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自分から、宇崎君にメッセージを送るようになった。
メッセージの内容は『元気か?』とかシンプルなものだ。
それでも、彼は『元気です!』とか『今日は天気が良いですね』とちゃんと返してくれる。
最初は自分から送っていたが、今では宇崎君の方からもメッセージが届くようになった。
『おはようございます』とか『面白い模様の猫ちゃんと会いました』と猫の写真も送られてきたこともあった。
猫ちゃん…。胸がまたキュッと締められた。
こうしてやり取りをしてるだけで、癒されているのが分かる。
でも、やはり本人に会いたい。
食事もいいが、どこか一緒に出掛けるのもいいかもしれない。
彼とだったら、何処に行っても楽しめそうだ。
その想像を膨らませるだけで、心が躍った。
夜、風呂から上がるとスマホに着信がきており、相手は六つ上の姉、雪乃からだった。
かけ直すと、三コールで繋がった。
『もしもーし!遼太郎ー、元気?』
「元気だよ、姉さん。」
姉は、結婚しており名字も御蔵から相良になっている。そして、二児の母だ。
強気な性格で、旦那の文也さんも姉には逆らえないらしい。
「何か用事でも?」
『用事って訳じゃないけど、あんたさ、良い人いるの?』
そう聞かれて、宇崎君の顔が浮かんだ。
いや、彼の事は気になっているだけだ。
「…いない。」
『へぇ~?本当に?』
電話越しでもニヤニヤしているのが分かる。
『いや、あんたに良い人がいるみたいだって、康成から連絡があったんだけど。』
黒井だけじゃなく、姉さんにまで言ったのか!
「そういうのじゃない。」
『え〜?本当に〜?』
ああ、完全に面白がっている。
「明日も、仕事だから切るぞ。」
面倒くさくなったので、電話を切ろう。
『えっ!ちょっと、待って!あと、お母さんの事だけど!』
その言葉を聞いて、電話を切ろうとしていた手が止まる。
「……母さんが何?」
『お母さんに、今年も会わないつもりなの?』
母とはもう十年も、会っていない。
「向こうは、俺に会いたくないだろ。」
『そんな事は!「じゃあ、また。」ちょっ…』
プツッ。
姉の言葉にかぶせるように言って、電話を切った。
プー…。プー…。プー…。
無機質な音が部屋に響いた。
十一月下旬。日中の気温が徐々に下がり始めた頃、宇崎君からメッセージが届いた。
夜、ランニングから帰って来て水分を摂っていた時だった。
『お疲れ様です。もし良かったら、一緒にお食事でも行きませんか?』
驚きのあまり、まばたきが止まる。
だが、すぐに何も考えず返信した。
『お疲れ様。ぜひ、自分で良ければ。』
数分後に、またスマホが鳴る。
『ありがとうございます!オススメのお店があるんです。御蔵さんにも食べてほしくて。』
自分にも食べてほしいって…。
何故、文面だけでこんなにも胸をくすぐられるのだろう。
それから二人で都合のいい日を合わせ、今週の金曜日の夜に行くことになった。仕事が終わったら、そのまま落ち合い一緒に行く予定だ。
今日は火曜日だから、あと三日後になる。
ああ、また彼に会える。
そして金曜日。
朝から気分が良い。
機嫌が良いのが黒井にも分かっていたみたいで、「今日は、何かあるんですか?」と聞いてきた。
「いや、特にないが。」
そう言ったが、こちらを探るような目で見てきた。
宇崎君と、夜に食事の約束をしていると言ったら付いてきそうだ。
「そうですか。てっきり、彼とお約束でもしてるのかと思いました。」
「宇崎君とは何も約束していない。」
そしたら、意地の悪い表情になった。
「私は彼と言っただけで、宇崎さんとは仰ってませんよ?」
墓穴を掘ってしまった。普段だったらこんな油断しないのに。
「でも、良かったですね。楽しんできて下さい。」
クスクス笑いながら、言ってくれた。
「…ああ。」
その言葉が精一杯だった。
すると、黒井が突然、何かを思い出したような顔になった。
「そういえば、この間宇崎さんとお会いしたんです。」
「会ったのか?いつ?」
思わず少し前のめりになる。
「この間の日曜日、本屋で偶然見かけたんです。声を掛けようと思ったんですが、少し離れた所から宇崎さんの方にスマホを向けている、変な男が居たんです。」
「何だその男は?」
「私も不審に思って、バレないようにその男の後ろに近付いたんです。スマホを覗き見たら、宇崎さんの写真を撮っていました。」
「それ、盗撮じゃないか。」
自分がその場にいたら、きっとぶん殴ってる。
「その後は、お店の外で話し合いをして写真を消してもらいました。泣きながら逃げて行きましたね。」
相当、その男を追い詰めたな。
黒井の事だから、身分証とか名刺の写真を撮って、また同じ事をしたら勤務先にバラすとか言って脅してそうだ。
「一応、名刺と身分証の写真を撮っておきました。」
やはり、予想通りの事をしていた。
「また店内に戻ったら、宇崎さんに声を掛けて、そのままお茶をしました。」
「は?何故お茶をした?」
「疲れた心を癒して貰おうかと思いまして。」
疲れた心?いつも涼し気な顔をしてる人間が何を言っているんだ。
「あ、宇崎さん恋人いないみたいですよ。今まで、誰ともお付き合いをした事がないそうです。」
「…それを、何故俺に言う?」
「いえ?特に理由はございません。」
からかう様な良い笑顔で言ってきた。
でも、そうか…恋人はいないのか。
その事実に密かに歓喜している自分がいた。




