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引きこもり勇者がダンジョンマスターになったら  作者: ニンニク07
第二章 魔王襲来編
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決戦 第九階層

 魔王アドラメレクが視界に入ったその瞬間僕は、恐怖からか、ほぼ無意識に階層転移を行った。


「させるか!」


 転移するまでに五秒ほど精神を研ぎ澄ます必要があるが、それを知っていて狙ったのかは分からないが、アドラメレクは即座に、魔法を発動する。


「ライトニング・ブラスト!」


 雷撃が僕に向けて放たれる。完全に無防備だ。どうすることもできない。だが、幸運なことに間一髪で雷撃が当たる直前で、僕達は転移し危機から脱した。





「ここはどこだ?」


 転移した先は何故か最上階のログハウスではなく、ギリシャ神殿にあるような柱が延々と続く第九階層であった。


「おい、津田ここはどこだ?最上階ではないのか?」


 メイル達が自分達が今どこにいるのか教えろと叫ぶ。彼女達もいきなり魔王が現れて余裕がないのだ。


「ここは、第九階層だ!確かに最上階に転移したはずだったが」


 僕も何故、最上階に転移できなかったのかという疑問で一杯だ。


「もしかしたら、とっさの事だったから、上手く転移できなかったのかもしれない」


 一応推察を述べたが、皆理解できないでいた。


「どちらにしろ、魔王は八階層を突破した。あの様子では、怒りに任せて、すぐにでもここに来るだろう」


 バズさんの予想は正しいだろう。僕達に残された時間は余りにも少なすぎた。


「ここで、最終決戦だ!最上階は正直言って戦いには向いていないからな」


 バズさんの宣言に、意見するものはいない。皆言葉にしなくても分かっているのだ。ここが決戦の地であることを。


 長い、だが、多分一分にも満たない僅かな時間であっただろう、魔王が現れるその瞬間まで、僕達は一言も発せずに待った。そして、


 僕達がいる場所から五十メートルくらい離れた場所に突如、青い扉が現れた。


 最後の戦いの始まりだ。




「ほう、逃げられたと思っていたが次の階にいたとはな、ということがここが最上階ということか!」


 目に見えるほどの怒気を身に纏いながら、扉を開け九階層に侵入するアドラメレク。片足を九階層に踏み入れた瞬間に、恐怖のあまりか、それとも、ここが好機と見たのか、僕達は一切示し合わさずにアドラメレクに遠距離系の魔法で総攻撃を仕掛けた。


「フレイム・ドラゴン!」

「ブリザード・ドラゴン!」

「アース・クエイク!」

「ギガ・スラッシュ!」

「クリムゾン・ブレード!!!」


 炎と氷の竜が、地面を割るほどの衝撃が、剣から放たれる斬撃が、それぞれ同時にアドラメレクを襲う。


「やったか!」


 誰が言ったのかは分からない。それは失敗フラグだからだ、少なくとも僕は言っていない。しかしそれにしても凄い威力であった。扉の周辺は同時に放たれた複数の魔法の影響で大爆発を起こし、土煙が発生していた。


「正直、言って今のでノーダメだったらもう打つ手はないぞ」


 バズさんの発言に全員が同意した。後一回しか使えない、こちらの最大火力の攻撃手段であるメイルの「クリムゾン・ブレード」を含め、僕達はありったけの魔力を叩きこんだ。これで無傷であれば心が折れる。


「ボクが喋る前にいきなり攻撃するとは」


 だが、土煙からアドラメレクの声を聞き、全員の顔を絶望に染めた。やはり仕留められなかったか。


 煙が晴れ、アドラメレクが姿を現す。西洋貴族が着るような宝石が散りばめられた服はボロボロで、体中傷だらけであることが伺えたが、しっかりとこちらを見据え立っていた。


「この下等種族が、よくもボクの服を」


 怒りが混じったアドラメレクの叫びと共に、階層中に圧倒的な魔王の魔力が放出された。


「く、これほどとは!」


 正直言ってもう詰んでいる。僕は心が折れかけた、周りも同様だ。しかし絶望はそこで終わらなかった。


「この姿になるのは、随分と久しぶりだ。本当は成りたくなかったが、貴様に絶望を与えるために見せてやる!」


 人間の姿をしていたアドラメレクの体が、奴の部下のオーガロードと同じになった。人間の姿と同様に長い金髪を漂わせていたが、肌色であった皮膚は青くなり、その体は部下の達よりも一回り大きかった。


