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引きこもり勇者がダンジョンマスターになったら  作者: ニンニク07
第二章 魔王襲来編
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八階層の攻防

 上手くいった。六階層のポイズンスライムを瞬殺し、あっという間に八階層まで到達したのは驚いたが、迷路という地形と大量のモンスターを狩るために、魔王アドラメレクは部下のオーガロード達の単独行動を許したのだ。


 そのことを最上階のモニターで確認した僕達はバズさんの立てた作戦を遂行するために、僕はバズさんとメイルの三人で八階層に転移した。


「!?……勇者自ら出てくるとは!」


 突然目の前に転移してきたことに目の前の一体のオーガロードが驚きを露わにした。だが、会話の暇は与えない魔王の戦力を速やかに削ぐべく、メイルが動く。


「クリムゾンブレード!!」


 彼女の残存魔力量から、これを抜いて後一回しか使えない切り札をいきなり切る。大型トラックが通れるほどの幅しかない通路は一瞬で炎に包まれオーガロードを消し炭にした。


「おお、凄い!」


 オーガロードの死体がダンジョンに吸収され僕の力となる。倒したオーガロードのポイント換算は魔力20000ポイント、能力・技能20000ポイント、装備10000ポイントの計50000ポイントであった。ちょいちょい僕の力にしたのもあるが、二十五人もの山賊達から徴収できたポイントは70000ポイントであったため、いかにオーガロードがおいしい敵であるかよく分かるだろう。僕は魔力のみを自分の力にして、残りをポイントに変換した。


 急激に魔力が上昇したのを感じられたが、それでも魔王にはまだ遠く及ばない、だが、残り三体のオーガロードの魔力を奪えればワンチャンあるのではないかという希望が生まれた。


「どうだ、俺から見ても結構な魔力の上昇を感じたが?」

「四体全部回収して、ようやく戦いになるといって所ですかね」


 この作戦の発案者であるバズさんが難しそうな顔で尋ねる。バズさんの作戦はこの迷路と大量のモンスターが配置されているこの八階層で敵を分散させた上で、僕達自らこの階層に出向いて、部下のオーガロード達を各個撃破することだ。その結果二つのメリットが生まれる。


「オーガロード達から力を奪いつつ、敵の戦力を削ぐ。さらに、合理的な思考であると思われるアドラメレクなら上手くいけば、部下が全滅すれば割に合わないと撤退する可能性も生まれる。流石、先生の考える作戦は見事ですね」


 メイルはバズさんをベタぼれする。だが、称賛されてもバズさんは手放しでは喜べないようだ。


「仮に部下のオーガロード達を全滅させた場合上手く撤退してくれればいいが、激高してかえって火に油を注いでしまう可能性もある」


 その懸念は僕もあった。だが、アドラメレクの性格が分からない以上判断はできない。一応合理的な性格の持ち主だとメイルとリサさんが言うのでそれを当てにした作戦だ。


「時間は?」


 ダンジョン内の各階を、自由に転移することができる階層転移は便利な能力ではあるが、デメリットもある。距離に応じて数十秒の時間のズレがあること、転移後、数秒、無防備な状態になること、最後に一度転移したら、五分間のインターバルを挟まなくてはならないことだ。


「オッケイ!もう行ける!」


 五分が経ち、僕達は八階層を離脱して最上階のログハウス内に戻る。一仕事を終えた僕達は魔王達の監視をしていた残りのメンバーから驚きの結果を知った。


「サクラとかいう少女が、オーガロードを一体倒したぞ!」

「何!?」


 鬼族の少女剣士サクラ、巫女服を着て、桜色の髪から二本の角が生えた十歳前後の少女であるが、ピックアップモンスターだけあって金卵の中で最強と言っても良い。武装はガチャから出てきた時に持っていた日本刀のみだが、その居合の抜刀術は神速の域に達しており、僕は彼女の刀の刀身を目で追うことができなかった。気付いた時にはすでに斬られていた、そんな所であろうか。


「凄いな」

「ええっ、メイルちゃんと違って魔力をほとんど消費しないで倒しましたから」


 リサさんとエドガーさんが称賛の拍手を送るが、僕とバズさんは手放しで喜べなかった。


「おい、津田君、あの嬢ちゃんには迷路内を逃げ回れと命令したのではないのか?」


 バズさんの言うように、八階層の階層ボスであるサクラが倒されれば、八階層での足止めは失敗に終わる。故に僕はオーガロードを全滅されるまではサクラには戦わないように命令を出したはずだが、これはどういうことだ。


