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引きこもり勇者がダンジョンマスターになったら  作者: ニンニク07
第三章 勇者強襲編
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ヴァンパイアの力

「おい、そこの少女!」


 西村春樹は対戦者であるブラドを無視して審判であるガブリエルに話しかける。


「お前も津田が生み出したモンスターなのか?」


 一瞬思案したが、ガブリエルがそうと答えると西村は下卑た顔になり、ニヤリと笑う。


「なるほど、津田の能力も外れとは言えないな。こんな美少女を生み出せるとは、おい、お前このくだらない戦いが終わったらたっぷりと可愛がってやるから楽しみにしとけ」


(ひぃ~!きしょい!)


 ガブリエルは無表情で、頭だけ下げて西村の発言に答えたが、内心は穏やかではなかった。


「やれ!西村!」

「所詮、津田が用意したモンスターだ。見てくれに騙されるな、雑魚に違いない!」

「よゆー!よゆー!」


 仲間達の言う通りだ。津田如きに自分が負けるはずがない、西村は勝利を確信して試合開始を待った。


「一応、ルール説明を致します。どちらかが死ぬかギブアップした時点で勝敗が決まります。また、対戦場はこの闘技場の中のみです。ここから出てしまっても負けとします。よろしいですね?」


 ガブリエルの言葉に西村とブラドの両者が頷いた。


「では、これより試合開始!」


 合図と共に西村は自身の魔力を開放した。全ての勇者は転移した時にAランク冒険者並みの魔力を持っている。そのため西村はここまでの道中で自分達に匹敵する魔力を持っている人間に出会ったことがなかった。


「すごいだろう?見てくれだけは怖いおじさん。逃げ出してもいいぜ。津田が作ったモンスターだ。創造主に似て逃げるのも得意なんだろう?」


 幸か不幸か、ここまでの道中で自分達に勝る魔力の持ち主に出会わなかった西村は勝利を確信した。もしかしたら津田であれば自分達と同量の魔力を持っているかも知れないが、少なくとも津田から生み出されたモンスターが勇者を越える魔力を持っていると思わなかったからだ。


 だが、自分がこれだけの魔力を見せても対戦者の男は顔色一つ変えずにこちらを伺っていた。西村の何故、こいつはこの魔力に驚かないんだという疑問を他所にブラドがついに口を開く。


「貴様この程度か?この程度の魔力で余を無視して粋がっていたというのか?」


 大気が震えるほどの怒気を含んだ怒りの言葉であった。ブラドの余りの激高ぶりに西村は一歩引いてしまった。


(なんだ?こいつ俺の魔力が分からないのか?いや違うな強がっているだけだ。そうに違いない。なんせあの津田のモンスターだ。この俺があいつに負けるはずなどないのだから)


 自分は津田よりも優れている。勇者である自分達を越える存在など魔王を除けばこの世には存在しないという先入観が西村の人生を決定づけた。


「いいだろう。強がりもここまでだ!俺のアルカナ能力に震えあがるといい」


 西村は自身のアルカナ能力〈力〉を発動した瞬間、西村の魔力が一気に二倍近くにまで膨れ上がった。西村は自身満々にブラドに告げた。


「どうだ、ビビったか?俺のアルカナ能力〈力〉は、能力者のありとあらゆる力を倍化させる能力だ。魔力も身体能力も精神力も視力や嗅覚等の五感もすべて二倍となるのだ。しかも、回数制限も時間制限もない俺が念じればいつまでも発動し続けるんだ!」


 勝利を確信した西村は得意げに語る。


「そして上昇した分の力を仲間に分け与えることができる。普段はあいつら四人に俺の力の一部を分けているから、1.5倍くらいしか俺自身の力は上昇していないが、今回は特別にあいつらに与えている力の分も回収し最大値である2倍分上昇して、ぶはっ……?!」


 得意げに語る西村の解説は最後まで続かなかった。話しの途中でブラドが西村の顔面を思いっきり殴ったからだ。


 殴られた西村の体はそのまま凄まじい速度で宙を駆けてそのまま客席に突っ込んだ。


「もう良い!貴様程度の力が二倍になったところで、余の力には遠く及ばない、とっと死ぬが良い!!」


 審判であるガブリエルが勝者ブラド選手と叫ぶと観客席にいたモンスター達から大歓声が上がり、熱気が闘技場を包みこんだ。ブラドは勝利宣言を聞くとやることはやったと、無言でベンチに去っていった。


