表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
名探偵の回顧録  作者: 西季幽司
回顧録(三)「黙秘」
PR
46/72

兄貴とお前だけ④

 取調室に入る前に、廊下で「ふうううう・・・」と大きく深呼吸をした。木村が同情の眼を向けて言った。「大丈夫ですか?」

「やりしかないさ」

 村田は黙秘を続けていた。

「そろそろ限界だよ」係長が弱音を吐いていた。

 村田が口を割らないのは、私の取調べが生ぬるいからだと言う声が、捜査員の間で段々、大きくなっていたからだ。そろそろ庇いきれないということだろう。本庁も進展しない取調べに痺れを切らしているようで、「村田からの自供はまだか?」と連日、矢のような催促が係長のもとにあるようだった。

「証拠はそろっている。自供がなくても、公判は維持できる」と村田を送検する方針を固めているのだが、自供があるに越したことはない。まだ勾留期間が残っている。とにかく自供を引き出してくれと言うのが本庁からの要望だった。

(まあ良い。今日は秘密兵器があるからな)と思った。

 服部恵美子から聞いた話が村田の口を割らせる突破口になるかもしれない。出来れば、物証でも出て来てくれれば良いのだが・・・ふと思い出して木村に聞いてみた。「そう言えば、運動靴が見つかっていなかったな? その後、進展はあったか?」

「いえ、運動靴はまだ見つかっていません」と木村が短く答えた。

「そうか、まだ見つかっていないのか・・・それは妙だな」

 凶器のナイフは勿論、犯行時に着ていたパーカーとスラックス、手袋に金本家から持ち去ったタオルまで見つかっている。それなのに、履いていた運動靴だけ見つかっていないと言うのは妙だった。

 運動靴だけ、別に処理したと言うことになる。そう呟いてから、「まてよ」と思い当たった。

「村田のアパートから押収したものの中に、靴下は無かったか?」

「ありました。私物はほとんど無かったので、洗いざらい押収して来ました。中に靴下があったと思います。靴下がどうかしましたか?」

「鑑識で調べたはずだ。結果はどうだった?」

「結果ですか?」

「血液反応だ。村田が履いていた革靴からは、血痕が出ていない。となると、村田は靴を脱いで金本家に上がり込み、犯行に及んだ可能性がある。だとしたら、靴下に血痕が残っているはずだ」

「なるほど、日本人は土足で他人の家に上がりこむことに抵抗がありますからね。つい習慣で、玄関で靴を脱いだかもしれないと言うことですね」

「そうだ」

「運動靴だけ見当たらないのが変だ。ひょっとしたら、現場にもう一人、運動靴を履いた人間がいたんじゃないか? だから、村田は運動靴を持っていなかった」

「現場に村田以外の人間がいたと言うことですか!?」

「あくまで、可能性の問題だ。でも、そう考えると、村田が運動靴を持っていなかった理由が説明つく。だが、あくまで実行犯は村田だ。それは間違いない。現場にいたのは、共犯者か、もしかしたら目撃者なのかもしれない。現場にいた、もう一人の人物を探し当てることが出来れば、村田の口を開かせることができるはずだ」

「なるほど~」

「愚図愚図するな!確かめていないのなら、至急、鑑識に行って確かめて来い」

「わ、分かりました」木村が鑑識に駆けて行く。

 共犯者のことは考えて来なかった。村田が口を噤んでいるのは、共犯者がいたからかもしれない。だが、共犯者を探すと言っても、雲をつかむような話だ。

 出所以来、村田はかつてのヤクザ仲間と距離を置き、人目を忍ぶようにして生きて来た。殺人の共犯者となりそうな人物は、村田の周辺から浮かび上がって来ていない。

 木村の帰りを待っている間、竹村に電話をかけた。共犯者の話をすると、「う~ん」と唸った後で、「四課の話ですと、村田は出所してから、まとまった額の金を玄武会から受け取ったようです。表向きは敵対していた黒虎会の幹部を抹殺し、服役したことに対する功労金のようですが、玄武会では、黒虎会との間で事を荒立てたくない事情があったようです。

 中国マフィアの進出に対して共同戦線を張ろうと、幹部同士で話し合いの場を持とうとしていた矢先に、村田が武藤を殺してしまったことで、随分、ごたごたしたみたいです。玄武会では、舎弟の復讐で暴走してしまった村田の面倒を見るのは御免だと思ったのでしょうね。金は手切れ金だそうです」と教えてくれた。

「つまりは、村田はヤクザの組織からも見放されていた訳か」

「そうです。かつての仲間で村田に手を貸す人間がいたとは思えません」

「となると共犯者ではなく、目撃者の可能性があるな」

「共犯者であれば、相手を庇って黙秘している可能性が考えられますが、目撃者となると、村田が黙秘を続けている理由が分かりません。いや、まてよ・・・」

 竹村の言葉にピンと来た。「目撃者がいたとなると、その人物の身が危うくなるな」

「ええ」

「もしかしたら、村田は既に――」

「目撃者の口を塞いでしまったのかもしれない。だから、余罪がバレるのを恐れて、だんまりを決め込んでいる」

 阿吽の呼吸で、ひとつの結論にたどり着いた。

 村田は金本一家を殺害する様子を誰かに目撃された。村田はその人物を殺害して口を塞いだ。そして、そのことが露見するのを恐れて黙秘を続けている。

「ちょっと無理がありまかね? 三人、殺しておいて、四人目を隠す必要は無いのかもしれません。それに、他殺死体が出たという話も聞きませんし――」

「何か事情があるのかもしれない。良い線まで行っているような気がするよ」

「現場にもう一人、誰かいたかもしれないと言う見立ては、こちらで検証してみます。そちらは、村田の事情聴取を頼みます。頑張って、やつの口を割らせて下さい」と竹村から励ました。

「ああ。服部恵美子の話をぶつけてみるつもりだ」

「効果があれば良いのですが・・・」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