることが分かる。周辺の地理を把握しているブラド曰く、後二日で王都に着くようだ。
「高木そんなに飛ばすな、隊列が乱れる!」
馬に乗って疾走する一番隊の先頭を高木は走っていた。このまま一人で飛ばされると馬の体力も持たない上、隊列が乱れる恐れもあったため、僕は高木にペースを落とすように警告した。
「すまん、白雪のことを考えたら、つい飛ばしてしまった」
忠告を受けて高木はスピードを落とした。先頭を走っていた高木がスピードを落としたことで、過度にスピードに出していた隊全体のスピードが徐々に安定した速度に戻っていた。
高木には二条白雪という王都にいると思われる好きな女子がいる。僕個人としてはその女子とあまり面識はないが、その女子はいじめられていた高木を救ったばかりか、自分を犠牲に高木を王都から逃がしたそうだ。
典型的な漫画やラノべみたいな展開で、正直言って羨ましい。高木をいじめから救ったのは女子である。それに引き換え僕を引きこもりから解放したのは男子である高木だ。なので、次のイベントの相手は美少女がいいと少しの間、心の中で妄想していたが、残念な事に男であるブラドによって現実に引き戻された。
「マスターもうじき、最初の関所を通過する」
今僕達が走っている街道を使った場合、王都に着くまでには三つの関所が存在する。
ここまでの道中で王都から逃げてきた人の話をまとめると、王都を解放すべく今日までに何度か各地に駐屯していた王国軍が王都に向けて進軍したそうだが、いずれも失敗に終わったそうだ。それも王都にたどり着くどころか途中の関所すら越えられなかった。関所には魔王達が悪魔や魔物を多数配置していているため、生半可な戦力では突破はできないのだ。
道中の避難民は、関所で行われた千人近い解放軍と魔物の戦いを見てきたらしいが、人間側が勝てると要素が感じられないほどの一方的な戦いだったらしい。なので、たった百騎しかいない僕達の行軍を無謀なことだから止めておけと道中で何度も忠告された。
その忠告を無視して王都を目指しているわけだが、果たして勝算はどれくらいあるのだろうか。人間の軍隊よりは強いと思うが、何度も何度も忠告されると少しばかり自信がなくなってくる。ガブリエルもいるので負けることはないと思うが不安は拭えない。僕は一抹の不安を抱きながらも、最初の関所を視界に捕らえた。
王都に向かう上で避けては通れない三つの関所の最初の一つ目クレー砦。数百人規模の人間が常駐できるちょっとした城だ。高さ十メートルくらいの城壁には一か所だけ、鉄でできた門があり当然閉じられている。そして城壁の上にはこちらの様子を伺おうと多数の魔物が弓矢を構えていた。
「パッと見て百はいるな」
魔物の大半はオークだ。しかし弓などの遠距離系の武器を多数所持していることからも分かるようにかなり強さと見ていいだろう。さて、どうやって攻略しようか。敵は砦から出る様子がないため、会議を行うために部隊長を招集した矢先に、参謀であるブラドが叫ぶ。
「諸君、日頃の訓練の成果を今こそ見せるときだぞ」
「「「「ウオォォーーー」」」」
ブラドの宣言に隊を構成するヴァンパイア系モンスター達が応えた。威勢が良いのはいいが策はあるのだろうか?
「マスターこの通り皆やる気に満ちておる。出撃の許可を」
正直言って、復活ができない以上少なくとも王都に着くまでは無駄な戦闘は避けたい。こちらは騎馬が主体だ。あの城壁を越えるだけでかなりの数を失う可能性がある。
「う~ん、どうしようか」
僕は背後でパタパタ飛んでいるガブリエルを見た。一瞬あいつに全部任せたらいいのではという案が脳裏を横切ったがすぐに否定した。いつまでもガブリエル頼みで作戦を考えるのは僕の成長の妨げになると判断したからだ。それにあいつに任せるのがなんか癪だった。
「任せて大丈夫か、できるだけ戦力を温存したのだが」
「心配には及ばない、それにこれは余と我が臣下の力を世に知らしめる絶好の機会である」
ブラドが日々ヴァンパイアの領地が階層で配下の訓練をしていることは知っている。これだけ自信をもって進言するのだ、上司として少しは信じてやるべきだろう。
「では、任せた!」
「はっ、では全軍突撃!」
ブラドの号令と共に、百体のヴァンパイア騎士達は突撃をした。
「なぁ津田」
「なんだ高木」
「城壁って何のためにあるんだっけ?」
「それは敵の侵入を防ぐために決まっているだろう」
「そうか、そうだよな」
僕らが唖然となるのは無理もない。日本にいた時に映画などで城を攻め落とすシーンは良く見たが、こんな風に城を落としたのを僕は見たことがなかった。
ブラドの号令の元、騎士達は無謀にも砦に向かって突撃をした。あまりの無策っぷりに僕は焦ったがそれもすぐに杞憂に終わった。
ヴァンパイア・ホースを駆るヴァンパイア達は、敵の矢を剣で弾きながら砦の城壁目掛けて突撃をした。そしてなんと背に騎士を乗せているヴァンパイア・ホース達は城壁の手前で大ジャンプをし、城壁の上まで一気に到達してしまった。
これには、敵の魔物達もビックリしていた。百体を越す騎馬が次々と十メートルを越す城壁の上に飛び移ったのだ。あまりの光景に敵の攻撃も止まっていた。
驚く敵のオークを尻目にヴァンパイア達は攻撃を開始し、個々の力が秀でているヴァンパイア達によってオークは駆逐され、あっと言う間に関所である砦は陥落した。
作戦も何もないが、犠牲者はゼロ、見事な手際と言わざるを負えない。
「津田、やはり異世界では俺達の常識は通じないな」
高木の呟きに同意して僕達はヴァンパイア達によって内側から開門した扉をくぐった。
おまけ 強さ順
クリスタル卵(大天使)>>>>>金卵ネームドモンスター>>Aランク冒険者=金卵上>金卵中>金卵下>銀卵上>王国の騎士団=Bランク冒険者>銀卵中>Cランク冒険者>銀卵下
ヴァンパイア系統のモンスターがヴァンパイア・ホースに騎乗すると戦闘力がワンランク上にアップします。
関所の敵オーク達は本来銀卵下相当ですが、魔王から魔力と装備を与えられ銀卵上くらいになっていました。




