プロローグ*前書きに注意事項あり
こんにちは。こんばんは。もしも待っていてくれた方がいたなら幸せです。予定5話程度が何故か10話くらいになりました。調子がだいぶ崩れていますが、終わりが見えてきて個人的には安堵しています。ただ、無理して読まないでください。
特別表示のないものは人称も視点もコロコロ変わります。
そして長いです。読まなくても正直問題ないです。
それでは、とても長い蛇足を始めます。
歌って、跳ねて、笑って、眠る。
草原の先へと進み、可憐な花の咲く丘で、彼女は、多分自分が知る限り、なによりも美しく清らかだ。
自分が何者かは分かっている。
その責務も。
正直重くて仕方がない。
今すぐ投げ出して"自由"になりたい。
けれどそれは許されない。ましてや、私以外に私の大切なものを守れる人間はいないのだから。
あの人を側に置きたい。
それが許されるというのなら、その重責を軽く担いで、あの冠すら掻っ攫い、全ての王冠を支配してみせよう。いや、それを許される為に、私は全てを手に入れる。
執務室にて、部下が持ち帰ったその姿絵を眺める。銀の髪に深い青の瞳はその存在そのものの神秘さを物語っている様だった。
海の向こうの大陸に君臨する国家の心臓たる皇女。
美しいだけでも、強いだけでもない。思慮深く、揺るがぬ意志を持つ女傑。
彼女が手に入ったなら、私はきっと全てを手に入れられる……!
「待っているがいい、我が未来の妃よ」
お前は私にこそ相応しい。
*
「……あら?悪寒が……」
「それは大変だ!早くベッドに戻りなさいカティア」
「その前にさっさと出ていってください。私のカティアに気安く触らないでいただきたい」
私が手に持っていた魔道具を取り上げて、笑顔でその辺に放り投げるセインおにー様。大おじ様が慌てて魔道具が床に落ちる前にキャッチしました。まあただのガラス玉に見えますけれど、それなりに高価ですので仕方ありませんわね。
「セインにー様、お帰りなさいませ」
「ただいま、カティ」
いい子にしていたかな?なんて言いながら、ソファに腰掛けると、慣れたように私を自分の膝の上に抱え、私の手を取り唇を落とします。帝国に戻って来てからの日課ですのよ。慣れましけど。
「お疲れですわね」
「私の番の可愛らしい悪戯は気が気じゃなくてね」
「まあ!悪戯ではありません。本気で脱出を試みているだけです」
「……拘束具は趣味じゃないけど、吝かでもないんだよなぁ」
……何か小声で呟かれたようですが、よく聞こえませんでしたわね。
セインおにー様が困り顔で落ち込んでいるように見えます。大型犬が落ち込んでるみたいでとても可愛らしい。
さて、帝国へと帰還した私は、貴族たちへの顔見せを兼ねたパーティーや舞踏会へ足を運んだり、お母様から贈られたうさぎを可愛がったり、此処数年で鈍ってしまった身体を鍛えたりとすることも多く、疲れからか熱を出してしまいました。
以降、あまり部屋から出してもらえず、ここ最近暇で暇で仕方がありません。そして暇を持て余した私の最近の遊びといえば専ら、おにいさま方を困らせる事でございます。特にセインおにー様を。
だって悄気た顔が可愛らしいのですもの。胸が高なっちゃう。部屋に閉じ込められるのは大変不服でございますけど、許せてしまいます。これが惚れた弱みというやつでしょうか?
「他の兄弟たちならともかく、……大おじ上が何故この部屋に……」
「普通に正面から、面白い物持ってきたから入れてというので、どうぞと言ったら入ってきました」
「そうとも!僕は普通に入ってきたよ!」
見事に魔道具をスライディングキャッチした大おじ様。道具が無事でご満悦の様子ですわ。私も少し安心致しました。結果が気になりますものね。
大おじ様は現皇帝の三男で、国1番の魔術師でもあり、発明家でもあります。見た目は……セインおにー様と歳の離れた兄弟と言っても違和感が無い感じと言えば良いですかね。お二人を比べるとおじ様の方が垂れ目な分優しげに見えますよ。まあそんな訳で、弟子になりたい人間や、容姿・身分・能力的な面から求婚者が後を立たない人気の王族の1人です。…一応。
王国にいた際も、それから帰るまでの旅行の中でも度々活躍してくれた魔道具の作者でもございましてよ。
大おじ様の実力があれば、放り投げられた道具を魔法で安全に確保するくらい呼吸も同然(訳ない事)ですが、私の前だと極力魔法を使わないようにしてくださいます。というか、私のすぐ側で魔法を使うと、おにい様達に、“弟子の指導をサボっている大魔術師の居場所"がバレるからですが。しかし私が戻ってからサボりの場所が決まって私の所ですから、セインおにー様も対策として色々、お部屋の外に用意してますの。
「……外に配置していた対魔術師(おじ上)用警備兵を秒で気絶させておいて、何を普通と仰るやら。カティの暇つぶし相手ご苦労様でした。速やかに出て行ってください」
「えー!?折角占ってたのに!」
「……占い?何を占っていたんです」
「「明日の私/カティアの脱走が成功するかどうか」」
