反撃
クーアンと大村の戦いはあっけなく終わった。敗因を挙げるとすれば、大村がクーアンを怒らせた事だろう。
「ふざけるなです。クーアンのモフモフの尻尾に触れていいのは今の所クーアンだけなのです」
クーアンは、姿が見えぬ敵の言葉に憤慨すると、幻獣魔法を発動させ、自身の持つ九本の尻尾を炎に変えた。
「焼き尽くせ、です!」
九本の炎の尻尾を鞭のようにしならせて、辺り一面に打ち続ける。
得物のナイフを握りしめクーアンのすぐ傍にアルカナ能力〈隠者〉によって目に見えないようにしていた大村。相手の視覚に映らない彼女の能力は使い方次第では強力だが、今回は相手が悪かった。
どれだけ姿を隠そうとも、自分の周囲を丸ごと攻撃するクーアンの尻尾を叩きつける攻撃から逃げる術がなかったからである。
「ひい、痛い!」
「そこですか?」
尻尾が何かに当たった手ごたえを感じたクーアンは、その場所を重点的に攻撃した。
クーアンの攻撃は辺り一面に満遍なく振るわれるわけではないので、運が良ければ躱すことができたかもしれない。あるいは攻撃をしてくる直前に距離を取るという回避手段もあった。
しかし、雑魚である山賊相手に圧倒的に優位な戦いしかしてこなかった大村には戦闘経験が不足していた。故にクーアンの全体攻撃の前には姿を隠す自分の能力は役に立たないとすぐには判断できなかった。
「痛い!止めて!痛い!お願いします。もう叩かないで!」
大村の姿は見えないが、尻尾で叩くと悲鳴が聞こえた。クーアンは悲鳴が泣き止み大村の死体が目に見えるまで、鞭のように尻尾を叩き続けた。
「離して!」
寺尾に羽交い締めにされたサクラは抜け出そうと体を暴れさせるも彼女の小さな体ではそれは叶わない。
自分に拘束から開放されようと足掻く、無力の少女を見て、寺尾は悦に浸っていた。
「無駄、無駄、君の力では勇者である僕の腕を振りほどくことはできないよ。それよりもまずは、お喋りをして親睦を深めようよ~」
「いや、気持ち悪い、離して!」
サクラが力を入れるたびに寺尾はそれを上回る力でサクラを押さえつける。その結果、二人の体がより密着し、寺尾は興奮し、サクラは激しい嫌悪感に襲われた。
このままでは、辱められると察したサクラは嫌々ながら切り札である幻獣魔法を使うことを決意する。
「うん?何かしたのか?」
寺尾は少女が何らかの魔法を使ったと察知し、警戒したが、すでに手遅れであった。
「おお、おお!」
羽交い締めにされ、地面から持ち上げられていたサクラの体は徐々に大きくなり、重量も重くなる。余りの重さに耐えかねて寺尾は拘束を解いてしまった。
「なんだ!一体?ひぃ~化け物!」
寺尾が驚くのも無理はない、先程まで、頭に二本の可愛らしい角が生えていることを除けば、巫女服を着ていたはずの小柄な少女が、一瞬にして二メートルを越す巨大な鬼となったのだから。
年相応の柔らかそうな肌は、鉄のように固くなり、肌の色も肌色から血のような真っ赤になった。着ていた巫女服はボロボロに破け、色々ときわどい姿となったが、化け物のようなその体からは性欲を湧き立たせるもの何一つ感じられなかった。
「おぞましい姿でしょう?」
先ほどまでの少女の声とはうって変わって低い声でおびえる目をした寺尾に話しかけるサクラ。
「体の一部分のみを変化させることができるあの狐と違って、私の幻獣魔法〈鬼〉は体のすべてを化け物の姿に変えてしまう。だから使いたくはなかった。でも、前回の魔王襲撃の時は使わずにいたから、あっさりと負けてしまった。だから、これ以上ミスを犯さないように幻獣魔法を使って全力で戦うわ」
目の前にいる化け物は本当に先ほどまでの幼女か?寺尾は目の前の化け物にもはや性的欲求を抱くことは不可能であった。同時に、先手を打たなければすぐにやられるという事を理解した。
