拾われた人間③
――犬猫ならいざ知らず、人を拾って来てしまいました。
みたいなことが、年賀状に書いてあったと言う。
「人を拾ってきた!?」
「ええ。ですから、私も気になって、所用で外出する機会があったので、仕事が終わってから、足を伸ばして松永の家に寄ってみたのです。ひょっとして良い人でも出来て、結婚する気になったのではないかと思いましてね」
「松永さんは独身でしたね」
「あいつ、『俺を見ろ。ろくに働きもせずに、毎日、ぶらぶらして暮らしているだけだ。俺のような人間が、一人前に家族を持とうなんて、おこがましい』と言って、独身を貫いていました。
久しぶりに会いに行ってみると、女性どころか、小汚い若者が弟子のように、まとわり着いていました。路上で行き倒れになっているところを、拾って来たと言っていました。聞けばヤクザまがいの金融機関から金を借りて、借金が返せなくなって逃げ回っている内に、行き倒れになってしまったと言うことでした。
『悪いことは言わない。あんなどこの馬の骨だから分からないようなやつを、家においておくのは止めておけ』と忠告したのですが、あいつは耳を貸してくれませんでした。あいつにとっては、何時ものボランティアのつもりだったのでしょう」
有限会社ヤマケンを退社後、行方が分からなかった金本だが、ギャンブルで借金を重ね、借金取りから逃げ回っていたのだろう。恐らく、浮浪者へと身を持ち崩し、行き倒れとなってしまった。そこを、松永に拾われた。そんな状況が目に浮かんだ。
「その男、金本信吾という名前だったのではないですか?」横から吉田が口を挟む。
「金本信吾・・・名前まで、はっきりと覚えていないのですが、男のことを松永は『信吾君』と呼んでいた――と記憶しています。小柄で丸顔の男で、若いのに頭頂部が薄くなっていました。目が細くて、八の字になった眉毛が男の顔を情けなく見せていましたね。全体的に人のよさそうな顔なのですが、どこか・・・そうですね・・・分厚い唇がぬめぬめと濡れていて、得体の知れない印象がありました」
「この男でしょうか?」と吉田が金本の顔写真を見せると、友井は「随分、昔のことですしね。記憶もあやふやですし、私が会った男はもっと若かったので・・・でも、似ています。この男だと思います」と言いつつ、頷いてくれた。
「松永さんは海外に移住すると近所の方に言っていたようです。そのことを、友井さんはご存知でしたか?」
「海外移住ですか? うーん・・・そう言えば、松永からそんな話を聞いたことがあります。『何時か海外で暮らしてみたい』って。でも、学生時代の話ですよ。他愛も無い、戯言だったと思います」
「松永さんから連絡が来なくなって、変だと思われませんでしたか?」竹村が尋ねると、友井は眉をしかめて、ばつの悪そうな顔をした。
「大学卒業後は、年賀状をやり取りするくらいの仲でしたからね。年賀状が来なくなっても、二、三年は気がつきもしませんでした。
あいつとは住む世界が違いましたから。年賀状が来ていないことに気がついて、一度、様子を見に行きました。留守にしていてようで、会えませんでした。今、思えば、あの時、あいつはもう・・・とにかく、私と連絡を取るのが嫌になったのだろうと思っていました」
「では、最後に松永さんと会ったのは?」
「はい。その金本と言う男と会った時が、結局、あいつと会った最後になりました」
友井はそう言うと、目を伏せた。友井の脳裏には、松永との思い出が走馬灯のようにめぐっていたのかもしれない。
村田と面会したいと申し入れて来た若い女性がいた。
拘留中とあって面会は出来ない旨を伝えると、「そうですか」と目を伏せ、出て行こうとした。
呼び止めて名前を尋ねると――