 佐伯達は客席に飛ばされた西村の元に慌てて駆けつけるが、すでに手遅れだった。


「西村…」


 言葉一つ出せなかった。西村の顔はブラドの拳により、顔の部位が判別できないほど潰されていた。無惨に散った西村の死体を見てしばらくは誰一人声が出せなかったが、やがて甲高い女の声が響き渡った。


「きゃっはははは!!、ざまぁ~西村、俺の力を分けてやるとか調子に乗っていたから負けたんだよ。早漏野郎」


 負けた西村に対し仲間とも思わない発言をしたのは内田キラリであった。彼女は夜のお楽しみの時にいつもしつこく絡んでくる西村の事が内心嫌いであった。なので、この戦いで死んでしまえと思いながら見ていたのだ。


「次はうちがやる。このまま津田なんかに負けてたまるか!」

「……内田お前」


 少しは仲間意識を持っていた佐伯達は西村が無惨に殺されて喜んでいる内田が理解できなかった。だが、西村があっけなく殺されて、戦いに出るのに少しばかりビビッてしまった佐伯達にとって内田の申し出は渡りに船であった。




 いや、瞬殺だったな。西村君はあの五人の中では最も陰険に僕をいじめてきた奴の一人だ。できればブラドに惨たらしく殺されろと願ってはいたが、見事にその通りになるとは。


 魔力量ではブラドの方が圧倒的に上であったが、西村君にはアルカナ能力がある、一筋縄ではいかないと考えていたが、幸いな事に西村君のアルカナ能力はどうやら弱い部類の能力であった。


 いや、決して弱くない。自身の力と呼ぶものすべてを倍化させるのは恐ろしい力だ。だが、悲しい事に倍化させる対象である西村君自身が弱すぎた。僕の見立てでは、西村君の魔力が倍になったところでブラドの魔力半分強くらいだろう。魔王ベルゼブブとルキフグス、もしくは朝倉さん達クラスが倍になれば、かなり違った形になっていたかもしれないが、西村君クラスでは大して強くならないと見た。


 おお、西村君の力が流れこんでくる。魔力20000、技能・能力300000、装備5000か、流石はアルカナ能力、300000ポイントもあるとは、それに比べて他はゴミだな。僕は技能・能力のみ回収し、残りをポイントに替えた。これでアルカナ能力〈力〉を入手したわけだ。


「マスターよ、約束通り、まずは一勝だ」


 機嫌が良さそうに、ブラドがベンチに戻ってきた。僕が大儀であったと伝えると、ブラドは少しだけ微笑み無言で奥の方のベンチに座る。


「次は妾の番だな」


 ブラドとは反対の方に座っていた美女、オリジン・ヴァンパイアのエリザべスが立ち上がり、闘技場の方に歩いて行く。


 そういえば、ノーライフキングとオリジン・ヴァンパイアってどちらが偉いんだろう?僕は素朴な疑問を抱きながら、エリザベスを見送った。




「ちっ、凄い美女が出てきたな」


 内田は対戦相手である。女の美貌に見惚れてしまった。自分は高い費用を払って化粧をしているのに目の前に立つ女の美貌は、自分がどれだけ化粧しても敵わないと瞬時に悟ったからだ。