 まさか、あの天使と同じで僕の命令聞かないのか。脳裏に一瞬あの怠慢天使の顔が浮んだ。もうこれ以上反抗的なモンスターはこりごりである。


「!?……おい、あの嬢ちゃん、もしかして他のオーガロードも倒しに行ってないか?」


 ガリの指摘通りにサクラは全速力で迷路内を駆け回り、得物を探しているようであった。これはヤバいあの目は自分一人ですべて片づけようとする目だ。


「ちょっと、行って来る!」


 サクラにどういうことか問いただそうとする僕に今度は自分達が同行すると何人かが、手を上げた。確かにここにいてもやることはないので、ガリを一人置いて僕達は八階に再び転移した。


「おい!これはどういうことだ。何故戦っている?」


 サクラの迷路内を疾走するサクラの目の前に転移した僕達は早速サクラを問いただした。


「いや、逃げていたら、偶々目の前の敵が現れたから斬り捨てただけです!」


 目を泳がせながら、しどろもどろ言うサクラ。普段であれば可愛いと思うが今は重大な作戦中である。


「だって、暇なんですよ。普段八階層には他のモンスターはいないから遊び相手もいないですし」


 我がままを言う子供のような可愛さがあるためか、蔑むような目で僕を見つめる冒険者達、特に女性陣の目線が冷たい。


「こんな、可愛くて小さい子を放っておくなんて、津田君あなた最低ね!」


 メイルがサクラを庇いながら、僕の事を責めた。男性陣も同様の意見を持っているようで擁護の言葉一つない。


 だって仕方ないじゃないか、八階層の防衛はこの子一人で十分だと思ったし、それにこんな小さな子との接し方も分からない。つまり、引きこもりにはハードルが高すぎるのだ。


「ひと段落ついたら、お姉さんが遊んであげるわ!」


 僕が頼りないことに気付いたのかメイルが胸を張って宣言した。その言葉に対し、


「じゃあ、いっぱいぶった斬りたいから、得物を連れてきて欲しいです!」


 おおっと、流石のメイルも目を輝かせながら物騒な事を言うサクラには引いたようだ。


「じゃ、じゃあ、機会があったらね」


 逃げたな。だが、発言は物騒だが確かにここで一人でいるんは少しかわいそうな気がしてきた。幼女虐待とも受け止められかねん。僕も一段落ついたら、モンスター達の改善に取り組もうと思う。


「おい、来たぞ!」


 束の間の和やかの時間も終わり。敵が来た。しかも前後に挟まれた形で二匹オーガロードが僕達を囲っていた。


「挟まれたが、好都合ここで一気に蹴りをつける!」


 バズさんの言うようにこれは好機だ。今なら二匹まとめて仕留められる。


「!?おい!ラックス獲物がいるぞ!」

「おう!トミー、俺たち運がいいな、ここで勇者を半殺しにすれば最上階まで行かなくて済むぞ!」

「全くだ。一体後何回で最上階か分からなかったからな。本当に俺達運がいい!!」


 僕達を囲って勝った気でいるのか、二匹のオーガロードは僕達を挟んで互いに会話していた。


「マスター私は後方の赤いオーガロードをやるので、マスター達は前方の青い奴をやってください」

「いや、ちょっと待て!」


 サクラは僕が静止するよりも早く、後方のオーガロードに斬りこんで行った。その顔は幼い外見からは想像できないくらい、ひどく歪んだ喜びの笑顔に満ちていた。どうやら、とんだバーサーカーのようだ。


 とは言え余りサクラに対して強く言えなかった。サクラほどではないが、実は僕もそろそろ戦いたいと思っていたからだ。


 すでに殺したオーガロード二匹と山賊から奪った力がどの程度のものか知りたかったからだ。僕はメイル達に手を出すなと告げ。山賊の一人から徴収したロングソードを手に前方の青いオーガロードに向かって突撃をした。


「フレイム・ジャベリン!」


 走りながら、魔法を唱えて右手から炎の槍をオーガロードに向けて放った。オーガロードは手に持った巨大な戦斧でフレイム・ジャベリンを地面に叩きつけたが、問題ない、これは揺動だからだ。


