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其の参 『戦船』

遅くなりましたが三話目です!短いですが、涼川君は今のところ上手く書けません……。

〜涼川Side〜


 無名の丘。

 常時、なぎの吹いている状態のこの土地は、俺にとって昼寝に最適な場所だった。武器の方天画戟を横に、晴れ渡る空を見上げていた。しかし、今の俺の気分は、空とは裏腹にかなり曇っていた。

 両手を投げ出し、空飛ぶ箱舟をただ見上げていた。

 箱舟。

 空飛ぶ、箱舟。

 いや、宝船かもしれない。

 木だからすぐ燃えそうだ――、オールと言うのかな、それが上下に動いてるけど、あれだけじゃどう見ても飛べないよな――。

 そんなことをぼうっと考えながら。

「……あれさぁ」

 俺は、独り言のように呟いた。いや、はたから見ればれっきとした独り言なのだろうが、少なくとも俺自身にとっては会話である。俺ともう一人との、二人の会話である。

「何で空飛んでんのかな」

 その言葉に返してくれる言葉はない。当然と言えば当然だ。しかし、頭の中で返してくれる言葉はあった。

(知らぬよ。ただ、箱舟か宝船か――、そのくらいしか情報はないのう)

「だよなぁ……」

 もう一人の住人――、いや、住竜は、いつもの老人のような口調で言った。全知全能(と思われる)竜でも流石にあの箱舟の飛ぶ仕組みは分からなかったらしい。

(いや、そっちの意味だったのか?)

「逆にどっちの意味だった?」

『何であんな所に船が、という意味じゃと思った』と竜は言った。ほう、その意味があったか、と俺は起き上がりながら思った。

「……なぁ」

(行けばいいじゃないか)

 最後まで言う前に言われた。せめて最後まで言わせてくれ、と続ける気はない。言うだけ無駄だ。

(君が戦いたいのならそうすればいい。戦いたくないのならば黙っていればいい)

 つまり、自分に忠実であれ、と。自分の本心の通りに動け、と。だが、それでは行き当たりばったりになる時がある。そんな時は考えろ、その上で行動しろ、と言うのか。

 俺より遥かに長生きしている竜の言葉だった。

「……そっかぁ」

 俺は愛刀(刀というより槍っぽい)の方天画戟(ほうてんがげき)を持って立ち上がった。本能のまま生きろ、というのならば、今からの俺の行動は――、まあお察しだ。


**********


「ま、こうなるよな」

 無縁塚――、今、俺のいるのは彼岸花の咲き乱れる三途の川の向こう岸、彼岸ひがんではない。普通の河原の此岸しがんである。死神の渡し船もなく、ただ突っ立ってる状態だ。

 ――いや、違うか。

「本当は反魂するのは――」

「貴方は命を――」

「私だって仕事が――」云々。

 魂を一つ一つ裁いている閻魔大王、四季映姫さんのありがたいお言葉……、じゃなかった。四季映姫さんからありがたくないお説教をされているところだった。

 別に映姫さんが許可してくれればすぐに俺は現世に戻れるのに、何でこうもグダグダとさせるのか。

 何でこうも説教するのか。

「ちょっと! 聞いているんですか!」

「はいはい聞いていますよ映姫様」

 その俺の態度が気に入らなかったのか、またお説教タイムが始まった。いい加減に終わらないかなぁ、と俺は一つ、大きなあくびをした。

「大体貴方は前から――」

「戦いが好きなら――」

「小町じゃあるまいし――」

 一向に終わる気配のないお説教。俺は痺れを切らして、反論した。

「あのさぁ、俺にどうこう言ってる暇があったら、早く俺を戻して魂裁いたら?」

 俺の反論に四季映姫は『そ、それは……』と口ごもる。論破できないわけではないのだろうが、こうやって反論されたことに対してダメージを受けているらしい。よく分からん。

「ほら、いつも通りにさぁ」

「うぅ……」

 四季映姫は、しばらく顔を伏せていたが、いきなり手に持つのべ棒(未だに何と言うのか分からない)を振ったかと思うと、既に俺の脚は消えていた。これでとりあえずは現世に戻れる、と眼をつぶる。コンティニューだ。

 意識が消える瞬間、四季映姫に最後であろう言葉を投げられた。

「いくら生き返れると言っても――、私は悲しいんですよ」

 ……あれ。お前ってそういうキャラだったっけ。

 そう言ってやる暇はなかった。


 眼が覚めると、俺は魔法の森の木の上にいた。――あれ、死因は溺死、船の甲板でだったが、何故森に出たのだろう。生き返るなら船の甲板ではないのか?

(船は移動しとるからの、縦の座標がそれでずれたのだろう)

 ああ、そういうこと。確かに位置的にはこの辺ではあるな。空を見上げながら俺は呟いた。

 俺は一つ息を吐いて、方天画戟を手に持った。太陽の位置を見る限り、あれから一時間ほど経過しているだろう。『行くか』と船を見ようとした瞬間――。

「ッの野郎! 二秒でリベンジだ――、って」

『涼川!』という言葉と共に、半人半吸血鬼が大量の水と共に落ちてきた。誰であろう、ロッヅェ・スカーレットだった。


 閑話休題。

 木の上は足場が不安定であるが、何故か俺たちはその上に胡座をかいて向かい合っている。開口一番、ロッヅェは言った。

「英治にやられた」

 ロッヅェは頭を掻きながら、ばつが悪そうに言った。なるほど、大量の水は俺が戦った奴じゃないのか。

「で、涼川は、あの船をどう思う」

 ちなみにロッヅェは、霊命さんに言われて行ったらしい。『箱舟の異変だ』とかなんとか。

 俺は正直に『何とも思っていない』と答えた。じゃあ何が目的なんだ。その問いに俺は、一言で答えた。答えてやった。

「戦い」

 ロッヅェはそれを、至極可笑しそうに笑った。馬鹿らしい考えだ、とも言った。だが俺は知っている。ロッヅェが動いたのは、異変という口実のもとで戦うことだ、と。

「俺もお前も馬鹿だよな」

 俺は、ロッヅェには聞こえないくらい小さな声で言った。

 船の攻略はまだ続きそうだ。


**********

次回は少し時間が戻ります。英治君とロッヅェ君メインです!

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