「その絶望に染まった顔、その顔が見たかったのだ。特別に教えてやろう。ボク達魔王は千年前に女神共に敗れ体を失い魂だけの存在になった。故に、ボクを含め魔王達はこの世界に住む者達に憑依して体を乗っ取ったのだ。ボクが乗っ取ったのは見ての通りオーガロード。だが、僕の魂の影響で通常オーガロードよりも体が強靭となったがな!」


 ああ、もう駄目だ。バズさんやメイルから、アドラメレクは滅多に前線に出てこないから、戦闘は余り強くないと言っていたが、目の前の魔王の姿を見る限りそれは間違いであった。


「では、地獄の始まりだ!!」


 そこから、先は正に地獄であった。魔法や剣で抵抗しようにも、まるで効果がない。辛うじて僕だけは奴の動きについてこれたが、他の者は雑兵のように蹴散らされていた。だが、誰も死んでいない。否、死なないように生かされていただけだ。


「ぐっは!」


 僕の体はアドラメレクの拳を鳩尾に受けそのまま、柱に激突した。内臓が潰されたのかと思うほどの衝撃を受け吐血する。体はまだ動くが、動かしたくない。うかつだが、戦闘中に早く終わらせてくれもう痛い思いはしたくない、と僕は現実から逃げるように願ってしまった。


 だが、他の者達はもっと酷かった。息も途絶え途絶えで、辛うじて生きているような状態である。


「そろそろ、終わりにしようか。これ以上やったら、そのきれいな体が見るに堪えないことになる」

「ううっ」


 アドラメレクは右手で地に横たわるメイルの首を掴むと、反対の手にあるロングソードをメイルの首にあてた。メイルの体は痛々しいほど傷だらけで、右手と左足のがおかしな方向に曲がっていた。その姿を僕に見せつけ、


「見ろ勇者一人目だ!君がボクの大事な手駒であるオーガロードを奪ったように、これから順番に君の仲間を君の前で殺してやろう!」

「やっ、やめろ!!」

「そこから動くな、ダーク・バインド!」


 止めようと体を動かそうとするも、黒い鎖が僕の体を柱ごと巻き付いた。張り付け状態になった僕にはもう目の前で起きる悲劇を黙ってみているしかないのか。


「ううっ」


 何かしようとしたのか、アドラメレクが剣をメイルの口に突っ込んだ。


「ほう、舌を噛んで自害しようとするとは、少女にしては豪胆だな!だが、させんよ。君はボクに殺されてボクの力の糧となるのだ」

「うっうっううう!」


 アドラメレクに殺されれば能力によって奴が強化されてしまう。それをさせないために最後の抵抗として自害しようとしたが、防がれてしまい涙を流すメイル。僕を含め冒険者達がやめろと叫ぶが、その悲鳴は魔王を喜ばすだけであった。


「さようなら」


 アドラメレクはメイルの口に突っ込んだ剣をそのまま押し込み頭部を貫こうとする。もう、終わりだと、だが、誰もが諦めたその時、どこから飛んできた光の矢がアドラメレクの右肩を貫いた。


「!?……くっ!」


 恐らく、致命傷ではないが、結構なダメージなのだろう。アドラメレクはメイルの口から剣を出し。彼女の体を放り投げる。


 アドラメレクは攻撃してきた相手を探す、だが、いるのは地面に横たわり動けない冒険者と柱に張り付けられた僕だけだ。こいつらには抵抗する力は残っていないと判断したアドラメレクは怒りながら叫んだ。


「い、今のは一体?誰だぁー!!でてこい!!」

「うるさいな、もう少し静かにしろ!」


 よく見るとこちらに向かって一人が歩いて来た。この階層にいるのは彼女しかいない、だが彼女は今回の戦いには協力的ではないはず、これは一体どういうことだと考える僕だが、アドラメレクの顔はそれどころではないという顔であった。