いつでも大剣を振り落とせる状態にし、寺尾は自身の能力である〈死神〉を発動させ、目の前にいる化け物の死角に転移する。
だが、移動した瞬間に寺尾の意識はそこで途切れた。転移して寺尾が剣を振るうよりも早く、寺尾の脳天目掛けて、拳が振り下ろされたからだ。
「相手の死角に瞬間移動する能力、確かに強力ですが死角というのは相手の背後のことでしょう?移動先が分かっていれば、あなたが消えた瞬間に自分の背後を殴れば、それでお終いです」
サクラはどこか悲しそうな目をしながら、脳天から押しつぶされ無惨な姿となった寺尾に呟いた。
「畜生おーーーーー!!これでもダメかー!」
佐伯は巨大な炎の塊を幻獣魔法〈竜〉を使い、巨大な西洋風ドラゴンの姿となったガイアールに向けて放った。
「炎を自在に操る能力。ファイアーボールのように一発放って終わりの炎系統の魔法とは違い中々厄介だな、しかし」
佐伯の放つ炎は強力であるが、火に対して強い耐性を持つ、ガイアールの強靭な鱗を破るほどではない。
故に佐伯は何一つガイアールに対して何一つダメージを与えられてはいなかった。
「畜生!なんで、いくら竜だからってなんで効かないんだよ。反則だ!」
佐伯は己の無力さを呪いながらガイアールを見上げる。そんな佐伯を憐みるかのようにガイアールは告げた。
「炎を自在に操るその能力は確かに強力だ。しかし火力が弱い。アルカナ能力は持ち主の精神力によって力を増すと聞く、我がダンジョンのモンスターも操ってみせたそこの女の精神力が強いのは認めるが、炎を操るお前の精神力は弱いな」
佐伯派は面と向かって、お前は精神力が低いと言われショックを受けた。確かに佐伯派は自らの派閥を率いて、様々な事を行ってきた。だが、そのすべては弱い者いじめであった。適当な理由を付けて強者を避け、自分よりも弱者をいたぶって悦に浸って来た佐伯の精神力が強いはずなかった。
「おい、内田何とかしろ!」
「自分から助けにきた癖に、敵わなかったからってうちに助けを求めるのはやめろ」
内田もまた、佐伯と同じく弱者を甚振ってきた人間であるが、佐伯とは違い、自分こそが最も美しいという自負を持っていた内田は常に自分の心の中に激しい嫉妬を抱えていた。
その嫉妬の最大の対象はクラス委員長の朝倉楓であった。内田は勉強は勝てないにしても、美貌では負けたくなかった。だが、どれだけ化粧をしても学校の男子達は自分の方が朝倉よりも美人だと認識してくれなかった。これ以上自分を高めることができないなら、朝倉を貶めればいい、こうして内田は弱者を虐げることを生業とする佐伯達の一派に入った。
その内田にとって先ほどのエリザベスとの邂逅は衝撃的な出来事であった。朝倉よりも美しいと思える人間がよりにもよってクラスの底辺である津田から生まれた。その事実は、内田の支配力を一時的に大幅に向上させるのみ十分であった。だが、内田の快進撃もここまでであった。洗脳する手段を相手に知られ、すでに洗脳下にあるモンスター達もネームドモンスターに狩られていく今となっては、内田の力は何も意味もない物となってしまったのである。
「お前の支配力が弱いのがいけないんだろう!!!」
「元はと言えば、この塔に行こうと言い出したのはてめえだろう!!!」
激しく罵り合う、佐伯と内田。プライドが高い二人は決して自分の非を認めなかった。そして、二人が言い合っている間に、洗脳したモンスターはすべて倒され二人は津田配下のモンスター達に囲まれていた。
いつの間にか、モンスターに囲まれていることに気付いた二人だが、すでに手遅れであった。何故か内田の洗脳下にあるはずの天使ですら自分達を取り囲んでいた。圧倒的に不利な状況にも関わらず、それでも負けが認められない佐伯は炎による攻撃を繰り出そうとする。しかし、
「お前達の負けだ!」
佐伯達にお前達は負けだと告げたのは、彼らが見下し続けた津田健也であった。




