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名探偵の回顧録  作者: 西季幽司
第一章「名探偵の死」
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あおり運転③

 千葉県警より木村のもと、園田啓汰の事故について回答があった。

 竹村が知り合いから聴取した内容もほぼ同じで、「特に事件性は見られない」と千葉県警では考えていた。

 未明、館山道で自動車事故が発生、園田啓汰が運転するが中央分離帯に激突し、車は横転、大破した。運転していた園田啓汰は即死だったと考えられる。

 事故の原因はあおり運転にあると思われ、事故を目撃したトラック運転手によると、一台の乗用車が猛スピードで暴走し、クラクションを鳴らすなど、あおり運転を繰り返していたと証言している。

 但し、あおり運転をしていたのは園田の車だった。

 事故の直前、あおり運転に腹を立てた車と競争になり、ハンドル操作を誤って中央分離帯に乗り上げ横転したものと見られ、千葉県警では事故の原因となった車を探していた。

 監視カメラの映像から車両を特定し、車の運転手から話を聞くことができた。

「あいつ、狂ってました。背後から猛スピードでやって来て、執拗にクラクションを鳴らすので、こっちも腹が立っちゃって、スピードを上げて振り切ろうとしたら、ついて来たのです。それで競争みたいになっちゃって、あいつ、無理に追い抜こうとして、ひっくり返ったのです。あれ、僕のせいなのですかね?」自称、会社員だと言う若い男がそう証言した。

 トラック運転手の証言と符号していることから、事実だと考えられた。

「園田は危ない男だったのですね」と吉田が呟く。

 竹村は冷静だ。「あおり運転の加害者が自作自演で死んだだけだ」と冷たく言った。

「木村さんの捜査結果、気になりますね」

「園田は千葉の高速道路で事故を起こして死んだ。ヤマさんの遺体が見つかったのも千葉だ。しかも、園田が住んでいたのが村田の隣の部屋となると、園田がヤマさんの事件に係わっていた可能性が高い」

「最後にヤマさんが会いに行ったのが園田なのでしょうか?」

「だろうな」

「それを証明できませんか?」

「そうだなあ・・・」と竹村が考え込む。

「携帯電話はどうでしょう? 園田の家にはヤマさんの名刺がありました。電話をかけたのかもしれません。園田の携帯電話は・・・あるとしたら千葉県警ですね」

「ヤマさんの携帯は?」

「遺体が見つかったのが木更津ですから、それも、あるとしたら千葉県警ですね」

「ヤマさんの携帯電話番号は分かっている。通話記録だけなら、電話会社に問い合わせることができる」

「確かに。直ぐに調べます!」

 吉田が山本の通話記録を電話会社に問い合わせていると、木村から連絡が来た。

「竹村さん。園田の経歴をチェックしていて、ヤマさんと重なるところがありました」と言う。

「二人は接点があったのですね」

「はい。地元が同じで・・・」と木村は口籠った後で言った。「小学校の同級生だったようです」

「小学校ですか⁉」

「はい」

「その後は?」

「園田は引っ越したようで、二人に接点はありません」

「そうですか・・・小学生の頃の出来事が事件に結び付いたとは思えませんね」

「当時の関係者と会って、話を聞いてみたいと思います」

「我々もお供します」

「しかし・・・村田の捜査の方は良いのですか?」

「木村さん。村田は家の中や戸外の廊下に残されていた血の着いた運動靴の足跡を拭き取っています。何故、そんなことをしたのでしょうか?」

「それは・・・村田の足跡だったからではないですか? やつは犯行時、運動靴を履いていた、事件後にそれを処分してしまっただけです。犯行後、足跡が残っていることに気がついて、慌てて拭いて回った」

「事件後に運動靴を処分してしまったのなら、凶器のナイフや衣類も一緒に処分出来たはずです。何故、運動靴だけ処分してしまったのでしょうか? それに、村田が運動靴を履いていたのなら、床を拭くよりも、靴底を拭いた方が手っ取り早かったのではありませんか?」

「まあ、そうですね――では、血の着いた足跡は、目撃者のものだったのでしょう」

「それも変です。犯行後に、目撃者がやって来たのなら、村田はもう現場にいなかったはずです。足跡を拭き取ることが出来ない」

「じゃあ、目撃者が来た時、村田はまだ現場にいたのです。そして、現場にいるところを目撃された。慌てて後を追ったが見失ってしまった。そこで目撃者の足跡を拭きとって、逃げたのです」

「何故、そんなことをしたのでしょうか? 目撃者の足跡を現場に残しておいた方が、捜査を撹乱できて、村田にとって好都合だったはずです」

「う~ん。咄嗟の際、人間、そこまで冷静に判断出来ませんよ。つい足跡を拭きとってしまった」

「ええ、まあ、そうかもしれません。靴下から血痕が見つかったと言うことは、村田は玄関で靴を脱いで、部屋に上がっていたことになります。入り口の防犯カメラの映像から、犯行当日、村田が革靴らしきものを履いてマンションに入ったことが分かっています。それに、実際、逮捕された時に、村田は革靴を履いていました。一方、血痕が外の廊下にも残っていたことから、目撃者は運動靴を履いたまま、部屋に上がったことになります」

 木村がおずおずと尋ねる。「確かに・・・ひょっとして竹村さん。村田が犯人ではないと考えているのですか?」

「分かりません。ですが、考えれば考えるほど、合理的な疑いが湧いて来る――ような気がします。村田が目撃者だった可能性があるんじゃないかって」

「村田が・・・目撃者・・・」木村が絶句した。

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