 腰まで届くほど長い黄金のように輝く金髪に、恐ろしく整った顔、おまけにスタイルも抜群の巨乳だ。


「スゲー、なんだあの美女やりてえ~!」

「ヤバいぞ、あの女見ると、他の女がゴミに見えるぜ!」


 背後のベンチから佐伯達の下卑た叫び声が聞こえる。内田はいつもは笑って過ごすが、こういう時に聞くと少し煩わしかった。


「オリジン・ヴァンパイアのエリザベスじゃ、主の名前は?」

「内田キラリ、聞いての通り、うちの男共があんたを犯したいってさ。だから、うちはあんたのその美貌を徹底的に汚してから男共にくれてやる」


 エリザベスの美貌に嫉妬していた内田は最大限の挑発をした。だが、エリザベスは内田の侮辱とも取れる発言に対して笑って返す。。


「ふん、あのようなガキ共にくれてやるほど妾の体は安くないぞ」

「言ってろババア、あんたはうちに泣いて詫びて、男共に汚物のように汚されるんだ」


「では、第二試合開始!」


 そして、ガブリエルの掛け声と共に第二試合が始まった。


「出し惜しみはしない、うちのアルカナ能力〈女帝〉の力を見せてやる」


 内田は初手からアルカナ能力を発動する。すると観客席にいた三分の一ほどの数のダンジョンモンスターが一斉に舞台上に飛び込んできた。


「!?……これは一体?」


 飛び込んできたどのモンスターも目が虚ろで、自らの意思がないように感じられた。内田を守るように陣形を組むモンスター達の中心で内田は高らかに笑う。


「これが、私のアルカナ能力〈女帝〉の力よ。私の髪の毛は抜くと、このように針のようになるの。そしてこの針で刺された者は私の意のままに動く奴隷となるのよ。さっき西村の死体を見に行った時に仕込んでいおいたわ」


 これには流石のエリザベスも驚いた。このダンジョンのモンスターは全てマスターである津田健也の支配下にある。それを内田は自らのアルカナ能力で上書きしたのだ。


 当然、自軍のベンチからマスターである津田の焦りの声が聞こえてくる。


「なるほど、アルカナ能力やクリフォト能力等の「神の力」は能力者の意思の力、用は気合いによって左右されます。つまり、この場合は内田選手の意思の力が我がマスターの意思の力を上回ったということでしょう」


 舞台上の隅で呑気に解説をしているガブリエル。今の解説を聞き、自身が津田よりも優れていることが照明されて内田は勝ち誇った顔になった。そして、対照的にエリザベスは自身のマスターに対し悪態をついた。


(このような女に遅れを取るとは、妾のマスターはなんて不甲斐ないのじゃ)


 だが、文句を言っていられるほど余裕はない。モンスター達が襲ってきたからだ。


「ダーク・スラッシュ!」


 エリザベスが右手から放つ黒い斬撃がゴブリン達をまとめて薙ぎ払った。


「ダーク・インパクト!」


 両手から発せられる黒い衝撃破によって吹きばされるコボルト達、


「ダークネス・ドラゴン!」


 漆黒の竜が闘技場にいたモンスター達をまとめて飲み込んだ。その後も、エリザベスの得意とする闇系統固有の黒い閃光が舞台上を包んだ。


「愚かな娘よ、この程度のモンスターで妾を止められると思ったか?」

 

 ほんの僅かな時間で、ほとんどのモンスターを仕留めたエリザベス。やられたモンスター達はいつも通りに光の粒子となって消えていった。だが、そんなエリザベスを見て内田は笑ったままだった。


「では、これでどう?おばさん」

「まさか、主らまで!」


 エリザベスの前に立ち塞がったのは、ゴブリンキング、オークキング、コボルトキング、三王と呼ばれる一層から三層を守る金卵のフロアボスであった。


「妾と同じ金卵モンスターまで堕ちるとは、全く笑い話にもならんな」


 ゴブリンキングは大剣を振り回しながら、オークキングは巨大な戦斧を、コボルトキングはレイピアを手にそれぞれ、エリザベスに襲いかかる。


 対するエリザベスはしばらくの間、守りに徹した。魔法で身体能力を向上させ時に攻撃を躱し、盾のように防御魔法を張り身を守った。そして、三王達が一直線に並んだ僅かな隙を突く。


「ダークネス・ブレイブ!」


 それはかつてアドラメレクがサクラを仕留めた際に使用した闇系統の上級魔法の一つにして、全魔法の中で二番目に貫通力のある魔法であった。


 烏のような形をした黒い閃光が三王達の体を貫く。そしてそのまま力尽きて光の粒子となって消えた。


「どうした小娘もうお終いか?」


 流石にこれ以上は出てこないだろうと思ったエリザベスだが、なお、笑う内田の顔を見て即座に捨てた。


「やるね、おばさん。でもうちの切り札はあいつらじゃないよ、この闘技場にはもっと強い奴がいるでしょう?パッと見てさっきのおじさんよりも強そうな奴が」


 エリザベスは誰の事だと考えたが、その答えはすぐに内田の前に舞い降りた。


「!?……流石に、これは予想外じゃ!」


 内田の前に舞い降りたのは、他のモンスターと同様に虚ろな目をした審判、大天使ガブリエルだった。



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