「明日のこの部屋の警備を変更する事にたった今決めたから、もう一度占い直した方がいいんじゃないかな?」
「「後出しはズルい(です)!」」
「……冗談はさておき、何を占っていたのかな。カティ」
脱走云々は強ち嘘でもないのですが、確かに正確には違います。
「明日、私が誰と話しているのかを占っておりました。おじ様の今回の魔道具は、近く会える人を映し出すそうです。私がこの部屋で会えるはずのない方が映れば、それは私がこの部屋を出ているという可能性を示しますでしょう?」
正直にそのまま伝えれば、セインおにー様は怪訝そうな顔を見せました。「この部屋の中に決まってるだろう?」という言葉なら言わずともわかります。
「……うん。何故それを占おうとしたのかが重要かな。今日は大おじ上以外に誰が来た?」
「ご明察ですね。白い鳩、……ではなく白い使徒が参りました。"神"さまからのお使いだそうです。ここまで来て尚且つ気付かれずに既に帝国から出た様ですわ。流石、"御使い"なだけありますわよね」
「ダイルの所の教主殿…から?」
皆様覚えておりますかしら?ディゼスフィア教の教主様と、その弟神官を。どうやら教主様が私に伝えたい事があった様です。
「"北の方角に注意"との事でしたわ」
「……カティアを連れて出かける用事は今のところ無いな………。おじ上、何かありますか?」
「ん〜?北、……北かぁ。シュリーヌ元気かなぁ」
「情報をお持ちでないなら結構です。弟子達も来た様ですからお引き取りを」
「げ」「「「師匠ッ!!!」」」
ドアから顔を見せる数名の若い魔術師たち。心なしか服や髪が焦げたり変色していますね。……対おじ様用の罠にでもかかったのかしら。かわいそうに。
おじ様が騒がしく窓から軽やかに退室していくのを見送ります。次来るまでに何かわかると良いけれど。
*
……さて、魔術を駆使して天井に張り付いたり姿を消したりと弟子達を撒きながら、先程の占い水晶を磨いていた大おじ……。レオン・ジルベルトは、一瞬水晶に愛しの人を見た気がした。
願望が見せた幻覚か、それともそれ以外なのかは分からない。だが、
(シュリーヌは、今日も変わらずだろうか)
瞼を閉じるだけで容易く浮かぶ、自信を飾ったような強い目。それだけで口元が弛むのが分かった。
「そろそろ逢いに行こうかな。カティアを連れて」
上機嫌なその男は、しかし、次の一瞬には前に倒れて、倒れた床に赤色が広がっていく。いつの間にかレオンの後ろにいて、その手に持っていた銃を撃ったと思われる男は、何の感情もなくレオンを見下ろし、既に動くことのないその体を布で包み隠して、すぐに魔法でその場を離脱。遺体ごと海岸へと降り立った。
つい最近レオンが考案し、公的に始まった実験で形となった短距離転移魔法モドキを利用し、指定された座標へと繋がる空間を渡ったのだ。
そこには顔を隠したもの達が複数存在した。銃を持ったままの男は、1番近くにいるある高貴な方に膝をついて礼をとった。
「ターゲットの始末は完了です」
布を取り去って温度の逃げたその体を、何人かが確認した。すぐにまた布が掛けられる。
「……此奴はあの姫君を連れて大陸を出る予定でもあったのか?だとするなら、今殺さずとも良かったかもしれんな」
口ぶりからしてレオンの声が聴かれていた、…つまり、盗聴されていたらしい。それは自分が気付かないうちに何かしらの魔法がかけられていたのだと理解できて、男は少しばかり危機感を覚えた。相手が上手であればどうしても従わざるを得なくなる。しかし、だからといって必ず失敗するとわかっている作戦を、命令に従って決行するのは嫌だった。
「恐れながら、奴は帝国の外では一切の隙を見せません。計画通りに事を進めるのなら、仕掛けるタイミングは今夜を除いて他には無かったかと存じます」
「…そうか。ならいい。障害は一つずつ、完璧に排除せねばならない。我々はあの様な化け物じみた力を持っていないのだから。
お前は戻ってターゲットを演じろ。近々姫を連れて北に来るつもりだったのは吉報だ。怪しまれずに連れ出せる」
「はい。…ああ、ですがその前に。契約書に署名を。私の仕事はこれで一つ終わっているはず。ここからもう一仕事は別契約です」
男は差し出された紙に目を通して、サインをした。この契約書は契約書自体が特別で、真名でサインしなければならない為、忌々しそうにしたものの、多少乱雑に文字は書かれた。
「態々今出さずとも、報酬を踏み倒しはしないというのに…」
「それはそれ、これはこれです。……はい。確かに。それでは失礼します」
男は再びその場から消えた。
先程サインをした男に、それよりも長身で体格の良い男が、良いのかと伺いを立てる。
「良い。仕事が確かなのは今回のことで分かった。何より帝国最強の魔術師を始末できたのは大きい。使える限りは使おう」
さあ、始めよう。と、男は、嗤った。
暫く週一、かつ週末頃更新予定です。
お付き合いいただける方はよろしくお願いします。