「!?お前はまさか、大天使ガブリエルか?」


 怒りの形相はどこかに吹き飛んでしまったのか、アドラメレクは顔は驚きの表情で満ちていた。


「久しぶりだな、直接会うのは千年ぶりかアドラメレク!」

「何故、かつてあの方と同じ地位にいた者がここにいるのだ?貴様ら大天使を天界から呼び出すのは、極一部のアルカナ能力でなければ不可能であるはず!はっまさか!!」


 何かに気付いたアドラメレクに対しガブリエルは満足そうな笑みを浮かべ。


「そう、この〈塔〉は勇者達に配られた二十一のアルカナ能力のうち、三種類存在する我々大天使を地上に召喚することのできる能力のひとつだ!最も五百年前の聖戦の勇者は〈塔〉の力を生かすこともなく死んでいったから、お前達魔王は知らないだろうがな」


 アドラメレクの顔が驚愕から絶望しきったものになっていく、


「まあ、個人的にはなんで四人もいるのに、一番やる気のないアタシが呼び出されたのかと疑問を持っているけどね。あ~めんどくさい」


 冒険者達は突然現れたガブリエルという救世主を見て希望に満ちていった。だが、僕は不安である。彼女は僕が魔王に殺されればいいと言っていた女だ。まだ、救世主と決めつけるのは早い。


「何故、ここに来た?」


 残された力を振り絞り、ガブリエルに向かって叫んだ。

「おお、マスター瀕死ではないか!だが、このアタシ、大天使ガブリエル様が来たからにはもう安心していいぞ!」

「僕の事死ねばいいと言っていたお前が助けにきたのか?」

「ん~、実はあの後良く考えてみたら、偶然いや奇跡とは言え、地上に降りたのに魔王を一人も片付けないで天界に戻った場合、同僚達ならまだしも、後輩の天使にまで何言われるか分からないからな、アタシの先輩としての威厳に関わるんだよ」


 どうやら、天使も人間と同じようにメンツを気にするようだが、そのおかげで救われたようだ。


「それに、いくらなんでも最弱の魔王トリオに殺されるのはいかんでしょう?」


 最弱の魔王だと、あの強さでか、僕はアドラメレクが魔王の中でも弱いことを知り驚いた。こいつで最弱なら他はどんだけ強いんだよ。


 驚きで言葉も出ない僕を横目に、ニヤニヤ、笑いながらアドラメレクを見つめるガブリエル。その言葉のどこが引き金になったのか分からないが、我を忘れたかのように、アドラメレクは叫びながら剣を手に、ガブリエルに向かって突っ込んだ。


「うわあああああああああー!!!」


 喚きながらガブリエルに突進する魔王、だが、それでも凄い魔力を放っている。僕達では一瞬で蹴散らされるだろう。だが、幸運なことに彼の対峙しているのは人間ではない天使であった。


「怒りで我を忘れたか?」


 ガブリエルはさらに二枚、合計六枚の羽を背中から生やし、宙に浮く。同時に魔王を遥かに上回る魔力が空間を満たす。その神々しい姿はまさしく天の使いである。


「来い、シェキナー!!!」


 上昇しながら、ガブリエルは空中から光輝く弓矢を取り出すと、アドラメレクに向けて打ち込んだ。


「ち、ちくしょう」


 放たれた矢は、鉄よりもに固く、僕達の攻撃を一切通さなかった魔王の皮膚を障子に穴を開けるように簡単に貫いた。体の中心にぽっかりと穴が開いた魔王は何かを呟くと光の粒子になって消滅していった。


 こうして、無敵と思わせた魔王アドラメレクはあっけないほど簡単にガブリエルの手によって消滅させられた。これで、終わり?といった感じだ。まあ、あの絶望的な状況から脱したのだから文句はない。


 アドラメレクを倒したガブリエルが嬉しそうな顔で、張り付けになっている僕の所までやって来て言った。


「この貸しは高くつくよ?」


 天使なのに、小悪魔的な表情を浮かべるガブリエル。傍から見れば、可愛い女の子に言い寄られている光景に嫉妬するだろう。だが、当事者の心境は違う。この女はそんなに甘くないのだ。


 僕は魔王を倒されたというのに、これからガブリエルにどんな要求をされるのかと心配になり、胃が痛くなった。


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