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名探偵の回顧録  作者: 西季幽司
第一章「名探偵の死」
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殺された相棒④

「なるほど」竹村も頷かざるを得ない。だが、竹村は食い下がった。「では、チャイムはどうです? ほら、どなたか尋ねて来ると、ピンポンとチャイムを鳴らすじゃないですか。お隣でチャイムが鳴る音を聞いていませんか?」

「あ、ああ、チャイム。チャイムねえ・・・確かに、鳴ったような気がします。ですけど、それもねえ。やっぱり、あんな事件があったものだから、今になって、そんな気がするだけかもしれません」

「悲鳴はどうです? お隣から悲鳴が聞こえて来ませんでしたか?」

「それもねえ、何時も、あの子が、『ぎゃあ、ぎゃあ』と四六時中、物凄い悲鳴を上げていました。精神的に不安定だったのかしらね。お隣から悲鳴が聞こえても気にしなかったと思います」

「大人の悲鳴でも、ですか?」

「そりゃあ、大人の悲鳴が聞こえたら、気になったでしょうけど、私には分かりません。聞えなかったような気がします」

「足音はどうです?」

「革靴ならともかく、運動靴を履いていると、廊下を歩く足音なんて聞こえやしませんよ。御免なさいね、お役に立てなくて。これくらいでよろしいかしら?」千穂が申し訳なさそうに言った。

「お手間を取らせました。最後にひとつだけ。この刑事が最近、尋ねて来ませんでしたか?」と竹村は携帯電話に保存して来た山本の顔写真を見せた。

「いいえ~来ていません」と千穂は明るく答えた。

「そうですか・・・お忙しいところ、お騒がせしてすいませんでした。何か思いついたことがあれば、何時でも結構ですので、警察の方にご連絡下さい」

「ええ、勿論です」

 丁寧に礼を言って、千穂の部屋を出た。無言でエレベーターホールまで歩いてくると、吉田が待ちかねたように、「竹村さん!」と口を開いた。木村も気がついているようで、「彼女――」と何か言いたそうだった。

「ああ、分かっています」と竹村が頷く。

 千穂との会話の中に、重要な証言が隠れていた。

「何故、彼女を問い詰めなかったのですか?」

「彼女は容疑者じゃない。今、問い詰めても、言葉のあやだと逃げられてしまうだろう。それに、黙っているのには、何か理由があるはずだ。そこを少し探ってみた方が良い」

「彼女は二人の人間が尋ねて来たことを知っているのでは無いでしょうか?」

「多分な。でなきゃあ、革靴に運動靴と言う例えが、直ぐに出て来るはずがない。犯行現場に運動靴の下足痕が残っていたことは、捜査機密だ。見ていなければ、彼女に分かるはずがない」

「彼女自身が運動靴を履いたのではないでしょうか? お隣の様子を見に行った」と木村が言う。

「確かに、その可能性があります。運動靴のサイズを確認してみましょう。でも、何故、彼女は何もしゃべらないのでしょうか?」

「余計なことを言って、村田から恨まれるのが怖いからではないでしょうか?」

「しかし、村田はもう捕まっています」

「ああ、そうか、そうですね・・・」

 三人、考え込んでしまった。謎は残ったが、隣家の中年女性が事件について何か知っていることは間違いないだろう。

 その後、マンションの住人を訪ね歩いたが、これと言って有益な情報を得ることはできなかった。木村についても、「さあ・・・」、「見たことありません」と答える住人ばかりで、嘘を言っているとは思えなかった。

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