「パワーアップ!」


 僕は自分に基本的な肉体強化魔法をかけ、地面に戦斧が突き刺さって取れずに、手間取っているオーガロードの左胸を突いた。


「メタル・ボディ!」


 無防備なオーガロードが取った行動は土系統の皮膚を鋼の固さにする魔法だ。ロングソードに何も強化がなされていない僕の剣はオーガロードの鋼の肉体を貫けないどころか弾かれた。


「ふん、隙だらけだ!」


 剣を弾かれ、体勢を崩された僕の体の横っ腹を目掛けて、オーガロードは戦斧を振りかざした。だが、まだ終われない、僕はバックステップで一気の後退し、間一髪で戦斧の射程内から逃れた。


 山賊達が長い間、磨いた剣術と魔法がなければ、戦いにもならなかっただろう。僕は戦いの最中でありながら、僕の糧となってくれた者達に感謝した。


「どうした勇者こんなものか?」


 顔に似合わず、オーガロードは挑発してきた。勘弁してくれ僕はこれが初めての実戦なんだぞ。心の中で呟くが、聞こえていたとしても取り合ってくれないだろうなと思いつつ、僕は新たな魔法を唱える。


「アクア・ドラゴン!」


 水属性上級魔法の一つアクア・ドラゴン、これを覚えていた山賊は一日に一発しか撃てなかったと思われるが、今の僕の魔力量であれば、十発は撃てるだろう。


 本来は巨大な水の形をした竜を術者が自由自在に操り、何もかもを飲み込む魔法だが、通路が狭すぎるため、水竜を真っ直ぐに突っ込むしか選択肢はなかった。


 水竜に飲み込まれて十メートル後方の壁に激突するオーガロード、僕は勝機を逃さないために勢い良く突進した。


「アクセル・ライトニング!!」


 雷系統の肉体を大幅に強化し、高速で突っ込むアクセル・ライトニング本来は槍を持って敵を突き刺す魔法だが、あいにく、持っていないので、手持ちのロングソードで代用した。僕はロングソードを前に突き出して、雷を纏って敵に突撃しているかのような感覚で特攻をかけた。


「く、グレートウォール!」


 壁にぶつけられた衝撃で苦しそうな顔を浮かべながらも、オーガロードは魔法を発動し、地面盛り上げて通路を塞ぐには十分なほど大きさの土の壁を展開した。


「うおおおおおおおお!!!」


 目の前に壁があるが、高速で突進する自分を止めることはできない。僕は覚悟を決め、土の壁のにそのまま突っ込んだ。


 僕自身が雷を纏っていたためか、または、凄まじい速度で突っ込んだおかげか、ともかく。スピードを落とすことなく、僕は壁を突破し、今度こそ、オーガロードの左胸を貫く。


「すみません、アドラメレク様、先に逝きます」


 オーガロードは最後にそう呟くと、息絶えて光の粒子となってダンジョンの糧となった。




「勝ったじゃん、お疲れ」

「まあ、あの魔力量であれば、勝てても不思議ではないよ」


 出血はしてないが、雷を纏った弊害か全身が痛いのを我慢して、僕はメイル達の元に戻った。オーガロードを単独で倒した僕をメイル達は褒めてくれた。思えば最後に褒められたのはいつだろうかとふと昔を振り返ってしまう。


「バズさんの教え子の命を吸ったんだ。勇者としてあれくらいは倒さないとね。サクラの方は?」


 メイル達の後方から、サクラが一人こちらに向かって歩いて来る。彼女の後方ではオーガロードの死体と思われる光の塊がダンジョンの壁や床に吸収されていた。


「よし、これで、魔王の幹部は全員倒したな。一度最上階に戻って、魔王がどう判断するのかを……」


 だが、今後の方針を伝えるバズさんの言葉は最後まで続かなかった。


「ダークネス・ブレイブ!」


 怒りが込められたその言葉が通路に響き渡ると、黒い鳥の形をした閃光が、瞬きすらも許さない一瞬の内にサクラの胴体を貫通し、僕達の間をすり抜けて行った。


 一言も発することなく力尽きたサクラの死体は、すぐに光の粒子となり、やがて形を変え、二つの扉となった。


「!?…今、何が起きた?」


 突然の出来後に僕を含め全員が何が起きたか理解できず、驚きでその場で固まってしまう。だが、ゆっくり理解できる時間を作ってくれるほど状況は優しくなかった。


「貴様ら、覚悟はいいな?」


 黒い閃光が飛んできた方を見る。そこには怒りで我を忘れた魔王アドラメレクがいた。



次回で二章完結の予定です。

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